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サンダースは日に日に夢の中の住人で居る時間が長くなっていた。
私が別館に戻ると瞳に情熱をたぎらせたサンダースが寄ってきた。
「あぁ、良かった。サマンサ、どこに行ってたんだい?母上が僕たちのことを無かったことにしようとしてるんだ。君への縁談の話が上がってる。ねぇ、僕と駆け落ちしよう」
「・・・・・」
どんどん際どい台詞になってきている。
しかもここは別館の入り口で共用部である。誰に見られるかわからない。
「大丈夫だよ。もうグリフィスには戻らない。実は名前も戸籍ももう手に入れてるんだ。きっと職にもつける。父上にも母上にもバレずに生きて行けるよ」
(兄様もグリフィスの学生だったんだわ)
しかしサンダースは髪に口付けしようとして我に返った。
サンダースが髪を見るたびに我にかえるのがわかっていた。恐らくサンダースの"サマンサ"は髪色が自分と異なるのだろう。
成長とともにサマンサの髪色は少しずつ濃くなっていた。ハロー家に来た頃は綺麗なブロンドの髪だったのが今は太陽の下ではブロンドに見えるが部屋に入ると栗色に見えるくらいになってきている。成長とともに髪の色が濃くなるのはよくあることだった。
(私の髪の色が濃くなってきているのも兄様が混乱している要因なのだわ)
「サマンサ、ごめん。俺、何をしようとしていた?最近自分でも自分がおかしいってわかってるんだ」
「兄様。本当のことを教えてくれませんか?わたくしが"サマンサ"じゃないことは薄々気付いています。"サマンサ"ってどなたですか?お母様とお父様のことについても教えてください」
「いつか伝えなくてはならないことはわかっている。でも、、、まだ。サマンサに失望されたくないんだ!」
「失望されるようなことをしたのですか?」
「、、、そうかもしれない」
「兄様と私の関係だけでも教えてください。私はあなたの何なんですか?妹だとは思えない」
「そうだよ。俺たちは兄妹なんかじゃないさ!"サマンサ"は俺の、わかってるんだろう?」
そう言うとギュッとサマンサを抱きしめて耳元で呟いた。
「君は俺とサマンサの娘だ」
「!!!」
私はサンダースからパッと身を離した。いくつかの可能性の中からそれもあると考えていたが実際に言われると信じられない思いだった。
「だって貴方と私では歳が・・・」
「俺たちは早熟なガキだった。自分が何をしているのかちゃんと理解していなかったんだ。それが子を成す行為だと言うことも」
消え入るような声でサンダースは続けた。
「いつかちゃんと説明するよ。だから今は待って欲しい」
そう言ってもう一度抱きしめると自室に戻っていった。
その様子を見守っていると後ろから誰かに腕を引っ張られた。
「今のはどういうことだ!?」
「サム。どこまで…聞いて…?」
「あいつが好きなのか?俺のこと嫌いなったのか?」
きっとサンダースが囁いた部分や声が小さかったところは聞こえていないのだろう。サンダースを好きだなんてあるわけない。でもこのまま勘違いされたまま別れた方が楽なのかもしれない。ここで否定して元の関係に戻って、また別れ話を切り出すの?そんなの耐えられない。
「やっぱり兄妹じゃ無かったんだな?おめでとうと言うべきか?」
「わたしは……」
「そんな眼をするな!まだサムが俺を好きなんだって勘違いしそうになる」
「だって………」
あなたが好きという言葉を懸命に飲み込んだ。
「君がそんな眼をしてるのが悪いんだ」
そう言うと荒っぽく唇を奪われた。
身体を離すとサミュエルは服のシワを伸ばしながら言った。
「グリフィスから合格の知らせが届いた。今日は晩餐になるからそのつもりで」
そう言って踵を返して去っていった。
"おめでとう"という隙すらなかった。
サンダースにも声を掛けなくてはならない。
二人の部屋に戻るとサンダースは全てを見ていたようだった。
