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1. 出来損ないのアルファ
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五月晴れのある土曜の昼下がり。
それは、俺が病院から帰ってきた時だった。
玄関を開けるとその瞬間にブワッと何かが襲ってきた。それがとてもいい匂いだと言うことに気付いた時には、俺は何かに飲み込まれていた。
かろうじて残っていた理性でその場を見渡すと玄関に今まで見たことのない男性が立っていた。
黒髪で真面目そうな顔をしたその人は、白い肌なのに唇だけは赤く艶かしく、恐ろしいほどの色気が漂っていた。
俺は身体中が熱くなっていった。
「はじめまして。マサトさんの弟さんかな?」
相手は平気な顔をしてそう聞いてくるが俺は
「あぁ。」
と返すのがやっとだった。
「僕はマサトさんと先日お見合いした如月ジュンです。今日はマサトさんと二度目のデートなんだけど、マサトさんが忘れ物をしたとかでちょっとご自宅に寄らせてもらいました。」
「そうですか。」
ふと何かに気づいたようにこんなことを口にした。
「弟さんはベータでしたっけ?」
俺は自分を保つのに精一杯で表情を取り繕う余裕もなかった。ジュンをにらむと
「お前には関係ない」
そう言って足早に階段を駆け上り自室に入った。
それからの俺は酷かった。なんとなくこれがラットなのかと思いながら何度も自分で自分を慰めた。
朦朧とした頭に浮かぶのは先程出会ったばかりのジュンという青年の痴態ばかりで、どうしようという底知れぬ恐怖と、いけないことをしているという背徳感が余計に下半身をたぎらせた。
頭が冷静さを取り戻した時には月曜の朝で、これはもう一度病院に行かなくてはいけないな、とため息をついた。
***
「αになってますね」
医者は笑ってそう言った。
「しかし土曜は安定していたのにおかしいな。何かありました?」
医者が訝しげに聞いてくる。
「あの後ある人に会って、それからずっとラットみたいになってました」
医者はふんふん、と頷いている。
「やっちゃった?」
「いえ、やってはないです。」
「じゃあ耐えたの?凄いね。多分それ運命の番だよ。」
医者はそう言いながら何かPCに入力している。
「これ、アルファの証明書。戸籍の方に反映しておいて。あと、いざと言うときのための抑制剤も処方しておくね。あれ、どうした?」
俯いている俺に医者が聞いてくる。
「あの、俺はラットみたいになったんですが相手は全然で、そんなことってあるのかなって。運命の番だったらお互いわかるって聞いたんですが」
俺がそう聞くと医者は少し悩んで、
「マヒロくんは今まで分化してなかったから、あんまり匂いが出なかったのかな?それか相手が何かの事情で鼻が効かなかったのかもしれないね。」
「鼻が効かない?」
「鼻の奥、うなじの近くにアルファはオメガの、オメガはアルファの匂いというかフェロモンを感知する器官があってね、色々な要因でそれが働かないことがあるんだ。君だって一昨日までは匂わなかったわけだし。オメガの場合、番がうなじを噛むと噛まれた相手の匂いしかわからなくなるって言うだろう。相手に既に番がいたのなら匂わないかもしれないね。」
「それはないと思います。」
相手は兄の婚約者候補だ。少なくともまだ清い身の上だろう。
「んーじゃあ、それ以外かな。鼻が詰まっててそこまで匂いが届かないと匂わないし、あとはストレスだったり、病気の後遺症や薬の副作用で一時的にって人もいる。解明はされてないけど生まれつき匂わない人も居るらしい。」
「そうなんですか。」
「少なくともマヒロくんの身体がここまで反応してるんだ。運命の相手だと言って差し支えないと思うよ」
そう言いながら医者は今日の血液検査の結果を見た。
相手は兄の婚約者候補だ。あまり引っ掻き回したくない。
「それで、俺はこれからも定期的に通院は必要ですか?」
「あと2-3回は経過観察で来てもうけど、このままアルファで安定するだろうから、そしたら普通のアルファと同じ感じでいいよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
