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ゆっさゆっさと運命の足音が?
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ゆっさゆっさと運命の足音が?
でも・・あの靴、どこの店で見たっけ・・。確かにこのデパートだったと思うのだけど。ボーナス入ったら買おうかなと手に取って、試しに履いてみた少しかかとの高い靴だったよね。18000円の値札の・・。と思い出しながら。18000円の靴。尖らせた唇の前で手を組んでウルウルした上目遣いで。「これほしいの・・買ってよ」なんてこと、ケンさんにはできないかな、とも思うし。そういう事、してみたいと思っているけど、もう、カレシにはなってくれないオトコなんだから、遠慮なくそういう事しても良さそうとも思ったりするけど。そんなことぶつぶつ考えていたら。
「恭子ちゃん・・また・・無になってない?」と立ち止まるケンさんに引かれて。
えっ・・ム? って。また・・と気が付いたというか。
「あ・・ごめんなさい・・ちょっとなってたかも」
と慌てて言い訳するのは、この前はこうして、ム、になってとんでもない夢を見ながら歩いていたことを思い出して、あの時とは違うでしょ、と思ったから・・だけど、確かに思い出せるとんでもない夢、現実以上のリアリティがあったから、今でも鮮明に思い出せて、夢だったのかどうか、あやふやな気持ちになるけど。間違いなくあれは私が見た夢で。
「こっちでいいの?」
と無垢で優しいケンさんの笑顔がどうしても重なってしまう、私が今思い出してるアノ夢の中の出来事、それは、間違いなく、ケンさんの記憶にはない、私が勝手に空想した夢で見た・・いや、本当に感じた快感・・。
「う・・うん・・ちょっと、思い出すから・・その・・靴屋さん」
と変な言い訳をして、もう、靴なんてどうでもいいのに。そんなことより、何がいけないのかな? ケンさんとこうしてくっついて歩いていると、イライラムシャクシャし始める気持ちが、ストレートな言い方をすると・・その・・つまり・・このオトコをレイプしたくなる。という気持ちに変わってくる実感がする。それに、私はそんな気分なのに。
「靴屋さんって、2階じゃない?」
なんてことを、本当に子供みたいな笑顔で言うから、もっとイライラムシャクシャしてしまいそうで。あーもぉ・・靴屋さんなんてどうでもいいし、どこでもいいでしょ。あーもぉ、この気持ちをぎゅっと抑えてほしい、ナデナデとなだめてほしい、と本気で思っているのに、この気持ちが、恋愛感情ではないと解っているから、あーもっとモヤモヤしてしまうんだと思う。それに、そんな私の感情なんて全く気にも留めないで。
「で、どんな靴? かかとが高いやつ?」とニコニコと聞くケンさんに。
もう・・いい・・。私に対する恋愛感情が徹底的に欠如しているから、こいつはこんな顔で、こんな気分の私にそういうことを聞くんだ。と、今、理解しよう。できるかな・・自信ないかも。だから。大きく息を吸って気持ちを静めて。とりあえず、受け答えしよう・・。
「まぁ・・この前見て、いいなって思っただけで、まだあるかどうかもわからないし・・それより、私にお金使って、優子は許してくれるの?」
なんて自分が言ったことに妙に納得して。そうだよね・・私に靴なんか買ってくれたら。その行為は優子に筒抜けになるわけで。
「うん・・別に、恭子ちゃんの誕生日なんだから、靴くらいイイと思うけど」
「どんなに高くても?」と言おうとしたけど、言えないのは、ケンさんへの気遣いではなくて、優子への気遣いかな。このオトコはもう優子の恋人なんだし・・。と思い出したら自然としがみついてる腕の力が抜けた。けど。
「まぁ・・とりあえず、探すだけでも探してみましょ、もう少し時間あるし」
とケンさんは解けた左手で私の背中を優しく押して。だから、抵抗できないままエスカレーターに乗って、2階に行って。ぶらぶらと靴屋さんを散策して、どことなく無意識な感情のまま目につく靴を手に取って、なんか違うな。と思っていると。
「履いてみれば」
とケンさんは言ってくれるけど、私はもう、どう言えば、この散策を切り上げられるのか、そればかりが頭の中を占有してしまっていて、こういえばいいかなと思いついた言葉。
「やっぱり・・売れちゃったみたい・・これじゃない」
そうつぶやいて、手にした靴を棚に戻すと。
「あらら・・そう・・残念・・」と慰めてくれるようなケンさん。
「まぁ・・また今度・・次から次にイイもの出てくるでしょ」
「そう・・仕方ないね・・じゃ・・もういいか・・駅に行こうか」
「うん・・」仕方ないね・・が、どうしてこんなに頭の中でこだまするのだろう。そう言われて時計を見ると4時30分か・・いつの間にと思った。
そこでUターンして、チョコレート売り場を通ってデパートを出て、もう一度女の子だらけのチョコレート売り場を振り返ると。あの娘たちはみんな、やっぱり恋人がいるのかな? という寂しい気持ち。デパートの外に出ると、火照った頬が、すり抜ける冷たい風に冷やされてゆく。その実感がもっと気持ちを寂しくさせるみたい、だから、これ以上寂しくなりたくないからケンさんの腕にまた絡みついてしまうのかな。ケンさんの左腕をぎゅっと抱くと。ケンさんはニコッと微笑んで。肘で私のおっぱいをぐりぐりした。びくっと感じて。えぇっ? ナニ? と思ったけど。まさか・・今・・優子のおっぱいと比べた? という気がしたから。慌てて離れた。けど・・。
「もう・・ここから先はちょっとね」
ちょっとねって・・あぁ・・それか・・優子に見られるとマズイ・・という意味で、グリグリと拒否したということか。ちょっと感じて損した気分がますますもっと気持ちを寂しくさせ始めたようだ。どうしたの私、カニ・・ご馳走・・プチデートに、あんなにウキウキしていたのに。たったの5センチ程なのに、ケンさんとのこの距離感が歩調をトボトボさせて、顔を上げられない。だから、少しうつむいたまま歩いていると。
「あの‥恭子ちゃん」と私のうつむいた顔を覗き込むケンさん。
「・・・ナニ?」とワンテンポずれて返事した私。
「あの・・さっきの、筒抜けの話の事だけど、同じじゃないって・・俺は優子さんに、ごめんなさいって思っているのだけど、優子さんもそう思ってくれてると思う?」