「俺のせいで勘違いさせたみたいだったけど良かったのかい?」
「今日、奥様に言われたの。わたしたちは結ばれないって」
「そんなことあるか。君はサミュエルが好きだしサミュエルも君を愛してる。それが事実だ」
「でも奥様は後ろ盾がなくてハロー商会の奥方をするのは大変だとおっしゃったわ。ご自身が苦労されてるから余計、後ろ盾のある家の娘さんに嫁に来て欲しいのよ」
「俺たちの娘だったら後ろ盾なんてなくてもハロー商会の奥方の役割くらいつとめられるさ。でも、俺もずっとここにいられるわけじゃないし、今の状況だと次ちゃんと働けるかわからない。戻っても良い頃合なのかもな」
「戻るって?」
「俺たちの実家だよ」
「実家?」
「あぁ、でも、出ていく前にサミュエルの誤解は解いて行くこと」
「どうして?」
「俺がサマンサに嘘をつかれていたらと思うと。君とサミュエルは結ばれないかもしれないけど、気持ちにだけは嘘をつかないで欲しい」
「わかったわ」
しかし晩餐会でサミュエルと話すことはなかった。
サンダースは自分の役割は終えたからと晩餐の席で家庭教師の職を辞すことを伝えた。
「そろそろ放蕩息子を演じて良い時間は過ぎまして、実家に戻ろうかと思います」
「実家がおありになるの?」
奥様のこの疑問は最もだった。
ハロー家に来て4年、実家に帰ったことなど無かったし話題になってもサンダースは上手く避けていた。
「えぇ、折り合いが悪くてずっと寄り付かなかったですが、サマンサもこのままではいけないでしょうし」
「いつ頃、おたちになるご予定ですの?」
「イースターの休暇には実家に居たいと思いますので、3月末までこちらにお世話になってというので考えております」
「まぁ、それじゃああと3日もないですわ」
「えぇ、急な話で申し訳ありません。ただ、サミュエルもグリフィスに合格して、もう私の役割は終わりました。両親と積もる話もありますしイースターの休暇までには実家に戻りたいと思っております」
「残念ですがもうお決めなのですね。寂しくなりますわ」
そう言った奥様の顔には満足げな表情が浮かんでいた。
私が別館に戻ると瞳に情熱をたぎらせたサンダースが寄ってきた。
「あぁ、良かった。サマンサ、どこに行ってたんだい?母上が僕たちのことを無かったことにしようとしてるんだ。君への縁談の話が上がってる。ねぇ、僕と駆け落ちしよう」
「・・・・・」
どんどん際どい台詞になってきている。
しかもここは別館の入り口で共用部である。誰に見られるかわからない。
「大丈夫だよ。もうグリフィスには戻らない。実は名前も戸籍ももう手に入れてるんだ。きっと職にもつける。父上にも母上にもバレずに生きて行けるよ」
(兄様もグリフィスの学生だったんだわ)
しかしサンダースは髪に口付けしようとして我に返った。
サンダースが髪を見るたびに我にかえるのがわかっていた。恐らくサンダースの"サマンサ"は髪色が自分と異なるのだろう。
成長とともにサマンサの髪色は少しずつ濃くなっていた。ハロー家に来た頃は綺麗なブロンドの髪だったのが今は太陽の下ではブロンドに見えるが部屋に入ると栗色に見えるくらいになってきている。成長とともに髪の色が濃くなるのはよくあることだった。
(私の髪の色が濃くなってきているのも兄様が混乱している要因なのだわ)
「サマンサ、ごめん。俺、何をしようとしていた?最近自分でも自分がおかしいってわかってるんだ」
「兄様。本当のことを教えてくれませんか?わたくしが"サマンサ"じゃないことは薄々気付いています。"サマンサ"ってどなたですか?お母様とお父様のことについても教えてください」
「いつか伝えなくてはならないことはわかっている。でも、、、まだ。サマンサに失望されたくないんだ!」
「失望されるようなことをしたのですか?」
「、、、そうかもしれない」
「兄様と私の関係だけでも教えてください。私はあなたの何なんですか?妹だとは思えない」
「そうだよ。俺たちは兄妹なんかじゃないさ!"サマンサ"は俺の、わかってるんだろう?」
