YAWARAMICHI

ウィリアム・J・サンシロウ

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青桐龍夜編

FORCEDLABOR・カマルヘイ・地下造船所

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地下に眠りし秘密の場所―――
弱き者達が奴隷として扱われていたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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 2020年11月7日土曜日、夕暮れ。
 昇格戦を終えたばかりの青桐あおぎりは、博多駅前の正面広場で立ち尽くし、スマホをいじりながら時間を潰していた。
 蒼海柔道部の面々は、福岡各地に点在する柔道タワーへと分散し、未だ見ぬ強敵達との激戦を繰り広げていた。
 幸いどのメンバーも好成績を収めており、昨月100位圏内から脱落した石山いしやまも、今日の昇格戦で再び100位圏内へと昇格していたのであった。

「……石山いしやまはっと……お、101位から100位になってんな」

「お~い龍夜りゅうや~待った~?」

鈍足ノレぇよ、隼人はやと。どこで道草食ってたんだよ」

「んなわけねぇだろっ!! 俺さ、今日は飯塚市の柔道タワーまで遠征してたんだぞ?  電車はこの乗り継ぎで、もうヘロヘロだっての」

「へいへい、おつかれさま~」

 待ち合わせしていた草凪くさなぎと合流した青桐。
 人波を縫うようにして、夕暮れの博多駅内部へと進むと、2人は電車に乗り込み、妙見岬へ向かうために姪浜駅へと向かった。
 しばらくして2人は姪浜駅に到着する。
 駅近くのコンビニエンス道場に滞在している伊集院いじゅういん石山いしやまを迎えに行くため、雑談だべりながら足早に進んで行く。

「んでよぉ龍夜りゅうや。今日は古賀さんの道場じゃなくて、どこ行く気なんだよ? つーか、ここ、本気マジで遠すぎだろ」

「あぁ? ……城南のシモンって奴に誘われたんだよ。この前の柔祭りで連絡先交換しててさ。なんか爆笑ウケる場所見つけたって言うもんだからよ、そこに行く予定なんだわ」

「シモン……? 誰それ?」

「あぁー……隼人この前いなかったな……今年の福岡大会決勝戦で戦った高校の外国人じんと選手なんだよ。城南が例の吸収合併でバカでかくなった学校。俺らにちょっかい出してきてる財前ざいぜんってやつが運営してるとこだ」

「ほ~ん……で、そこで何すんの?」

「さぁ? ……本当ガチで何すんだろな?」

「知らねぇのかよお前……何か面倒めんでぃーことに巻き込まれそうじゃね?」

「そん時はそん時だ。柔道で片付ければいいだろ」

「おっ!! 流石、脳筋は言うことが違うねぇ~……痛えっ!! 急に殴打どつくくなよっ!?」

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「やっと来たか……待ちわびたぞ」

 指定された場所に到着した青桐と草凪。
 それより一足早く気づいたのは、タオルで額の汗を拭いながら近づいてきた伊集院だった。
 彼の右腕には手首に巻き付けられた数珠と、握りしめられた握力トレーナーがあり、カチカチと音を立てながらも手を止めようとはしない。
 滴る汗の量からして、試合の帰り道とは思えぬほど道場でトレーニングに励んでいたことが窺えた。

「さっきは割と冗談あまので言ったんだけどな……本気ガチでいいのか?」

「ああ、丁度筋トレも終わったところだしな。ふっ……そんな爆笑ウケることを俺が見逃すわけないだろ」

「おっし、そんじゃ頼むぜ。 ……アレ? 石山いしやまはいないのか? ここにいるって……」

「俺はここばい」

 青桐と伊集院の会話に割って入った声。
 その主が誰かは、ふと視線を落としたことで明らかになった。
 畳の上で柔軟体操に励んでいたのは、青桐の同級生である石山。
 開脚した両脚は一直線に伸び、巨体はぴたりと床に張りついていた。
 前屈で地面と平行になったその姿は、百キロ超とは思えぬしなやかさで、思わず見とれてしまうほど。
 むしろその徹底した柔らかさが、どこか可愛かわちく感じさせた。

「青桐君、準備するけんちょっと待っとって」

「以下同文。9割9部9厘、5分以内に終わるだろう。それまで適当に時間を潰していてくれ」

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 すっかり人数も増えた一行は、コンビニエンス道場を後にし、柔道タワーでの試合を振り返りながら、夕暮れのマリナ通りをゆっくりと進んでいた。
 ジョギング中の中年会社員しゃちく達と何度かすれ違い、やがて目的地は目前に。
 青桐は、待ち合わせ相手であるシモンの姿を探す。
 辺りはすでに薄暗く、人の輪郭も曖昧になり始めており、青桐は少しばかり手こずっているようだった。