はぁ? と思い出すのにほんの少し。それと、やっぱり気にしてるわけね、という気持ちと。何気に粘っこそうなのは、ケンさん本当に優子の事が好きだから、優子がほんのちょっと怒っただけでこんなに心配なんだな。そう思うと、悲しさと一緒に、もうアフターサービスの期間は終わったでしょ。という気持ちがこみあげて。
「違うわよ・・」そうじゃない。
と言ったきり、黙ることにした。間違いなく違う。優子はごめんなさいなんて思っていない。ケンさんが触りたいと思っている以上に優子は触られたいと思っているのよ。
「違うって‥本当は怒っているんだ・・」
つまり、同じこと思っているでしょ。触りたい、触られたいって。それに、たぶん、優子もこのオトコに私と同じことを感じているはず。だから。
「怒っていると思うよ」私と同じくらい。そう言って。
優子も、このまどろっこしいオトコの救いようのないニブさを。
「怒ってると思うよ」と続けると。
「怒っているんだ・・やっぱり」と悲しそうになるケンさんを。
ムシムシ。
「でも、優子さんが怒っている所なんて見たことなくて」とつぶやくケンさんも。
ムシムシ。
「どう切り出せばいいのかな・・なんかない? こんな風に言えば・・とか」あるわけないから。
ムシムシ。してる間に、見えてきた中島の駅前。毎朝通過する改札口と、この方向からしか見えない、あの日優子がじっと見つめていた伝言板。の前に・・私と目が合った男の子・・。おぉ~・・イイ・・衣装のセンスは良さそう・・自然体で胸を張って、背筋も真っすぐで、姿勢がイイ。スタイルもイイ。背の高さはケンさんより少し低いかな。でも十分私より高くて、白い歯をキラッとさせながら爽やかにニコッと微笑んで小さく会釈してくれたのは・・キョロキョロと周囲を確かめてから・・「今の、私に?」とトキメキながら思ったら、その男の子は視線を遠くへ移した。・・え? ナニ? 今の感覚。この人ダレ? ケンさんの知り合い? と思ってケンさんを見上げても。知らん顔してるし。ちょっと近いけど、立ち止まった伝言板の前。右側にケンさんがいて、左側に気になる男の子がいて。やっぱり、ただ、私たちと同じ、ここで待ち合わせしてる、誰かを待ってる人だよね。誰かってカノジョだよね・・この雰囲気・・どんな娘が来るのかな? そんなこと考えながら、もう一度チラッと観察すると、ロータリーの時計塔を気にしてるのかな・・53分。まぁ・・あまりじろじろ見てるのもなんだし、ケンさんを見上げてもやっぱり知らん顔していて・・でも、その瞬間のケンさんの横顔。遠くにアレを見つけたのが私にも解った。その緩んだ笑顔の先・・。さっきの「怒っているんだ・・やっぱり」としょぼくれていたケンさんはどこ行ったのよ? 立ち昇り始めた桜色のオーラ。もういいでしょ・・毎回毎回、そんなことにエネルギー使わなくても。はぁぁ、と思いながらケンさんの視線をトレースすると。遠くからでもはっきりと解る、あの目立つ背丈に似合い過ぎる焦げ茶色のロングスカートをなびかせながら、優子がケンさんに負けないくらいの笑顔とオーラを纏って、ゆっさゆっさと歩いて来る。どうして歩いているときの効果音が「ゆっさゆっさ」なんだろね。と聞きたくなるケンさんの横顔が今にも優子に駆け出しそうで。だからかな、ふんって感じの気持ちでケンさんの腕をぎゅっと抱きしめて、駆け出さないでよね、と思っている私の雰囲気に気付いたかのようなケンさんを睨みつけるけど。少し歩調を速めた優子の、もっと「ゆっさゆっさゆっさゆっさ」揺れるあのバストにどうしても視線が向いてしまって。ふと、思うこと。きっとあの娘は自分がどれほど色っぽい女なのかなんて考えたこともないのだろうな。あの無自覚に揺れるおっぱいに目を奪われて、きぃぃっとタクシーが急ブレーキをかけて、出会いがしらのタンクローリーが民家に飛び込む。あの揺れるおっぱいに釘付けになった自転車の男の子が電柱にぶつかって。その自転車に出前のオートバイがつまずいて、おそばの箱がひっくり返り。もう一度タクシーが急ブレーキをかけて、二台目のタンクローリーがコンビニに突っ込んだ。誰もケガしてないよねと心配になるけど。全くシランカオで駆け寄ってくる優子。その上下に揺れながら、左右にも揺れる、すんごいバストに思い出すのは、この前言ってた優子の覚悟といろっぽい下着。あの娘のことだから、また、とんでもないブラを買って着けてるんじゃないかな、例えば・・紅色レースの透け透け・・と空想したところで。
「ねぇ、ケンさん」と優子を見つめるケンさんの腕にぎゅっと力を込めて
「相変わらず揺れてるね」とわざとらしく、しみじみとつぶやくと。
「・・・うん・・・揺れてる」だって。だから。
「アレを見てなにか思わないの?」と、もう一度わざとらしく訊ねてみると。
「いろいろなことをモヤモヤと思うよ」だなんて返事。やっぱり思うのか。ケンさんも男の子だもんね。でも、モヤモヤと思うって、どんな風に? と思ったことをそのまま。
「たとえば」と聞くと。
「まぁ・・重くないのかな・・・とか」たしかに重そうだね。
「他には?」
「邪魔じゃないのかな・・とか。足元見えるのかな・・とか」
私にとっては、どれもイヤミでしかないということか。でも・・。
「それって、優子に聞いたことあるの?」
「うん、一度・・聞いたけど」
「優子に? 直接? 重くないの? 邪魔じゃないの? って?」
「うん、まぁ・・でも・・優子さん・・別に・・だって」
あ・・そう。別に、重くもないし、邪魔でもないのか・・コメントに困る返事だね。で・・ここまで前置きしたのは、つまり。この本題。
「で、こないだ触ろうとしたんでしょ、アレに」
「え・・うん・・まぁ」
「触りたくもなるよね・・彼女なんだから」
「まぁ・・正直言うとね・・ムラムラっと」ムラムラしたんだね・・って。正直ね。で。
「触った時、どんな風に拒否されたの」
「え・・・まぁ・・その・・何するのよもぉぉ・・って」
あーそうですか、それで気まずくなっている・・という話だったけど。二人の笑顔を見比べると。どこがどんな風に気まずくなってるのよ。とも思えるし。
「ねぇケンさん・・次触りたくなったときはさ、触りますよって言ってからにすれば」
と優子が言ってたことをとりあえずは伝えてあげた。私ってどんなにお人好しなの?
