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噂話
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コリンは大人しくジェニファーの話を聞いていた。
コリンにはジェニファーが理解できなかった。
結婚相手が女性だったのだ。裏切られたとミッドラッツェル家を恨んで罵っても良いのに、それもしないでお飾りの嫁という立場に甘んじている。
家に問題があって実家に帰れないわけではないことは調べてあるし、だったらなぜ今もバネッサと一緒にいるのか。
アーロンは女だ。バネッサだ。なのにジェニファーはアーロンを好きだと言う。母にそのことを言うと「女の子には同性のお姉さまに憧れる時期がありますからね。私にも覚えがあるわ。」と言われてしまった。
伯爵も父もジェニファーがバネッサを好きで我が家にいてくれるならそれでいいではないかと言う。
ジェニファーにすぐに出て行かれてはまずいことくらいコリンにもわかっている。
しかし、コリンはジェニファーを利用しているようで居た堪れない気持ちになる。そしてつい、ジェニファーにちくちくと嫌味を言ってしまう。
先ほどのような嫉妬や憎悪だって本来なら彼女が受けなくてもいいものだ。バネッサは馬鹿ではないがその辺の機微には疎い。ジェニファーが自分と離れたところでそのような扱いを受けているなど考えもしないだろう。バネッサではジェニファーを守りきれないかもしれない。
そんな事を考えながら何気なく耳を傾けていたジェニファーのエピソード、子供向けの剣大会でのオウムの話に覚えがあった。
あの日、オウムが亡くなったと落ち込む少女を励ましたのは自分だ。
当時バネッサは12歳、コリンは10歳だったが身長はそれほど変わらなかった。
コリンはミッドラッツェル家の家紋をつけているし勘違いされてもおかしくはなかった。
それを知ってますますジェニファーに申し訳ない気持ちになった。ジェニファーはアーロンが初恋だと思っているから騙されたとわかってもおとなしくしているのではないか。
ジェニファーが信じている初恋の思い出が違うとなれば彼女はどうするのだろうか。
ジェニファーはバネッサに心配させたくないからとワルツが終わるまでに再びボウルルームに戻った。
すぐに冷やしたおかげか頬の腫れはだいぶ目立たなくなっていた。
バネッサがエマニュエル王女と別れてジェニファーの元に戻ってきた。バネッサはジェニファーの頬が少し赤いことに気付く様子は無かった。
バネッサがジェニファーをエスコートしてデザートテーブルまで行き、2人でクスクスと笑いながら何か話している。誰の目から見ても仲睦まじく見えることだろう。
2人で並んでいるととても絵になるし、この様子を見てバネッサがジェニファーに惚れていると信じる者も多くいるはずである。
ジェニファーと結婚してそのジェニファーと仲睦まじく過ごしていればバネッサが女性だなんて誰も疑わないだろう。
2人を眺めていると少し心が痛くなる。
バネッサの隣はこれまで自分のものだった。しかし、これからは違うのだ。バネッサはこちらを伺いもしない。天真爛漫な彼女はこれまでずっと隣にいた自分が手持ち無沙汰に過ごすことになるだろうなど微塵も想像できないのだ。
ジェニファーの方が気遣わしげにこちらを見てくる。コリンの矜持として彼女にだけは同情されたくなくて2人から目を逸らした。
もうバネッサには自分が必要ないのかもしれない。
ジェニファーが来てから気付かないふりをしていたその事実を受け止めなければならない。
数年後には自分がミッドラッツェル家の嫡子になるのだから、本当ならバネッサを見守るだけでなく今から社交に精を出すべきなのだ。
そう思って男性たちが集まるシガールームに行く事にした。
シガールームではタバコや葉巻を吸いながらカードゲームをする者、ビリヤードをする者、噂話に興じる者、色々だった。コリンは得意のダーツの仲間に入れてもらおうとダーツ台に向かったがその途中でジェニファーの話が聞こえて来て足を止めた。
「ショウ嬢がまさかこんなに早く結婚するとはなぁ。」
「もう、ミッドラッツェル夫人だぜ。」
「あぁ、今日も来ていたが見たか?あの神秘的な黒髪が艶々と輝いていて、これまで以上に美しくなっていたぜ。あれが愛される女ってやつなのかねぇ」
「俺も婚約の打診は一度したんだがな。あそこの家は武官ばかりであまり領地を発展させようという気がないから政略より本人の意思を尊重しますってすげなく断られたよ。」
「あの見目で性格も良いんだからなぁ。」
「俺の妹がコルセットをきつくしめすぎて顔色を悪くしていた時に助けてくれたんだって言ってたなぁ」
「俺はアーロンベッド男爵が階段を登るのを手伝っているところを見たことがあるぜ。」
アーロンベッド男爵とは退役軍人で足に古傷があるため杖をついている御仁である。
「その話聞いたことある!あの偏屈で有名な男爵が鼻の下を伸ばしてたらしいな。」
「彼女と結婚できるなんてアーロン・ミッドラッツェルが羨ましいよ。」
「アーロンはお前と違ってイケメンだからな」
「2人が並んだ姿は圧巻だったぞ」
なるほど。ジェニファーは男性たちに人気だったようである。言われて思い返せば彼女はバネッサとはまた違ったタイプの美人かもしれない。
もし彼女がバネッサと離縁したとしても、きっと引く手数多ですぐに再婚相手が見つかるだろう。
