2月14日

片山春樹

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2月14日 続・最終章? ナニゲに18禁?

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2月14日 続・最終章? ナニゲに18禁?

黙ったままで車を運転している誠さんの横顔。さっきキスした時に感じたアノ直感は、まさしく、予言者ムハマンダーに言われるまでもない、信じるべき直感で、その通りになりそうな・・いや、その通りにしたい、直感なのかもしれないとずっと考え続けている。本当の本当に、こんなことはこんな時に思い出してはいけないという気もするけど。間違いなく、あの日、ケンさんにしたキスとは全然違う、ケンさんにした時は全くの無味で乾いていて、キスした後は切ないだけで余韻も何もなかった・・のに。運転してる誠さんの横顔、の唇にしたキスの味、さっき感じた直感をもう一度感じれるなら、今すぐにでも、忘れたくないビターチョコレートの味も、もう一度したい、と思って私はさっきから何度唇を舐めているのかな。この人だ、この人なんだという気持ち、さっきこの人とキスをした、あの瞬間に感じた直感が、ものすごく鮮明に何度も繰り返し再生されて。この人がそうなんだ、私の運命の人。もっと確かめたい。キスだけじゃ確かめ足りない。そんな気持ちが次から次に湧き上がってくる。今も運転している誠さんの横顔。右を見て左を見て、目が合いそうになると、今考えていることがバレそうで、私は恥ずかしそうにうつむく演技をしているけど、うつむいた私の心の中、この男が欲しい・・あんなに情熱的なキスの感動をもう一度。あのキスの余韻が熱を帯びて、キスよりもっと熱い情熱を感じたい、と心の中で大きな鐘の音のように響いている。もっとしたい、もっと欲しい・・もっと長く・・もっと情熱的なものを・・そう思っているのに。
「はい到着。ここが、僕の部屋があるマンション・・あの・・本当に・・大丈夫だから」
なんて、おどおどと、たどたどしいセリフを言って車を止めた誠さん。エンジンも止まって明かりも消えて。私は。
「は・・はい」と無理やり昂る気持ちを抑えて、返事をして。
自分でシートベルトを外して、自分でドアを開けて、外に出ると、風が冷たい。そう感じるのは顔が火照っているからかな。ドアを閉めると、向こう側でドアを閉めた誠さん。
「あの・・女の子を部屋に招待するのは初めてで、その・・あの・・」
と、これからどうしていいかわからなそうな仕草。そんな言葉はいらないから、もっとこう、スマートに。シリアスな顔で。
「さぁ、おいで、僕の胸の中に。キスをしよう。温めてあげるよ」なんて言って欲しいと思っている私の妄想が、ナニソレって言うほどおかしすぎて笑いそうになったりしながら。
「別に、部屋に女の子を入れるの、私が何人目ですか、なんて聞いたりしませんから」
なんて、誰がそんなことを言わせるの? と思えるほど、気持ちとは正反対の言葉を言い放ってしまう私の性格・・治そう、今すぐ。と思ってうつむいているのに。
「ほ・・本当に・・初めてだから」
とますます怯えていそうな誠さん。そんなに怯えるから、私の気持ちがこんなに強気になるというか、ムカムカするというか、イライラするというか。何だろうこの感情。あーもぉ。早く何とかしてほしいって気持ちが。きぃぃぃってなりそう。
「わかりましたから、案内してください」
とでも言わなくちゃならないのかな、立ちすくんで、どういうセリフで私を部屋に連れ込めばいいのか全然わからそうな誠さんの怯え方。というより、怯える男に向かって大胆になる女がエスコートしなきゃならないことなのかな・・これ・・。まぁ、確かに、慣れた滑らかなセリフで男の部屋に連れ込まれるというのもイヤと言えばイヤだけどね・・という気持ちもあるね。それより、この誠さんのどうしていいかわからなそうな仕草がこんな安心感になるのかな。私って。と、車のボンネットをトントンしながら誠さんの方に回り込んで。
「ほら・・恋人でしょ、私たち。昨日からだけど。だから、手とか繋いで、さぁ・・行きましょ」
なんて言ってる私の手も震えていそうかな。何してるのだろなんて思いながら、そっと誠さんの手を取って。やっぱりケンさんとは違うね、ケンさんの腕は抱いても何も感じなかったのに。今は、誠さんの手に指先が触れただけでこんなに緊張してゾクゾクと毛が逆立つ感触。そんな心境だから、カワイイ言い方、カワイイ言い方、カワイイ言い方。とさっき覚えた呪文をもう一度唱えてから。
「何もしないでしょ、私、信じてますから。誠さんのコト。だから、ほら、寒いし、・・その・・私を暖かい部屋につれて行ってください」
おぉー・・私を暖かい部屋に連れて行って、だなんて、私にしてはジョウテキすぎる一言かも。と思いながらわざとらしくチラ見した目を伏せたら。
「それじゃ、こちらへどうぞ」
と私の手を引いて歩き出す誠さん。なぜか、手の振りと足の運びを無意識に観察して。
「今日は、あまり緊張していない歩き方ね、ダイス船長」
と言いたくなったけど・・やめておこう。それより、見上げると、私の部屋より少し高そうなマンションね・・。いや、そうでもないか、あまり変わりない・・それより、男の子の独り暮らしってどんなのだろう、という興味も湧き始めて。見上げたまま誠さんの顔に視線を向けると。すぐに私の視線に気づく誠さん。
「あの・・本当に・・何もしないから」しつこい・・なんかこう言う時の、気持ちがほぐれるアドリブってないの? と思いながら。入口の自動ドアをくぐってすぐ、エレベータの前。上のボタンを押したらエレベータのドアがすぐに開いて。私から乗り込みながら。
「わかってますよ」と遅めの返事をして。どんなアドリブがイイかなとも思っている私。すると。5階のボタン押して、ドアが閉まって、上昇し始めるエレベーター。
「あの・・僕はなにもしません・・けど。恭子さんは・・何してもいいですから。あーあの・・今日は恭子さんの誕生日だし、僕は、どんなリクエストにも答えます」
はいはい、ナニこのセリフ。と思いながら、でも、どんなリクエストにも答えるって言ったね。というアドリブかなコレ。それじゃぁ・・と言う気持ちで。それに、こんなに狭い二人っきりの空間だし。さっきの余韻がまだ私をウズウズとこんな気持ちにさせている。誠さんも無防備で、まったく警戒してなさそうだし。だから、背伸びしても届かないからクビに手を回して引き寄せて。チュッ・・。としたのに。もう一度感じたいさっきの気持ちを感じる前に、エレベーターが止まって、ドアが開くと。人の気配・・。慌てて離れながら・・。
「あっ・・・」
と、慌ててエレベーターを降りて。その人と目を合わさないように、いつも通りに左に行こうとすると。
「恭子さん・・こっち」
と言われたりしてる私。振り向くと、誠さんしかいなくて。ほっとしてたりして。
「あ・・はい」と歩み寄って。
また、言葉に詰まっている誠さんに。
「何してもいいって言ったでしょ」
なんて言い訳をしてる私。に。誠さんはまたこんなことを言った。
「出撃前のシァアとララァみたい・・だった」照れた、うわずってる声で。
まぁ、それもあるけど。出撃前ってナニよ。私としては・・。あーだめ、パっと、映画の感動しすぎたキスシーンが思い浮かばない。というより。
「誠さんが私の虜になった瞬間のキスシーンでしょ」と出かかったけど。トリコ・・そう・・トリコよトリコ。私はあなたに私の虜になって欲しいの。なんてリクエスト。と、自分で思いついたセリフがアドリブ効きすぎて恥ずかしくて言えなかったりしてる。そして、少し歩くと。
「はい到着、ここが僕の部屋。秘密基地ともいいます」と私に振り向く誠さんのにやけた顔に。ムシムシ。という気分。すると。
「開け、ゴマ」
カシゃん・・ぎぎぃぃー・・。
「どぉ? この演出。音声認識のオートロック」
演出・・? 音声認識・・オートロック・・ナニソレ?
