2月14日

片山春樹

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始まりは会社の昼休み?

始まりは会社の昼休み。

「ねぇ恭子、チョコ買った?」
という美佐からの粘っこい電話は、毎年決まってこの時期を知らせる時報のようで。
「ううん、まだだけど。・・・あんなものテキトーでいいじゃん、見に行くの? 付き合うだけなら行ってもいいけど」
と、うんざりと返事しながら去年も同じ事を言ったような気がした今年の「もうすぐバレンタイン」な週末。
「うん・・じゃぁ、付き合ってくれる」という美沙の声を聞きながら。
椅子の背もたれをギコギコ揺らせてから、爪先でちょんちょん床を蹴って、滑らかな惰性に身を任せてオフィスをぐるりと見回してみると、一瞬、にやにやタケチャン・・がもっとニヤニヤして・・コイツは論外・・と眼が合うところで止まらないように、あわててもっと地面を蹴って、さらに半回転。したところで足を延ばしてブレーキかけてから聞き返す、このセリフも去年と同じかも。
「ねぇ美佐、あんたもしかして、本命でもできちゃったの? そんな声で、チョコ買った? 付き合ってくれる? だなんて」
すると、去年と違って、美佐は電話の向こうで「うん」と考え込んだから、えぇ? と、一瞬とてつもないアセリが冷や汗となって吹き出てきたような。息が止まった錯覚もして。そして。
「やっぱりサ、待っててもどうにもならないから、私から言ってみようかなぁって」
ぎょっ? 私から言ってみる・・って・・それって告白するって事? ナニに? いや・・誰に? 
「バレンタインって、そういう日じゃん」
いや・・まぁ・・確かにそういう日だけどさ、そういう日なのかな? 何だろ、このイヤな予感が油になって鼻の天辺から滲み出てくる気持ちの悪さ。「言ってみようかなぁ」だなんて、その相手は私の知っている男? 会社の中の? それとも、全然知らないどこかの馬の骨? というより、私・・もしかして美沙にも先を越された? にも・・? にも・・いや続けてそんなことはないでしょ、と無理やり思ってしまうこと、それを聞くべきか、どうするべきか。そんなことが頭の中でぐるぐるしていると。
「あの人のコト、恭子になら相談してもいいかなぁって思うから電話したんだけど」
と言うから、あの人? に、ピントが合い始めた予感がさらに鋭く尖り始めて・・・オソルオソル、
「あの人って、だれなの?」と聞いてみた。すると。ものすごいレスポンスで・・。
「ケンさんよ・・他に誰がいるの?」やっぱり。
・・・ズボシかよ・・・。という思いが、重苦しいため息を誘発して。
「ほら、恭子がこないだ飲み会に連れてきたでしょ、なんか、このオトコだって感じがあれからずっと、思い出すと心も体もうずうずしちゃって・・どうにもならないの、この気持ち。だから」
イヤな予感が、なぜかいつもよく的中する。そいつにはもうすでにどうしようもない運命の女ができちゃっているのだけど。
「なんか、あの後もケンさんには彼女できてなさそうだし」
どこを見てそんな判断してるのよ、ったく、私の幼馴染が彼の彼女になってしまったの。なんて・・・外から見ただけじゃ解らないか。それに、こんな話題の最中に、そのこと言う勇気なんてどこにもないし。
「恭子って、いつもケンさんと仲いいじゃない。だから、ケンさんが好みそうなのをチョイスしてもらおうかなぁっと思って」
チョイス・・かぁ。だけならイイのだけど、今の私は、ノストラダムスと肩を並べているほど正確に未来を預言できる自信がある。むちゃくちゃ面倒くさい失恋後のケア。居酒屋で酔って泣いてる美佐を面倒くさそうになだめている私の映像がものすごくリアルに鮮明に、そしてシャープに見えるけど・・。それをノストラダムスのように五行の詩にはできないか・・。それに・・。
「イイ? 今日・・」という声を拒否したら、ノロイ とか タタリ がありそう。
だから、付き合いはするけど、とりあえず黙っトコ。シラをきりとおせば ノロイ も タタリ もないだろう。触らなければ大丈夫・・何だっけこのことわざって・・サワラヌカミニタタリナシ・・そう思って。
「・・・うん、解った、それじゃあとでネ」
と軽く気安い返事で電話を切って、はぁぁぁぁっとため息を吐いてから。美佐のことだし、ケンさんに軽くあしらわれたとしても・・しても・・ではなくて、軽くあしらわれても。いつものようにどうにでもなるだろう。そう思い直したら昼休みも終わり、チャイムと同時に大きく背伸びしてあくびをひとつ。ちょちょぎれる涙をグーにした右手で拭きながら、メールを左手の親指で弾いてチェックすると。
「恭子さんへ、誕生日にナニか欲しいものはありますか? ken」
そんなタイトル。動体視力がオートマチックにピントを合わせたから。自動的に親指が反応して。ken。ケンさん。こと高倉健一。最近私のことを ときどき 恭子さん と呼ぶようになった。
そんな彼に、できたばかりの彼女は優子という名前で、その娘は最近私の親友ではなくなった、ただの幼馴染で、私も彼のこと、・・・どう思っているのだろうか? 自分自身に尋ねると、兄貴のようで、弟のようで、生んだことはないけど、子供のようにも思えるときもあるし。感じる異性をなんとなく意識することもあれば、好きだという感情もある・・ことを心の奥で認めようとすると、なによあんな奴・・とぼやきたくもなるし、でも、それは恋ではないとわかりきっている。まるで、そう、手に入ったとたんに興味が無くなるショーウィンドウの中のブランドバッグのような存在。
「ブランドバッグ・・」
それって何だろう。と自分で納得してみなきゃ、吹っ切れない気持ちも湧いてきそうな、そう、こないだ、とてつもなくディープなキスまでしちゃった・・のに。その後電光石火で私の幼馴染とくっついてしまった男の子。二つ年上だけど、男の人ではなくて、男の子。それがケンさん。

そんなことより、どうしてケンさん、私の誕生日を知っているの? ケンさんに話したことないよね私。という思いで 「もしかして、優子が教えたの? 私の誕生日」と打ち返したら。
「明日プレゼントを買い行くから、聞き出してくれって」とすぐさま返事。
「ったくもぉ」
と打ち込んで。なにか欲しいものがあるかなと考えてみるけど、これといって思いつかないし、軽率に返事したらしたで・・・あの娘のことだから。また ややこしい ことが起きそうだ。
だから「ったく」をプチプチとDelして。
「う~ん? (考え中の絵文字)」
と打ち込みなおして送信した。すると、すぐさま「う~ん 返しの術 !! うぅ~ん(絵文字が2つ)」と返事が届いて。
はいはい。顔の筋肉が垂れ落ちるこの脱力感。きっと、このオトコのこういうところが、芽生える恋愛感情を雑草のように、むしり取ってしまうのだろうな。そんな最近読んだ雑誌の記事、これって絶対「B型特有のアレ」だと思う。それにしても、あの日、なんでこんなヤツにキスしちゃったのだろう。あの一瞬は永遠に後悔しそうな思い出になって、いや思い出ではない、アレは「トラウマ」というカテゴリーだ。なんてことをまた思い出してしまったから、とりあえずため息でもはくか・・・。はぁ~あ。と。
この季節、ため息吐けば、吐くほどに、気持ちが沈んで、ため息が出る。
我ながら、よくできた五七五七七だね・・・はぁぁぁあ。

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