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第三話 レイフとフィー
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レイフはフィービー・アンダーソン公爵令嬢の婚約者だ。
好きな魔法の研究をしている時はつい約束を忘れてしまいがちだが、レイフは幼い頃から栗色の髪をした彼女が好きだったし、このまま結婚するものだとばかり思っていた。
「新しい婚約者とはどういうことですか?」
それはめっきり春めいてきた三月の末の事。父である王に新しい婚約者について話をされ珍しく声を荒げてしまった。
しかし、思い当たる節がないわけではない。レイフはフィーが優しく許してくれることをいいことに、つい、フィーを後回しにしていた。
それで、きっとフィーの堪忍袋の尾が切れたのだ。
いや、切れた尾はフィーではなく公爵の堪忍袋のものかもしれない。
「フィーと公爵と会わせてください。私がきちんと謝罪し説明すればわかってくれると思います。」
レイフのセリフに驚いたのは王だった。
「レイフ、お前、フィーのことを好いておるのか?」
「好きに決まっているでしょう?婚約者なのですから。私が結婚するのはフィーしか居ないと思っております。」
「何ということだ・・・」
王は項垂れた。
「どうしたのです?父上?」
「レイフ、お前は今年いくつになる?」
「十九です。」
「最後にフィーに会ったのいつだ?」
「ミッドサマーの夜会ですが?それがどうしたのです?」
「その夜会でお前は他の令嬢をエスコートしておったな。フィーを好いておるなら何故そのようなことをした?」
「あれは、ジャニスが行きたいところがあるからついてきて欲しいと言って、ついて行ったら夜会だったのです。」
「それで、そちはそのことをフィーに弁解したのか?」
「弁解?いえ、そのようなことは・・・」
「そうか。それで、その後、王宮の庭園でその娘と度々逢瀬を楽しんでいたのは何故じゃ?」
「逢瀬って?あれは不死の魔法薬に夕陽を浴びたバラの花びらが使えるかもという話になって、それを手に入れに行ってただけです。結局使えませんでしたけど。」
「では何故いつもボサボサなのに彼女といる時は身だしなみを整えておるのじゃ?」
「あぁ、彼女そういう魔法が得意なんですよね。お風呂に入るのが面倒でつい彼女に魔法でチャチャッと・・・」
「バカもん!」
「父上!?」
「お主のその態度のせいで、皆勘違いをしておった。フィーはもうこの世にはおらん。」
王の言葉をレイフは飲み込めなかった。
「この世にはいない?それって・・・」
「フィーは三ヶ月ほど前、国守樹の乙女となり、その身を国守樹に捧げたのだ。」
「なんと・・・嘘だっ!なぜ?」
レイフは父の言葉が信じられなかった。
「お前は何度、フィーとの茶会をすっぽかした?フィーは毎回、3時間はお前を待っていたのに。それに、夜会でのエスコートもしてやらなかっただろう?そのせいでフィーはずっとお前に蔑ろにされている令嬢として、周りに馬鹿にされていた。」
「そんなっ。」
「それでも、フィーはいつも前向きでお前のことを信じていたし、お前もそういう事を気にしていないだけでフィーと結婚するつもりなのだと思っていた。だから婚約は継続されていた。」
「そうです。僕はずっとフィーを大切に思っていました!」
「しかし、お前は夜会でジャニスをエスコートし、彼女と庭園で逢瀬を楽しむようになった。」
「逢瀬などではありませんっ!」
「周りはそう思わなかったということだ。儂もフィーも含めてな。しかもこれまで身だしなみなど気にしたことのないお前が身なりをきちんと整えておる。誰もがお前の心変わりを疑わなかった。前向きだったフィーは塞ぎ込むようになり、二人の婚約が解消されるのは時間の問題だと目された。王子に婚約を解消された彼女に明るい未来はない。それで、彼女はせめて名誉だけでも手に入れたいと・・・」
そこまで言った時、レイフは踵を返し走り出した。
レイフが走って行ったのはこの国の中心にある国守樹である。清らかな空気を出している。幼い頃に見た時にはもう少しトゲトゲとした空気だった。
国守樹が誰かを喰らった証拠だろう。
樹の幹に額を当て話しかける。
「あぁ、フィー・・・君はそこにいるのか?」
樹がどくんとはねたような気がした。
「ごめん。僕、何もわかっていなかった。つい魔法の研究に夢中になってしまって、フィーと最後に会ってからもう9ヶ月もたってしまっていたんだね・・・それでも僕はフィーのことをっ・・・愛していたんだ。」
そう言うと樹から出ている聖なる空気が更に澄んだ気がした。
「フィー、君はまだその中で生きているの?」
それから、レイフは魔法塔での研究をやめ、樹の研究に人生を捧げることにした。
魔法樹である、国守樹の研究はこれまで禁忌であった。
国守樹の怒りを買って効力が薄れ、国に魔獣の侵入を許せば一大事だからだ。
