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サミュエルは13歳から全寮制の学園に入学する事を目標に勉強してきた。12歳になり本格的な受験準備に取り掛かったのだ。
国に上流階級の子弟の通う学園はいくつかあるが、その中で特に名門と言われるのは二校だった。
一校は男系の親戚筋を辿って5親等以内に爵位を持っている人物がいないと受験資格のない学校でサミュエルは受験資格すらなかった。
そしてもう一校がサミュエルの目指していたグリフィス校だった。平民にも門戸が開かれているとは言え、卒業生もしくは在校生からの推薦がないと受験資格が得られず、その推薦文も評価の対象になるのだ。
つまり、推薦人と普段から交流がありそれなりに実のある文を書いてもらわなくてはならない。
大抵の貴族は親戚に出身者が居るのでその者に推薦文を書いてもらえば良いのだが、サミュエルはそうでないのでまずは推薦人を探し、その人と定期的に交流しなくてはならない。
その交流のためサミュエルは王都にあるタウンハウスにたまに行くようになった。
サミュエルと過ごす時間の減ったサマンサはこれまであまり見えていなかったハロー家のことがだいぶ見えてくるようになった。
旦那様は仕事が忙しくほとんど王都のタウンハウスに住んでいた。ハロー商会の規模は年々大きくなったがそれに比例するように奥様との仲は冷えていった。奥様はここ数年で益々大きくなったハロー家の看板を支えるほどの才覚がなく、平民なのに上流階級に片足どころか両足をを突っ込み始めた立場に居心地の悪さを感じているようだった。いつしかシープシャーの屋敷から出ることはほとんどなくなっていた。
弟のダンはサミュエルにコンプレックスをこじらせており、学園には行かず将来は兵士になると宣言していた。
確かに体力があり体格もいいダンには向いているように思われた。野戦だとサミュエルにも勝てそうである。ただしフェンシングなどの決めれたルールの格闘競技となるとサミュエルに軍配が上がることが多かった。
サミュエルはルールをよく知り、敵の弱点を分析しどこをどう攻撃したら効果的なのか戦略を立てることが上手かった。
ダンはサミュエルのそういうの要領の良いところを憎んでいたし、サミュエルはダンのような一本槍で真正面からぶつかる生き方しか知らないところを小馬鹿にしていた。二人はかつてのような仲のいい兄弟ではなくなっていた。
アンジェリカは末っ子ならではのわがままはあるものの、家族の全ての人間と仲良くできる唯一の人物でハロー家の要だった。
そんな中、兄サンダースの様子が日に日におかしくなってきていた。
かつてサミュエルが心配していた情熱的な目線をサマンサも感じるようになっていた。
はじめてそれを感じたのはサミュエルが王都に行っていた時だった。サマンサはサミュエルが居ないことが寂しくて彼が好きな湖に夕陽が沈む瞬間を見ていた。
後ろからサンダースが来たかと思うと
「ゾナーの岬の夕陽を覚えてる?」
と言った。
サマンサは昔、2人で旅をしていた頃に見ていたのかもと思い、
「覚えていませんわ」
と答えた。
すると、サンダースは困惑した表情で詰め寄ってきた。
瞳の奥にはギラギラと思慕の炎が燃えたぎっていた。
「サマンサ、何の冗談?あのゾナーでの日々を忘れてしまったというの?僕があの時、サマンサを悪い虫から守るためにどれだけ奔走したか。でもそのおかげでサマンサと・・・」
とそこまで言った時、兄は数秒間、困惑した顔で固まった。ふと、瞳がいつもの兄のものに変わった。
「あぁ、サマンサ。日が沈むと寒くなる。早く家に戻っておいで」
それまでの会話など何もなかったかのように行ってしまったのだ。
その後も兄が瞳に燃え滾るような情熱を宿しているときにはサマンサではない誰か別のサマンサとの思い出話をされることが多かった。
特に話題に出てくるのは戦わずの森での夏の嵐の夜の話、ゾナーでの日々の話、そして"あの館"での幼い日々の話だった。
サミュエルの誕生日から3ヶ月後の4月、サマンサは11歳になった。サミュエルからは王都で買ったというさまざまな色の刺繍糸と綺麗な宝石のついた蝶の柄の金の指抜きをプレゼントされた。
「いつかはアクセサリーを送りたいんだけどまだ早いかなって思って。サマンサにはじめに送るアクセサリーはもう決めてるんだ。金にルビーの婚約指輪がいい」
金にルビーの指輪はの海賊シリーズ中で重要な役割を担った指輪だった。確か運命の赤い糸を示すルビーと豊かさの象徴である金を合わせる事で相手のことを一生大切にするという意味があったハズである。
「婚約指輪!?あぁ、サミュエル大好き。ありがとう。この指抜きとても綺麗。絶対大切にする。サミュエルを思ってたくさん刺繍するわ」
「ねえ、サマンサ。思ってたんだけど、これからは俺のことサムって呼んでくれないかな。俺もサマンサのことをサムって呼ぶよ。他の誰かがサムって呼ぶとややこしいだろ?でも二人で呼び合う分にはややこしくない。だって自分以外のもう一人だから。二人だけの時はサムって呼び合おう」
「まぁ、素敵。二人だけの特別な呼び方ね」
そうして私たちはキスをした。はじめての大人のキスだった。
