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第6章<巨大スライム>
4、伝言
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私が石よりも硬いパンを水に浸しながら、なんとか半分食べ終わった時、公爵家のメイドさんが私の部屋を訪ねた。
「ゾフィー様から伝言です。明日は朝5時に大広間にご集合するようにとのことです。また会議は長くかかるため、先に就寝するようにとのことです」
「わかりました。伝えて頂き、ありがとうございます」
「それと、セイフィード様から文を預かってきました。どうぞ」
「ありがとうございます」
扉を閉め、急いでセイフィード様の文を読んだ。
ーーーーーーーーーーーーー
何かあったら、俺に言え
ーーーーーーーーーーーーー
一言か⋯⋯⋯。
もっと、愛の表現というか⋯⋯⋯、”大好きだよ、アンナ” とか、 書いて欲しかったな。
でも、セイフィード様の性格からして無理だよね、そんなの。
まぁ、私も恥ずかしくて書けないけど。
やっぱり、セイフィード様に部屋のこと相談しようか⋯⋯⋯。
いやいや、やっぱり言えない。
部屋が汚いことぐらい大したことじゃないし。
それにしても、明日5時か~。
早起きしなければっ。
次の日、私はまだ暗い中目覚め、支度をした。
朝食は、届けられず、仕方がなく持って来ていたお菓子で空腹を紛らわす。
集合時刻の15分くらいに前に、私は大広間に着いたが、誰もまだ居ない。
仕方がなく、私は集合時間になるまで、じっと待機したが、いくら経っても誰も姿を現さなかった。
うーーん。
流石におかしいよね。
もう、集合時間過ぎているのに誰もいないなんて。
もしかして、集合場所を間違えたのだろうか⋯⋯⋯。
私は念のため、違う場所を探し歩いたが、出会う人は公爵家のメイドさんだけ。
私は、メイドさんにゾフィー兄様の部屋を聞き、確認のため訪ねることにした。
「コンコンっ。アンナです。ゾフィー兄様いますか?」
「やあ、おはよう、アンナ。どうしたんだい?」
「集合が5時に大広間でって聞いたのに、誰もいないんです。どうしたのかなって思って⋯⋯」
「いや、集合時間は6時だよ。伝達ミスかもしれない。とりあえず部屋に入りなさい、アンナ」
「はっ、はい」
またもや、ルシウスだな。
地味な嫌がらせ、しやがってっ。
私の担当メイドさんも要注意だな⋯⋯⋯、気を許しちゃダメだ。
ゾフィー兄様の部屋に入り、私は愕然とした。
ゾフィー兄様の部屋は、私の部屋と違って、清潔感があり、調度品も全て高級感がある。
お布団はふかふかだし、灯りは最新式の魔法ランプで部屋全体を明るく照らす。
さらに、テーブルの上には、ちょっとしたお菓子と果物が置いてあり、朝食も運ばれていた。
ゾフィー兄様はもう食べてしまって定かではないが、恐らく今日の朝食はパンに、スープ、ベーコンにスクランブルエッグ、ミルクと推測する。
「アンナ、紅茶いるかい?」
「はい。いります、すっごく飲みたいです」
ゾフィー兄様は、暖かい紅茶を淹れてくれた。
やっとホッとできる。
私の部屋には、水しかなかったから。
「ゾフィー兄様、お菓子食べてもいいですか?」
「もちろん、いいよ。好きなだけどうぞ」
空腹には勝てず、テーブルの上にあったお菓子を私はペロリと平らげてしまった。
「そろそろ時間だし、行こうか、アンナ」
「はい! ゾフィー兄様」
扉を開けると、セイフィード様が目の前を通り過ぎようとしていた。
セイフィード様は丁度、集合場所へ向かう途中だったらしい。
どうやら、セイフィード様の部屋は、ゾフィー兄様の部屋の隣の隣だったようだ。
「おはよう、セイフィード」
「おはようございます、セイフィード様」
「⋯⋯⋯⋯⋯おはようございます」
セイフィード様は、ゾフィー兄様と私に目を向けると、返事はしてくれたが、ムッとし、すぐに立ち去ってしまった。
どうやら、セイフィード様を怒らせてしまったらしい。
ゾフィー兄様と私は兄弟なんだし、別に、やましいことなんてひとつもないのに。
でも、これで、セイフィード様と気まずくなってしまった⋯⋯⋯。