「触りますよって・・触る前に・・」ってそんな真剣に聞き返さないでよ。
「そうよ・・前もって言えば、あんな雰囲気になれると思うよ。優子にも」
あんな雰囲気・・さっきオフィスで見つめあってゴクリとしたあの雰囲気。
「でも、そういうことって、前もって言うものなの? 恥ずかしくない?」
「・・・・さぁね」そこから先は自分で考えてよ・・。と思いながら。
そんな話しで、とりあえず、ケンさんにそれっぽい意識を芽生えさせてみよう。と思った時。声が届く距離まで近づくと同時に。
「まった?」
という優子に
「ううん」
と首を振って返事したケンさん。二人とも、本当に、どこがどう気まずくなっているのか。見てて悲しくなるほどの、二人とも、僕たち恋人ですよが満開の笑顔。くやしいから、ケンさんの腕を抱く力をもっと強くして。当てつけに優子を睨んで、優子がプンプンしないかと期待したのに。
「もういいだろ」
と私を柔らかく振りほどいたのはケンさんの方。今頃になって、カニに浮かれた私がバカだったのかも、という悲しみが溢れてきた、その時、唐突に優子がケンさんに向かって言ったこと。
「まだ、ばれてないよね・・しゃべっちゃった?」
えっ? ナニ? 突然会話をひっくり返さないでよ。と一瞬思う隙に。
「ううん・・しゃべっちゃいそうになったけど・・まだ・・気づかれていないと思うよ」
とニヤニヤしたケンさん。
「私も、しゃべっちゃいそうになって・・やばかった・・」
「しゃべりたくなるよね・・」
「なるぅ~・・でも、我慢できたし」にやにや。
「オレも。ふふふ」
ナニよ? 二人して口を押えてニヤニヤふふふって、その、宇宙人の会話みたいなのやめてほしいのですけど。
「じゃぁ・・もういいかな。優子さんが喋っちゃう?」
「ウフフフフフフ。とうしよう・・ドキドキしちゃうよ」と大きな胸に手を当てた優子が続けて。
「いつも占い気にしてるのに鈍感ね」なんてことを言い放つから。
はぁ? 何言ってるの? 私が鈍感だなんて・・。
「あんたに鈍感だなんて言われる筋合いないでしょ」
と本当に腹が立ったというか・・。
「何の話してるのよ二人とも・・」
と言わずにはいられないというか。
「もぉ・・そんな怖い顔したら言えなくなるでしょ」とまだ続ける優子に。
「だから・・ナニを?」とイライラしてしまう私。
「もぉ・・もっといつも通りの優しい顔してよ。ねぇ」
「ねぇ・・」
ってケンさんまで。ナニよ一体・・。
「ほーら・・いつもみたいに笑ってください。どうしたの今日一日不機嫌そうで」
だなんて、後ろから私の両肩に手をのせたケンさん。あなたのせいでしょ、と思う前に、私を優子に正対させて。肩をもみもみっとしたから。
「もぉ・・なによ・・」と首をすぼめて笑ってしまった。すると、優子が。
「お誕生日プレゼント」と本当にかわいい笑顔で言った。だから・・それって。
「・・カニ・・でしょ」とつぶやいたら。
「カニは出汁みたいなもの。カツオ昆布」
「カツオ昆布?」
「だから・・メインデッシュは・・こっち・・はい、高倉さん紹介してあげてくださぁーい」
えぇ? メインデッシュ・・紹介? の二文字・・そこでようやく・・えぇえぇ? まさか・・と、思い出したいことが、完全に記憶から飛んでる・・その・・なんだっけ・・えぇ? ナニ・・いきなり心臓がドクンドクンドクンドクンって・・どうしたの私、ナニこのパニック。と思ったその時。ケンさんは両方の肩に乗っている手で私を方向転換させて。その・・正面に見えるのは・・伝言板の前で、さっき、私にニコッと会釈した・・今・・もっとニコッと会釈してる・・。うわ・・さっきもイイって思ったけど・・今はもっとイイって思っている。
「紹介します。ケンさんの幼馴染で唯一無二の親友の・・はい、どうぞ」
「初めまして、藤原誠と言います。その・・黙ってて、ごめんなさい。ケンイチと優子さんが、紹介するまで絶対声かけるなって言うから」
フジワラマコトさん・・。優しそうな笑顔から聞こえる透き通った声が心まで染み込んでくる・・えっ? 紹介するまで声かけるなって・・。ケンさんの幼馴染で唯一無二の親友・・さん・・。が・・。
「ケンイチの会社には、こんなに綺麗でカワイイ女の子が本当にいるんだ。というかその・・私のような顔の男はキライですか」
私のコト、綺麗でカワイイ女の子って言った。ことは理解しているけど。どうしたの私・・時間が止まっているような錯覚・・手足の感覚が全くなくなっていて・・重力のない空間をふわふわと漂っているような・・なにか硬いものに縛られているような・・私・・息してる? どうしたの・・私・・どうしたの・・あ・・私・・こんな大事な時に、その、フリーズしちゃった・・今・・再起動している。
「あの・・」
と心配そうな顔をした、確か、フジワラマコトさん。と、後ろから私の肩を掴んだまま、私の顔を覗き込んだケンさんと。ニヤニヤと私を観察している優子。の顔を見て、ようやく初期画面が戻ってきたような錯覚。
「あ・・はい・・わ・・私。きょ、恭子と申します」と裏返ってる声で名前は言えたけど。
「申します・・だって。ぷぷぷ」と笑った優子には
「うるさい・・」と言えるのに・・じゃなくて、今集中しなければいけないのは。
「初めまして・・この顔・・好みではありませんか?」
と不安そうに聞くフジワラマコトさんの方。
「い・・いえ・・好みです」と。なにうわずっているの私。
「ぷぷぷ。好みです。だって」とまだ笑っている優子が。
「作戦成功?」とケンさんと笑いあって。
「成功したみたいだね」と言ったケンさんと。
「やったー」ってなにハイタッチしてるのよ。そして。
「あの、もう一度、初めまして、急でびっくりしましたか? さっき、一瞬目が合った時にうわっカワイイって声かけそうになったのですけど。優子さんとケンイチのリクエストと言うか。その・・あーそれより、優子さん・・」フジワラマコトさん・・うわっカワイイって・・私のコト? ってどうして優子に方向転換するの?
「なんですか?」って答える優子もいつもの優子だし。
「今、恭子さんに、お誕生日プレゼントって言いませんでしたか?」お誕生日プレゼント・・って、メインデッイュとも言ってたかな・・・って。コレ? ってフジワラマコトさん?
「言いましたよ」ホントに・・この男の子がお誕生日プレゼント?
「お誕生日なんですか? 今日?」って、急に話しかけられても・・。
「い・・い・・い・・いえ・・今日ではないですけど・・その2月14日が私の誕生日で・・」
こんな場面で、こんなことを詳しく説明なんてできるわけないでしょ・・ホントに私、息してる? 心臓動いてる? バクンバクンっていってる・・ね。
「だから・・誠さんは。私たちから恭子に贈る。秘密のお誕生日プレゼントです。秘密なのにリボンとかつけてたらばれるじゃないですか」
「あ・・そう・・だね・・まぁ確かにリボンがついてたらばれるよね・・で・・あの、受け取っていただけそうですか? こんなお誕生日プレゼント」
そう自分を指さしながら、私に視線を向けたフジワラマコトさん・・って彼の名前を私、何回リピートしてるの?
