【完結】旦那様は女性でした?

ゴールデンフィッシュメダル

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初恋

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初夏の日差しが感じられるようになった頃、一家は領地を離れ王都に移動した。
ミッドラッツェル家は結婚式のため領地で過ごしていたが、社交シーズンであるこの季節に王都を離れすぎても良くない。

王都に戻って数日後、ジェニファーはバネッサと公爵家の舞踏会に参加することになった。

きっちりと燕尾服を身に纏ったバネッサはカッコいい王子様にしか見えなかった。
結婚したばかりだし注目されるだろうなと思って参加したが、2人の注目度はジェニファーの予想を軽く超えてきた。

2人と話したいと言う人たちが輪をなして彼らを取り囲み思うように動けないほどだったのだ。

ずっと話をしていて疲れたな、という頃に冷たいザクロ水を持ってきてくれた青年がいた。
背が高く、切れ長の瞳に黒い髪を持った青年でアーロンやコリンとは違った魅力のある青年だった。
バネッサは彼と親しそうに話をしながら彼がロンバーダ侯爵の次男ディミトリーだと教えてくれた。

バネッサは少し頬を染めながらあえて唇を引き締めて微笑まないようにしている。
それでもバネッサの目は彼を追っていた。

そんなバネッサの様子を見ながらコリンに目をやるとコリンの目には嫉妬の炎が漏れ出ていた。
ディミトリーがジェニファーをダンスに誘った。ジェニファーがアーロンともまだ踊ってませんからと言うと、ディミトリーがそれでは2人で踊っておいで、と手に持っていたザクロ水のカップを引き取ってくれた。

ダンスを踊るという名目で二人はやっと人の輪から解放されたのだ。

ディミトリーはきっと2人がまだダンスも踊っていない事など織り込み済みで、2人を人の輪から解放するためにジェニファーをダンスに誘ったのだろう。気の利く青年だと思った。

ダンスのテンポが少し緩やかになった時、ジェニファーはバネッサに話しかけた。
「ロンバーダ侯爵子息は素敵な方ですね」と。
そんな事を言われると思っていなかったのだろうバネッサは狼狽え、顔を真っ赤にしながら「ジェニファーもそう思う?」と乙女の顔で聞いてきた。

ジェニファーはバネッサの顔を見てそんな表情をしては女性だとバレてしまうのでは?これまで誰にもバレなかったのが奇跡に近いなと考えた。

「彼の事を慕ってらっしゃいますの?」と聞くとバネッサは更に真っ赤にした顔で頷いた。
そこからはまた曲調がアップテンポになったので話せる感じではなくなった。

ふと、コリンを見ると彼はダンスホールの柱にもたれかかりながらギラギラとした目でバネッサの事を見つめていた。ジェニファーはそんなコリンを不憫だなと思った。

紫色のドレスを着たお嬢さんがダンスのお誘いだろうかコリンに声をかけたがしょんぼりと去っていった。コリンはコリンで楽しめば良いのに彼にはそんな発想ないようだ。

ダンスが終わると、バネッサはエマニュエル王女からダンスを申し込まれた。流石に王族からの誘いを断るわけにはいかない。
ジェニファーはバネッサにエスコートされてコリンに預けられた。
コリンは眉間に皺を寄せながらもジェニファーの手を取った。ジェニファーは嫌なら引き受けなければ良いのにと思ったが、コリンにはバネッサの頼みを断るなど考えられないんだろうなと思った。