ルシウスの件もあるし、早めに仲直りしよう。
私はゾフィー兄様の元を離れ、駆け足でセイフィード様に追いつき、腕を掴んだ。
「はぁ、はぁ、昨日の文、あっ、ありがとうございます」
「⋯⋯⋯⋯なぜ、ゾフィーと一緒にいたんだ? 何かあったら俺に言えと伝えたのに」
「それは、その、集合時間の確認でゾフィー兄様の部屋を訪ねたんです」
「一晩、一緒にいたのか?」
「いっ、いません。さっきゾフィー兄様の部屋に行ったんです」
一晩、一緒にって、なんかいやらしい表現。
例え、一晩一緒に居たとしても、兄弟なんだし、別に構わないと思うんだけど⋯⋯⋯。
集合場所に行くと、さっきとは打って変わり、大勢の人がいた。
もちろん、ルシウスもいた。
ルシウスを見た途端、怒りがフツフツと沸き起こったが、冷静になるため、極力ルシウスを視界から外し、セイフィード様の影に隠れた。
セイフィード様も、何かを感じ取ったようで、ルシウスから私を隠すように立ってくれた。
どうやら、今日は偵察が主らしい。
ヴェルジーナ公爵も、ルシウスも、同行する。
城を出て、前日に私達が入ってきた方向とは真逆の城壁を潜ると、大きな湿地帯が見えた。
その中央に、大きな青黒い巨大なスライムが居ついている。
巨大だとは聞いていたが、まさかこんなに大きいとは⋯⋯。
東京ドーム一個分くらいの大きさだ。
そして巨大スライムに近づくと、確かにスミレ、スミレと叫んでいる。
討伐部隊の何人かが、馬を降り、巨大スライムに徒歩で近づく。
ラルフ隊長も、ゾフィー兄様も、セイフィード様も馬を降り、巨大スライムにギリギリまで近づいたが、全く攻撃してこない。
セイフィード様と、魔法騎士はそれぞれ何かの魔法を発動させた。
攻撃をしているわけではなく、大きさ、重さなどを計測しているようだった。
私もこっそり馬車を降り、間近で見てみた。
なんでかわからないけど、巨大スライムが、前世で私を殺した変人だって私には、わかった。
一歩、一歩、近づけば近づくほど、巨大スライムの悲痛な叫びが、私の耳にこだまする。
「スミレ~、スミレ~」
煩い、ほんと煩い。
前世の私の名前を呼ばないで。
呼ばれるたびに前世の記憶が、パパ、ママの思い出が、蘇る。
ずっと思い出さないようにしていたのに。
もう、呼ばないでっ。
「スミレ~、スミレ~」
なんなの、いったい。
私が何をしたって言うのよ、なんで私は殺されなきゃいけなかったのよ。
なんで、変人もこっちに転生しちゃったの。
いやだ、もう⋯⋯⋯。
私がもう、馬車に戻ろうとした瞬間、突如、大きな光が出現した。
どうやら、魔法騎士が試しに魔法で巨大スライムを攻撃したらしい。
スライムは痛みは感じるようで、大きさな声で呻いた。
私はその光と、巨大スライムが発した呻き声によって、前世で、私が爆発で砕け散った瞬間を思い出した。
いやだっ。
私は腰を抜かし、膝をついてしまった。
体も震え始めている。
立てない、歩けない⋯⋯、情けなくて、目が潤む。
どうして、いつも私は、こんなにも不甲斐ないんだろう。
「大丈夫か、アンナ」
セイフィード様が私に駆け寄り、私を支え立たせてくれた。
「ごめんなさい、私、怖くなってしまって⋯⋯」
セイフィード様は私を支えながら、私を馬車に運んでくれた。
「もう、馬車から出るなよ」
「はい」
「まだ、調査に時間がかかるが、アンナは先に帰っているか?」
「⋯⋯⋯⋯大丈夫です。馬車の中にいれば大丈夫です」
「そうか、わかった。それと、ウー様から頂いたお守りを見せて欲しい」
「あ、はい。どうぞ」
私はポッケの中にしまってあったお守りを出し、セイフィード様に手渡した。
セイフィード様はじっとお守りを見る。
私もつられてお守りを見た。
すると、お守りは今までとは違い、微かに光を帯びていた。
「スライムと、関係があるようだな⋯⋯⋯御神託が本当だったとはな」
御神託……そんな仰々しいものじゃない気がするけど。
「この御守りが、スライムを倒してくれればいいのに、持っていきますか?」
「いや、アンナがしっかり持っていろ」
「はい」
「辛くなったら、俺を呼べ。わかったな」
