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アンソニーのこころ
ヴァージニアとヨハンの二人を見送ってから、アンソニーが僅かに不機嫌になった気がした。
きっとまだヴァージニア様への未練が残っているのだろう。
考えてみれば、マーガレットとスティーブンはスティーブンの死によって会えなくなってしまった。だからマーガレットはスティーブンを過去のものにすることができた。手紙によって少し心が揺さぶられたこともあったけれど、そこから恋の炎が燃え上がることはない。
しかしアンソニーとヴァージニアはそうではない。アンソニーは婚約破棄してからもヴァージニアと会う機会は多かっただろう。そんな環境でヴァージニアを忘れることなど出来る訳がない。彼女はあんなに素敵なのだから。それに障害があるほど恋は燃え上がると聞いた事がある。
今、アンソニーの恋心を鎮火させるのは難しいだろう。
だから、ヴァージニアがロマノフ国に行ってからゆっくり二人の間を詰めていければ良い。
今の二人の関係を思えばアンソニーが王太子妃としてのマーガレットを蔑ろにすることはないだろう。もしかすると愛妾の一人や二人は出来るかも知れないが、愛があっても子ができなければ王族は愛妾を囲うものなのだから我慢しなくてはならない。
ただ、マーガレットの子供がロジャースの領地を賜るという約束があるのだから、二人は男児が欲しいところである。
ガーデンパーティーの翌日、クラスメイト達とランチを取り終わった頃、ヴァージニアが話しかけてきた。
「マーガレット、少しお話いいでしょうか。」
そう言われ、マーガレットとヴァージニアはあまり人の来ない裏庭の四阿に向かった。
「マーガレットとトニー様はどうなっておいでなのですか?」
「どう、とは?」
「正直に言って二人の様子では将来結婚する男女のようには見えませんわ。」
「そうですか?」
「えぇ、わたくし心配していますの。」
「心配?」
「二人は愛を育めるのか・・・」
マーガレットは思わず顔を顰める。
「愛を育めるかどうかは私一人の力ではなんとも・・・」
「そうね。では質問なのですけれど、マーガレットはトニー様のことをどう思ってらっしゃいますの?」
「・・・将来的には愛を育めれば良いと思っておりますが・・・」
「今ではない、と?」
「だって、まだヴァージニア様が近くにいらっしゃるのに新しく愛を育めというのはトニー様にも酷だと思いますの。」
「では、貴女、この前のパーティーでヨハンに横恋慕したわけではないと?」
「ヨハン様?そんな、ありえません!」
「でもあなだがヨハンを熱のこもった目で見ていたという人が居るのよ。」
「それは・・・ヴァージニア様を見ていたのですわ。」
「わたし?」
予想外だったのだろう。ヴァージニアは素っ頓狂な声を上げた。
「ヴァージニア様はどんな所作ひとつも美しく、パーティーでの立ち居振る舞いの参考になるかと思いまして。わたしにとってこの国での初めてのパーティーでしたので・・・」
「そうなのね。・・・だそうですわよ。」
そう言って四阿の影から出てきたのはアンソニーだった。
「メグ、安心したよ。君が他の男に惚れたかと思って一晩中ヤキモキしていたんだ。」
「そんな、まさか、ありえませんわ。・・・でも、トニー様がそんな風に思ってくださるなんて嬉しいですわ。」
マーガレットの顔はこれまでにないほど真っ赤になっていた。アンソニーの顔も赤く色付いている。
「ちょっと!あなた達!どういう事なの?」
「どういうとは・・・」
「いや、おかしいでしょう?もう婚約して半年近く経つのよ?なんでいまだにこんなに初々しいのよ?」
ヴァージニア様が呆れたようにつぶやく。
「それは・・・」
アンソニーがしどろもどろなりながらなんとか言葉を紡ごうとするがそれよりも先にヴァージニアが口を開いた。
「だいたい、気になるなら本人に聞けばいいのよ。あなた達、普段は何を話しているの?」
呆れたように言われてマーガレットとアンソニーは二人同時に話した。
「経済の話とか・・・」「外交の話とか・・・」
そしてお互いの目があい、恥ずかしくなったのか目線を外して顔を真っ赤にする。