「えっ、見てなかった。もう一回しようか」と言ってドアを閉めた誠さん。ナニ? と思っていると。
「開け、ゴマ」
カシゃん・・ぎぎぃぃー。
「どぉ・・くっくっくっくっ」とひとりで悦に笑う誠さん。だから。
「右向け右・・前え進め・・いっちにいっちにいっちに。おやすみなさい」帰る・・つもりはないけど・・。
「ちょっちょっちょっ。恭子さん、それはひどいでしょ」と腕を掴む誠さんに。
「くっくっくっくっ・・・・なにが開けゴマよ」笑いながら呆れてみると。
「いゃ・・可笑しいでしょ。開けゴマっていうと開くドアって」だなんて、私のあきれ顔に反論するから。帰る・・・。つもりはないけど。
「右向け右・・」
「ちょっと、恭子さん」と今度は後ろから私の両肩を掴んだ誠さん。ほら、そのままぎゅっと抱きしめて、そのまま、部屋に引きずり込みなさいよ。と思っているのに。
「もう一度、右向け右、右向け右」
だなんて。私をくるくる回して。はいはい、もう一度右向け右。そして、優しく招き入れられるままに部屋に入って、玄関の狭さは私の部屋と同じくらいたけど、いつもと違う匂いに私の部屋ではない実感。そして。
「光あれ―」
と言うと灯る照明。これも音声認識のオートナントカ。
「・・・・・」今一瞬笑いそうになったけど、口元を押さえるのも、がまんする私。でも。
「恭子さんってハードル高いね」
と言われたから。
「誠さんのセンスが低すぎるんじゃないですか」
と言い返す。すると、一瞬黙り込んで。
「まぁ、どうぞ上がってください」とふてくされた声色で言われて、でも、靴を脱いで、そっと一歩を踏み入れて。私が部屋に入ってあげたのに、誠さんは嬉しそうな顔をしないから。
「すぐ拗ねるのね」と思いついたまま言うと。
「拗ねてなんかないし・・」だから。
「だったら、明かりを消す時はどう言うの?」
と聞いたら。また、黙り込んだ誠さん。
「・・ほら、詰めが甘いのよ」ってまるで、ケンさんに話しかけているような錯覚。にまずかったかなとも思ったりしてる。すると、誠さんは、無言でスイッチを押して明かりを消して。突然、真っ暗になって・・。どきっ・・。
「・・・・・・」と息も止めていそうなほど無音になって。あの・・えっ・・なに?
「・・誠さん・・」と呼ばずにはいられない不安な気持ち。そんな、泣き出しそうな声が出てしまうのは、私が女の子だから。でしょ。なのに。
「くっくっくっ・・本当は怖がりなくせに」
と言いながら、スイッチで明かりをつけて。からかわれたことにイラっとした顔をしたら。
「ほら、すぐ拗ねる」
と言い返された。でも。くっくっくっくっ・・って、先に笑い始めたのは誠さんの方だけど。お互い見つめあうとどうしても出てくる笑い声。。
「これでイーブン」なにがイーブンなのよって感じだけど。
「はいはい」と元に戻って。
「何か飲む、コーヒーでもいれようか」
「いえ・・大丈夫・・」と反射的に返事したけど、そんな返事すると持たないかも。だから。
「じゃぁ、コーヒーをください」
「はい、それじゃ、すぐ入れるから、こたつにどうぞ、入ってぬくもってて」
「うん」
と見渡すと、私の部屋より何もない部屋だけど、本がたくさん、積読・・? それ以外は目立ったモノが何もないね。そう言えば、男の子の部屋に一人で入るのも初めてかな・・。とこたつに入ると。目の前に、こういうところ無頓着な人なんだなと思うのは。七つのチョコレートが並んでいて。よく見なくても、大きめのが七つと見覚えのあるチロルチョコが五つ。合計十二個‥と言うことは。ウソツキ・・。と思いながらチロルチョコを手に取ると。告白文が書かれていて。本命・・もう一つは、DO本命・・もう一つは? 真実乃愛・・。ナニコレ。もう一つ行ってみようかな、と摘まんだら。LOVE。これはなぜか許せそう。そして、最後の一つ。を裏返してみたら。結婚確実・・。どんな風に貰ったんだろうこういうの。それに、どこがどう義理なのよコレ。無頓着と言うより、男の子ってそうなんだな、と言う気持ち。こういうものに女の子がどういう感情を抱くか、理解できない。そして、まぁ、確かにチロルチョコの告白文なんてそんなものだし、大きめの七つの方が義理っぽいチョコレートばかりで、私たちがさっきイチャイチャしながら食べたチョコレートと比べると、安そうだし普通だから・・勝ったね私、勝手に勝利宣言。でも、こんなに気になる、おそるべしチロルチョコの告白文、を睨みながら、力ずくで意識するのは、高いの買ってよかった・・ほっ、なんて気持ちになってるかな。無理してるのはわかるけど。すると。
「インスタントだけど」とコーヒーを二つこたつに置いて「あー、あのこれちょっと出るとき慌てていて、その」七つプラス五つのチョコレートを慌てて片付けながら「見せびらかしてるわけではないし」いまさら面白味も何もない言い訳し始めるから。
「誠さんもモテるのね、ケンさんもそうだったけど」とつい出てしまったイヤミなセリフ。に、ちょっとまずいかなって思った。
「いや・・僕は、恭子さんにもらったものだけで満足と言うか充実したというか、うれしさ一年分だから」
って、もっとへたくそな言い訳を始めて。だから、もっと言いたくなるこんなこと。
「そんなこと言って、誠さんにチョコレートプレゼントした、他の女の子の気持ちはどうするつもりなの。さっきは七つって言ったくせに、ナニよコレ十二個もあるじゃない」
「どうするって・・七つ・・小さいのは・・ほら・・保険・・とか」ほら、男の子ってこんな風に攻め立てるとすぐに角に追い込める。誠さんも同じね。
「保険? それって、私に振られた時のリザーブのこと?」どうしよう、男を角に追い詰めてしまうと、私って止められないのよコレ、いつもの言いたい放題。でも誠さんの表情、もう少しイケそう?