そう言うと、セイフィード様は、すぐに巨大スライムの方に行ってしまった。
「ゾフィー様から伝言です。明日は朝5時に大広間にご集合するようにとのことです。また会議は長くかかるため、先に就寝するようにとのことです」
「わかりました。伝えて頂き、ありがとうございます」
「それと、セイフィード様から文を預かってきました。どうぞ」
「ありがとうございます」
扉を閉め、急いでセイフィード様の文を読んだ。
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何かあったら、俺に言え
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一言か⋯⋯⋯。
もっと、愛の表現というか⋯⋯⋯、”大好きだよ、アンナ” とか、 書いて欲しかったな。
でも、セイフィード様の性格からして無理だよね、そんなの。
まぁ、私も恥ずかしくて書けないけど。
やっぱり、セイフィード様に部屋のこと相談しようか⋯⋯⋯。
いやいや、やっぱり言えない。
部屋が汚いことぐらい大したことじゃないし。
それにしても、明日5時か~。
早起きしなければっ。
次の日、私はまだ暗い中目覚め、支度をした。
朝食は、届けられず、仕方がなく持って来ていたお菓子で空腹を紛らわす。
集合時刻の15分くらいに前に、私は大広間に着いたが、誰もまだ居ない。
仕方がなく、私は集合時間になるまで、じっと待機したが、いくら経っても誰も姿を現さなかった。
うーーん。
流石におかしいよね。
もう、集合時間過ぎているのに誰もいないなんて。
もしかして、集合場所を間違えたのだろうか⋯⋯⋯。
私は念のため、違う場所を探し歩いたが、出会う人は公爵家のメイドさんだけ。
私は、メイドさんにゾフィー兄様の部屋を聞き、確認のため訪ねることにした。
「コンコンっ。アンナです。ゾフィー兄様いますか?」
「やあ、おはよう、アンナ。どうしたんだい?」
「集合が5時に大広間でって聞いたのに、誰もいないんです。どうしたのかなって思って⋯⋯」
「いや、集合時間は6時だよ。伝達ミスかもしれない。とりあえず部屋に入りなさい、アンナ」
「はっ、はい」
またもや、ルシウスだな。
地味な嫌がらせ、しやがってっ。
私の担当メイドさんも要注意だな⋯⋯⋯、気を許しちゃダメだ。
ゾフィー兄様の部屋に入り、私は愕然とした。
ゾフィー兄様の部屋は、私の部屋と違って、清潔感があり、調度品も全て高級感がある。
お布団はふかふかだし、灯りは最新式の魔法ランプで部屋全体を明るく照らす。
さらに、テーブルの上には、ちょっとしたお菓子と果物が置いてあり、朝食も運ばれていた。
ゾフィー兄様はもう食べてしまって定かではないが、恐らく今日の朝食はパンに、スープ、ベーコンにスクランブルエッグ、ミルクと推測する。
「アンナ、紅茶いるかい?」
「はい。いります、すっごく飲みたいです」
ゾフィー兄様は、暖かい紅茶を淹れてくれた。
やっとホッとできる。
私の部屋には、水しかなかったから。
「ゾフィー兄様、お菓子食べてもいいですか?」
「もちろん、いいよ。好きなだけどうぞ」
空腹には勝てず、テーブルの上にあったお菓子を私はペロリと平らげてしまった。
「そろそろ時間だし、行こうか、アンナ」
「はい! ゾフィー兄様」
扉を開けると、セイフィード様が目の前を通り過ぎようとしていた。
セイフィード様は丁度、集合場所へ向かう途中だったらしい。
どうやら、セイフィード様の部屋は、ゾフィー兄様の部屋の隣の隣だったようだ。
「おはよう、セイフィード」
「おはようございます、セイフィード様」
「⋯⋯⋯⋯⋯おはようございます」
セイフィード様は、ゾフィー兄様と私に目を向けると、返事はしてくれたが、ムッとし、すぐに立ち去ってしまった。
どうやら、セイフィード様を怒らせてしまったらしい。
ゾフィー兄様と私は兄弟なんだし、別に、やましいことなんてひとつもないのに。
でも、これで、セイフィード様と気まずくなってしまった⋯⋯⋯。
ルシウスの件もあるし、早めに仲直りしよう。
私はゾフィー兄様の元を離れ、駆け足でセイフィード様に追いつき、腕を掴んだ。