「そんな話して面白い?」
「はい」「あぁ」
「もしかして、仕事の話ばっかりしてお互いのことは何も話してないんじゃないの?」
「そんな事は・・・」
「じゃあ、トニー様。マーガレットの好きな色と嫌いな色は何色ですか?」
「いや、それは・・・」
ヴァージニアがため息をつく。
「トニー様、お分かりにならないんじゃなくて?だからドレスの色を決められなかったのでしょう?」
「どうしてそれを・・・」
「フューリー夫人から聞きました。ドレスの色を決められないなんて、信じられません。どうしてお互いのことを何も話してないのですか?」
アンソニーは熱く話し始める。
「メグのことをいろいろ知りたいと思うさ!でも、俺が自分の気持ちに気づいた時には、彼女は元婚約者からの手紙を読んで落ち込んでいて、あまり、こう、ガツガツしては良くないかと思って・・・」
「トニー様、そんなふうに思ってくださっていたのですか?私は逆にトニー様はヴァージニア様がお好きだからあまり、詮索しないほうがいいと思っていました。」
「では、元婚約者殿のことは?」
「確かに手紙を受け取った時はショックでしたけれど、三年近くお会いしていないんです。思いは既に風化しております。トニー様こそヴァージニア様をお好きでいらしたのではないのですか?」
アンソニーはバツが悪そうにヴァージニアを見た後、覚悟を決めた目をした。
「ヴァージニアは確かに幼い頃から隣にいてずっとそれが続くものだと思っていた。それに確かに素晴らしい女性だ。でも!メグの覚悟を聞いたあの日から俺の心の中にはいつも君がいた。俺より三つも若いのにしっかりしていて君は俺より遥かに王族だった。でもたまに弱いところもあって守ってやらなきゃと思った。その時には多分、恋に落ちていたんだ。でも、弱味に付け込むような真似はしたくなかった。それで、気付いたらいつも仕事の話に逃げてしまっていた。」
「逃げていたのは私もです。私も気付いた時にはトニー様の存在がとても大きくなっておりました。お慕いしております。」
「あぁ、メグ」
アンソニーはそう言うとマーガレットの手を握り、そしてその手を引っ張り体をぎゅっと抱きしめた。
きっとまだヴァージニア様への未練が残っているのだろう。
考えてみれば、マーガレットとスティーブンはスティーブンの死によって会えなくなってしまった。だからマーガレットはスティーブンを過去のものにすることができた。手紙によって少し心が揺さぶられたこともあったけれど、そこから恋の炎が燃え上がることはない。
しかしアンソニーとヴァージニアはそうではない。アンソニーは婚約破棄してからもヴァージニアと会う機会は多かっただろう。そんな環境でヴァージニアを忘れることなど出来る訳がない。彼女はあんなに素敵なのだから。それに障害があるほど恋は燃え上がると聞いた事がある。
今、アンソニーの恋心を鎮火させるのは難しいだろう。
だから、ヴァージニアがロマノフ国に行ってからゆっくり二人の間を詰めていければ良い。
今の二人の関係を思えばアンソニーが王太子妃としてのマーガレットを蔑ろにすることはないだろう。もしかすると愛妾の一人や二人は出来るかも知れないが、愛があっても子ができなければ王族は愛妾を囲うものなのだから我慢しなくてはならない。
ただ、マーガレットの子供がロジャースの領地を賜るという約束があるのだから、二人は男児が欲しいところである。
ガーデンパーティーの翌日、クラスメイト達とランチを取り終わった頃、ヴァージニアが話しかけてきた。
「マーガレット、少しお話いいでしょうか。」
そう言われ、マーガレットとヴァージニアはあまり人の来ない裏庭の四阿に向かった。
「マーガレットとトニー様はどうなっておいでなのですか?」
「どう、とは?」
「正直に言って二人の様子では将来結婚する男女のようには見えませんわ。」
「そうですか?」
「えぇ、わたくし心配していますの。」
「心配?」
「二人は愛を育めるのか・・・」
マーガレットは思わず顔を顰める。
「愛を育めるかどうかは私一人の力ではなんとも・・・」
「そうね。では質問なのですけれど、マーガレットはトニー様のことをどう思ってらっしゃいますの?」
