【完結】旦那様は女性でした?

ゴールデンフィッシュメダル

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捜索

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ジェニファーはしばらく悲しみに暮れていて、自分を取り戻した時には一週間ほどが経っていた。

バネッサが海に落ちたのは暖かい秋の日だったので一命を取り留めたかもしれないと捜索隊が出たが発見は叶わなかったらしい。その話を聞いてジェニファーは(バネッサは女性なんだから見つからなくて当然よね)と思った。

こういう場合、この国では1年経っても見つからなければ死亡と見做される。ジェニファーは一年後まではミッドラッツェル夫人であり、一年後にはミッドラッツェル未亡人になる。未亡人になれば再婚が認められる。

ジェニファーはバネッサを探しに行かなければと思った。捜索隊ではバネッサは見つけられない。みんな落ちたのは男性だと思っている。
ふと、コリンは何をしているのだろうかと思った。
コリンの部屋を訪ねると大量の書類に埋もれたコリンが居た。

「なにをやってるんですの?」
ジェニファーは勢いよくコリンの部屋の扉を開いた。
「探しに行きますわよ!」
コリンは首を横に振った後、ジェニファーの様子を見てこう言った。

「君、正気に戻ったんだね」

コリンの顔色は土気色になっていて、髭は剃り残しがあるし、目の下のクマは酷いありさまだった。

「コリンあなた・・・」

その様子からこの1週間、コリンがまともに寝ていないのだろうことがわかった。コリンの部屋に大量に書類があるということは伯爵も悲しみに暮れているのだろう。

「コリン、あなたちゃんと寝ていますの?」

「ベッドには入っているよ」

「酷い顔だわ。イケメンが台無しよ」

ジェニファーがそういうと、コリンが苦笑して
「君も相当ひどいよ。鏡を見てご覧」
と言ったのでジェニファーはコリンの部屋の姿見を見た。するとそこには髪はボサボサで顔色が悪く目の下にクマのできた女が立っていた。

「まぁ、本当だわ。」

ジェニファーはこれは良くないと思った。
もう一週間もバネッサは見つかっていないのだ。探すにしてもまずは自分たちが体力をつけなければならない。
ふと空を見るとまだ陽は高かったが、それでもまずは自分たちはご飯を食べて寝るべきだと思った。

「私はこれから湯浴みをします。コリンも湯浴みをしてください。その後、一緒にご飯を食べましょう。そうしてたくさん寝なくては。」

食事は牛乳を使ったスープと柔らかいパンだけにしてもらった。長い間まともに食事をとっていなかったので急に食べてはお腹がびっくりすると思ったからだ。

「捜索隊は今、何処にいますの?私も向かおうと思いますの。」

食事をとりながらジェニファーはこの一週間の様子をコリンから伺う。

「さぁ」

「さぁ、って?コリンあなたバネッサを見つける気はあるんですの?」

ジェニファーが聞くとコリンは瞳を不安げに揺らした。ジェニファーは声を落としてぎりぎりコリンにだけ声が届くように言葉を発した。

「コリン、あなた、バネッサのことを愛しているのでしょ。だったら・・」
「ちょっ、何を言い出すんだよ。俺は別に・・・」
「別に・・・そう?まぁ、だとしても家族ですもの。探しに行かなくては。」

コリンはダンマリだった。

次の日、久しぶりに沢山寝たジェニファーはコリンが役立たないので1人で兵の詰め所に行き捜索場所を聞き出した。
この辺りは潮の流れが南から北に向かっているから、バネッサアーロンが居るなら北の方だそうで、海岸線沿い北上しながらバネッサを探しに行くことにした。

ひとつひとつの村、町で聞き込みをしながらの道となるためかなり時間がかる。しばらくは王都の館から捜索に行けたが、日帰りが難しい距離になったので宿泊しながら探すことになった。
ジェニファーは主に修道院を訪ね、記憶がない女性が保護されていないか確認していったが、これと言った人は現れなかった。

そうして一ヶ月が過ぎ、ジェニファーがフローリアタウンという街に滞在している時、大寒波に見舞われた。冬の初めだというのに街は一面雪景色となり、ジェニファーは街から動けなくなってしまった。
ジェニファーは街の修道院に身を寄せていて、毎日、街の雪かきを手伝ったり修のお勤めの手伝いをしながら過ごした。

そんな日がいく日か過ぎやっと太陽が空に顔を出した日も朝早くからジェニファーは教会前の広場の雪かきを手伝っていた。
ミッドラッツェル家の領地は王都より南にあり、冬用のソリ馬車は持っていない。
王都も滅多に雪が降らないのでミッドラッツェル家には必要ないものだった。
一方、バネッサが流されたのは北の方角のため、捜索場所は王都より北側の海岸線となる。ここらの海岸沿いは冬には雪が沢山降ることで有名だった。
本格的に冬を迎える前に王都に戻って準備をする必要があるな、王都のコリンはどうしているだろうかと考えていた時、「ジェニファー?」と話しかける人の声が聞こえた。

ジェニファーが顔を上げると、そこには目深に毛皮の帽子を被ったコリンが立っていた。
コリンと会うのは一ヶ月ぶりのはずだが、それよりも長い間、会っていなかったような気がする。
ジェニファーの記憶よりコリンは少し老けて見えた。

「コリン?まぁ、あなたもやはり捜索に?」

ジェニファーがそう言うと、コリンはなんとも言えない表情をした。

「まぁ、それもあるけど、この寒波で君が大丈夫か心配で。」

ジェニファーはコリンのその言葉を方便として受け取った。

「この雪は早晩、溶けるだろう。これから本格的な冬が来る前に王都に戻った方が良い」

そう言われてジェニファーはコリンと共に馬車に乗った。コリンの言葉通り雪は昼過ぎにはだいぶ溶けていて、馬車で走る事ができた。
コリンはソリ馬車を借りてフローリアタウンまで来たらしい。ソリ馬車は乗り捨て、ジェニファーの馬車で一緒に帰っている。

ジェニファーが一ヶ月かけて来た道もまっすぐ帰れば馬車で3日の旅程となる。

その晩はゴーリントンという街に宿泊した。ゴーリントンにはハックル卿という男爵が住んでいてそこの家に泊めて貰う事になった。ハックル卿はコリンの母の末の弟にあたる人物らしい。

男爵はまだ若く、五つになるかならないかの子供が居た。彼らの様子を見ながらゆったりとホットミルクを飲んでいると、ふと、コリンに自分の子供を持ちたくないのかと言われたことを思い出した。
ジェニファーは未亡人になったらそのような縁もあるのかもしれないなと思った。

パチパチと暖炉の火がはぜ、薪が崩れた。コリンは自ら火かき棒を手に持つと火に薪をくべる。
コリンはまっすぐ火を見ていてジェニファーを全く見ていなかったがジェニファーに話しかけてきた。

「君には酷な話かもしれないけれど、フローリアタウンまでにバネッサが見つからなければ可能性はかなり薄いんだ。」

「そんな・・・」

「フローリアタウンの沖合には潮目があって、あそこは北からと南からの潮がぶつかり合うところなんだ。だからあそこはいい港町だろう?バネッサが流されたとして、あの街より北には行かないはずだ。」

そう言ったコリンの顔はとても辛そうだった。

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