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突風
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公爵家の舞踏会以来、コリンの態度は変わっていった。
それまで、昼間はバネッサにベッタリだったコリンがバネッサから少しずつ距離を置き昼にも自分の仕事をこなすようになったのだ。
ジェニファーがコリンはどうしたのかしら、と言うとバネッサは、さぁ?言われてみれば昼間見ることが減ってきたね、と言った。
ジェニファーはバネッサが驚くほどコリンに興味がないのだと改めて思った。
バネッサにとってコリンは弟にしか見えないのだろう。
そんな中でもジェニファーと顔を合わせるとコリンは変わらずにジェニファーにちくちくと嫌味を言った。
きっとバネッサのことを諦めようとはしていてもジェニファーを嫌いだと言う気持ちは相変わらずなのだ。
バネッサとジェニファーは何度か夜の社交に繰り出し、仲睦まじい姿を見せてきた。きっと2人のことを疑う貴族は居ないだろう。
季節が進み秋になった頃、エマニュエル王女の婚約式の招待状が届いた。隣国の大公子息と婚約することになったらしい。婚約式は秋の終わり頃に行われる予定となっている。
結婚式は隣国で行うので婚約式がこの国での結婚式のような扱いだろう。それにしては少し準備期間が短いなと思ったが、結婚式は来年の春に隣国で行われるらしいし、それには違和感はなかった。
結婚式というと春に行われるのがこの辺りの国の伝統である。
春に婚約式と結婚式をほとんど間を空けずに行うのはおかしいので、婚約式をなんとか社交シーズンの終わりである秋にねじ込んできた形だろう。
思ったよりすぐに来てしまうのね、とジェニファーは思った。
王女婚約の話を聞いてジェニファーの心はざわざわした。エマニュエル王女が婚約してしまったら自分とバネッサがどうなるか不安だからだ。2人はアーロンがエマニュエル王女との結婚から逃れるために結ばれた縁である。エマニュエル王女が結婚すると何かが変わることだろう。
この数ヶ月の生活は砂糖菓子のように甘く、どこか現実味がなかった。
バネッサとジェニファーは女同士なのでずっと2人でいることが現実的でないことはわかっている。伯爵がバネッサを領地に引退させ、バネッサを女性として過ごさせたいと思っていることも知っている。
そして、バネッサが女性らしいものが好きでドレスを着てみたいと思っているらしいことだってジェニファーはとっくに気付いている。
以前、伯爵はそうなった時にはコリンと結婚を、と言っていたが、コリンがそれを受け入るとは思えなかった。
伯爵はジェニファーに瑕疵がつかないようにはしてくれるだろう。しかし、何度考えてもジェニファーがミッドラッツェル家から出ていく未来しか見えなかった。
ジェニファーは落ち込んでいる様子を見せないようあえていつもより明るく振る舞うようになった。
バネッサと東屋で過ごした後、少し疲れて図書室に行くとコリンとバッタリ出会った。食事の席以外で会うのは久しぶりかもしれない。ジェニファーはまた嫌味を言われるのか、と構えたがコリンは何も言わなかった。
2人はしばらく気ままに本を読む時間を過ごした。
ジェニファーは最近、現実逃避のためファンタジー小説を読んでいた。今は魔法使いの本を読んでいる。物語に夢中になってきた頃、コリンがジェニファーの座っている席の前に来た。
「何に落ち込んでいるのかは知らないけど、これでも食べて元気を出すと良い」
そう言って差し出してくれたのはこの国には珍しいナッツを砂糖で固めた菓子だった。ジェニファーの母の故郷の菓子である。ジェニファーは幼い頃からこの菓子が大好きだった。
「え?」
また何か嫌味を言われるのではと思っていたジェニファーはめんくらい、礼も言えなかった。
「何なのよアイツ」