そんな事を考えると何故か心がざわざわして落ち着かなくなった。コリンは足早にダーツ台に向かい、ダーツに興じたが、この日は散々な結果で終わってしまった。
コリンにはジェニファーが理解できなかった。
結婚相手が女性だったのだ。裏切られたとミッドラッツェル家を恨んで罵っても良いのに、それもしないでお飾りの嫁という立場に甘んじている。
家に問題があって実家に帰れないわけではないことは調べてあるし、だったらなぜ今もバネッサと一緒にいるのか。
アーロンは女だ。バネッサだ。なのにジェニファーはアーロンを好きだと言う。母にそのことを言うと「女の子には同性のお姉さまに憧れる時期がありますからね。私にも覚えがあるわ。」と言われてしまった。
伯爵も父もジェニファーがバネッサを好きで我が家にいてくれるならそれでいいではないかと言う。
ジェニファーにすぐに出て行かれてはまずいことくらいコリンにもわかっている。
しかし、コリンはジェニファーを利用しているようで居た堪れない気持ちになる。そしてつい、ジェニファーにちくちくと嫌味を言ってしまう。
先ほどのような嫉妬や憎悪だって本来なら彼女が受けなくてもいいものだ。バネッサは馬鹿ではないがその辺の機微には疎い。ジェニファーが自分と離れたところでそのような扱いを受けているなど考えもしないだろう。バネッサではジェニファーを守りきれないかもしれない。
そんな事を考えながら何気なく耳を傾けていたジェニファーのエピソード、子供向けの剣大会でのオウムの話に覚えがあった。
あの日、オウムが亡くなったと落ち込む少女を励ましたのは自分だ。
当時バネッサは12歳、コリンは10歳だったが身長はそれほど変わらなかった。
コリンはミッドラッツェル家の家紋をつけているし勘違いされてもおかしくはなかった。
それを知ってますますジェニファーに申し訳ない気持ちになった。ジェニファーはアーロンが初恋だと思っているから騙されたとわかってもおとなしくしているのではないか。
ジェニファーが信じている初恋の思い出が違うとなれば彼女はどうするのだろうか。
ジェニファーはバネッサに心配させたくないからとワルツが終わるまでに再びボウルルームに戻った。
すぐに冷やしたおかげか頬の腫れはだいぶ目立たなくなっていた。
バネッサがエマニュエル王女と別れてジェニファーの元に戻ってきた。バネッサはジェニファーの頬が少し赤いことに気付く様子は無かった。
バネッサがジェニファーをエスコートしてデザートテーブルまで行き、2人でクスクスと笑いながら何か話している。誰の目から見ても仲睦まじく見えることだろう。
2人で並んでいるととても絵になるし、この様子を見てバネッサがジェニファーに惚れていると信じる者も多くいるはずである。
ジェニファーと結婚してそのジェニファーと仲睦まじく過ごしていればバネッサが女性だなんて誰も疑わないだろう。
2人を眺めていると少し心が痛くなる。
バネッサの隣はこれまで自分のものだった。しかし、これからは違うのだ。バネッサはこちらを伺いもしない。天真爛漫な彼女はこれまでずっと隣にいた自分が手持ち無沙汰に過ごすことになるだろうなど微塵も想像できないのだ。
ジェニファーの方が気遣わしげにこちらを見てくる。コリンの矜持として彼女にだけは同情されたくなくて2人から目を逸らした。
もうバネッサには自分が必要ないのかもしれない。
ジェニファーが来てから気付かないふりをしていたその事実を受け止めなければならない。
数年後には自分がミッドラッツェル家の嫡子になるのだから、本当ならバネッサを見守るだけでなく今から社交に精を出すべきなのだ。
そう思って男性たちが集まるシガールームに行く事にした。
シガールームではタバコや葉巻を吸いながらカードゲームをする者、ビリヤードをする者、噂話に興じる者、色々だった。コリンは得意のダーツの仲間に入れてもらおうとダーツ台に向かったがその途中でジェニファーの話が聞こえて来て足を止めた。
「ショウ嬢がまさかこんなに早く結婚するとはなぁ。」
「もう、ミッドラッツェル夫人だぜ。」
「あぁ、今日も来ていたが見たか?あの神秘的な黒髪が艶々と輝いていて、これまで以上に美しくなっていたぜ。あれが愛される女ってやつなのかねぇ」
「俺も婚約の打診は一度したんだがな。あそこの家は武官ばかりであまり領地を発展させようという気がないから政略より本人の意思を尊重しますってすげなく断られたよ。」
「あの見目で性格も良いんだからなぁ。」
「俺の妹がコルセットをきつくしめすぎて顔色を悪くしていた時に助けてくれたんだって言ってたなぁ」
「俺はアーロンベッド男爵が階段を登るのを手伝っているところを見たことがあるぜ。」
アーロンベッド男爵とは退役軍人で足に古傷があるため杖をついている御仁である。
「その話聞いたことある!あの偏屈で有名な男爵が鼻の下を伸ばしてたらしいな。」
「彼女と結婚できるなんてアーロン・ミッドラッツェルが羨ましいよ。」
「アーロンはお前と違ってイケメンだからな」
「2人が並んだ姿は圧巻だったぞ」
なるほど。ジェニファーは男性たちに人気だったようである。言われて思い返せば彼女はバネッサとはまた違ったタイプの美人かもしれない。
もし彼女がバネッサと離縁したとしても、きっと引く手数多ですぐに再婚相手が見つかるだろう。
そんな事を考えると何故か心がざわざわして落ち着かなくなった。コリンは足早にダーツ台に向かい、ダーツに興じたが、この日は散々な結果で終わってしまった。
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