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後編
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「あ、水無瀬くん。都築くん、どうしたんですか?」
部屋に入ると、蒼井が戻ってきて座っていた。
俺はその向かいの椅子に座りながら言った。
「……体調崩したから、ベッドで寝てる。」
「え、大丈夫?お見舞い行こうか……」
「問題ない!……少し寝てれば治るって」
俺は、都築のヒートのことは言わなかった。
きっと、都築は隠したいだろうと思ったから。
いや、それは建前かもしれない。
本当は、俺が耐えられないからだ。
蒼井が都築のフェロモンに当てられるのを見たくない。
Ωと一緒にいる喜びを知って、βの俺のことなんか忘れてしまうのが怖い。
俺はむくれた顔をしてしまっていただろう。
蒼井は、俺の顔をじっと見つめ軽く微笑んだ。
「……良かった。君と都築くんがいい仲になってたんじゃなくて。」
「馬鹿言うな…、そんなことあるわけないだろ。」
「わからないじゃないか、βとΩの恋愛だって普通だ」
「そういうこと言ってんじゃねえ。あのイカれぽんちのガキとどうこうなる訳ないって話だ」
「……誰ともなるなよ」
「善処する」
そんなことより、俺はかねてより考えていたことを蒼井に言おうと決意した。
都築がいない今、絶好のチャンスだ。
「蒼井」
「なに?」
「カージャックの日、一緒に逃げるぞ」
それから数週間、計画は大詰めとなってきた。
「賄賂の輸送の日は、三日後に迫っています。シミュレーションはできていますよね」
「……本気でやるんだな」
俺と蒼井と都築は、拠点の一室で最終確認を行い始めた。
「……今さら怖じ気づいたわけではないでしょう?」
「ここまで来たら最後までついていくけど、これをやったら君も俺たちも戻れないよ。罪を犯すっていうのはそういうことだ」
「何頭の悪い大人みたいなこと言ってるんです?これは単なる通過点に過ぎません。こんなことでは差別は終わりませんから」
都築は机に開いていた資料をパタン、と閉じた。
「いずれ総理大臣を殺します」
目が据わっていた。
何を言っているのか、一瞬理解ができなかった。
総理大臣を、殺す?
「何を言って、そんなこと無理に決まってんだろ」
「……100年前じゃないんだ、総理大臣を殺しても国の方針は変わらない。差別主義の政治家は他に大勢いる」
蒼井はその荒唐無稽にも思える都築の決意に、極めて真面目に言い返した。
「もし仮に、総理を殺してΩが救われたとする。しかし、都築くん。君は救われない。」
「殺しても殺さなくても、僕は救われません。僕は、この差別を終わらせるんです、絶対に」
「第一、んな大それた計画、ついてくる奴いないだろ」
「大丈夫です、実行犯は僕がやります。16歳未満は少年刑務所ではなく少年院に収容される、そうでしょう弁護士さん」
「……」
「あと1年しかない、それまでにあらゆる計画を立てて、この腐りきった世の中に、革命を起こす」
都築がそう言い終わるや否や、蒼井はドンッと軽く拳を机に叩きつけ、絞り出すように声を出した。
「……違う。そんなものは革命じゃない…ただの、殺人だ。人を守るのは、幸せにするのは暴力じゃない……言葉だ」
「じゃあ、誰もが口がついていて、文字を書けるのに、なんで僕たちΩは迫害されているんですか?なんで言語によって他人を理解できるくらい高い知能を持っているのに、差別なんて愚かなことを多くの人がしているんですか?なぜ僕たちの痛みが理解できないんですか……!」
都築は珍しく語気を荒げた。
蒼井が言葉を返せないなんて光景、初めて見た。
そうだ、差別なんて立場によって見方なんて180度変わる。
第三者の言葉なんて、綺麗事に過ぎないとさえ思えるかもしれない。
呼吸を少し落ち着け、都築はいつもの口調に戻った。
「僕は、家ではいない存在、なんです。ネグレクトです。空気みたいに、まるでそこにいないみたいに。子どもの時から、何度母親に話しかけても返事が返ってくることはありませんでした。僕たちを、言葉を吐かないモノだと思っている人間に、どうやって言葉をかけろというんですか。僕たちが受けたのと同じ、いやそれ以上の痛みを知らなきゃわからないんですよ。僕にとって、暴力が言語なんです。」
「……それには同意できない。暴力は本質を伝えないからだ。どんな感情で痛みを与えているかを暴力では伝えられないんだ。一方的に傷つけられ憎み報復する、その繰り返しを生むだけだ。暴力は回答-アンサー-にはなりえない。でも、言葉なら伝えられる。」
「わかりあえませんね、そりゃそうです。あなたはαだから」
都築は諦めたようにそう呟いた。
そうだ、都築との議論は終着点がないのだ。
αとΩとβでは、立場が違いすぎる。
Ωの言うことを、αやβがとやかく言えるわけがない。
答えのない議論に、俺はいつも押し黙っていた。
何を言っていいのかわからないのだ。
都築の極論のような主張にまともに対峙する蒼井は、やはり弁護士なだけあってすごいと思っている。
都築翔真は、Ωとして沢山傷ついてきたのだろう。
ボロボロだからこそ、強い。