「・・・将来的には愛を育めれば良いと思っておりますが・・・」
「今ではない、と?」
「だって、まだヴァージニア様が近くにいらっしゃるのに新しく愛を育めというのはトニー様にも酷だと思いますの。」
「では、貴女、この前のパーティーでヨハンに横恋慕したわけではないと?」
「ヨハン様?そんな、ありえません!」
「でもあなだがヨハンを熱のこもった目で見ていたという人が居るのよ。」
「それは・・・ヴァージニア様を見ていたのですわ。」
「わたし?」
予想外だったのだろう。ヴァージニアは素っ頓狂な声を上げた。
「ヴァージニア様はどんな所作ひとつも美しく、パーティーでの立ち居振る舞いの参考になるかと思いまして。わたしにとってこの国での初めてのパーティーでしたので・・・」
「そうなのね。・・・だそうですわよ。」
そう言って四阿の影から出てきたのはアンソニーだった。
「メグ、安心したよ。君が他の男に惚れたかと思って一晩中ヤキモキしていたんだ。」
「そんな、まさか、ありえませんわ。・・・でも、トニー様がそんな風に思ってくださるなんて嬉しいですわ。」
マーガレットの顔はこれまでにないほど真っ赤になっていた。アンソニーの顔も赤く色付いている。
「ちょっと!あなた達!どういう事なの?」
「どういうとは・・・」
「いや、おかしいでしょう?もう婚約して半年近く経つのよ?なんでいまだにこんなに初々しいのよ?」
ヴァージニア様が呆れたようにつぶやく。
「それは・・・」
アンソニーがしどろもどろなりながらなんとか言葉を紡ごうとするがそれよりも先にヴァージニアが口を開いた。
「だいたい、気になるなら本人に聞けばいいのよ。あなた達、普段は何を話しているの?」
呆れたように言われてマーガレットとアンソニーは二人同時に話した。
「経済の話とか・・・」「外交の話とか・・・」
そしてお互いの目があい、恥ずかしくなったのか目線を外して顔を真っ赤にする。
「そんな話して面白い?」
「はい」「あぁ」
「もしかして、仕事の話ばっかりしてお互いのことは何も話してないんじゃないの?」
「そんな事は・・・」
「じゃあ、トニー様。マーガレットの好きな色と嫌いな色は何色ですか?」
「いや、それは・・・」
ヴァージニアがため息をつく。
「トニー様、お分かりにならないんじゃなくて?だからドレスの色を決められなかったのでしょう?」
「どうしてそれを・・・」
「フューリー夫人から聞きました。ドレスの色を決められないなんて、信じられません。どうしてお互いのことを何も話してないのですか?」
アンソニーは熱く話し始める。
「メグのことをいろいろ知りたいと思うさ!でも、俺が自分の気持ちに気づいた時には、彼女は元婚約者からの手紙を読んで落ち込んでいて、あまり、こう、ガツガツしては良くないかと思って・・・」
「トニー様、そんなふうに思ってくださっていたのですか?私は逆にトニー様はヴァージニア様がお好きだからあまり、詮索しないほうがいいと思っていました。」
「では、元婚約者殿のことは?」
「確かに手紙を受け取った時はショックでしたけれど、三年近くお会いしていないんです。思いは既に風化しております。トニー様こそヴァージニア様をお好きでいらしたのではないのですか?」
アンソニーはバツが悪そうにヴァージニアを見た後、覚悟を決めた目をした。
「ヴァージニアは確かに幼い頃から隣にいてずっとそれが続くものだと思っていた。それに確かに素晴らしい女性だ。でも!メグの覚悟を聞いたあの日から俺の心の中にはいつも君がいた。俺より三つも若いのにしっかりしていて君は俺より遥かに王族だった。でもたまに弱いところもあって守ってやらなきゃと思った。その時には多分、恋に落ちていたんだ。でも、弱味に付け込むような真似はしたくなかった。それで、気付いたらいつも仕事の話に逃げてしまっていた。」
「逃げていたのは私もです。私も気付いた時にはトニー様の存在がとても大きくなっておりました。お慕いしております。」
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