そう言って俺は病院を後にした。
それは、俺が病院から帰ってきた時だった。
玄関を開けるとその瞬間にブワッと何かが襲ってきた。それがとてもいい匂いだと言うことに気付いた時には、俺は何かに飲み込まれていた。
かろうじて残っていた理性でその場を見渡すと玄関に今まで見たことのない男性が立っていた。
黒髪で真面目そうな顔をしたその人は、白い肌なのに唇だけは赤く艶かしく、恐ろしいほどの色気が漂っていた。
俺は身体中が熱くなっていった。
「はじめまして。マサトさんの弟さんかな?」
相手は平気な顔をしてそう聞いてくるが俺は
「あぁ。」
と返すのがやっとだった。
「僕はマサトさんと先日お見合いした如月ジュンです。今日はマサトさんと二度目のデートなんだけど、マサトさんが忘れ物をしたとかでちょっとご自宅に寄らせてもらいました。」
「そうですか。」
ふと何かに気づいたようにこんなことを口にした。
「弟さんはベータでしたっけ?」
俺は自分を保つのに精一杯で表情を取り繕う余裕もなかった。ジュンをにらむと
「お前には関係ない」
そう言って足早に階段を駆け上り自室に入った。
それからの俺は酷かった。なんとなくこれがラットなのかと思いながら何度も自分で自分を慰めた。
朦朧とした頭に浮かぶのは先程出会ったばかりのジュンという青年の痴態ばかりで、どうしようという底知れぬ恐怖と、いけないことをしているという背徳感が余計に下半身をたぎらせた。
頭が冷静さを取り戻した時には月曜の朝で、これはもう一度病院に行かなくてはいけないな、とため息をついた。
***
「αになってますね」
医者は笑ってそう言った。
「しかし土曜は安定していたのにおかしいな。何かありました?」
医者が訝しげに聞いてくる。
「あの後ある人に会って、それからずっとラットみたいになってました」
医者はふんふん、と頷いている。
「やっちゃった?」
「いえ、やってはないです。」
「じゃあ耐えたの?凄いね。多分それ運命の番だよ。」
医者はそう言いながら何かPCに入力している。
「これ、アルファの証明書。戸籍の方に反映しておいて。あと、いざと言うときのための抑制剤も処方しておくね。あれ、どうした?」
俯いている俺に医者が聞いてくる。
「あの、俺はラットみたいになったんですが相手は全然で、そんなことってあるのかなって。運命の番だったらお互いわかるって聞いたんですが」
俺がそう聞くと医者は少し悩んで、
「マヒロくんは今まで分化してなかったから、あんまり匂いが出なかったのかな?それか相手が何かの事情で鼻が効かなかったのかもしれないね。」
「鼻が効かない?」
「鼻の奥、うなじの近くにアルファはオメガの、オメガはアルファの匂いというかフェロモンを感知する器官があってね、色々な要因でそれが働かないことがあるんだ。君だって一昨日までは匂わなかったわけだし。オメガの場合、番がうなじを噛むと噛まれた相手の匂いしかわからなくなるって言うだろう。相手に既に番がいたのなら匂わないかもしれないね。」
「それはないと思います。」
相手は兄の婚約者候補だ。少なくともまだ清い身の上だろう。
「んーじゃあ、それ以外かな。鼻が詰まっててそこまで匂いが届かないと匂わないし、あとはストレスだったり、病気の後遺症や薬の副作用で一時的にって人もいる。解明はされてないけど生まれつき匂わない人も居るらしい。」
「そうなんですか。」
「少なくともマヒロくんの身体がここまで反応してるんだ。運命の相手だと言って差し支えないと思うよ」
そう言いながら医者は今日の血液検査の結果を見た。
相手は兄の婚約者候補だ。あまり引っ掻き回したくない。
「それで、俺はこれからも定期的に通院は必要ですか?」
「あと2-3回は経過観察で来てもうけど、このままアルファで安定するだろうから、そしたら普通のアルファと同じ感じでいいよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
そう言って俺は病院を後にした。
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