ファンタジーな世界に転生したのに魔法が使えません

botansaku

文字の大きさ
64 / 87
第7章<アンナの夢>

9、疑問

しおりを挟む
 可愛いぃ、セイフィード様、赤くなっている。
もっと、ペロペロしちゃおうかな。
でも、なんか、体が痒い、むず痒い。

「アンナ、いい加減、やっ⋯⋯」

 あれ、どうしたんだろう、セイフィード様、思っ切り顔を背けた。
うん!?
手が、あれ、私の手だ、犬の手じゃない。

「キャーーーーッ」

 もっ、元に戻っているっ。
私、子犬から私の体に戻っているっ。
イヤーー。
どうして、このタイミングなのっ。
私、真っ裸だ。

「アンナ、早く服を着ろ」

「はっ、はっ、はい」

 私はセイフィード様の上から降り、急いで服を着る。
嫌だ、もう⋯⋯、恥ずかしいどころじゃない。

「セっ、セイフィード様、見ました? 見てませんよね?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 セイフィード様は頑なに顔を背け無言だ。
やっぱり、見たんだ。
恥ずかしさで私の手が小刻みに震え、洋服が思うように着れない。

「アンナちゃん、セイフィード、何かあったの? 大丈夫なのー?」

 私がまだ着替えている時、マーリン師が階段を駆け上ってくる。
するとセイフィード様は立ち上がり、入口のドアに近づき、開かないように押さえた。

「あれ、開かない。ねー、どうしたのー?」

「マーリン師、もう少し待って下さい。アンナが今、着替えているんです」

「もっ、もしかして、元に戻ったんだー。良かったー」

 私が着替え終わると、セイフィード様はドアを開ける。
マーリン師は私を見ると、目を大きく見開き、駆け寄り抱きつこうとした。
しかし、一歩手前で、セイフィード様に止められる。

 そして、なぜかミランダさんも遅れて2階に上がってきた。
ミランダさんは伏せ目がちに、立っている。

「アンナ、さっき、マーリン師から犬になった経緯は聞いた。それで、なぜ外に出たんだ?」

「私は、自分で外に出てません。ミランダさんが⋯⋯、私を段ボールに入れて外に連れ出したんです」

「アンナちゃん、それはおかしいよ。だってアンナちゃんが居なくなったことを教えてくれたのは、ミランダなんだよ」

「そんな⋯⋯、確かに私は見ていません。ミランダさんが子犬の私を連れ出すところは⋯⋯。けど、匂いでわかったんです」

「ミランダ、どうなの? 本当に、ミランダがアンナちゃんを連れ出したの?」

「私は⋯⋯、御免なさい。本当に御免なさい」

 ミランダさんは、頭を下げ、私に謝罪した。
ミランダさんは憔悴し、青ざめている。

「どうして、こんなことをしたんですか?」

 私は、問い詰めるような口調ではなく、優しくミランダさんに訊く。

「私⋯⋯、私⋯⋯、アンナ様が妬ましかったんです。貴族でそれもセイフィード様との婚約者で、将来幸せが約束されているアンナ様が妬ましくて、それでアンナ様が居なくなればいいと思って」

 ⋯⋯⋯⋯何か違和感がある。
確かに、フェリックスさんのことで、ミランダさんは私に少しヤキモチを妬いたかもしれない。
けれど、私には婚約者がいるから、そこまで私を嫉妬するはずがないと思う。

「ミランダ⋯⋯、君は働くのが好きって、貴族だった時より今の方が幸せって言ってたじゃないか」

 マーリン師も、私と同じような疑問を持ったんだ。
ミランダさんは、頭の回転が早く機転が効き、働き者だ。
それに、フェリックスさんとの幸せの生活を夢見ていたはず。
貴族にもう一度なりたいとか、貴族の人と結婚したいとか、ミランダさんがそう思っている節は全くなかった。
そもそも、ミランダさんはこんな大それたことをするタイプには全く思えない。
どちらかと言えば、私と同じく小心者だ。

「あれは、自分を誤魔化していたんです。アンナ様を間近に見て羨ましくなって、妬んだんです。それでアンナ様に酷いことをしたんです。⋯⋯⋯⋯でも、私、冷静になったら、とんでもないことをしてしまったと怖くなったんです。だからマーリン師にアンナ様が居なくなったと伝えたんです」