そう言うとギュッとサマンサを抱きしめて耳元で呟いた。
「君は俺とサマンサの娘だ」
「!!!」
私はサンダースからパッと身を離した。いくつかの可能性の中からそれもあると考えていたが実際に言われると信じられない思いだった。
「だって貴方と私では歳が・・・」
「俺たちは早熟なガキだった。自分が何をしているのかちゃんと理解していなかったんだ。それが子を成す行為だと言うことも」
消え入るような声でサンダースは続けた。
「いつかちゃんと説明するよ。だから今は待って欲しい」
そう言ってもう一度抱きしめると自室に戻っていった。
その様子を見守っていると後ろから誰かに腕を引っ張られた。
「今のはどういうことだ!?」
「サム。どこまで…聞いて…?」
「あいつが好きなのか?俺のこと嫌いなったのか?」
きっとサンダースが囁いた部分や声が小さかったところは聞こえていないのだろう。サンダースを好きだなんてあるわけない。でもこのまま勘違いされたまま別れた方が楽なのかもしれない。ここで否定して元の関係に戻って、また別れ話を切り出すの?そんなの耐えられない。
「やっぱり兄妹じゃ無かったんだな?おめでとうと言うべきか?」
「わたしは……」
「そんな眼をするな!まだサムが俺を好きなんだって勘違いしそうになる」
「だって………」
あなたが好きという言葉を懸命に飲み込んだ。
「君がそんな眼をしてるのが悪いんだ」
そう言うと荒っぽく唇を奪われた。
身体を離すとサミュエルは服のシワを伸ばしながら言った。
「グリフィスから合格の知らせが届いた。今日は晩餐になるからそのつもりで」
そう言って踵を返して去っていった。
"おめでとう"という隙すらなかった。
サンダースにも声を掛けなくてはならない。
二人の部屋に戻るとサンダースは全てを見ていたようだった。
「俺のせいで勘違いさせたみたいだったけど良かったのかい?」
「今日、奥様に言われたの。わたしたちは結ばれないって」
「そんなことあるか。君はサミュエルが好きだしサミュエルも君を愛してる。それが事実だ」
「でも奥様は後ろ盾がなくてハロー商会の奥方をするのは大変だとおっしゃったわ。ご自身が苦労されてるから余計、後ろ盾のある家の娘さんに嫁に来て欲しいのよ」
「俺たちの娘だったら後ろ盾なんてなくてもハロー商会の奥方の役割くらいつとめられるさ。でも、俺もずっとここにいられるわけじゃないし、今の状況だと次ちゃんと働けるかわからない。戻っても良い頃合なのかもな」
「戻るって?」
「俺たちの実家だよ」
「実家?」
「あぁ、でも、出ていく前にサミュエルの誤解は解いて行くこと」
「どうして?」
「俺がサマンサに嘘をつかれていたらと思うと。君とサミュエルは結ばれないかもしれないけど、気持ちにだけは嘘をつかないで欲しい」
「わかったわ」
しかし晩餐会でサミュエルと話すことはなかった。
サンダースは自分の役割は終えたからと晩餐の席で家庭教師の職を辞すことを伝えた。
「そろそろ放蕩息子を演じて良い時間は過ぎまして、実家に戻ろうかと思います」
「実家がおありになるの?」
奥様のこの疑問は最もだった。
ハロー家に来て4年、実家に帰ったことなど無かったし話題になってもサンダースは上手く避けていた。
「えぇ、折り合いが悪くてずっと寄り付かなかったですが、サマンサもこのままではいけないでしょうし」
「いつ頃、おたちになるご予定ですの?」
「イースターの休暇には実家に居たいと思いますので、3月末までこちらにお世話になってというので考えております」
「まぁ、それじゃああと3日もないですわ」
「えぇ、急な話で申し訳ありません。ただ、サミュエルもグリフィスに合格して、もう私の役割は終わりました。両親と積もる話もありますしイースターの休暇までには実家に戻りたいと思っております」
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