「えっ・・いや・・保険の・・あの・・リザーブだなんて。一つ一つ気持ちは大切に受け取るし、来る者は拒まず・・じゃないね・・あーもぉ・・こういう言い訳、僕にはできません・・から、そんな顔しないで」
この素直な態度にぷぷっと笑ってしまうと、何気に、この人柄、いい人なのね。というジャッジメント。だから。
「まぁ、今日だけは、そういう事、許してあげなきゃならない一年一度の・・」なんだろ。スペシャルディ? と眉間に籠る力を緩めたら、言葉に詰まって。その隙間に。
「でも、恭子さんからもらったモノが一番おいしかった・・ょ」と、慌てて、ほっとしたがっていそうな誠さんに。ピンっと来るのは。
「それ、他のチョコ一つも食べていないのに、どうして一番なの? どれも開いてないし」
「えっ・・いや・・あの・・たぶん、と言う意味。本当に・・あの、その」
「はいはい・・アドリブ下手ですね」本当にヘタね、この人、そういう事。まぁ男の子は、こういう時は、仕方ないのかなコレ。
「あの、恭子さん・・機嫌悪いの? ティファニーがあんなだったから?」って今度はナニ? と言いたくなりそうな、急な、かみ合わない質問に。
「別に、ティファニーはちょっとサプライズでしたけど。アレはアレでいいお店だったと思います。美味しいラーメンだったし、マスターも面白くていい人だったし。誠さんも報告できてよかったんでしょ」私の事を恩師のマスターに報告できて・・。つまり、私と言う恋人ができましたって。
「う・・うん・・まぁ」ほらそう言ってあげると・・嬉しそうな顔してるし。なのに、どうして。機嫌悪そう見えるのかなと、微かな自覚はしてるけど。
「私の機嫌、悪そうに見えますか?」と、ワザと睨むと。
「まぁ、何げに、機嫌悪そう」と、また怯え始める誠さん。に、私自身、ゾクゾクと興奮度が高まってきていそうで・・でも・・まぁ・・興奮・・してるからこんな風に。
「いつもこんな感じですよ私」つまり、これが本当の言いたい放題の私よ「幻滅した?」と睨んだまま、どやっ。と思っても良さそうな、コノ安心感は・・さっきのキスのせいかな? どんなことを言っても、誠さんの私への気持ちは変わらなさそうな自信かある。と言う気もしてたりして。そう思ってうつむいてくすくす笑うと。
「じゃぁ・・こんなことすれば・・恭子さんは、どうなるの?」と話を変えた誠さんに。また話が噛みあってない会話のように思えて。
「こんなことすればって・・ナニ?」ヘンな違和感を感じた私。
とコーヒーを全部飲んでから誠さんを見つめたら。急に思い詰めて。
「目を閉じてほしい」と言った。えっ? 目を閉じてほしい・・って。また、会話の流れから、まったく予想できなかった一言。
「何する気?」ですか・・と付け加えられなくて。もしかしてキスとか? 良いですよ、どうぞ・・としたいけど。
「何もしないから、目を閉じてほしいの」ってそれだけじゃ何するのかわからないし。
「ナニかするために目を閉じてほしいのでしょ」私もしつこいかな・・。
「だから、何もしないから安心して目を閉じてって言ってるの」
って、誠さんも、何気に真剣で怒り始めそう? 怒ったりしないよね。もう一度言っても。
「本当に何もしない?」これで最後、と思って、目を閉じようとしたら。無意識に、唇の方が先走りそうになってる。なのに。
「何もしないって言ったけど、本当は、したいことがあるから目を閉じてほしいの」
って、またわかりづらくて、会話が何気に噛みあっていなさそうな感じで。
「何する気ですか?」ともう一度聞いてしまったら。くっくっくっと笑い始めた誠さんは。
「もぉぉ。イジッパリ。目を閉じないなら後ろ向いて。僕は恭子さんを楽しませたい、喜ばせたい、だから・・その・・ぁぃ・・したい・・とか。そういうことをしたいの。何もしないって言ったけど、そういうことはしてもいいでしょ」そんなアドリブの、一番細くて小さな言葉を私は聞き逃さなかったから。
「くっくっくっくっ・・・」って笑っってしまった。・・ら、失礼かな? 
「どうして笑うの」どうしてって・・美味しいもの食べた時と同じ? この気持ち。嬉しい言葉が聞こえたから・・でしょ。ほんの少し涙ウルウルもしちゃってるし。もっと、と言う気持ち、もう一度言って欲しい・・それ。だから。
「もう一度言ってください」ってカワイク言ったつもりだけど。カワイクすると。
「イヤです」と・・即座に拒否して すねる そぶりの誠さん。ナニよその態度、私が弱気になったから?
「イヤですって・・いいでしょ・・もう一度言ってくださいよ」とまた語気が荒くなるのは、すねる男への私のどうしようもない性格。でも誠さんの。
「それって、ちゃんと聞こえたから、もう一度聞きたいの?」この大真面目な表情に。
あっ・・ワタシ今・・心が繋がった・・と言う気持ちになった。だから。
「うん・・」と恥ずかしそうな返事をして。うつむきながら上目遣いで視線をシンクロさせてから。言われた通り目を閉じて、唇も・・どうぞ。そんな感じ。さぁ言ってください。あの言葉をもっとはっきり言ってくれたら、私のコト、ナニしてもいいですよ。そんな気持ちで、その言葉を待っていると、どうしても嬉しすぎて笑ってしまう。
「くっくっくっくっ・・」って。すると。
「もぉ・・そんなに笑うと、まじめなことができなくなるでしょ」
まじめなことができなくなるって? どんなまじめなことをしたいの? そう思って目を開けようとしたら。
「でも僕は、恭子さんのそういうところが好きです・・本当に言いたい放題な所。本当に映画の主人公みたい、好き。カワイイ」
と続いて。来るかな・・来て・・と一瞬の期待・・。だけど。
「はい、お誕生日おめでとう」
と聞こえて「ぁぃ・・してる」じゃなくて、キスじゃなくて、私のこういうところが好きです、はい、お誕生日おめでとう・・か。と目を開けたら。目の前に突然現れてのは。細長いムートンの箱。にプリントされてる金色の文字。が、むちゃくちゃ眩しい。
「うわ・・TIFFANY・・」これは、読めない中国語ではない、本家本元のティファニーじゃないの? ホンモノ? なんて思ってはいけない? 
