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俺が純潔を守りたいのは神様のせいだ。そうに決まってる。
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数ヶ月後。
冬の風が少し痛い夕方、亮は駅前で航と待ち合わせをしていた。
「今日…ありがとう。家族のことで、どうしても亮に相談したかったんだ。」
航は、以前センターで見たときより少しだけ大人びて見えた。
「家族に…カミングアウト、したいと思ってる。でも、一人じゃどうにも怖くてさ。亮は…どう思う?」
亮は一瞬、胸のどこかがざわついた。
航は自分と違い、性のことをきちんと言葉にできる。
それはまるで別の世界の人みたいだった。
「おれ…家族とか、そういうの…あんま分かんないけど…」
言いながら、どうして自分が呼ばれたのか分からなくて、落ち着かなかった。
「でも亮にはいてほしいんだ。今日、うちで夕飯を一緒に食べてほしい。」
その言葉に、亮の喉がひゅっと鳴った。
なぜ俺なんだ。
まさか…いやいやいやいや、そんなわけない。
だけど…もしかしたら…。
家族の前に“誰かを連れていく”って、そういう意味なんじゃないのか?
胸の奥に、黒い不安がじわりと広がった。
二人は電車に乗り、航の家の最寄り駅を降りる。
住宅街の灯りがぽつぽつと続き、亮の足だけが妙に重かった。
「出会った場所、どう話してあるの?」
亮は気になって仕方なかった。
「ん?普通に“大学のサークルで知り合った友達”って言ってあるよ。」
あっさり言われて、亮は逆に混乱する。
本当に友達扱い…?なのか?
いや、それとも家族向けに隠してるだけ…?
亮の心は、先に進むほど絡まっていった。
航の家に着くと、優しそうな母親が温かい笑顔で迎えた。
テーブルにはきれいに並んだ料理。
家庭の匂いがして、亮は突然息苦しくなった。
そうだ、俺はクリスチャン家庭で育ったんだ。
結婚までは純潔を守れと言われてきた。
“よからぬ関係”は絶対にNG。
ましてや…ましてや男同士なんて…。
胸がきゅっと締めつけられた。
食事が始まったが、亮はほとんど箸を動かせなかった。
航の父や母が「亮くん、たくさん食べてね」と優しく声をかけるたび、
その優しさが逆に痛かった。
航の母が席を外したとき、航がそっと亮の腕に触れた。
「大丈夫?顔色悪いよ。」
触れられた瞬間、亮の全身に電気みたいなものが走った。
嫌だ。
怖い。
気持ち悪い。
だけど…逃げられない。
もし、このあと航が
「部屋で少し休む?」
と誘ったらどうしよう。
部屋に行って、何かされて、
触られて、
しかも自分がそれを…嫌がれなかったら…?
そんな未来を想像するだけで、頭が真っ白になった。
俺は…混乱しているだけなんだ。
宗教的に、純潔を守りたいだけなんだ。
だから、こういうのが嫌なんだ。
いや…違う。
胸の奥で何かが叫んでいた。
これは宗教じゃない。
もっと原始的な…“身体の嫌悪”だ。
だけど航の横顔を見ると、胸が痛いほど熱くなる。
何なんだ。この感覚は。
恋なのか?
それとも拒絶なのか?
どちらでもない…でも両方ある。
自分の心と身体が、別々の方向に引っ張られていくようだった。
そして思う。
このままじゃ、俺は壊れてしまう。
だが航は、何も知らないまま優しく笑っている。
その優しさすら、今の亮には抱えきれなかった――。
冬の風が少し痛い夕方、亮は駅前で航と待ち合わせをしていた。
「今日…ありがとう。家族のことで、どうしても亮に相談したかったんだ。」
航は、以前センターで見たときより少しだけ大人びて見えた。
「家族に…カミングアウト、したいと思ってる。でも、一人じゃどうにも怖くてさ。亮は…どう思う?」
亮は一瞬、胸のどこかがざわついた。
航は自分と違い、性のことをきちんと言葉にできる。
それはまるで別の世界の人みたいだった。
「おれ…家族とか、そういうの…あんま分かんないけど…」
言いながら、どうして自分が呼ばれたのか分からなくて、落ち着かなかった。
「でも亮にはいてほしいんだ。今日、うちで夕飯を一緒に食べてほしい。」
その言葉に、亮の喉がひゅっと鳴った。
なぜ俺なんだ。
まさか…いやいやいやいや、そんなわけない。
だけど…もしかしたら…。
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胸の奥に、黒い不安がじわりと広がった。
二人は電車に乗り、航の家の最寄り駅を降りる。
住宅街の灯りがぽつぽつと続き、亮の足だけが妙に重かった。
「出会った場所、どう話してあるの?」
亮は気になって仕方なかった。
「ん?普通に“大学のサークルで知り合った友達”って言ってあるよ。」
あっさり言われて、亮は逆に混乱する。
本当に友達扱い…?なのか?
いや、それとも家族向けに隠してるだけ…?
亮の心は、先に進むほど絡まっていった。
航の家に着くと、優しそうな母親が温かい笑顔で迎えた。
テーブルにはきれいに並んだ料理。
家庭の匂いがして、亮は突然息苦しくなった。
そうだ、俺はクリスチャン家庭で育ったんだ。
結婚までは純潔を守れと言われてきた。
“よからぬ関係”は絶対にNG。
ましてや…ましてや男同士なんて…。
胸がきゅっと締めつけられた。
食事が始まったが、亮はほとんど箸を動かせなかった。
航の父や母が「亮くん、たくさん食べてね」と優しく声をかけるたび、
その優しさが逆に痛かった。
航の母が席を外したとき、航がそっと亮の腕に触れた。
「大丈夫?顔色悪いよ。」
触れられた瞬間、亮の全身に電気みたいなものが走った。
嫌だ。
怖い。
気持ち悪い。
だけど…逃げられない。
もし、このあと航が
「部屋で少し休む?」
と誘ったらどうしよう。
部屋に行って、何かされて、
触られて、
しかも自分がそれを…嫌がれなかったら…?
そんな未来を想像するだけで、頭が真っ白になった。
俺は…混乱しているだけなんだ。
宗教的に、純潔を守りたいだけなんだ。
だから、こういうのが嫌なんだ。
いや…違う。
胸の奥で何かが叫んでいた。
これは宗教じゃない。
もっと原始的な…“身体の嫌悪”だ。
だけど航の横顔を見ると、胸が痛いほど熱くなる。
何なんだ。この感覚は。
恋なのか?
それとも拒絶なのか?
どちらでもない…でも両方ある。
自分の心と身体が、別々の方向に引っ張られていくようだった。
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このままじゃ、俺は壊れてしまう。
だが航は、何も知らないまま優しく笑っている。
その優しさすら、今の亮には抱えきれなかった――。
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