2月14日

片山春樹

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これが私の疫病神?

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これが私の疫病神?

そんな休日の朝、私を起こしたのは電話の音。ブーブーブーブーと鳴り続ける電話の画面に「優子」と表示されているから余計に「あーうるさい」とぼやいてからボタンを押すと。寝起きに聞くと体中が脱力して起き上がれなくなるこの甘ったるい声。
「ねぇ恭子、あたしよ・・・近くまで来てるのだけど、今何してるの?」
何もしてませんよ・・と寝ぼけたまま、もしや と思って聞き返すこと。
「もしかして、ケンさんも一緒なの?」
「ううん、高倉さんは仕事だからって、だから今日は私一人」
はぁぁぁっと思ってしまう。まだこいつは自分のオトコを「高倉さん」などと呼んでる。それに、「今日は」一人なのか、今日じゃない いつもは、一緒にいちゃいちゃしてるのだろうなぁと思うなぁ、強調されると。でも、ケンさんと一緒じゃないならいいか。
「解った、近くにいるなら、とりあえず部屋においでよ」と言って。
「うん、10分くらいで着くと思う」とそんな返事に「はいはい」と答えて電話を切って仕方なく起き上がり、さっと歯を磨いて顔を水洗いして。優子が部屋に来るのは、あの日以来か、と思い出してみるあの日のこと。でもあの日のコトを思い出すと、また気分がよどんでくるのは。また思い出してしまう、あのオトコとキスした一瞬。その思い出だけをぶんぶんと振り飛ばして、適当にコタツ周りを片付けて、ポットにお水を足して、扉を開けた冷蔵庫の中、なぁ~んにも入っていないことに気づいてしゃがんだら、扉の裏でベーコンが干し肉になってる。
「・・・・・・・・」
なんだろう、このとてつもないわびしい気持ち。そんな気持ちをピンポーンというチャイムがとりあえず打ち消してくれて、冷蔵庫をバタンと閉めて玄関に向かい。
「はいはい」とドアを開けると、そこには身長が1メートル78センチもある大女が立っている。女の私でも最初に眼が向くのは、私の目線と高さが一致する、上着のボタンを引き千切りそうなうな圧倒的なバスト。相変わらずスゴイねと思いながら顔を見上げると、「おはよ」と言いながら、おっとりと笑う優子。幼馴染、カレシを紹介してあげてからは親友ではなくなったけど・・。それにしても相変わらずこの娘は、優雅だなぁとうらやましく思う。この笑顔の可愛らしさ、このスゴイ体格、そして真似できないこの雰囲気。だけど優子のこの例えようのない雰囲気は、何にも考えていないだけ、ただの天然なんだ。ということを私は知っている。そう自分に言い聞かせていると。
「高倉さんに聞いてもらったのに、う~んだなんて、恭子って誕生日なにか欲しいものないの? それに、休みの日に一人でもんもんとしちゃって」
久しぶりに会うのに ナニこのセリフ。ヒトリデモンモン だなんて一言を言い放つ優子を。
「まぁまぁ、あがってよ」とうんざりと招き入れた。そして何も意識しないまま。
「私のことなんかより最近どうなの? ケンさんとうまくいってる?」と挨拶代わりに聞くと。
優子は にったぁー と笑うから、うんざりと、
「わーたわーた、もぉ、なにも言わない、何も言わない、何も言わないで」
としつこく繰り返しながら、手をパタパタと振ってしまう。
はぁぁぁあ。と、またため息がでて。聞くんじゃなかったとつくづく思ってから。屈みながらドアをくぐり私の狭い部屋に入る優子を見つめると、体中から立ち上る幸福のオーラが見えて。このピンク色の陽炎は1000年前に枯れた木にもひまわりとかを咲かせそう。そんなマボロシが本当に見えるから。イヤ見えない見えない見えない見えない。絶対に見えないし。と、ぶんぶん頭を振って。
「少し待っててね、珈琲入れるから、今お水足したトコなの」
そう言ってからあくびをして、珈琲を用意しながら横目で振り向くと、いつも通り私の部屋の中をきょろきょろと物色し始める優子。やっぱり、優子が思い出しているのは、あの日の出来事だろうなと思うから。ついつい。
「優子が来るんだったらケンさんにネクタイでも借りとくんだったネ」
そう言ってしまうと優子は振り向いて、私を睨む、その顔がムッとしているから余計に。
「靴下とかパンツの方がよかった? 今日はありませんよ、そんなに探さなくても」
とイヤミたっぷりにムッとし返して付け足すと。
「まだネに持ってる、もぉ」と言う優子。
ずぅぅぅっと一生 ネ に持ち続けますよ、と思う。だから、こんな意地悪な気分を自覚しながら質問してみること。
「でもさ、もし、ケンさんのネクタイがまたここにあったら、今の優子ならどうする?」
そう聞いてみると、優子は少しだけ考えて、にたっと・・笑った? まま。
「ヒトジチにする」と言った。
ヒトジチ? 相変わらずこの娘の一言は理解できない、だから、首を傾げると。
「うん、恭子の部屋にあったけど、って、なにかこう取引の材料とかにネ」
そう聞いて、なんとなく解ったかな私。なんだかんだといって、それなりに進展しているわけだな。優子もずいぶん大人になったなとも。そして、取引か。優子とケンさん、私が引き合わせた後、一目惚れしあって、アレからすでにヒトツキ。でも、それほどラブラブなのに、「取引?」なんて必要なのだろうか? そう思うと優子は勝手に話し始めた。
「うん、高倉さんって、優しくて、至れり尽くせりだから、ぷんぷんって、拗ねたりもしてみたいの。ケンカするほど仲がいいって言うでしょ。ケンカくらいしないともっと仲良くなれないのかなって」
拗ねたり、ケンカしたり・・か、なんて贅沢な奴、そう思いながら想像してしまうこと、まるで王女様の暮らしのようななんの苦労も、なんの心配もない至れり尽くせりの毎日、テーブルに着けば食事が出てきて、食べ終わればアイスクリームが。眼を閉じればキスしてくれる許嫁の王子様がいて、そんな毎日に飽きたヘップバーンのように町の中に繰り出して、あんな冒険、こんな冒険。それのミニチュア版かな、ケンさんの雰囲気を重ねると、なんとなく解る気がする。
「なんかこう、最近、あの人を困らせてみたいって思うときがね」と続ける優子にケンさんの間抜けな笑顔を思い出して、あいつを困らせる、その方法を自動的に考えてみるけど、何を頼んでも二つ返事で引き受けてくれて、どんな時でも優しいあいつを困らせることなんて、実行したらまた危険な情事に発展しそう。そんなことはやっぱり、彼-彼女の関係でないとできることじゃないな。と思ってまた憂鬱になった。ふぅぅとため息を吐くと。コタツにもぐりこむ優子が。
「でも、どうすれば困らせられるかなんて思いつかいないし」
まぁ、あのオトコが困ってるって・・なんて想像できないし。
「それに、本当に至れり尽くせりで優しいから・・」
至れり尽くせりで優しいのか・・なんて思うと、涙が出てきそう・・どうして私じゃないのソレ・・。と何言っていいかわからなくなった。
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