「急いで買ったんだけど、気に入ってくれるかな・・こういうの買ったことなくて、でも、恭子さんにはこんなの似合うんじゃないかって。あの・・マスターの店とは関係ないから。名前が同じだけど」それぐらい、親切に言わなくてもわかりますよ。なんて言ってはいけないと自制心が働く。この金色のTIFFANYの文字に感じる。オソレオオイというか・・。タテマツリマスル・・というか。
「えぇぇ・・本当にいいの? 私に? あの・・開けても‥いいの?」と、ニヤニヤしてる誠さんに向かって、どう言えばいいのこんな時って・・本当に・・TIFFANY・・の実物を初めて見た。と心が震えて。伸ばした手も・・。この箱に触れたら電気がバチバチッと、どっきりカメラじゃないよね・・という錯覚に襲われてる。
「うん。どうぞ、開けてみて」
とニヤニヤしたまま恥ずかしそうな誠さんの顔をチラチラと見ながら。この箱の形と大きさからして、指輪ではなさそうだけと・・ネックレス・・かな・・。男の子にこんなものもらうのって本当に生まれて初めてだし。と言う気持ちを抑えて押さえて、そぉぉっと、どっちから開けるのコレ・・あっ、こっちからか、と持ち直して、そっと開けてみると。中からキラリと輝いた私の心を射抜く矢のような光、この独特のキラメキ・・と、初めて見るものだけど、私にもわかる・・これって・・まさか・・だ・・だぃ・・ダイヤモンド!?!?
「えぇ~・・」と体中が固まって首とか手がふるふるふるして。喉がからからに乾いた。から、ゴクリ・・と飲み込める唾がない。それ以上に・・初めて見る圧倒的な高級感・・だ・・だぃ・・ダイヤモンド・・コレって、無茶苦茶高かったんじゃないの・・という第一印象。なのに。ふつうの顔してる誠さんは。
「鏡はこんなのしかないけど」と差し出してくれた顔が写るくらいの鏡を見る気も湧かない。
「あの・・」ちょっと・・いくらしたのコレ? という感情に支配されていることが、まず最初に顔に出始めて。
「つけてあげようか・・って・・気に入らなかった・・」って私の、いくらしたのコレ・・という表情に不安を感じていそうな誠さん。
「い・・いえ・・キレイ・・ですけど」歯がカタカタと震えている私。
「そう・・よかった・・つけてみて」優しく微笑んだまま、じっと私を見つめている誠さん。
「は・・はい・・」と返事したけど。指先でチェーンを摘まむと、ちょっと・・この石って大きくない? コレ・・えぇ~、本当に、いくらしたの? こんな・・こんな高そうなもの受け取れません・・なんて言ったら口が裂けそうだし。まぁまぁね・・なんてイジッパリでマケズギライないつもの一言も、このカガヤキの前ではオソレオオクテ手も足も出せない。くらい、高そうだけど・・いくらしたのコレ? そればっかりがむちゃくちゃ気になる。聞いてもいいかな? と思うと、手がふるふるしてフックがかけられない。
「かけてあげようか」と、誠さんは私の後ろに回り込んで、優しく摘まんで首にかけられたネックレス。うなじに触れた指先に、ビクンッとしてる私。よりも、襟を開いて、そのキラメキが・・カガヤキが・・どうしても・・私には・・その。
「あの・・い・・ぃ、いくらしましたか? コレ」と聞かすにはいられない。
「ほどほどの値段だったけど、本当に気持ちだから、指輪は早すぎるかなって、だから・・」
「だから・・って・・その、だから、いくらしたの?」声まで震えてきちゃった・・。十万二十万じゃないでしょ・・コレ。あの・・。
「まぁ・・値段は気にしないで、ほら、良く似合う、付ける人にあわせて輝き方が変わるTIFFANYのダイヤモンド。思った通り、こんなにうれしそうにキラキラしてる、綺麗。ウツクシイ・・でしょ」そういうことを、うっとりと言われても全然喜べないのですけど・・。だから・・いくらだったの? と言う気持ちでいっぱいいっぱいになってる私。
「誠さん・・」そう言ってもらえるのは本当に嬉しいですけど。どうしても言いたいことが溢れてくる。
「はい」と普通の表情で返事した誠さんに。
「あの・・嬉しいです・・無茶苦茶嬉しいですけど、私たちって恋人でしょ・・だから、こういう高いものって、相談してから買った方がイイと思います。その・・私、あの、嬉しいですけど・・その、こんな高そうなの、し・・し・・心配してしまいますよ。お金のことってほら・・大丈夫なの?」
ということ・・大丈夫なの? 私たちって・・その・・まだ社会人になったばかりで。私も貯金なんてほとんどたまらないのに。あの・・ケンさんは、あいつはここより給料多い会社だって言ってたけど・・。あいつは俺よりエリートだとも言ってたけど。これは・・ちょっと・・年相応ではなさそうな気がする・・あの・・嬉しいですけどね。本当は、きゃぁぁぁ嬉しい、って抱きつきたいのかもしれないですけどね。やっぱり、私もそんな裕福な家庭ではなかったし・・こんな・・だ・・だぃ・・ダイヤモンドだなんて、ただの誕生日のプレゼントでしょ。出会ったばかりの、付き合い始めたばかりの、あの・・なにブツブツ考えてるの私。って、ぶつぶつ考えちゃうでしょ。これ・・絶対・・無茶苦茶高そうだし。うわー・・まだエンドレス。
「大丈夫。僕の気持ちだから・・気にしないで・・貯金もまだほどほどにあるから」
だから、ほどほどっていくらなの? 
「誠さん・・だから・・いくらしたの」貯金もほどほどって、私たち恋人なんだから、お金のことって、それも大事な話でしょ。バラの花束だけでも私には十分すぎるのに。さらにこんな、本物の、だ・・だぃ・・ダイヤモンドのネックレスだなんて・・。
「いくらしたの・・コレ」
と上ずりながら、もう一度、しつこく聞くと。
「それじゃ・・言います。そんなに気になるなら」と悲しげに打ち明け始めた誠さん。
「はい・・気になりますから、言ってください」と、どうしても聞かずにはいられない私。に、誠さんは、まじめな顔で、あっけなく。
「五十万円です・・」・・・・私、息が止まった。息のしかた忘れて思い出せない。
体から白っぽい湯気のようなタマシイが抜けてゆく。ご・・ゴジュウマンエン・・。あの。えぇ~。タマシイと一緒に体中から力が抜けて、ヒュー、ヒュー、と空気が抜けて、失神して、泡拭いて、後ろに倒れそうになった私を。
「恭子さん」とつぶやいて、ふわっと肩を支えてくれた誠さん。耳元で。
「本当に心配しないで、別に借金して買ったわけでもないし、一括で、一回払いで、リボ払いでもないし。ポイントもたくさん付けてもらったし」そりゃつくでしょうね、ゴジュウマンエンのポイントってどのくらいなんだろう。近所のスーパーでゴジュウマンエン買ったら何回ガラガラを回せるの? ハワイ旅行が何回当たっちゃうの?