「受け取ってくれるよね」って優子も・・それって・・アレよアレ・・だから。人身売買でしょそんなことしたら。って私まだパニッくが収まらない。のは・・・。その・・・。だんだんと冷静さが戻ってくると、と言うか。再起動できたからなのか・・。まず始めに思うこと・・心を解放すると。
「ちょっと、あんたたち、男の子連れてくるとか、紹介するとか、そんなことするつもりだったのなら、前もって言うでしょ普通。優子だって女の子なんだから、初対面の男の子と初顔合わせするときって絶対にお化粧とかオシャレとかするでしょ。第一印象ってすっごい大事じゃない。それなのに、そんな・・こんな・・ケンさんも、カニ食べに行くって言うから、汚れそうだから、私、お化粧もおしゃれも何もしてないのに。髪だってぼさぼさでしょ・・。そんな、こんな、何もしてない時に、こんなにイイ男の子を連れてきて、紹介するとか、お誕生日プレゼントだとか。黙ったまま私を観察させて・・。さっきのケンさんとの会話も全部聞かれた? もしかして・・優子のおっぱいとか、アレを見てモヤモヤとか・・ケンさんとそんな会話してたこともそうだけど。こんなお化粧もオシャレもしていない地味な田舎臭そうな顔で、こんなにイイ男の子と初対面だなんて。初対面で私は・・こんな優しそうで素敵でハンサムでモノゴシもしゃべり方も、姿勢も服のセンスも全部100点満点みたいな男の子と・・初めましてって自己紹介したのに。そう言えば、ここに来てから私、ケンさんにあんなにべったりしがみついていて。誤解とかされていそうだし。初めまして恭子と申します・・って挨拶した顔もスッピンの中のスッピンでしょ、服だって、私が持ってる服の中で最下位のどうでもいい、ずっと廃品回収の日に出すの忘れてる地味服なのに。それなのに、フジワラマコトさん。うわっカワイイって・・それって絶対ただのお世辞・・社交指令。こんな、お化粧もしていなければ、オシャレもしていない女を見て・・絶対・・あの、受け取っていただけそうですか? なんてセリフも、世間体を気にしてのリップサービスでしょ。あぁーどうしよう、今から帰って、化粧直しなんてできるわけないし。一番オシャレなワンピースに着替えたくても無理だし・・。優子もケンさんも・・なんてことしてくれたのよ・・それって、私をびっくりさせたかったのかもしれないけど・・私は・・こんなにイイ男の子と・・こんな初対面だけはしたくなかった」
だなんて、心の中で絶叫している私。をじっと見ているフジワラマコトさんが、くすっと笑って。その素敵すぎる笑顔が・・うわっジミ・・という引き攣った笑い方のようにも思えて。エンドレスな思いが、もう一回転し始める。
「ちょっと、あんたたち、男の子連れてくるとか、紹介するとか、そんなことするつもりだったのなら、どうして前もって言ってくれないのよ。普通言うでしょ、男の子紹介してあげるからしっかり用意してねって。優子だって女の子なんだから、初対面の男の子と初顔合わせするときって絶対にお化粧とかオシャレとかするでしょ。第一印象ってすっごい大事じゃない。それなのに、そんな・・こんな・・」
と、心の中の絶叫が収まらない。私、泣きそう・・第一印象最悪じゃない・・こんなスッピンで地味すぎる衣服・・。でも・・。私がそんなことを心の中で絶叫してることなんて想像すらしない優子は。
「誠さんって、恭子に気に入られましたよ」なんてことを誠さんの耳元に、私にも聞こえる声でニヤニヤとささやいて。私は気に入ったけど・・これじゃ・・こんな女の子、男の子に気に入られるわけないでしょ。そう思いながらうつむいたら。
「気に入ってくれましたか?」と私に聞いた誠さん。に。
「ほら、恥ずかしくて喋れなくなってる・・ぷぷぷぷ・・恭子って意外とこういうところウブなんですよ。可愛いでしょ」
「へぇ・・そうなんだ・・僕もホントは緊張しすぎて・・その・・王女様に話しかけてるような・・あの・・」
という言葉は、もっと、こう。バキバキにお化粧キメて、エレガントなオシャレもばっちりの時に聞けたら。
「私たちって、もしかして気が合いそうですか?」
なんて返事を人生最高の可愛らしさで、していたのに。そうじゃないから・・。うつむいたまま。スッピんの顔を見られないように。不揃いかもしれない眉毛を見られないように・・。
「そんな・・ムリしないでください」
なんてことを言い放ってしまって。あー・・そんなこと言ったら・・初めまして・・はい・・さようなら。短すぎる・・わずか2秒の恋・・。になってしまうよね。・・なってしまったよねもう。
「まぁ・・つもる話はカニでも食べながら。恭子ちゃん・・こいつは間違いなく絶大に信頼できるケンさんの親友だから、遠慮なんてしないで、いつも通り言いたい放題しちゃっていいからさ。な」
な・・って・・ケンさんも、フジワラマコトさんに、私のコトそんな言いたい放題のオンナみたいな紹介はやめてよバカ。それに。
「どうぞ言いたい放題しちゃってください。僕はケンイチよりはアドリブうまいと思います」
ほら、言いたい放題のオンナ・・それが第二印象になってしまった。そして、アドリブ・・何か芸でもできるのかな手品とか・・口から鳩出すとか・・そうですか・・ケンさんにはこんなお友達がいたのね、ケンさんより素敵な感じがする。でも・・。そんなフジワラマコトさんの優しい響きに。
「はい・・」と蚊の鳴くような返事しかできないし。うつむいたまま。
「私カニって食べたことないんです」とスキップしてる優子の後を、とぼとぼと。
「えぇ、うそ、優子さんカニ食べたことないの。でも、ケンイチは優子さんが食べちゃったのに」
「って。誠さん、その言い方は、もぉぉですよ。正直言うと、高倉さんの味見もまだです」
「それって絶対ウソだ・・味見するほど仲がいいって言うくらい、見てて仲いいのに」
「もう・・やめろよ・・そういう話」
「私はしたいです、そういう話。高倉さんと」
「そう・・それじゃ、味見どうぞ」
「もぉぉ、イヤよこんなところで。ナニしてるのよ」
そんなアドリブ・・いや、宇宙人たちの会話を聞きながら、歩いてついてゆくしかないようだ。どうしてこんな風になっちゃうの、最近、いつもいつも。
