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コラム「国(クニ) と下総国」
(15) 長島の変遷
しおりを挟む(15) 長島の変遷
○肥後国➡薩摩国: 天正15年(1587)
肥後・薩摩の国界は戦国期から織豊期にかけて変動した。
純粋に地形だけを考えた場合、長島は天草諸島の一部である。続日本紀の宝亀9年(778) 11月13日の記事には「肥後国天草郡西仲島」としてあらわれ、このとき唐から帰国途中に嵐に遭遇、漂流していた遣唐使船の一部が当地に流れ着いた。漂着地点の唐隈には現在、記念碑が建っている。中世も天草氏の一派、長島氏の支配のもと肥後国 天草郡として把握されたと考えられる。しかし徐々に薩摩国勢力の圧迫を受けるようになって、戦国期に入った永禄8年(1565) には出水の薩州島津氏 (忠兼、前当主・実久の弟、現当主・義虎の叔父) に攻略され、天正9年(1581) までに薩州島津氏の義虎の支配が確立された (❉1)。
天正15年(1587) 3月、豊臣秀吉は大軍を率いて九州への侵攻を開始した。島津義久 (本家) は弟の義弘らと薩摩・大隅・日向の 3国を領国として統一し、さらに版図を広げていたが、大軍を前に総崩れとなって撤退を余儀なくされ、5月8日までに降服した。これを受け、秀吉は義久に薩摩国、義弘に大隅国 (ただし肝付郡と北郷時久旧領を除く) を安堵した (❉2)。このとき、近世の国界が確定し、長島は薩摩国の一部として把握されるようになったと考えられる。
義久宛の判物・義弘宛の朱印状とも郡や村の詳細な一覧は示されていないが、文禄3~4年(1594~1595) に行われた (❉3) 薩摩国の総検地までに変動は確認できない。また、長島を支配する薩州島津氏の忠辰 (義虎の子) は先行して 4月27日に (❉4) 降服したが、その支配にあった長島には早くも 4月中に秀吉から 3箇条の定書(❉5) が発布され、これに「薩摩国長島」とある。なお、文禄2年(1593) 忠辰は不手際から所領を没収され、旧領は文禄4年(1595) 4月に宗義智に与えられた。この知行目録 (❉6) は総検地後であって村単位で石高が示され、長島の各村は「薩摩国出水郡内」として把握されている。その後、慶長4年(1599) 長島を含む出水郡は義弘に与えられて島津氏 (本家) に戻り (❉1)、近世を通じて薩摩藩が支配した。
❖薩摩国出水郡内知行方目録
長島の村々は下記のとおり:
➤本城村: 26. 城川内村 (❉1)
➤平尾村: 20. 平尾村
➤蔵のもと村: 27. 蔵之元村
➤たかのす村: 23. 鷹巣村
➤さすへ村: 25. 指江村
➤川とこ村: 21. 川床村
➤山との村: 29. 山門野村
➤かせと村: 29. 山門野村の加世堂集落
➤ミふね村: 22. 浦底村の三船集落
➤おはま村: 27. 蔵之元村の小浜集落
➤ししかしま: 30. 獅子島
➤宮のうら: 23. 鷹巣村の宮ノ浦集落
❖薩藩政要録の村々
近世 薩摩国 出水郡 長島郷
20. 平尾村
21. 川床村
22. 浦底村
23. 鷹巣村
24. 下山門野村
25. 指江村
26. 城川内村
27. 蔵之元村
28. 諸浦村
29. 山門野村
30. 獅子島
31. 伊唐島
❉1: 東町郷土史(1992) など。
❉2: 鹿児島県史料 旧記雑録 後編2(1982) 所収 天正15年(1587) 5月9日付「豊臣秀吉判物」(義久宛)・5月25日付「豊臣秀吉朱印状」(義弘宛)、および「豊臣政権下における九州再国分について」(1983, 九州史学 第78号, 桑田)。
❉3: 鹿児島市史 第1巻(1969)。
❉4: 川内市史 上巻(1976) では 4月24日。同史は行軍の状況をわかりやすく表にまとめているが、それによれば出水に先鋒が入ったのが 4月24日で、秀吉が到達したのは 27日。実質的には 24日、正式には 27日とするのが正しいかと思われる。九州御動座記でも 4月27日。
❉5: 豊臣秀吉定書、鹿児島県史料 旧記雑録 後編2(1982)・同 旧記雑録拾遺 地誌備考4(2017)。
❉6: 薩摩国出水郡内知行方目録、東町郷土史(1992)・豊臣氏九州蔵入地の研究(1983, 守山)。
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