「それに、貯金の残高もコツコツ貯めてるから、急に困るなんてこともないから」
そういう話をしているわけではないのに・・。やっぱり、話がかみ合わないというか。
「あの・・」私、何言っていいかわからなくなった。
「だから、このくらい、僕は恭子さんのコトが好きです。という意味だと思って受け取ってもらえたら、と思って買いました」もしかして、誠さんって、私とは違う世界の人なのかな? いや・・あのケンさんの友達なんだし、上流階級の人になれって耳を引っ張ったくらいじゃなれないでしょ。普通よ普通・・。ちょっと無理して買っただけでしょ。だから。
「はい・・受け取り・・らせて・・もらい・・いや・・いただきます・・です・・ます・・そのお気持ちも・・という意味だと思って。あ・・あり・・アリガト」
とばらばらの言葉で言えたけど。笑えない・・。のに。
「喜んでくれたら、うれしい」だなんて、爽やかな笑顔で私を見つめる誠さん。
「あの・・でも・・私は、気持ちだけで十分ですから、誠さんのコト・・」
誠さんのコト・・なんて言えばいい? 
「僕のコト?」
「だから、私にはお金をかけなくてもいいですから・・お食事はムハマンダーのお店のティファニー・・あのラーメンでも十分ですし、花束だけでも十分でしたのに。それに・・こんな・・」思いつく言葉がこんなのしかなくて。どう説明すればいいの、この気持ち。
「こんな?」こんな気持ちですよ・・もぉ。わかるでしょ・・。わからないか・・ケンさんの友達だし。だから・・。思うままに気持ちを伝えよう。
「ありがとう・・本当は嬉しいのですけど、どう喜んでいいかわかりません。こんな高いもの」しくしくしくしく・・。
って顔の形が崩れて、涙が出てきた・・。そしたら。誠さんってどうしてそんなに爽やかすぎる笑顔をするの? 私はゴジュウマンエンのせいでパニックになってるというのに。ゴマンエンでも、このくらい感動できたのに。いや・・ゴセンエンでも・・よかった。それなのに・・。
「やっぱり、思った通り、僕の理想の人だ、恭子さん、僕は、一目見た時の直感を信じてこれを買いました。あなたの事が本当に本当に好きです」本当に本当に・・。
「はい・・」私も・・って・・感動したいシーンだけど。私の頭の中、いまだに、ゴジュウマンエン・・これ一つで私が買ったチョコレートが100個買えるってこと? これ一つで私が社会人になってから始めた50万円たまる貯金箱が満杯になるのと同じってこと? まだ1/4にもなってないのに。・・こないだ貰ったボーナス二回分・・いや、1点5回分くらいかな・・。なんて次から次に対比計算が湧きたって。イヤシイのかな私って。それに、鏡に映っている、クシャクシャになってる私の顔に全然似合っていなさそうな・・。
「こ・・これが・・本物のダイヤモンドのカガヤキか・・」
と言いたくなりそうな、このキラメキに、本当にタマシイを射抜かれる実感。を感じながら見入っていたら。涙をふくタイミングがわからなくなるから、もういいやと、ゴシゴシ手で拭いて。もう一度鏡の中の私を見つめると「誠さんってあなたのコトが本当に本当に好きなんだ、って言ってくれたけど、あなたはご褒美にナニをあげるつもりなの?」
なんてことを笑いながら言っていそうで。だから。
「私をあげたい・・違う・・誠さんが欲しい・・どっち?」と言う思いが連想させたのは。この流れ、どんな風に始めればいいのかなアレ・・。アレ・・つまり・・アレ。とそこから先を空想できないでいたら。
「あの・・恭子さん」
と耳元からくぐもった声。
「はい・・」
と返事したら。肩を支えていた誠さんの手が、そっとお腹を包んで・・。ぎゅっとしがみつくから、背中に感じるジワッとした暖かい体温。それに。
「許して・・」とくぐもった声。
「許してって・・ナニを?」と聞きながら、私もこの気持ちをどうにかしたくなっていることに気付いた。そしたら。誠さんも。
「気持ちを抑えられない」と言うから。私も・・もしかして・・始まっちゃった? だから。
「私も・・」とついつぶやいてしまった。
このまま振り返ったら、本当に、そのまま始まってしまいそう。って、ナニが? とわざと自分自身に聞き返すと。待ちに待ったアレでしょ‥なんて返事が聞こえたような。待ちに待ったアレだから、不安がコワイ? だから、振り向けないままでいると。
「おねだりしても、いいかな?」とつぶやい誠さん。おねだり・・ってナニ? と一瞬思ったけど。私を見つめる誠さんの目、振り返らずに横目でチラッと見つめたら、私と同じこと考えてるの? と気付く。けど、待ちに待ったアレを鮮明に空想できないから、同じことかな? とも思う。そして。
「あの・・僕は何もしないって、さっき約束したから・・」これは、私から始めてくださいって意味かな? とお腹を暖かく包んでいる手の指先がムズムズと脇を刺激し始めて。だから、思いついた言葉で。
「私は何してもいいの?」とつぶやくと。
「うん・・」と耳に感じた誠さんの息。耳に・・。
だから・・ふと思い出したアレ・・このアドリブは絶対イイと思う。そう確信して。脇をくすぐる手を解いて振り返り、一瞬睨んだら、止まってしまった誠さん。私は右手をそっと伸ばして、誠さんの左の耳を優しく引っ張って。
「くいっくいっ。くっくっくっくっ・・」と笑ってから「私の虜になってください」と言ってみた。そしたら。一瞬考えこんだ誠さんは。
「トリコ・・うん。伝言板の前で目が合ったあの時、僕は恭子さんのトリコになってしまいました。これからはシモベになっても構いませんよ」シモベか。くっくっくっ。よしよし。それも、なかなか・・いいかも・・と言えそうなセリフに。言いたい放題の私は。笑いながら、泣きながら、こういい返した。
「くるしゅうない、ヨキニハカラエ・・・チコーヨレ」と。そして。
「はいどうぞ、おねだりさん」
チュッと・・触れるだけのキスをリクエスト通りに私から。そして、私を押し倒したのはあなたでしょという言い訳の為に。そっと誠さんを引き倒して。じっと見つめて。
「私も好きです」そう言ってあげたら。
「うん・・」と返事してから「触っても・・」と不安げに聞くから。
「どうぞ・・」と答えたのに。
「お布団敷こうか・・」って・・。
「・・・・・」えっ?