レイフはもし樹の怒りを買ったら次の生贄には自分がなると言って何とか研究させてもらえることになった。
しかし、毎日研究しても樹に喰われた人を返してもらう方法はわからなかった。
好きな魔法の研究をしている時はつい約束を忘れてしまいがちだが、レイフは幼い頃から栗色の髪をした彼女が好きだったし、このまま結婚するものだとばかり思っていた。
「新しい婚約者とはどういうことですか?」
それはめっきり春めいてきた三月の末の事。父である王に新しい婚約者について話をされ珍しく声を荒げてしまった。
しかし、思い当たる節がないわけではない。レイフはフィーが優しく許してくれることをいいことに、つい、フィーを後回しにしていた。
それで、きっとフィーの堪忍袋の尾が切れたのだ。
いや、切れた尾はフィーではなく公爵の堪忍袋のものかもしれない。
「フィーと公爵と会わせてください。私がきちんと謝罪し説明すればわかってくれると思います。」
レイフのセリフに驚いたのは王だった。
「レイフ、お前、フィーのことを好いておるのか?」
「好きに決まっているでしょう?婚約者なのですから。私が結婚するのはフィーしか居ないと思っております。」
「何ということだ・・・」
王は項垂れた。
「どうしたのです?父上?」
「レイフ、お前は今年いくつになる?」
「十九です。」
「最後にフィーに会ったのいつだ?」
「ミッドサマーの夜会ですが?それがどうしたのです?」
「その夜会でお前は他の令嬢をエスコートしておったな。フィーを好いておるなら何故そのようなことをした?」
「あれは、ジャニスが行きたいところがあるからついてきて欲しいと言って、ついて行ったら夜会だったのです。」
「それで、そちはそのことをフィーに弁解したのか?」
「弁解?いえ、そのようなことは・・・」
「そうか。それで、その後、王宮の庭園でその娘と度々逢瀬を楽しんでいたのは何故じゃ?」
「逢瀬って?あれは不死の魔法薬に夕陽を浴びたバラの花びらが使えるかもという話になって、それを手に入れに行ってただけです。結局使えませんでしたけど。」
「では何故いつもボサボサなのに彼女といる時は身だしなみを整えておるのじゃ?」
「あぁ、彼女そういう魔法が得意なんですよね。お風呂に入るのが面倒でつい彼女に魔法でチャチャッと・・・」
「バカもん!」
「父上!?」
「お主のその態度のせいで、皆勘違いをしておった。フィーはもうこの世にはおらん。」
王の言葉をレイフは飲み込めなかった。
「この世にはいない?それって・・・」
「フィーは三ヶ月ほど前、国守樹の乙女となり、その身を国守樹に捧げたのだ。」
「なんと・・・嘘だっ!なぜ?」
レイフは父の言葉が信じられなかった。
「お前は何度、フィーとの茶会をすっぽかした?フィーは毎回、3時間はお前を待っていたのに。それに、夜会でのエスコートもしてやらなかっただろう?そのせいでフィーはずっとお前に蔑ろにされている令嬢として、周りに馬鹿にされていた。」
「そんなっ。」
「それでも、フィーはいつも前向きでお前のことを信じていたし、お前もそういう事を気にしていないだけでフィーと結婚するつもりなのだと思っていた。だから婚約は継続されていた。」
「そうです。僕はずっとフィーを大切に思っていました!」
「しかし、お前は夜会でジャニスをエスコートし、彼女と庭園で逢瀬を楽しむようになった。」
「逢瀬などではありませんっ!」
「周りはそう思わなかったということだ。儂もフィーも含めてな。しかもこれまで身だしなみなど気にしたことのないお前が身なりをきちんと整えておる。誰もがお前の心変わりを疑わなかった。前向きだったフィーは塞ぎ込むようになり、二人の婚約が解消されるのは時間の問題だと目された。王子に婚約を解消された彼女に明るい未来はない。それで、彼女はせめて名誉だけでも手に入れたいと・・・」
そこまで言った時、レイフは踵を返し走り出した。
レイフが走って行ったのはこの国の中心にある国守樹である。清らかな空気を出している。幼い頃に見た時にはもう少しトゲトゲとした空気だった。
国守樹が誰かを喰らった証拠だろう。
樹の幹に額を当て話しかける。
「あぁ、フィー・・・君はそこにいるのか?」
樹がどくんとはねたような気がした。
「ごめん。僕、何もわかっていなかった。つい魔法の研究に夢中になってしまって、フィーと最後に会ってからもう9ヶ月もたってしまっていたんだね・・・それでも僕はフィーのことをっ・・・愛していたんだ。」
そう言うと樹から出ている聖なる空気が更に澄んだ気がした。
「フィー、君はまだその中で生きているの?」
それから、レイフは魔法塔での研究をやめ、樹の研究に人生を捧げることにした。
魔法樹である、国守樹の研究はこれまで禁忌であった。
国守樹の怒りを買って効力が薄れ、国に魔獣の侵入を許せば一大事だからだ。
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