ジェニファーがそう呟いたのは図書室からコリンが居なくなってしばらく経ってからだった。
一つ口に運ぶと懐かしい味が広がった。
王女の婚約式は王都のハズレにある離宮で開かれた。
断崖絶壁に建つその離宮はこの季節、紅葉がとても美しく見える。
しかし、その館は地形の関係で時折とても強い風が吹く。
式の途中にも強い風が吹き、王太子殿下の娘であるキャサリン王女の帽子が風に飛ばされるという事件が起きた。帽子は風に乗り海へと消えていった。
離宮の下は崖になっていて、その下には海が広がっている。飛ばされた帽子はもう戻ってこないだろう。
婚約式が終わりパーティーが始まった。太陽は徐々に傾き、世界を橙色に染めていく。
その日は秋にしては暖かい日であった。
ジェニファーは仲良くしてもらっている婦人たちと話をしていてバネッサは男衆と今年のワインの出来について話していた。
男たちと話しているアーロンの元にエマニュエル王女が押しかけてきた。
「アーロン、最後に2人で話がしたいのよ」
エマニュエル王女にそう言われたアーロンは断りきれなかった。
人気のない庭の奥に2人で行く。
エマニュエル王女はツンとした鼻をした王家らしい少女である。
「ねぇ、アーロン。私、他の人と結婚する事になったわ。私、あなたのことがずっと・・・」
「それ以上はいけません。」
バネッサが王女の言葉を止める。
エマニュエル王女がバネッサに近づくのでアーロンは距離を取るために後ろに下がる。
もうこれ以上後退できないというところまでアーロンは下がった。そこには膝丈ほどの高さの塀がありその下は崖になっている。崖の下は海が広がっている。
その時、強い突風が吹いた。
アーロンは風に煽られてバランスを崩した。何もしなければその場に倒れ込むだけだったかもしれないが、エマニュエル王女がアーロンに手を差し伸べた。
アーロンは手を払いのけようとして更にバランスを崩し、塀を越え崖から落ちた。
一瞬の出来事だった。
エマニュエル王女の叫び声が響いた。
「アーーーーローーーン!うそ、うそよ。アーロン!!」
それからは大層な騒ぎになった。
それまで、昼間はバネッサにベッタリだったコリンがバネッサから少しずつ距離を置き昼にも自分の仕事をこなすようになったのだ。
ジェニファーがコリンはどうしたのかしら、と言うとバネッサは、さぁ?言われてみれば昼間見ることが減ってきたね、と言った。
ジェニファーはバネッサが驚くほどコリンに興味がないのだと改めて思った。
バネッサにとってコリンは弟にしか見えないのだろう。
そんな中でもジェニファーと顔を合わせるとコリンは変わらずにジェニファーにちくちくと嫌味を言った。
きっとバネッサのことを諦めようとはしていてもジェニファーを嫌いだと言う気持ちは相変わらずなのだ。
バネッサとジェニファーは何度か夜の社交に繰り出し、仲睦まじい姿を見せてきた。きっと2人のことを疑う貴族は居ないだろう。
季節が進み秋になった頃、エマニュエル王女の婚約式の招待状が届いた。隣国の大公子息と婚約することになったらしい。婚約式は秋の終わり頃に行われる予定となっている。
結婚式は隣国で行うので婚約式がこの国での結婚式のような扱いだろう。それにしては少し準備期間が短いなと思ったが、結婚式は来年の春に隣国で行われるらしいし、それには違和感はなかった。
結婚式というと春に行われるのがこの辺りの国の伝統である。
春に婚約式と結婚式をほとんど間を空けずに行うのはおかしいので、婚約式をなんとか社交シーズンの終わりである秋にねじ込んできた形だろう。
思ったよりすぐに来てしまうのね、とジェニファーは思った。
王女婚約の話を聞いてジェニファーの心はざわざわした。エマニュエル王女が婚約してしまったら自分とバネッサがどうなるか不安だからだ。2人はアーロンがエマニュエル王女との結婚から逃れるために結ばれた縁である。エマニュエル王女が結婚すると何かが変わることだろう。
この数ヶ月の生活は砂糖菓子のように甘く、どこか現実味がなかった。