「あの・・・」と止まってしまった誠さんに。私も・・こういうこと、慣れてもないし、そんなに詳しくはないけど。もしかして・・これからどうしていいかわからない・・という態度? これ・・。ナニをおねだりしたのこの人・・あっ・・また この人 になってる。お互い、息が震えて。こんなタイミングで、こんなに気持ちが昂っているのに。どうしてここで止まっちゃうの? もぉ・・と私はこたつのお布団を引き寄せて、
「あーっ、ちょとコーヒーカップが・・」
そんなのも・・向こうにやればいいでしょ・・。とこたつの上のコーヒーカップを向こうに避けて、こたつの板も向こうに立てかけて。そして、もぉ、ほら、早く、と誠さんをぎゅっと抱きしめてもう一度引き倒しながら、こたつの布団に潜り込んで。見つめあったら。今度は。
「外してた方がイイかな・・」と、さっきのネックレスを気にしてる。
はい・・「外してください」そう言えば、まだ首にぶら下がっているゴジュウマンエン・・を、そのまま丁寧にムートンの箱にしまって。
「明るくても大丈夫?」と聞くから。眩しすぎる天井のあかり・・。
「明かりも消してください」もぉ・・はやくして・・じれったすぎでしょ・・この人。すると。
「おやすみなさい、また明日」なんて言う・・えっ・・と一瞬なにかが冷めた私。と思ったら、ふわっと明かりが消えて。「音声認識のオートスイッチなんだ」なんて言い訳。
「はい・・」そして、ようやく仕切り直し・・。今からでも、エンジンかかるかな? だなんて、私、パニックになっていそうで実は冷静だね。
「恭子さん」
「はい、今度は何ですか?」
「僕は何もしないって約束したから」ったくもぉ・・。こんな時にまたそれを言う。だから、ゴジュウマンエンの重荷が取れた私は元通りに戻ってしまって。
「さっきも言ったでしょ。私を楽しませて、喜ばせて、大事にする、そういうことは、してもいいから・・そうしなさい」どうして私、こんな時に命令形? あ・・シモベに向かって言っているのね・・。シモベよシモベ・・。ったく。でも。
「それじゃ、ぁぃ・・しますよ」その言葉は、もう少し大きな声で言いなさい・・って言いたいけど。小さくても、「ぁぃ」と言う言葉には、女の子を無抵抗にしてしまう魔力があって。私は、うん・・と首を縦に振って。
「・・・・」もうこれ以上は何も言い返せない。暗くなった部屋、こたつの布団の隙間から漏れる赤い色が照らす誠さんの手が私の前髪をすいて、私の顔をじっと見つめたまま、オソルオソル私の顔、ほっぺ、首、肩、腕、脇、そして、胸。そんな順番で体に触れる指先がこそばゆくて「うん・・」とうめいて身をよじると。触るのをやめた誠さん、「大丈夫ですよ、どうぞ」と唇を差し出してあげると、次は、私の唇にチュッと震えている唇を重ねるから、反射的にちゅぅぅって吸ったら。「んっ・・」ってうめかないの・・と思いながら。次は体中の力を抜いて、身を任せてみた。ちゅっちゅっと音を立てながら、私の顔、ほっぺ、私の耳、首筋、肩、同じ順番でキスをして、腕、を持ち上げられて、背中のチャックを降ろされて、はだけた鎖骨とくぼみ、袖から腕を抜いたら、どうしてブラジャーを鼻で捲りあげるの。恥ずかしいから手で覆ったら、私のその手首を軽く掴んで追い払おうとする、だから、もう一つの手で覆ったら。その手も軽くつかまれて、そっと追い払われて。バンザイの姿勢で押さえつけられたまま、チュッと吸われた乳首からゾゾゾゾっとする震えが全身を駆け巡り、お腹に力を込めて我慢したのに、もっと、ちゅうぅと吸われたら、「痛い」ような、全身に流れる電気ショック。「あんっ・・」と叫んで体をよじると、それは拒否したわけではないのに。
「ごめんなさい・・大丈夫」と急に止まってしまわなくてもいいのに。でも。こんな時でもこうして心配してくれるのは優しい安心感なのかな。だから。
「大丈夫・・ちょっと痛かった・・そんなに強く吸わないで」と言ってあげて。
「はい、ごめんなさい」と言ってる声が震えているから。
「大丈夫よ・・くっくっくっ」って笑ってしまいそう。
「また笑う・・本当に、下手でごめんなさい・・痛くしてごめんなさい」下手なのかな・・痛かったのはホントだけど、上手い下手なんてそんなことわからない。けど、意外と落ち着いている私は、冷静にこうしてほしいと思っている。
「ううん・・優しく、ゆっくり、丁寧に、お願いします」くっくっくっ・・こんな場面なのに、すごいセリフかも、これ。
「はい・・でも、どうしてもイヤだったら・・」って、どうしてそんな不安な顔するの?
「その時は、やめてって叫びますから」もぉ・・ほら、止まってしまわないで。と私を見つめたままの誠さんにチュッとキスすると。ゆっくり、ちゅっ、ちゅっ、って音を響かせながらリスタートして。じっとしたまま、されるがままでいると、私の体中を触る指先。私の体中にキスをする唇。こそばゆい刺激に反応して、私の、体中の細胞の一つ一つが、彼とそうなりたいって小さな声でささやいている。その声がだんだん集まって、大きくなって、抑え切れない強い気持ちになってゆく。のに、また次はどうするの? と、止まってしまった誠さん。だから。
「ほら・・誠さん・・私は大丈夫ですよ。優しく、ゆっくり、丁寧に・・して。もっと」そう言ってあげると。
私をもう一度バンザイさせて、そっと私を押さえつけた彼の優しさはぎこちなくて、彼に任せているつもりの私の情熱は荒々しくて、こんなに猛々しい。いつの間に裸になったのかな、いつの間に誠さんのお腹の上に載っているの私って。窓から差し込む月明かりがこんなに明るくて、真っ白に見える裸を見つめあうと恥ずかしすぎて。笑ってしまう。でも、この恥ずかしい気持ちが全身をジンジンと駆け巡る感じがたまらなくイイから。「いい?」と尋ねた私に「うん」とうなずいた誠さん。つまりイイのよね一つになっても。さっきからぬるぬると感じるその熱くて硬いモノ。私だって、コレをどうするのか知ってるでしょ。だから、ゆっくり私から、アソコの入口を調整して、ソレを受け入れると、中に入ってくる、ゆっくり、ぬるっとしてるけど、途中でチクっとした痛みにあがらう小さな声。
「あん・・いたい・・」と。でも・・「恭子さん」と心配する誠さんに。
「じっとしてて・・そのままでいて・・大丈夫」そう言って、ゆっくり奥まで沈めたら。
びくんっと弾んだソレに、「あぁっ」ってお腹の筋肉が硬直してしまう。
「びくびくさせないで・・くっくっくっくっ」ってどんなセリフなのコレ。
「その笑い声が・・だめ・・伝わってくる・・感じる・・・あん」と言ってる誠さんに・
「くっくっくっ・・がまんしなさい」と言ったら。
「がまんできなくなったら、やめてって叫ぶからね」って本気でそう返事するから。