でも・・あの靴、どこの店で見たっけ・・。確かにこのデパートだったと思うのだけど。ボーナス入ったら買おうかなと手に取って、試しに履いてみた少しかかとの高い靴だったよね。18000円の値札の・・。と思い出しながら。18000円の靴。尖らせた唇の前で手を組んでウルウルした上目遣いで。「これほしいの・・買ってよ」なんてこと、ケンさんにはできないかな、とも思うし。そういう事、してみたいと思っているけど、もう、カレシにはなってくれないオトコなんだから、遠慮なくそういう事しても良さそうとも思ったりするけど。そんなことぶつぶつ考えていたら。
「恭子ちゃん・・また・・無になってない?」と立ち止まるケンさんに引かれて。
えっ・・ム? って。また・・と気が付いたというか。
「あ・・ごめんなさい・・ちょっとなってたかも」
と慌てて言い訳するのは、この前はこうして、ム、になってとんでもない夢を見ながら歩いていたことを思い出して、あの時とは違うでしょ、と思ったから・・だけど、確かに思い出せるとんでもない夢、現実以上のリアリティがあったから、今でも鮮明に思い出せて、夢だったのかどうか、あやふやな気持ちになるけど。間違いなくあれは私が見た夢で。
「こっちでいいの?」
と無垢で優しいケンさんの笑顔がどうしても重なってしまう、私が今思い出してるアノ夢の中の出来事、それは、間違いなく、ケンさんの記憶にはない、私が勝手に空想した夢で見た・・いや、本当に感じた快感・・。
「う・・うん・・ちょっと、思い出すから・・その・・靴屋さん」
と変な言い訳をして、もう、靴なんてどうでもいいのに。そんなことより、何がいけないのかな? ケンさんとこうしてくっついて歩いていると、イライラムシャクシャし始める気持ちが、ストレートな言い方をすると・・その・・つまり・・このオトコをレイプしたくなる。という気持ちに変わってくる実感がする。それに、私はそんな気分なのに。
「靴屋さんって、2階じゃない?」
なんてことを、本当に子供みたいな笑顔で言うから、もっとイライラムシャクシャしてしまいそうで。あーもぉ・・靴屋さんなんてどうでもいいし、どこでもいいでしょ。あーもぉ、この気持ちをぎゅっと抑えてほしい、ナデナデとなだめてほしい、と本気で思っているのに、この気持ちが、恋愛感情ではないと解っているから、あーもっとモヤモヤしてしまうんだと思う。それに、そんな私の感情なんて全く気にも留めないで。
「で、どんな靴? かかとが高いやつ?」とニコニコと聞くケンさんに。
もう・・いい・・。私に対する恋愛感情が徹底的に欠如しているから、こいつはこんな顔で、こんな気分の私にそういうことを聞くんだ。と、今、理解しよう。できるかな・・自信ないかも。だから。大きく息を吸って気持ちを静めて。とりあえず、受け答えしよう・・。
「まぁ・・この前見て、いいなって思っただけで、まだあるかどうかもわからないし・・それより、私にお金使って、優子は許してくれるの?」
なんて自分が言ったことに妙に納得して。そうだよね・・私に靴なんか買ってくれたら。その行為は優子に筒抜けになるわけで。
「うん・・別に、恭子ちゃんの誕生日なんだから、靴くらいイイと思うけど」
「どんなに高くても?」と言おうとしたけど、言えないのは、ケンさんへの気遣いではなくて、優子への気遣いかな。このオトコはもう優子の恋人なんだし・・。と思い出したら自然としがみついてる腕の力が抜けた。けど。
「まぁ・・とりあえず、探すだけでも探してみましょ、もう少し時間あるし」
とケンさんは解けた左手で私の背中を優しく押して。だから、抵抗できないままエスカレーターに乗って、2階に行って。ぶらぶらと靴屋さんを散策して、どことなく無意識な感情のまま目につく靴を手に取って、なんか違うな。と思っていると。
「履いてみれば」
とケンさんは言ってくれるけど、私はもう、どう言えば、この散策を切り上げられるのか、そればかりが頭の中を占有してしまっていて、こういえばいいかなと思いついた言葉。
「やっぱり・・売れちゃったみたい・・これじゃない」
そうつぶやいて、手にした靴を棚に戻すと。
「あらら・・そう・・残念・・」と慰めてくれるようなケンさん。
「まぁ・・また今度・・次から次にイイもの出てくるでしょ」
「そう・・仕方ないね・・じゃ・・もういいか・・駅に行こうか」
「うん・・」仕方ないね・・が、どうしてこんなに頭の中でこだまするのだろう。そう言われて時計を見ると4時30分か・・いつの間にと思った。
そこでUターンして、チョコレート売り場を通ってデパートを出て、もう一度女の子だらけのチョコレート売り場を振り返ると。あの娘たちはみんな、やっぱり恋人がいるのかな? という寂しい気持ち。デパートの外に出ると、火照った頬が、すり抜ける冷たい風に冷やされてゆく。その実感がもっと気持ちを寂しくさせるみたい、だから、これ以上寂しくなりたくないからケンさんの腕にまた絡みついてしまうのかな。ケンさんの左腕をぎゅっと抱くと。ケンさんはニコッと微笑んで。肘で私のおっぱいをぐりぐりした。びくっと感じて。えぇっ? ナニ? と思ったけど。まさか・・今・・優子のおっぱいと比べた? という気がしたから。慌てて離れた。けど・・。
「もう・・ここから先はちょっとね」
ちょっとねって・・あぁ・・それか・・優子に見られるとマズイ・・という意味で、グリグリと拒否したということか。ちょっと感じて損した気分がますますもっと気持ちを寂しくさせ始めたようだ。どうしたの私、カニ・・ご馳走・・プチデートに、あんなにウキウキしていたのに。たったの5センチ程なのに、ケンさんとのこの距離感が歩調をトボトボさせて、顔を上げられない。だから、少しうつむいたまま歩いていると。
「あの‥恭子ちゃん」と私のうつむいた顔を覗き込むケンさん。
「・・・ナニ?」とワンテンポずれて返事した私。
「あの・・さっきの、筒抜けの話の事だけど、同じじゃないって・・俺は優子さんに、ごめんなさいって思っているのだけど、優子さんもそう思ってくれてると思う?」