「……アレ? どこだ……」

「へいへいへ~い!! なにやってんすか龍夜先輩~!? しっかりしてくだ……痛ぇ!! だから急に殴打どつくんじゃねぇよ!! このコミュ障がっ!!」

「あ"ぁ"? アマ殴ってそうなテメェが言ってんじゃねぇよ。ちょっと黙ってろ、集中出来ねぇだろが軟弱ヘタレ好色漢スケコマシ!!」

「遊んでませぇん、柔道一筋ですぅ"ぅ"ぅ"!!」

 幼馴染故の気安さなのだろうか。
 道端で取っ組み合いの喧嘩ごろを始めた2人。
 その様子に何か思うことがあるようで、石山と伊集院は、荒事を静かに見守っていた。

「……青桐君、前よりはマシになっとーね。こげん元気な姿は久々に見るばい」

「9割9部9厘、草凪のおかげだろうな。見知っている人間が側にいるだけでも、心の持ちようは変わるだろうからな」

「本来はここに、夏川なつかわさんもおるっちゃけど……」

「……だな」

「この暴言、青桐さんですよネッ!! 探しましたヨ~!!」

 青桐と草凪の激しい言い争いに気づき、駆けつけてきた者達がいた。
 その先頭を切って走ってくるのは、今回青桐と合流する約束ちぎりをしていた外国人じんと選手のシモン。
 背後には、かつて青桐が柔祭りで激闘を繰り広げた選手達の姿もあり、総勢4人の外国人じんと選手が、青桐達と合流したのだった。
 
こんばんはうぃ~す、シモン。柔祭り以来か?」

「そうですネ。いや~今日は感謝あざっすですヨ!! 探索あさるのに、人手が要りそうだったのデ」

探索あさる……?」

「こっちですヨッ!!」

 シモンに誘われるまま、小戸公園の奥へと歩を進める青桐達。
 次に彼らが足を止めたのは、白い万能板でぐるりと囲まれた、大規模な工事現場だった。
 夜の帳が降りた今、現場は稼働を終え、辺りにはしんとした静寂が広がっており、その様子はインタルゲーションマークである。
 中の様子は見えないが、継ぎ目の甘い板の隙間からツラを覗かせる重機達が、ここで何か大きな計画が進行していることを、無言で物語っていた。

「公園内に……何だこれ? ビルでも建つのか?」

「看板にハ、ここから能古島まデ、橋がかかるって書いてましたネ。ただおかしいんですよネ。もう工事は終わってるぽいんですヨ。ほら、この隙間から中ヲ……」

現実マジだ。もう通れるじゃん」

 万能板の向こうに広がる、閉ざされた空間。
 シモンの指示どおり、青桐が隙間から中を覗き込むと――そこには、すでに完成を迎えた一本の連絡橋が、静かにその姿を横たえていた。
 世間シャバにはまだ公開されていないその橋は、明日からの運用にも支障がないほど、粗雑ちゃっちい気配のない完璧な状態に仕上がっているように見えた。

「なんか怪しくないですカ? ちょっと調査あさってみまス?」

「ん~……どうすっかなぁ……なんか危険ヤバそうだしなぁ……」

「あの~すみません、道を聞いてもよろしいでしょうか?」

「え? ……隼人、ちょっと頼むわ」

「あいあ~い」

「んでどうする? 俺は止めといたほうが……」

「うわぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」

 シモンの提案に思わず眉をひそめる青桐。
 不穏せくちい状況に、どう返答すべきか考えあぐねていたその時、背後から響いた草凪の悲鳴に、全身が一瞬こわばった。
 振り返った彼の視界には、草凪の姿はもうなかった。
 代わりに、そこには黒く派手でーはーに口を開けた巨大な穴。
 そして、その近くにいたはずの道を尋ねて来た男の姿も、跡形もなく消えていた。
 突然現れた大穴と共に、2人はそのまま地中へと呑まれてしまったのだろう。
 青桐の脳裏に、そんな不吉な推測がよぎる。

「……ん? 隼人っ!? ……落ちたっ!?」

「青桐さん、これっテ……」

「ちっ!! しゃぁねぇ、俺達も追うぞっ!! ……穴から飛び降りるか?」

「9割9分9厘、その選択は進めない。行くならそこのエレベーターだな」

「エレベーター……? 何で? つ~か、勝手に使っていいのかっ!? クソ、なるようになれだなっ!!」

 伊集院が指さした先、敷地内の隅にひっそりと佇んでいたのは、工事車両を搬送するための大型エレベーターだった。
 進行方向は
 なぜ工事現場に、真下へと向かう装置が必要なのか。
 疑問エックスを抱く暇すらないまま、青桐達は万能板をよじ登り、無断で敷地内へと侵入むこいりした。
 幸い警備は厳重あつがりではなく、忍び込むことは容易かった。
 青桐達は迷いなくエレベーターを呼び寄せ、そのまま地下いたばしたへ。
 3分ほどの沈黙スフィンクスの後、辿り着いた先は、想像していたような暗くじめじめとした坑道ではなかった。
 そこに広がっていたのは、金属製のパネルで隙間なく囲われた、異様ひょんなまでに清潔な空間。
 いくつものドーム型建築物が余裕で収まってしまうほどの、異次元レべチな巨大空間だった。
 壁沿いには大小さまざまな重機が整然と並び、中央では、全長数十メートルはあろうかという豪華客船が、今まさに整備されている。
 怒号が飛び交い、金属の音が響き渡る中、地上では姿を見せなかった作業員達が、この地下いたばしたには溢れかえり、アリの群れめいて走り回り重労働かまるへいしていたのだ。

「あ? んだよここは……地下造船所っ!?」
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