「くっくっくっくっ・・・」笑ってしまうくらいにムズムズするこの感じに。
「あん・・笑わないで・・あっ」でも、私たち、これってポジション反対じゃないの? とも思ったけど。別にいいでしょ・・。そのまま、しばらくじっとしていると、痛みもだんだん和らいで、熱く感じ始めたその場所から全身に伝わる脈動。ビクンビクンって感じが伝わって・・くる・・くる。ゆっくり動くと、ゾワゾワした痛いのかこそばゆいのかわからないこの感じを、がまんできなくなって。
「あぁ~」って声が出ちゃう、がまんできないのに、体の中でもぞもぞしてるこれ、やめられない。
体の内側を裏側から、かき混ぜられて、くすぐられて、いたいのに、こそばゆいから、もっと、がまんできない声。
「あぁ~・・だめだめだめ・・もっと」イタイのに。くすぐったくて、こそばゆい。がまんできないのにもっと欲しい。
「恭子さん・・ちょっとまって・・」とはぁはぁ息してる誠さんの顔が見える。
「待てない・・」もっと、この気持ちイイ、痛みと、こそばゆさと、くすぐったさが、体の中に入って来てかき混ぜられているこの感じ。ジンジンと伝わって・・くる・・くる。なのに。
「やめて・・まって・・」やめません・・待ちません・・。だから。
「イヤです・・もっと・・あぁっ」やめられない、とめられない
「恭子さん・・ほんとに・・」そんな声出さないで、私はもっと。
「もう少し・・あん・・あぁ・・あっ」がまんできなくなってるのに、やめることもできなくなってる。
「やめて・・まって・・あぁ~っ」
と小さく叫んだ誠さんの声と同時に。私の体の中でびくんっびくんっと弾んだものが、全身にもびくんびくんと伝わって。「あぁ~っ」と突然の大きなショックに耐えようと体中に力を込めたのに、その後すぐ、もう一度、私の中でビクンッと弾けた刺激が全身を貫いて、「あぁ~っ」って叫び声が出ちゃったかも。その時、これ以上理性を保てなくなった。そのまま、体中どこにも力を込められなくなって、誠さんにしがみつこうとしたまま、意識が落ちた・・。「恭子さん・・恭子さん・・」って声が聞こえたけど、返事もできない。このままでいて・・ビクンビクンと体中でどこかが弾んでいるけど、はーはーはーって息を整えたらゆっくりと強張っていたものがほぐれてゆく。心地いい気持ちがやってきた。くる・・来てる。ふぅぅぅっと何もかもが抜けてゆく感じ。このままでいて・・このままでいたい・・。動かないで・・動けない・・。全身から空気が向けて何もかもが緩んでゆく・・。

体中が溶けてゆくような気持がしばらく続いて。手を動かしたくてもどうして動かない。極限的なだるさとも言うべきかな、これ。そんなことも考えられなくなってきた・・。 
「大丈夫・・聞こえる? 恭子さん」
と聞こえる声に返事をしたいのに、喉も口も溶けてしまって動かせない。あぁ~心地よすぎて、本当に、何も・・何もできない・・。どこも動かない・・。

舟に乗っているような夢を見ている。波に揺られて、ゆっくり上下している感じ。静かな規則正しい波の音・・じゃなくて、スーハ―スーハ―って聞こえて。意識が戻ってきた。まだ体を動かせない、動かし方忘れた? それより、何しちゃったの私? と自分自身に訊ねたら、あぁ誠さんとしちゃったのね・・と冷静に思い出しているけど。したからどうとか、他に何も考えられなくて。寝返りしたいのかな、首が痛い、重いなぁと顔をあげて、向きを変えて、ふぅうと降ろしたら、トクントクンと聞こえる音。と、ジトッと感じる湿っぽさは・・汗? はっと、目が覚めて、あんなに重かった顔を勢いよく上げたら。
「うわっ!」と最初に思ったのは・・私・・誠さんのお腹の上にまたがって寝てる? カエルみたいな恰好で。しかも・・裸で裸の男の子の上にまたがったまま・・今何時? と思ったけど、いつも通りの場所に時計がなくて。ここって、誠さんの部屋・・なんてことを今更思い出して。うわっ、どうしよう・・私・・知り合って3日しかたっていない男の子と寝てしまった・・4日目か? って・・どうしてそんなことを今更・・アレっ? 本能さんってどこに行ったの? どうして急に理性さんが今の状態を冷静に分析してる? とりあえず、またがっている馬から・・いや、誠さんから降り・・ようとしたらビクンッとアソコが「あっ・・」と感じたのは、まだソレの先がアソコの入口に? いる。と気づいたりして・・。思い出した・・。
「やめて・・まって・・あぁ~」って誠さんの声・・つまり・・避妊とか・・してなかったよね私って・・いや・・誠さんって・・そんなのする間もなかった・・私が間を与えなかった・・のか。なんてことを考えていたら。
「んっ・・」と寝言を言って悶えようとしたのに私が乗っているからできなさそうな誠さんのソレが・・どうしてムクムクと・・そして・・ゾワゾワと私のアソコの入口を広げながら奥に押し入って来て、ゾクゾクと、また骨が抜かれていくような「ふぅぅぅう」と気が遠のく感じになってくる。コレって寝てても起きるんだ・・もしかしてエッチな夢見てるから? とも思って恥ずかしくなるから急に冷静な気持ちが冷静な対処をしてる。
「起こしちゃた・・ごめんね・・」とつぶやいて。
腰を引いてゆっくりとソレを抜いたら。ぬるって・・「あぁ・・」・・ってゾクゾクと伝わってくる角の擦れを、こんなに感じてる場合じゃなくて。そぉぉっと誠さんから降りて。隣で丸くなると。
「うん・・起きた? 恭子さん・・大丈夫?」と聞こえる声は・・寝言? と思ったら、私を抱き寄せる腕・・。
「あ・・あの・・誠さん」
と言ってるのに、無言で、頭をナデナデ・・。してから、寝返って「んっ、うん・・」と私の首筋に甘えるように顔を埋めて。寝息を立てている。すーはーすーは―。「うんっ・・」と悶えるような寝言が、あらら・・なんだかカワイイね・・なんて思ったりしながら。
「起きたの?」と聞いても返事はなくて、寝息がそのまま。本当に眠っている。だから・・ちょっと湧き立った好奇心・・そっと手を添わせて、誠さんの脇・・お尻・・男の子の体って結構大きいのねと実感しながら、探ってゆくと、このへんかな・・くっくっくっ・・思い出した、私って今、トム・クルーズにいたずらするニコールキッドマンになったつもり? くっくっくっ・・・と声を出さないように笑って。手が探し当てた、これだ・・とソレを、オソルオソル握ってみると・・硬いのにぬるっとしてて・・うわどうしてこんなにぬるぬる・・そう言えばさっきまで私の中に入っていたのよねコレ・・そう思い出しながら握る力をぎゅっと込めたら、ビクンッと脈打って一回り大きく膨らんだ感じがして、にゅるんっと滑ったから、慌てて放したけど。
「んっ・・うん・・恭子さん?」うわ・・こっちも起きちゃった?