はぁ? と思い出すのにほんの少し。それと、やっぱり気にしてるわけね、という気持ちと。何気に粘っこそうなのは、ケンさん本当に優子の事が好きだから、優子がほんのちょっと怒っただけでこんなに心配なんだな。そう思うと、悲しさと一緒に、もうアフターサービスの期間は終わったでしょ。という気持ちがこみあげて。
「違うわよ・・」そうじゃない。
と言ったきり、黙ることにした。間違いなく違う。優子はごめんなさいなんて思っていない。ケンさんが触りたいと思っている以上に優子は触られたいと思っているのよ。
「違うって‥本当は怒っているんだ・・」
つまり、同じこと思っているでしょ。触りたい、触られたいって。それに、たぶん、優子もこのオトコに私と同じことを感じているはず。だから。
「怒っていると思うよ」私と同じくらい。そう言って。
優子も、このまどろっこしいオトコの救いようのないニブさを。
「怒ってると思うよ」と続けると。
「怒っているんだ・・やっぱり」と悲しそうになるケンさんを。
ムシムシ。
「でも、優子さんが怒っている所なんて見たことなくて」とつぶやくケンさんも。
ムシムシ。
「どう切り出せばいいのかな・・なんかない? こんな風に言えば・・とか」あるわけないから。
ムシムシ。してる間に、見えてきた中島の駅前。毎朝通過する改札口と、この方向からしか見えない、あの日優子がじっと見つめていた伝言板。の前に・・私と目が合った男の子・・。おぉ~・・イイ・・衣装のセンスは良さそう・・自然体で胸を張って、背筋も真っすぐで、姿勢がイイ。スタイルもイイ。背の高さはケンさんより少し低いかな。でも十分私より高くて、白い歯をキラッとさせながら爽やかにニコッと微笑んで小さく会釈してくれたのは・・キョロキョロと周囲を確かめてから・・「今の、私に?」とトキメキながら思ったら、その男の子は視線を遠くへ移した。・・え? ナニ? 今の感覚。この人ダレ? ケンさんの知り合い? と思ってケンさんを見上げても。知らん顔してるし。ちょっと近いけど、立ち止まった伝言板の前。右側にケンさんがいて、左側に気になる男の子がいて。やっぱり、ただ、私たちと同じ、ここで待ち合わせしてる、誰かを待ってる人だよね。誰かってカノジョだよね・・この雰囲気・・どんな娘が来るのかな? そんなこと考えながら、もう一度チラッと観察すると、ロータリーの時計塔を気にしてるのかな・・53分。まぁ・・あまりじろじろ見てるのもなんだし、ケンさんを見上げてもやっぱり知らん顔していて・・でも、その瞬間のケンさんの横顔。遠くにアレを見つけたのが私にも解った。その緩んだ笑顔の先・・。さっきの「怒っているんだ・・やっぱり」としょぼくれていたケンさんはどこ行ったのよ? 立ち昇り始めた桜色のオーラ。もういいでしょ・・毎回毎回、そんなことにエネルギー使わなくても。はぁぁ、と思いながらケンさんの視線をトレースすると。遠くからでもはっきりと解る、あの目立つ背丈に似合い過ぎる焦げ茶色のロングスカートをなびかせながら、優子がケンさんに負けないくらいの笑顔とオーラを纏って、ゆっさゆっさと歩いて来る。どうして歩いているときの効果音が「ゆっさゆっさ」なんだろね。と聞きたくなるケンさんの横顔が今にも優子に駆け出しそうで。だからかな、ふんって感じの気持ちでケンさんの腕をぎゅっと抱きしめて、駆け出さないでよね、と思っている私の雰囲気に気付いたかのようなケンさんを睨みつけるけど。少し歩調を速めた優子の、もっと「ゆっさゆっさゆっさゆっさ」揺れるあのバストにどうしても視線が向いてしまって。ふと、思うこと。きっとあの娘は自分がどれほど色っぽい女なのかなんて考えたこともないのだろうな。あの無自覚に揺れるおっぱいに目を奪われて、きぃぃっとタクシーが急ブレーキをかけて、出会いがしらのタンクローリーが民家に飛び込む。あの揺れるおっぱいに釘付けになった自転車の男の子が電柱にぶつかって。その自転車に出前のオートバイがつまずいて、おそばの箱がひっくり返り。もう一度タクシーが急ブレーキをかけて、二台目のタンクローリーがコンビニに突っ込んだ。誰もケガしてないよねと心配になるけど。全くシランカオで駆け寄ってくる優子。その上下に揺れながら、左右にも揺れる、すんごいバストに思い出すのは、この前言ってた優子の覚悟といろっぽい下着。あの娘のことだから、また、とんでもないブラを買って着けてるんじゃないかな、例えば・・紅色レースの透け透け・・と空想したところで。
「ねぇ、ケンさん」と優子を見つめるケンさんの腕にぎゅっと力を込めて
「相変わらず揺れてるね」とわざとらしく、しみじみとつぶやくと。
「・・・うん・・・揺れてる」だって。だから。
「アレを見てなにか思わないの?」と、もう一度わざとらしく訊ねてみると。
「いろいろなことをモヤモヤと思うよ」だなんて返事。やっぱり思うのか。ケンさんも男の子だもんね。でも、モヤモヤと思うって、どんな風に? と思ったことをそのまま。
「たとえば」と聞くと。
「まぁ・・重くないのかな・・・とか」たしかに重そうだね。
「他には?」
「邪魔じゃないのかな・・とか。足元見えるのかな・・とか」
私にとっては、どれもイヤミでしかないということか。でも・・。
「それって、優子に聞いたことあるの?」
「うん、一度・・聞いたけど」
「優子に? 直接? 重くないの? 邪魔じゃないの? って?」
「うん、まぁ・・でも・・優子さん・・別に・・だって」
あ・・そう。別に、重くもないし、邪魔でもないのか・・コメントに困る返事だね。で・・ここまで前置きしたのは、つまり。この本題。
「で、こないだ触ろうとしたんでしょ、アレに」
「え・・うん・・まぁ」
「触りたくもなるよね・・彼女なんだから」
「まぁ・・正直言うとね・・ムラムラっと」ムラムラしたんだね・・って。正直ね。で。
「触った時、どんな風に拒否されたの」
「え・・・まぁ・・その・・何するのよもぉぉ・・って」
あーそうですか、それで気まずくなっている・・という話だったけど。二人の笑顔を見比べると。どこがどんな風に気まずくなってるのよ。とも思えるし。
「ねぇケンさん・・次触りたくなったときはさ、触りますよって言ってからにすれば」
と優子が言ってたことをとりあえずは伝えてあげた。私ってどんなにお人好しなの?
