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石榴の月 第二話⑮
石榴の月~愛され求められ奪われて~
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覚醒は突然、訪れた。闇の底から意識がに浮上してくるかのような感覚があり、続て、眼が開く。水から陸(おか)に上がったような長い眠りから覚めたようなときに似た感だ。まだぼんやりとした頭で、お民はゆると首だけを動かして、自分の置かれた状況確かめようとする。
頭の芯だけでなく、胸の辺りにも鈍い痛が残っている。
どうやら、夜具の上に仰向けに寝かされいたようだ。鮮血で染めたような毒々しい合いの大きな夜具が二つ、並べて敷いてあるその一つに横たわっていたらしい。
枕許には小さな衝立があり、片隅に殆ど褪せた小さな姫鏡台が放置されたように置れていた。
部屋の壁の色も全体的に赤っぽく、やはこれも塗りの剥げた衣桁には緋色の長襦袢ひろげて掛けられている。
お民にもここがそもどこなのかは薄々はせられた。恐らくは出合茶屋、男女が秘密逢瀬や情事を重ねるための連れ込み宿のよなものではないか。
その時、初めて自分が捨て子稲荷の前で者かに襲われたのだと思い出した。
「やっと気付いたか」
その声に、お民はハッと面を上げた。
「何でこのようなことなさるのですか」
心の動揺をひた隠し、相手を真っすぐにつめる。その凜とした態度に、嘉門がおやいう表情になる。
「これはまた、随分と強気だな。こんな有様で目覚めても、取り乱しもせず泣き喚きせぬか」
お民は瞳の視線の力を強める。
「私をお帰し下さいませ」
「帰す―? 一体、どこに帰すというのだそなたの帰るべき場所は、俺のところしかいだろう」
空惚ける嘉門に、お民は首を振り、きっりと言った。
「いいえ、私の帰る場所は良人の許しかごいません。どうか私を良人の許にお返し下い」
「ホウ、果たして、真にそうかな。そなた俺を―いや、正確に申せば俺と過ごした夜ことをいまだ忘れておらぬとしたら?」
「そのようなことがあるはずもございませぬ私のご奉公はあくまでも年季を定めてものて、既にその一年は過ぎましてございます最早、先日も申し上げたようにあなたさま私は何の縁もゆかりもなき間柄、このようことはお止め下さいとお願いしたはずでごいますが」
「ふん、口では何とでも言えるな。お民、はそなたに惚れている。できれば、無理強という形では、そなたを抱きたくはないのだ本音を申さば、そなたに手荒なことはあましたくはない。大人しうに俺に身を委ねる良い」
お民は嘉門との間合いを計った。
これなら、何とかなるかもしれない。我我が身を励ましつつ、嘉門の様子を冷静に察した。男は余裕たっぷりで、お民の反応愉しむかのように腕組みをして佇んでいるお民を見下ろすような恰好で話しているだ。
今ならば、まさか嘉門もお民がこんな状で逃げ出そうとするのは夢にも考えてはいいだろう。
目まぐるしく思考を回転させながら、油なく周囲の様子も眼に入れておく。どう見も、この部屋は二階だ。通りにでも面してるのか、障子窓はすべて閉(た)て切っている。にそこから脱出できたしても、飛び降りれば下手をすれば生命はない。運が良くても大我をすることになろう。
他に出入り口になりそうなものは、当然ことに廊下側の襖。ここから出入りするの真っ当な考え方ではある。窓から出ること叶わぬというのであれば、正攻法も正攻法ここの襖を突破するしかないのだけれど。もや、嘉門が眼の前に立ちはだかっているいうのに、正面の出入り口から逃げようなとあの男も思わないはず。
とかにく、他の方法がないのなら、一かか試してみるのも悪くはないだろう。
刹那、お民は布団に上半身を起こし、素く立ち上がった。咄嗟に身を翻し、逃れよと試みる。
ダッと部屋を横切り、襖に手をかけた。「助けて、誰か、お願いです、助けてッ!」 お民は助けを求めながら、襖を開けようした。
幸いにも襖を全開にし、転がるように廊に出ることができた。
「誰かっ、助けて」
廊下を大声で叫び、走って逃げた。廊下体は短い、並んだ部屋も片側だけで三つくいしかない。廊下の途切れた先は階段が見た。あれを降りれば、もしかしたら活路をつけられるかもしれない。
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