「はぁ、はぁ、昨日の文、あっ、ありがとうございます」
「⋯⋯⋯⋯なぜ、ゾフィーと一緒にいたんだ? 何かあったら俺に言えと伝えたのに」
「それは、その、集合時間の確認でゾフィー兄様の部屋を訪ねたんです」
「一晩、一緒にいたのか?」
「いっ、いません。さっきゾフィー兄様の部屋に行ったんです」
一晩、一緒にって、なんかいやらしい表現。
例え、一晩一緒に居たとしても、兄弟なんだし、別に構わないと思うんだけど⋯⋯⋯。
集合場所に行くと、さっきとは打って変わり、大勢の人がいた。
もちろん、ルシウスもいた。
ルシウスを見た途端、怒りがフツフツと沸き起こったが、冷静になるため、極力ルシウスを視界から外し、セイフィード様の影に隠れた。
セイフィード様も、何かを感じ取ったようで、ルシウスから私を隠すように立ってくれた。
どうやら、今日は偵察が主らしい。
ヴェルジーナ公爵も、ルシウスも、同行する。
城を出て、前日に私達が入ってきた方向とは真逆の城壁を潜ると、大きな湿地帯が見えた。
その中央に、大きな青黒い巨大なスライムが居ついている。
巨大だとは聞いていたが、まさかこんなに大きいとは⋯⋯。
東京ドーム一個分くらいの大きさだ。
そして巨大スライムに近づくと、確かにスミレ、スミレと叫んでいる。
討伐部隊の何人かが、馬を降り、巨大スライムに徒歩で近づく。
ラルフ隊長も、ゾフィー兄様も、セイフィード様も馬を降り、巨大スライムにギリギリまで近づいたが、全く攻撃してこない。
セイフィード様と、魔法騎士はそれぞれ何かの魔法を発動させた。
攻撃をしているわけではなく、大きさ、重さなどを計測しているようだった。
私もこっそり馬車を降り、間近で見てみた。
なんでかわからないけど、巨大スライムが、前世で私を殺した変人だって私には、わかった。
一歩、一歩、近づけば近づくほど、巨大スライムの悲痛な叫びが、私の耳にこだまする。
「スミレ~、スミレ~」
煩い、ほんと煩い。
前世の私の名前を呼ばないで。
呼ばれるたびに前世の記憶が、パパ、ママの思い出が、蘇る。
ずっと思い出さないようにしていたのに。
もう、呼ばないでっ。
「スミレ~、スミレ~」
なんなの、いったい。
私が何をしたって言うのよ、なんで私は殺されなきゃいけなかったのよ。
なんで、変人もこっちに転生しちゃったの。
いやだ、もう⋯⋯⋯。
私がもう、馬車に戻ろうとした瞬間、突如、大きな光が出現した。
どうやら、魔法騎士が試しに魔法で巨大スライムを攻撃したらしい。
スライムは痛みは感じるようで、大きさな声で呻いた。
私はその光と、巨大スライムが発した呻き声によって、前世で、私が爆発で砕け散った瞬間を思い出した。
いやだっ。
私は腰を抜かし、膝をついてしまった。
体も震え始めている。
立てない、歩けない⋯⋯、情けなくて、目が潤む。
どうして、いつも私は、こんなにも不甲斐ないんだろう。
「大丈夫か、アンナ」
セイフィード様が私に駆け寄り、私を支え立たせてくれた。
「ごめんなさい、私、怖くなってしまって⋯⋯」
セイフィード様は私を支えながら、私を馬車に運んでくれた。
「もう、馬車から出るなよ」
「はい」
「まだ、調査に時間がかかるが、アンナは先に帰っているか?」
「⋯⋯⋯⋯大丈夫です。馬車の中にいれば大丈夫です」
「そうか、わかった。それと、ウー様から頂いたお守りを見せて欲しい」
「あ、はい。どうぞ」
私はポッケの中にしまってあったお守りを出し、セイフィード様に手渡した。
セイフィード様はじっとお守りを見る。
私もつられてお守りを見た。
すると、お守りは今までとは違い、微かに光を帯びていた。
「スライムと、関係があるようだな⋯⋯⋯御神託が本当だったとはな」
御神託……そんな仰々しいものじゃない気がするけど。
「この御守りが、スライムを倒してくれればいいのに、持っていきますか?」
「いや、アンナがしっかり持っていろ」
「はい」
「辛くなったら、俺を呼べ。わかったな」
そう言うと、セイフィード様は、すぐに巨大スライムの方に行ってしまった。
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