再びホールにワルツが流れ出してしばらく経った頃、コリンがジェニファーに話しかけた。
2人はホールの柱に寄りかかりながら踊る若者たちを見ていた。

「踊っている時に何を話していた?」

ジェニファーは何と答えるか一瞬躊躇した。
正直に答えるとコリンが傷つくのではないかとそう思ったのだ。

「たあいもない会話ですわ。」

しかし、一瞬躊躇した事でその返答がとても嘘くさく響いた。
コリンはジェニファーにあきれたようにふっと笑う。

ジェニファーはコリンの笑みを受け流してバネッサに目をやった。バネッサが踊っている向こう側にディミトリーが居て、ディミトリーもバネッサを見つめていた。

「コリン様は踊りませんの?」

そう聞いたジェニファーの言葉をコリンは無視した。再び沈黙が流れた。

「少し喉が渇きましたので飲み物をとって参りますわ」

眉間に皺の寄ったコリンといても楽しくはない。
今の曲が終わるまでにコリンのものに戻れば良いだろうとその場を離れた。
コリンはジェニファーが離れても追っては来なかった。

飲み物のカウンターでワインを頼んでいると令嬢がジェニファーに近づいて来た。
そして挨拶もなく不躾にこんな事を言った。
「あら、もうアーロン様に飽きられたのかしら」

ジェニファーは過去の経験でこういう手合いに言い返すと余計酷くなるのがわかっているため「そうかもしれませんね」と受け流した。

しかし、その態度がその令嬢の癇に障ったのだろう。

「何、調子に乗ってるのよ?あなたなんて家の立場も弱く顔だけの癖に。知っていて?美人は三日で飽きるって。飽きられたあなたに何が残るのかしら?」

「それでもアーロン様に選ばれたのは私です。」

ジェニファーは毅然とした態度でそう言ったが、アーロンに誰でも良かったというようなこと言われた事を思い出し心がちくりと痛んだ。
しかし、これは女の戦いである。ここで尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。

すると、その令嬢はジェニファーの頬を強くぶった。ぶたれてよろめいたジェニファーを抱き止めてくれたのはコリンだった。

ジェニファーはぶたれた事よりもコリンがバネッサから目を離してこの場に来てくれたことの衝撃の方が大きかった。

「コリン・・・ごめんなさい」

ジェニファーの口からはそんな言葉が漏れ出た。

コリンはジェニファーの肩を抱くとその令嬢を一瞥してジェニファーをバルコニーに連れて出た。
出る時にウェイターに水とおしぼりを頼んでいるのを聞いた。
ウェイターはすぐに水とおしぼりを持ってきてくれた。コリンがジェニファーの頬におしぼりをあててくれる。

今のコリンは眉間に皺など寄っていなかった。


「コリンは私のこと滑稽だと思ってらっしゃるでしょう?私だって飽きられるも何も、元から私を望まれたわけじゃないことくらいわかっていますわ。でも、私、今日アーロンと踊れて幸せでしたのよ。私、初恋がアーロンでしたの。」

ジェニファーは少し興奮していてなんとなく1人語りしたい気分だった。

「あれは、バネッサ様が亡くなった翌月のこと。子供向けの剣のトーナメントがありましてね。うちは兄が2人いるものですから家族みんなで応援していたのですけれど、私はそんな気分になれなくて。と言うのも我が家で長年飼っていたオウムのジャックがその一週間前に亡くなったばかりでしたの。オウムの寿命は長いでしょう?お祖父様が子供の頃から我が家に居たオウムでしたのよ。私は不貞腐れて応援の輪には入らず競技場の外で1人怒ってましたの。今から考えると貴族の十になるかならないか子が1人でいるってとても危険なことだとわかるのですけれど、当時はそこまで考えていなくて。そこでアーロンと出会いましたの。女の子が1人でこんなところでウロウロしていたら危険だって怒ってくれて、でも私の話を根気よく聞いてくれて、僕も最近家族を亡くしたばかりだから気持ちはわかるって言ってくれましたの。私、その言葉が嬉しくて、次の日からその子のことばかり考えてしまいましたわ。アーロンの名前を知ったのはそれからしばらく経ってからでしたけれど、私、それからずっとアーロンに恋していたんですわ。」

ジェニファーが話している間中、コリンは何も言わず目線をこちらに向けることもなかった。



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