間違っているとわかっていても、結局そんなアイツを頭ごなしに否定できないのだ、俺たちは。
決行日は、三日後に迫っていた。
部屋に入ると、蒼井が戻ってきて座っていた。
俺はその向かいの椅子に座りながら言った。
「……体調崩したから、ベッドで寝てる。」
「え、大丈夫?お見舞い行こうか……」
「問題ない!……少し寝てれば治るって」
俺は、都築のヒートのことは言わなかった。
きっと、都築は隠したいだろうと思ったから。
いや、それは建前かもしれない。
本当は、俺が耐えられないからだ。
蒼井が都築のフェロモンに当てられるのを見たくない。
Ωと一緒にいる喜びを知って、βの俺のことなんか忘れてしまうのが怖い。
俺はむくれた顔をしてしまっていただろう。
蒼井は、俺の顔をじっと見つめ軽く微笑んだ。
「……良かった。君と都築くんがいい仲になってたんじゃなくて。」
「馬鹿言うな…、そんなことあるわけないだろ。」
「わからないじゃないか、βとΩの恋愛だって普通だ」
「そういうこと言ってんじゃねえ。あのイカれぽんちのガキとどうこうなる訳ないって話だ」
「……誰ともなるなよ」
「善処する」
そんなことより、俺はかねてより考えていたことを蒼井に言おうと決意した。
都築がいない今、絶好のチャンスだ。
「蒼井」
「なに?」
「カージャックの日、一緒に逃げるぞ」
それから数週間、計画は大詰めとなってきた。
「賄賂の輸送の日は、三日後に迫っています。シミュレーションはできていますよね」
「……本気でやるんだな」
俺と蒼井と都築は、拠点の一室で最終確認を行い始めた。
「……今さら怖じ気づいたわけではないでしょう?」
「ここまで来たら最後までついていくけど、これをやったら君も俺たちも戻れないよ。罪を犯すっていうのはそういうことだ」
「何頭の悪い大人みたいなこと言ってるんです?これは単なる通過点に過ぎません。こんなことでは差別は終わりませんから」
都築は机に開いていた資料をパタン、と閉じた。
「いずれ総理大臣を殺します」
目が据わっていた。
何を言っているのか、一瞬理解ができなかった。
総理大臣を、殺す?
「何を言って、そんなこと無理に決まってんだろ」
「……100年前じゃないんだ、総理大臣を殺しても国の方針は変わらない。差別主義の政治家は他に大勢いる」
蒼井はその荒唐無稽にも思える都築の決意に、極めて真面目に言い返した。
「もし仮に、総理を殺してΩが救われたとする。しかし、都築くん。君は救われない。」
「殺しても殺さなくても、僕は救われません。僕は、この差別を終わらせるんです、絶対に」
「第一、んな大それた計画、ついてくる奴いないだろ」
「大丈夫です、実行犯は僕がやります。16歳未満は少年刑務所ではなく少年院に収容される、そうでしょう弁護士さん」
「……」
「あと1年しかない、それまでにあらゆる計画を立てて、この腐りきった世の中に、革命を起こす」
都築がそう言い終わるや否や、蒼井はドンッと軽く拳を机に叩きつけ、絞り出すように声を出した。
「……違う。そんなものは革命じゃない…ただの、殺人だ。人を守るのは、幸せにするのは暴力じゃない……言葉だ」
「じゃあ、誰もが口がついていて、文字を書けるのに、なんで僕たちΩは迫害されているんですか?なんで言語によって他人を理解できるくらい高い知能を持っているのに、差別なんて愚かなことを多くの人がしているんですか?なぜ僕たちの痛みが理解できないんですか……!」
都築は珍しく語気を荒げた。
蒼井が言葉を返せないなんて光景、初めて見た。
そうだ、差別なんて立場によって見方なんて180度変わる。
第三者の言葉なんて、綺麗事に過ぎないとさえ思えるかもしれない。
呼吸を少し落ち着け、都築はいつもの口調に戻った。
「僕は、家ではいない存在、なんです。ネグレクトです。空気みたいに、まるでそこにいないみたいに。子どもの時から、何度母親に話しかけても返事が返ってくることはありませんでした。僕たちを、言葉を吐かないモノだと思っている人間に、どうやって言葉をかけろというんですか。僕たちが受けたのと同じ、いやそれ以上の痛みを知らなきゃわからないんですよ。僕にとって、暴力が言語なんです。」
「……それには同意できない。暴力は本質を伝えないからだ。どんな感情で痛みを与えているかを暴力では伝えられないんだ。一方的に傷つけられ憎み報復する、その繰り返しを生むだけだ。暴力は回答-アンサー-にはなりえない。でも、言葉なら伝えられる。」
「わかりあえませんね、そりゃそうです。あなたはαだから」
都築は諦めたようにそう呟いた。
そうだ、都築との議論は終着点がないのだ。
αとΩとβでは、立場が違いすぎる。
Ωの言うことを、αやβがとやかく言えるわけがない。
答えのない議論に、俺はいつも押し黙っていた。
何を言っていいのかわからないのだ。
都築の極論のような主張にまともに対峙する蒼井は、やはり弁護士なだけあってすごいと思っている。
都築翔真は、Ωとして沢山傷ついてきたのだろう。
ボロボロだからこそ、強い。
間違っているとわかっていても、結局そんなアイツを頭ごなしに否定できないのだ、俺たちは。
決行日は、三日後に迫っていた。
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