「触りますよって・・触る前に・・」ってそんな真剣に聞き返さないでよ。
「そうよ・・前もって言えば、あんな雰囲気になれると思うよ。優子にも」
あんな雰囲気・・さっきオフィスで見つめあってゴクリとしたあの雰囲気。
「でも、そういうことって、前もって言うものなの? 恥ずかしくない?」
「・・・・さぁね」そこから先は自分で考えてよ・・。と思いながら。
そんな話しで、とりあえず、ケンさんにそれっぽい意識を芽生えさせてみよう。と思った時。声が届く距離まで近づくと同時に。
「まった?」
という優子に
「ううん」
と首を振って返事したケンさん。二人とも、本当に、どこがどう気まずくなっているのか。見てて悲しくなるほどの、二人とも、僕たち恋人ですよが満開の笑顔。くやしいから、ケンさんの腕を抱く力をもっと強くして。当てつけに優子を睨んで、優子がプンプンしないかと期待したのに。
「もういいだろ」
と私を柔らかく振りほどいたのはケンさんの方。今頃になって、カニに浮かれた私がバカだったのかも、という悲しみが溢れてきた、その時、唐突に優子がケンさんに向かって言ったこと。
「まだ、ばれてないよね・・しゃべっちゃった?」
えっ? ナニ? 突然会話をひっくり返さないでよ。と一瞬思う隙に。
「ううん・・しゃべっちゃいそうになったけど・・まだ・・気づかれていないと思うよ」
とニヤニヤしたケンさん。
「私も、しゃべっちゃいそうになって・・やばかった・・」
「しゃべりたくなるよね・・」
「なるぅ~・・でも、我慢できたし」にやにや。
「オレも。ふふふ」
ナニよ? 二人して口を押えてニヤニヤふふふって、その、宇宙人の会話みたいなのやめてほしいのですけど。
「じゃぁ・・もういいかな。優子さんが喋っちゃう?」
「ウフフフフフフ。とうしよう・・ドキドキしちゃうよ」と大きな胸に手を当てた優子が続けて。
「いつも占い気にしてるのに鈍感ね」なんてことを言い放つから。
はぁ? 何言ってるの? 私が鈍感だなんて・・。
「あんたに鈍感だなんて言われる筋合いないでしょ」
と本当に腹が立ったというか・・。
「何の話してるのよ二人とも・・」
と言わずにはいられないというか。
「もぉ・・そんな怖い顔したら言えなくなるでしょ」とまだ続ける優子に。
「だから・・ナニを?」とイライラしてしまう私。
「もぉ・・もっといつも通りの優しい顔してよ。ねぇ」
「ねぇ・・」
ってケンさんまで。ナニよ一体・・。
「ほーら・・いつもみたいに笑ってください。どうしたの今日一日不機嫌そうで」
だなんて、後ろから私の両肩に手をのせたケンさん。あなたのせいでしょ、と思う前に、私を優子に正対させて。肩をもみもみっとしたから。
「もぉ・・なによ・・」と首をすぼめて笑ってしまった。すると、優子が。
「お誕生日プレゼント」と本当にかわいい笑顔で言った。だから・・それって。
「・・カニ・・でしょ」とつぶやいたら。
「カニは出汁みたいなもの。カツオ昆布」
「カツオ昆布?」
「だから・・メインデッシュは・・こっち・・はい、高倉さん紹介してあげてくださぁーい」
えぇ? メインデッシュ・・紹介? の二文字・・そこでようやく・・えぇえぇ? まさか・・と、思い出したいことが、完全に記憶から飛んでる・・その・・なんだっけ・・えぇ? ナニ・・いきなり心臓がドクンドクンドクンドクンって・・どうしたの私、ナニこのパニック。と思ったその時。ケンさんは両方の肩に乗っている手で私を方向転換させて。その・・正面に見えるのは・・伝言板の前で、さっき、私にニコッと会釈した・・今・・もっとニコッと会釈してる・・。うわ・・さっきもイイって思ったけど・・今はもっとイイって思っている。
「紹介します。ケンさんの幼馴染で唯一無二の親友の・・はい、どうぞ」
「初めまして、藤原誠と言います。その・・黙ってて、ごめんなさい。ケンイチと優子さんが、紹介するまで絶対声かけるなって言うから」
フジワラマコトさん・・。優しそうな笑顔から聞こえる透き通った声が心まで染み込んでくる・・えっ? 紹介するまで声かけるなって・・。ケンさんの幼馴染で唯一無二の親友・・さん・・。が・・。
「ケンイチの会社には、こんなに綺麗でカワイイ女の子が本当にいるんだ。というかその・・私のような顔の男はキライですか」
私のコト、綺麗でカワイイ女の子って言った。ことは理解しているけど。どうしたの私・・時間が止まっているような錯覚・・手足の感覚が全くなくなっていて・・重力のない空間をふわふわと漂っているような・・なにか硬いものに縛られているような・・私・・息してる? どうしたの・・私・・どうしたの・・あ・・私・・こんな大事な時に、その、フリーズしちゃった・・今・・再起動している。
「あの・・」
と心配そうな顔をした、確か、フジワラマコトさん。と、後ろから私の肩を掴んだまま、私の顔を覗き込んだケンさんと。ニヤニヤと私を観察している優子。の顔を見て、ようやく初期画面が戻ってきたような錯覚。
「あ・・はい・・わ・・私。きょ、恭子と申します」と裏返ってる声で名前は言えたけど。
「申します・・だって。ぷぷぷ」と笑った優子には
「うるさい・・」と言えるのに・・じゃなくて、今集中しなければいけないのは。
「初めまして・・この顔・・好みではありませんか?」
と不安そうに聞くフジワラマコトさんの方。
「い・・いえ・・好みです」と。なにうわずっているの私。
「ぷぷぷ。好みです。だって」とまだ笑っている優子が。
「作戦成功?」とケンさんと笑いあって。
「成功したみたいだね」と言ったケンさんと。
「やったー」ってなにハイタッチしてるのよ。そして。
「あの、もう一度、初めまして、急でびっくりしましたか? さっき、一瞬目が合った時にうわっカワイイって声かけそうになったのですけど。優子さんとケンイチのリクエストと言うか。その・・あーそれより、優子さん・・」フジワラマコトさん・・うわっカワイイって・・私のコト? ってどうして優子に方向転換するの?
「なんですか?」って答える優子もいつもの優子だし。
「今、恭子さんに、お誕生日プレゼントって言いませんでしたか?」お誕生日プレゼント・・って、メインデッイュとも言ってたかな・・・って。コレ? ってフジワラマコトさん?
「言いましたよ」ホントに・・この男の子がお誕生日プレゼント?
「お誕生日なんですか? 今日?」って、急に話しかけられても・・。
「い・・い・・い・・いえ・・今日ではないですけど・・その2月14日が私の誕生日で・・」
こんな場面で、こんなことを詳しく説明なんてできるわけないでしょ・・ホントに私、息してる? 心臓動いてる? バクンバクンっていってる・・ね。
「だから・・誠さんは。私たちから恭子に贈る。秘密のお誕生日プレゼントです。秘密なのにリボンとかつけてたらばれるじゃないですか」
「あ・・そう・・だね・・まぁ確かにリボンがついてたらばれるよね・・で・・あの、受け取っていただけそうですか? こんなお誕生日プレゼント」
そう自分を指さしながら、私に視線を向けたフジワラマコトさん・・って彼の名前を私、何回リピートしてるの?