国に上流階級の子弟の通う学園はいくつかあるが、その中で特に名門と言われるのは二校だった。
一校は男系の親戚筋を辿って5親等以内に爵位を持っている人物がいないと受験資格のない学校でサミュエルは受験資格すらなかった。
そしてもう一校がサミュエルの目指していたグリフィス校だった。平民にも門戸が開かれているとは言え、卒業生もしくは在校生からの推薦がないと受験資格が得られず、その推薦文も評価の対象になるのだ。
つまり、推薦人と普段から交流がありそれなりに実のある文を書いてもらわなくてはならない。
大抵の貴族は親戚に出身者が居るのでその者に推薦文を書いてもらえば良いのだが、サミュエルはそうでないのでまずは推薦人を探し、その人と定期的に交流しなくてはならない。
その交流のためサミュエルは王都にあるタウンハウスにたまに行くようになった。
サミュエルと過ごす時間の減ったサマンサはこれまであまり見えていなかったハロー家のことがだいぶ見えてくるようになった。
旦那様は仕事が忙しくほとんど王都のタウンハウスに住んでいた。ハロー商会の規模は年々大きくなったがそれに比例するように奥様との仲は冷えていった。奥様はここ数年で益々大きくなったハロー家の看板を支えるほどの才覚がなく、平民なのに上流階級に片足どころか両足をを突っ込み始めた立場に居心地の悪さを感じているようだった。いつしかシープシャーの屋敷から出ることはほとんどなくなっていた。
弟のダンはサミュエルにコンプレックスをこじらせており、学園には行かず将来は兵士になると宣言していた。
確かに体力があり体格もいいダンには向いているように思われた。野戦だとサミュエルにも勝てそうである。ただしフェンシングなどの決めれたルールの格闘競技となるとサミュエルに軍配が上がることが多かった。
サミュエルはルールをよく知り、敵の弱点を分析しどこをどう攻撃したら効果的なのか戦略を立てることが上手かった。
ダンはサミュエルのそういうの要領の良いところを憎んでいたし、サミュエルはダンのような一本槍で真正面からぶつかる生き方しか知らないところを小馬鹿にしていた。二人はかつてのような仲のいい兄弟ではなくなっていた。
アンジェリカは末っ子ならではのわがままはあるものの、家族の全ての人間と仲良くできる唯一の人物でハロー家の要だった。
そんな中、兄サンダースの様子が日に日におかしくなってきていた。
かつてサミュエルが心配していた情熱的な目線をサマンサも感じるようになっていた。
はじめてそれを感じたのはサミュエルが王都に行っていた時だった。サマンサはサミュエルが居ないことが寂しくて彼が好きな湖に夕陽が沈む瞬間を見ていた。
後ろからサンダースが来たかと思うと
「ゾナーの岬の夕陽を覚えてる?」
と言った。
サマンサは昔、2人で旅をしていた頃に見ていたのかもと思い、
「覚えていませんわ」
と答えた。
すると、サンダースは困惑した表情で詰め寄ってきた。
瞳の奥にはギラギラと思慕の炎が燃えたぎっていた。
「サマンサ、何の冗談?あのゾナーでの日々を忘れてしまったというの?僕があの時、サマンサを悪い虫から守るためにどれだけ奔走したか。でもそのおかげでサマンサと・・・」
とそこまで言った時、兄は数秒間、困惑した顔で固まった。ふと、瞳がいつもの兄のものに変わった。
「あぁ、サマンサ。日が沈むと寒くなる。早く家に戻っておいで」
それまでの会話など何もなかったかのように行ってしまったのだ。
その後も兄が瞳に燃え滾るような情熱を宿しているときにはサマンサではない誰か別のサマンサとの思い出話をされることが多かった。
特に話題に出てくるのは戦わずの森での夏の嵐の夜の話、ゾナーでの日々の話、そして"あの館"での幼い日々の話だった。
サミュエルの誕生日から3ヶ月後の4月、サマンサは11歳になった。サミュエルからは王都で買ったというさまざまな色の刺繍糸と綺麗な宝石のついた蝶の柄の金の指抜きをプレゼントされた。
「いつかはアクセサリーを送りたいんだけどまだ早いかなって思って。サマンサにはじめに送るアクセサリーはもう決めてるんだ。金にルビーの婚約指輪がいい」
金にルビーの指輪はの海賊シリーズ中で重要な役割を担った指輪だった。確か運命の赤い糸を示すルビーと豊かさの象徴である金を合わせる事で相手のことを一生大切にするという意味があったハズである。
「婚約指輪!?あぁ、サミュエル大好き。ありがとう。この指抜きとても綺麗。絶対大切にする。サミュエルを思ってたくさん刺繍するわ」
「ねえ、サマンサ。思ってたんだけど、これからは俺のことサムって呼んでくれないかな。俺もサマンサのことをサムって呼ぶよ。他の誰かがサムって呼ぶとややこしいだろ?でも二人で呼び合う分にはややこしくない。だって自分以外のもう一人だから。二人だけの時はサムって呼び合おう」
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そうして私たちはキスをした。はじめての大人のキスだった。
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