【完結】自分のことを覚えていなかった幼馴染をそれでも一途に愛し続ける

ゴールデンフィッシュメダル

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屋敷に来て丸2年が過ぎた3年目の夏、シープシャーにサーカスが来た。サミュエルが11歳、私が10歳、ダニエルが9歳、アンジェリカは6歳だった。
サーカスはシープシャーにこれほど人が居たのかと思うくらい多くの人出だった。そのほとんどは避暑に来ていた上流階級の紳士淑女とその子供達だ。

湖のほとりに作られた特設テントのまわりには回転木馬や大きな滑り台など、ワクワクするアトラクションが設置されていたし、屋台や大道芸人も出ていてさながらお祭りの雰囲気だった。
サマンサはアンジェリカと一緒にピエロの大道芸を見た。ピエロは沢山のボールでお手玉をしたり、何もない手からどんどんと花を出したりした。終わった時は拍手喝采でサマンサも少ないながらピエロのカバンに銭を投げ入れた。
その後、屋台でふわふわの綿菓子ができる様子を眺めていた時だった。少し離れた屋台のところで少年たちが喧嘩をする声が聞こえてきた。
ふと目を向けるとその中心にサミュエルが居るようだった。周りにいた子たちの中には何度か一緒に遊んだことのある子も居たがどうもサミュエルの味方は少ないようだった。
サミュエルと敵対している子の一人が捨て台詞を吐いた。
「平民の分際で生意気だぞ」
サミュエルはひるんだような目をしたが次の瞬間、相手を体ごとのしていた。
「その平民より弱っちいのはどこのどいつだ?これからの時代は爵位だけじゃ食ってけねえぜ」

子供たちの喧嘩は仲介に入った大人たちの手によって強制的に終了させられたが、その後サミュエルはサーカスを見ている時もずっと心ここにあらずだった。

私はそんなサミュエルが気になってサーカスに集中出来なかった。

サーカスが終わったときにはすでに辺りは薄暗くなっていた。ハロー家からは子供達4人に加え旦那様、奥様、家庭教師である兄と執事のミスター・ボールドウィン、ガヴァネスのレディ・マリーにメイド2名という大所帯で来ていて逆にその事が仇になったのだろう。
気付いたときにはアンジェリカが集団から姿を消し迷子になっていた。
大人たちはサミュエル、ダニエル、サマンサの3人は先に帰るべきだと主張したが3人とも自分たちも迷子の捜索に加わると言って聞かなかった。
アンジェリカを捜しに湖の方に行くとサミュエルが桟橋の上から湖面に映る月を眺めていた。

「アンジェリカを探さないなら馬車に戻ったら?」
ボーッとしているサミュエルに話しかけた。
サミュエルは昼間から様子がおかしかった。
「サマンサは貴族が好きか?」
「貴族って?」
「昼間、ハリー・ハンプトンからピエロの花をもらってただろ?」

サマンサは昼のことを思い出した。確かにピエロが出した花を集めた男の子が花をくれたのだった。あれがハリー・ハンプトンだったのだろうか。サミュエルが何を言いたいのかわからないので黙っていると手を握られ、身体をサミュエルの方に引き寄せられたかと思うとサミュエルの手がおとがいに伸びた。顎を掴んで顔を上げさせられるとそっと口付けされた。
前回の触れたかどうかわからないキスではなく今回は言い訳できないまごうことないキスだった。

「サマンサのことが好きだ。」

唇が離れるとサミュエルの口から愛の言葉が紡がれた。

サミュエルはじっと私の顔を見つめた。

「今まで考えた事なかった?ちょっとは考えてみて」

そう言うと急に気恥ずかしくなったのかサミュエルは走ってどこかへ行ってしまった。その表情はこれまでのガキ大将でお調子者のサミュエルの顔ではなかった。

月が湖面にキラキラ輝いていてとても幻想的だった。

その後、どうやってみんなのところに戻ったのか、アンジェリカがいつ見つかったのか、サミュエルとどんな顔で同じ馬車に乗ったのか全く覚えていなかった。

気付くと翌日になっていてレディ・マリーとのマナーレッスンの時間にボーッとした罰として竹の定規で背中を叩かれていた。

身が入らないと言う事でマナーレッスンは早々にお開きになり、図書室で本を読みながらふとサミュエルのことを考えた。

意志の強さを感じさせる顎のラインは整っていて素敵だし額から眉のあたりは頭の良さを感じさせる。そして何より澄んだブルーの瞳が魅力的だ。あの瞳で見つめられるといつもドキドキしてしまう。
頭の回転が早くどんなゲームをしても負けているところを見たことがない。どんな集団の中に入っても上手く立ち回り人の心を掌握するのだ。
身近にサミュエルみたいな男の子がいて惚れるなという方が難しい話だった。

この時私は自分がサミュエルの事が好きなのだとはっきりと自覚した。

それは、まるで紅茶にミルクを入れるのが当たり前のように、パンにバターを塗るのが当たり前のように私にとって当たり前のことだった。

その日の午後はずっと落ち着かない気分だった。
サミュエルにこの気持ちを伝えないと、と思ったがハロー家の生活の中でサミュエルと二人きりになれる機会などなかった。

サミュエルは午前中に兄サンダースとの勉強があり、午後からは剣や乗馬などの鍛錬をしていた。
この頃には何もない時の夕食は大人と食べるようになっていたし、サミュエルとは席が離れていた。夕食後には私は従業員用の別館で過ごし、特に用もないのにサミュエルの部屋のある本館をウロウロしていたらメイドに見つかって何か言われるだろう。

チャンスがあるとすれば夕食の時間だと思った。サミュエルと同じ空間で過ごすのは一日の中でここだけだった。
しかし、ハロー家の夕食は大抵大勢で食べるのがならわしであり、二人きりになどなれる訳もなかった。

「今日の夕食の時にソワソワしていたけれど何かあったの?」
食事が終わって部屋に戻ったときに兄、サンダースが聞いてきた。
「お兄様、わたくし昨日のサーカスに行った時にサミュエルと---」
そこまで言った時、兄の目に哀しみの色が灯るのを感じて何も言えなくなった。
妹のこんな話など聞きたくないのかもしれない。

この時、兄は24歳で見目麗しいのに恋の噂がないのはどうしてだろうと思った。

「お兄様は恋の経験がおありですか?」

それは何気なく聞いた一言だった。
すると、兄がこれまでに見たことのない苦しそうな、そしてとても色気のある表情になった。
「あぁ、あるよ。とても幸せでとても悲しくて、幸福も絶望も全てを経験した」

それは想像もできないくらいの、悲しくて絶望したということは叶わぬ恋だったのだろう。
「兄様はその方を忘れたくて旅をしていらしたのですか?」
「忘れる?忘れるなんてできやしないんだ。彼女は俺で俺は彼女だった。今でも彼女は俺の永遠なんだ。永遠にするために旅に出たんだよ」
「永遠?」
「俺の心の中に住んでいるのは死ぬまで彼女一人だってことさ。あぁ、そうなんだよサマンサ」

そう言うとサンダースは寝室に引き上げてしまった。
兄の恋はどんな恋だったのだろうか。
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