「受け取ってくれるよね」って優子も・・それって・・アレよアレ・・だから。人身売買でしょそんなことしたら。って私まだパニッくが収まらない。のは・・・。その・・・。だんだんと冷静さが戻ってくると、と言うか。再起動できたからなのか・・。まず始めに思うこと・・心を解放すると。
「ちょっと、あんたたち、男の子連れてくるとか、紹介するとか、そんなことするつもりだったのなら、前もって言うでしょ普通。優子だって女の子なんだから、初対面の男の子と初顔合わせするときって絶対にお化粧とかオシャレとかするでしょ。第一印象ってすっごい大事じゃない。それなのに、そんな・・こんな・・ケンさんも、カニ食べに行くって言うから、汚れそうだから、私、お化粧もおしゃれも何もしてないのに。髪だってぼさぼさでしょ・・。そんな、こんな、何もしてない時に、こんなにイイ男の子を連れてきて、紹介するとか、お誕生日プレゼントだとか。黙ったまま私を観察させて・・。さっきのケンさんとの会話も全部聞かれた? もしかして・・優子のおっぱいとか、アレを見てモヤモヤとか・・ケンさんとそんな会話してたこともそうだけど。こんなお化粧もオシャレもしていない地味な田舎臭そうな顔で、こんなにイイ男の子と初対面だなんて。初対面で私は・・こんな優しそうで素敵でハンサムでモノゴシもしゃべり方も、姿勢も服のセンスも全部100点満点みたいな男の子と・・初めましてって自己紹介したのに。そう言えば、ここに来てから私、ケンさんにあんなにべったりしがみついていて。誤解とかされていそうだし。初めまして恭子と申します・・って挨拶した顔もスッピンの中のスッピンでしょ、服だって、私が持ってる服の中で最下位のどうでもいい、ずっと廃品回収の日に出すの忘れてる地味服なのに。それなのに、フジワラマコトさん。うわっカワイイって・・それって絶対ただのお世辞・・社交指令。こんな、お化粧もしていなければ、オシャレもしていない女を見て・・絶対・・あの、受け取っていただけそうですか? なんてセリフも、世間体を気にしてのリップサービスでしょ。あぁーどうしよう、今から帰って、化粧直しなんてできるわけないし。一番オシャレなワンピースに着替えたくても無理だし・・。優子もケンさんも・・なんてことしてくれたのよ・・それって、私をびっくりさせたかったのかもしれないけど・・私は・・こんなにイイ男の子と・・こんな初対面だけはしたくなかった」
だなんて、心の中で絶叫している私。をじっと見ているフジワラマコトさんが、くすっと笑って。その素敵すぎる笑顔が・・うわっジミ・・という引き攣った笑い方のようにも思えて。エンドレスな思いが、もう一回転し始める。
「ちょっと、あんたたち、男の子連れてくるとか、紹介するとか、そんなことするつもりだったのなら、どうして前もって言ってくれないのよ。普通言うでしょ、男の子紹介してあげるからしっかり用意してねって。優子だって女の子なんだから、初対面の男の子と初顔合わせするときって絶対にお化粧とかオシャレとかするでしょ。第一印象ってすっごい大事じゃない。それなのに、そんな・・こんな・・」
と、心の中の絶叫が収まらない。私、泣きそう・・第一印象最悪じゃない・・こんなスッピンで地味すぎる衣服・・。でも・・。私がそんなことを心の中で絶叫してることなんて想像すらしない優子は。
「誠さんって、恭子に気に入られましたよ」なんてことを誠さんの耳元に、私にも聞こえる声でニヤニヤとささやいて。私は気に入ったけど・・これじゃ・・こんな女の子、男の子に気に入られるわけないでしょ。そう思いながらうつむいたら。
「気に入ってくれましたか?」と私に聞いた誠さん。に。
「ほら、恥ずかしくて喋れなくなってる・・ぷぷぷぷ・・恭子って意外とこういうところウブなんですよ。可愛いでしょ」
「へぇ・・そうなんだ・・僕もホントは緊張しすぎて・・その・・王女様に話しかけてるような・・あの・・」
という言葉は、もっと、こう。バキバキにお化粧キメて、エレガントなオシャレもばっちりの時に聞けたら。
「私たちって、もしかして気が合いそうですか?」
なんて返事を人生最高の可愛らしさで、していたのに。そうじゃないから・・。うつむいたまま。スッピんの顔を見られないように。不揃いかもしれない眉毛を見られないように・・。
「そんな・・ムリしないでください」
なんてことを言い放ってしまって。あー・・そんなこと言ったら・・初めまして・・はい・・さようなら。短すぎる・・わずか2秒の恋・・。になってしまうよね。・・なってしまったよねもう。
「まぁ・・つもる話はカニでも食べながら。恭子ちゃん・・こいつは間違いなく絶大に信頼できるケンさんの親友だから、遠慮なんてしないで、いつも通り言いたい放題しちゃっていいからさ。な」
な・・って・・ケンさんも、フジワラマコトさんに、私のコトそんな言いたい放題のオンナみたいな紹介はやめてよバカ。それに。
「どうぞ言いたい放題しちゃってください。僕はケンイチよりはアドリブうまいと思います」
ほら、言いたい放題のオンナ・・それが第二印象になってしまった。そして、アドリブ・・何か芸でもできるのかな手品とか・・口から鳩出すとか・・そうですか・・ケンさんにはこんなお友達がいたのね、ケンさんより素敵な感じがする。でも・・。そんなフジワラマコトさんの優しい響きに。
「はい・・」と蚊の鳴くような返事しかできないし。うつむいたまま。
「私カニって食べたことないんです」とスキップしてる優子の後を、とぼとぼと。
「えぇ、うそ、優子さんカニ食べたことないの。でも、ケンイチは優子さんが食べちゃったのに」
「って。誠さん、その言い方は、もぉぉですよ。正直言うと、高倉さんの味見もまだです」
「それって絶対ウソだ・・味見するほど仲がいいって言うくらい、見てて仲いいのに」
「もう・・やめろよ・・そういう話」
「私はしたいです、そういう話。高倉さんと」
「そう・・それじゃ、味見どうぞ」
「もぉぉ、イヤよこんなところで。ナニしてるのよ」
そんなアドリブ・・いや、宇宙人たちの会話を聞きながら、歩いてついてゆくしかないようだ。どうしてこんな風になっちゃうの、最近、いつもいつも。
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