「ミランダ、理由がどうあれ、君は許されないことをした」

 セイフィード様が厳しい口調でミランダさんに言葉を発する。

「そうだね⋯⋯、ミランダ。一歩間違えばアンナちゃんは⋯⋯」

「はい。どんな処罰も受けます」

「セイフィード、ミランダの処遇については、僕に任せて貰えるかな⋯⋯」

「わかりました。では、俺とアンナは戻ります」

 セイフィード様と私は馬車に乗り込む。
もうすぐに日が昇りそうな時刻だ。

「セイフィード様、私の部屋にワープ出来ないんですか? パパーっと」

「転移魔法は首都だと色々面倒なんだ。だが、俺の屋敷のガゼボからならアンナの部屋までは容易に転移できる」

「私、シャーロット達には知られたくないんです。だからセイフィード様、私をガゼボから私の部屋まで転移して下さい。お願いします」

「あぁ、わかっている」

「あの、それと、セイフィード様。私を見つけてくださり有難うございました。私、あのまま路地にいたら大変なことになっていました」

「まったくだ」

「はい。もしあの路地で子犬から人間に戻って、服を着てないところを誰かに見られたら⋯⋯、変態扱いされて捕まってたかもしれません」

「アンナは、本当に、バカアンナだ。大変なことの意味が全然違う。あのまま路地にいたらアンナは凍死してたぞ」

「えっ⋯⋯、でも、私、犬でしたし。確か犬って寒さに強いんですよね」

 前世の記憶では、南極でも犬は外で寝ても死ななかったはず。

「それは犬の種類によるし、そもそもあの時のアンナはびしょ濡れだっただろ。それにだ、あの場所で裸になってみろ、何されてもおかしくはなかったんだぞ」

「⋯⋯⋯⋯ごめんなさい」

「もう、変な薬は飲むなよ」

「はい。もう飲みません。でも、ビックリしました。今回の件、マーリン師はセイフィード様に知られたくなかったのに、セイフィード様に連絡したんですね」

「当たり前だ。アンナに何かあってみろ、それこそ、ただでは済まされない」

「私、犬耳付けたかっただけなのに⋯⋯、また迷惑掛けてしまいました。ごめんなさい」

「これに懲りて、もう変な事はするなよ。それと、本当は腕輪のこと説明したくなかったが、今回みたいな件がまた有っても困るから説明しとく。この腕輪は外的要因には威力を発揮するが、内的要因にはあまり反応しない」

「外的要因? 内的要因?」

「外的要因とは、アンナが転んだり、高いところから落ちたり、誰かに殴られたりした時のことだ。内的要因とは、アンナが風邪ひいたり、気分が悪くなったり、今回みたく凍死しそうになることだ。わかったか?」

「なんとなく、わかりました」

「まぁ、なんとなく分かればいいさ。それとアンナ、今度、話がある。今は疲れているだろうから、次会った時でいい」

 話って、なんだろう。
前世の少女漫画で、彼氏に話があると言われたら、その話はだいたい別れ話だった。
どうしよう、悪い想像しかできない。
セイフィード様と別れるなんて、嫌だ、絶対にそんなの嫌だ。

「話って何ですか? 悪い話ですか?」

「さあ、何だろうな」

「教えてくださいっ。気になって夜、寝れなくなっちゃいます」

「そうだな。毎晩、毎晩、俺だけのことを考え、思い悩めばいい」

 セイフィード様って、意地悪だ。
でも、私がいじけてプイと顔を背けたら、そっと手を握ってくれた。
だから、きっと悪い話じゃないよね⋯⋯、大丈夫だよね⋯⋯。
⋯⋯ダメだっ、やっぱり、色々と考えてしまう。
あ、もしかして結婚の日取りとかかな。
それだったら、凄く嬉しい。

 そして馬車がセイフィード様の屋敷に着くと、私達はこっそり庭園にあるガゼボに行く。
そのガゼボから、セイフィード様は私と一緒に私の部屋まで転移してくれた。
ただ、その時の私は、ひたすらに眠く、瞼が半分閉じかかっていた。
だから、私はセイフィード様にろくにお礼もせず、ベットに崩れ落ちた。
それからのことは寝ぼけてて良く覚えていないけど、セイフィード様は私のおでこに口ずけすると、すぐに消えてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...