寝たふり寝たふり寝たふり。
「恭子さん・・起きたの? ごめんね・・」
ごめんねって、ナニが? と寝返って姿勢を変えて、私を抱き直してから頭をナデナデし始めた誠さんの手。そして。寝たふり寝たふり・・と、無理やり息を整えてる私に。
「いとおしいって・・誰が最初に言ったのかな・・今、そういう気持ち・・」
と言いながら。寝たふりしてる私にチュッとした誠さん。「いとおしい」だれが最初に言ったのかな、と私も同じことを今感じているかもしれない。起きようかな? と一瞬思ったけど。もう少し、寝たふり寝たふり・・まだ何か言うかも。と、もっと無理やり息を整えたら。誠さんの手が背中から這って来て回り込んでおっぱいをむにゅっと触って。
「ホントに寝てる?」
と聞くけど。寝たふり寝たふり。したまま我慢してたら。もう一度チュッとして、
「今・・いたずらしたでしょ」
と言い始めた・・気が付いてた? の? でも私は、寝たふり寝たふり。
「恭子さん・・」
寝たふり寝たふり。してたら、今度はもぞもぞと姿勢を変えて、乳首をチュッと吸って。びくっと感じたけど、寝たふり寝たふり・・気づかれたかな? 起きようかな‥とも思ったけど。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ」と大きなため息をはいた誠さん。起き出して、向こうに行って、ごそごそしてる。薄目を開けて何してるのかな? と見ようとしたけど、暗くて見えなくて。少ししたら戻って来て・・。モゾモゾ・・何してるの? って、あっ・・私を・・広げようとしている? 
「開け、ゴマ」なんてつぶやきながら。私の脚を・・。
・・あんっ、こら・・ちょっと・・もしかして、ソレにアレを付けてきたとか・・と目が開いた。
「誠さん・・ちょっと待って」
「ほら・・起きてる・・今いたずらしたでしょ」ってどうして怖い声色。
「ナニも、してませんよ・・」と即座に暗闇の中で顔を背けて否定したけど。
「恭子さんがこんなにしちゃうから」ってナニをこんなに? あぁソレがあんなに・・。だから。
「私が触る前にそうなってましたよ」いや、触る前からそうだったでしょ。と言うべき・・。って、私・・またナニかを、言いたい放題、言い放っちゃった? 
「ほら、触ってたんだ。だから、もぉぉ。ふふふ」って・・笑いながら言ってませんか・・。
「だから・・トム・クルーズにいたずらしたニコールキッドマンですよ」と言えばわかってくれるはず。
「それじゃ、僕は、タイタニックの倉庫の自動車の中のディカプリオ」ほら、わかっている。
「私は、ローズ? 私、あなたと駆け落ちするわ」ってセリフはローズがあの時言ったよね。なのに。
「うん・・駆け落ちはしないけど、僕をこんなにしてしまって、どうするの?」こんなにって、どうするのって。私が触る前にそうなってたでしょ・・私のせいではありません。けど。
「・・・・くっくっくっくっくっ。許してください」これは、
するの? いいよ。と言う意味ですけど。
「ちゃんと付けてるから」だなんて会話になってないし・・。でも・・。
「・・うん・・優しく・・ゆっくり・・まだ・・痛いから」でも、私も、したい・・。
「丁寧に・・まだ痛い?」痛いけど、あなたもしたいのでしょ。だから。
「うん・・」と返事して「でも・・どうぞ」と言ってあげると、もう一度、ゆっくりと入ってきた誠さんを「あぁ~」と受け入れて。ぎゅっと抱きしめて。いつかこんな夢を見たことを思い出してる。「それでいいのよ・・それでいい・・今日からあなたは私の虜、私なしでは生きていけない、私のシモベ」その思いは今は夢ではなくて現実なんだと実感しながら。私も、あなたナシでは生きていけないかもしれないと自覚しながら。ゆっくりと優しく丁寧にしてくれるから。
「あん、あっ、あん、あっ・・」とそのリズムに合わせて喘いであげる。
「恭子さん・・本当に本当に好きです」
「それ、さっきも聞きましたよ。あっあん・・」
「さっきよりもっと、本当に本当に好きです」
「うん・・私も・・あっあん、あっあん」
そんな声をがまんできない。この体の中にもぞもぞと入って来て、裏側を擦りながら出てゆく。この快感に私は、泣き始めている。ことに気付いてくれた誠さんは、
「泣いてるの?」と尋ねてゆっくり優しく丁寧な行為を中断した。
「ううん・・続けて・・気持ちイイの・・うれしいの・・あなたと巡り合えて」
こんなに優しく抱いてくれることも、こんな時でも私のコト気にしてくれていて、嬉しいから、また、メラメラとたぎった野獣になってしいそうな気持を必死で押さえて。そのまま・・誠さんをぎゅぅぅっと抱きしめて。体中に力を込めて、遠のいていきそうな意識を手繰り寄せている。
「恭子さん・・いたい・・爪を立てないで・・」
「あっ・・・・ごめんなさい」でも・・今力を抜いたら、また落ちてしまいそう。ふうううって遠くなってゆく。だから、もっとぎゅぅぅっと・・したら。
「恭子さん・・許して・・少し乱暴させて・・」
「乱暴?・・」と一瞬躊躇したら。誠さんは、ほんの少し激しさを増して。痛いっ・・から、もっと強く抱きしめてしまう。すると、さっきも感じたあの感覚。びくんびくんと体の中で何かが弾んで。
「あっ・・あっ・・あぁっ」と小さく叫びながら誠さんはもっと奥にもっと奥に、もう一度奥に、そして、はーはーと荒っぽい息づかいのまま。私に重く覆いかぶさった。
「誠さん・・大丈夫ですか?」と言う私の息も荒くなっているけど。
「ごめんなさい・・はーはー・・ごめんね」ばかり繰り返してる。そんな誠さんを抱きしめている力を抜いて。背中をナデナデしながら。
「いとおしいって、誰が最初に言ったのかな・・そういう気持ちです、今、私も」
そう言って、くすくすと笑いあって。くすんくすんと泣きあって。静かに落ちて行った誠さんにつられて、私も沈んでいった。どうしよう、二回もしちゃた・・。知り合ってまだ3日しか経ってないのに。それでも、もう一度したい・・ね。それがこの時の記憶に残っている最後に思ったこと。
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