バネッサとジェニファーは女同士なのでずっと2人でいることが現実的でないことはわかっている。伯爵がバネッサを領地に引退させ、バネッサを女性として過ごさせたいと思っていることも知っている。
そして、バネッサが女性らしいものが好きでドレスを着てみたいと思っているらしいことだってジェニファーはとっくに気付いている。
以前、伯爵はそうなった時にはコリンと結婚を、と言っていたが、コリンがそれを受け入るとは思えなかった。
伯爵はジェニファーに瑕疵がつかないようにはしてくれるだろう。しかし、何度考えてもジェニファーがミッドラッツェル家から出ていく未来しか見えなかった。
ジェニファーは落ち込んでいる様子を見せないようあえていつもより明るく振る舞うようになった。
バネッサと東屋で過ごした後、少し疲れて図書室に行くとコリンとバッタリ出会った。食事の席以外で会うのは久しぶりかもしれない。ジェニファーはまた嫌味を言われるのか、と構えたがコリンは何も言わなかった。
2人はしばらく気ままに本を読む時間を過ごした。
ジェニファーは最近、現実逃避のためファンタジー小説を読んでいた。今は魔法使いの本を読んでいる。物語に夢中になってきた頃、コリンがジェニファーの座っている席の前に来た。
「何に落ち込んでいるのかは知らないけど、これでも食べて元気を出すと良い」
そう言って差し出してくれたのはこの国には珍しいナッツを砂糖で固めた菓子だった。ジェニファーの母の故郷の菓子である。ジェニファーは幼い頃からこの菓子が大好きだった。
「え?」
また何か嫌味を言われるのではと思っていたジェニファーはめんくらい、礼も言えなかった。
「何なのよアイツ」
ジェニファーがそう呟いたのは図書室からコリンが居なくなってしばらく経ってからだった。
一つ口に運ぶと懐かしい味が広がった。
王女の婚約式は王都のハズレにある離宮で開かれた。
断崖絶壁に建つその離宮はこの季節、紅葉がとても美しく見える。
しかし、その館は地形の関係で時折とても強い風が吹く。
式の途中にも強い風が吹き、王太子殿下の娘であるキャサリン王女の帽子が風に飛ばされるという事件が起きた。帽子は風に乗り海へと消えていった。
離宮の下は崖になっていて、その下には海が広がっている。飛ばされた帽子はもう戻ってこないだろう。
婚約式が終わりパーティーが始まった。太陽は徐々に傾き、世界を橙色に染めていく。
その日は秋にしては暖かい日であった。
ジェニファーは仲良くしてもらっている婦人たちと話をしていてバネッサは男衆と今年のワインの出来について話していた。
男たちと話しているアーロンの元にエマニュエル王女が押しかけてきた。
「アーロン、最後に2人で話がしたいのよ」
エマニュエル王女にそう言われたアーロンは断りきれなかった。
人気のない庭の奥に2人で行く。
エマニュエル王女はツンとした鼻をした王家らしい少女である。
「ねぇ、アーロン。私、他の人と結婚する事になったわ。私、あなたのことがずっと・・・」
「それ以上はいけません。」
バネッサが王女の言葉を止める。
エマニュエル王女がバネッサに近づくのでアーロンは距離を取るために後ろに下がる。
もうこれ以上後退できないというところまでアーロンは下がった。そこには膝丈ほどの高さの塀がありその下は崖になっている。崖の下は海が広がっている。
その時、強い突風が吹いた。
アーロンは風に煽られてバランスを崩した。何もしなければその場に倒れ込むだけだったかもしれないが、エマニュエル王女がアーロンに手を差し伸べた。
アーロンは手を払いのけようとして更にバランスを崩し、塀を越え崖から落ちた。
一瞬の出来事だった。
エマニュエル王女の叫び声が響いた。
「アーーーーローーーン!うそ、うそよ。アーロン!!」
それからは大層な騒ぎになった。
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