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天敵
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「バネッサに取り入ってどうする気だ?」
話しかけてきたのはバネッサの従者のコリンだ。
コリンはバネッサの従兄弟でアーロンとよく似た面立ちの青年だ。
ミッドラッツェル家の者は美形が多いと言われるが彼も間違いなく美形だろう。
ただ、アーロンがキラキラとした王子様タイプなのに対し、コリンは美しい騎士といった印象である。
それは、アーロンに比べ鋭い雰囲気を身に纏っているからかもしれない。
バネッサから真実を告げられて一週間が経った。それ以来、2人は毎日一緒に寝ている。
ジェニファーが「女子会だね」と言うとバネッサは「お友達とお泊まり会とか憧れてたんだ」と言って毎日、お互いにいろんなことを話した。
話していて気付いたがバネッサは18にしては少し幼いところがある。
12歳から男として過ごすため人と出来るだけ距離を置くようにしていたからだろう。
彼女はジェニファーより2歳年上のはずだが、あまり世間のことを知らないので妹のようだと思うことも多い。
そんな彼女を世の中から守っていたのがきっとコリンなのだ。
コリンはジェニファーがバネッサに近付くのをあまり快く思っていないらしい。
「取り入るって。夫婦として仲良くしているだけですわ。」
ジェニファーはニコッと笑ってコリンを見つめる。
コリンはチッと舌打ちをしてジェニファーを睨んだ。
「女2人で夫婦ごっこして楽しいか?」
「えぇ。思いのほか。」
「虚しくないか?」
「充実していますわ。」
コリンの眉間の皺が更に険しくなった。
「自分の子供を産みたいとは思わないのか?」
そう聞かれてジェニファーは少し考えた。
コリンの話がとんだ気がする。いや、きっと彼の中では繋がっているのだ。
「それはつまり、離縁して出ていけと?」
ジェニファーとしては今はまだその時ではないと思っている。どうせ出ていかないなら、いい関係を築いたほうがいいだろう。
「女が好きなのか?」
「好きだった方がたまたま女性だっただけですわ。」
これは真実だ。ジェニファーの初恋はアーロンだ。アーロンはバネッサでたまたま女性だった。一緒に過ごすようになって女性として可愛いところを知ったため、今も恋愛対象かと言われるとどうかわからないけれど、彼女のことが大好きだ。
「そうか。」
そう言うとコリンは力なくジェニファーの元から去った。
コリンはとてもわかりやすい。
彼は男にしては少し可愛い小物を愛用しているのだが、それは女だとバレないように可愛いものを手に取らないようにしているバネッサのためだろう。
しかし、近くに本当の女性であるジェニファーが来たのだ。
男性のための少し可愛い小物など目ではない。
バネッサはジェニファーの持ち物をひとつひとつ褒めては目をキラキラさせて可愛い、美しいと褒めてくれる。
ジェニファーに言わせればそんなことを言うバネッサの方が可愛い。
コリンはこの家では次期当主として扱われていてバネッサより多くの仕事を割り当てられているらしいが、バネッサを守るためバネッサが寝室に行くまでは絶対に自分の仕事には手をつけないらしい。
この屋敷は中庭を囲むように建っていて、アーロンとジェニファーの主寝室から中庭を挟んで反対側にコリンの部屋がある。
深夜遅くまで彼の部屋に灯りがついているので、屋敷に来た当初はどうしてだろうと思ったが、仕事を夜にこなしているからだとカレンが教えてくれた。
もっとも、鈍感なバネッサは全くそのことには気付いていないようだ。
バネッサがジェニファーに真実を打ち明けた次の日に2人はジェニファーに真実がバレたことを当主であるミッドラッツェル伯爵、つまりバネッサの父に報告をした。
伯爵はジェニファーに頭を下げると、バネッサに爵位を継がせる予定はないと宣言した。
元々バネッサに跡を継がせる予定はなかった。本物のアーロンが亡くなると、伯爵はコリンに次期当主の教育をしてきた。今更バネッサに後継教育をするつもりはない。
「我が家は君を次期当主夫人として迎えたと認識している。君さえ良ければコリンの夫人になってほしい。そうすれば君にも瑕疵が付かないし、丸くおさまる。」
伯爵はそんなことを言っていた。ジェニファーは貴族に生まれた者としてそれを望まれるなら別に否はない。
しかし、コリンの態度を見ていると彼はジェニファーとの結婚など望んでいなさそうだ。
彼がバネッサを好きなのはわかる。しかし、女性であるジェニファーをなぜ目の敵にするのかわからない。
ジェニファーにバネッサを取られると思っているのだろうか。確かにジェニファーはバネッサのことが好きだし初恋ではあったが彼女が女性だと判ってからも恋愛感情を抱いているわけではない。それは言わば友愛と言われるたぐいのものだ。バネッサがジェニファーに抱く感情も同様のはずだ。
もし、ジェニファーがコリンだったならジェニファーを懐柔しつつバネッサと良い関係に持っていけるようにするだろう。
コリンは次期当主になるのだからどうしても結婚しなければならない。
アーロンとして社交界に出てしまっているバネッサを今更女性として社交界デビューさせるわけにはいかないし、バネッサ・ミッドラッツェルは亡くなっているのでどういう体で彼女と結婚するのか疑問が残る。
だとすると、彼女を囲うためには協力的な妻が必要になる。当主の妻となるその女性はミッドラッツェル家に相応しい家柄のお嬢さんでなければならない。
その女性にどこまで真実を話すかは不明だが、この歪な状況を受け入れられる女性はそれほど多くないだろう。
自分で言うのもなんだが、この状況を騒ぎもせずに面白がって受け入れられる貴族令嬢など自分くらいのものだ。
王女暗殺事件で亡くなったのが本当はアーロンだったとバレて外に漏らされたらどうするつもりなのだろう。
そういう事を考えれば、コリンはその顔の良さを活かしてジェニファーに擦り寄り懐柔し、上手く利用するべきだ。
バネッサの興味をジェニファーに奪われたからと言ってジェニファーにあたるのはやめて欲しいし得策ではない。
コリンに当て擦りを言われてもジェニファーは特に気にしていなかった。
バネッサのために近視眼的になっているコリンが、大型犬に吠える小型犬のようにキャンキャンと吠えているだけにしか思えないからだ。ジェニファーはコリンの行動を小型犬の飼い主のように温かく見守るのだった。
話しかけてきたのはバネッサの従者のコリンだ。
コリンはバネッサの従兄弟でアーロンとよく似た面立ちの青年だ。
ミッドラッツェル家の者は美形が多いと言われるが彼も間違いなく美形だろう。
ただ、アーロンがキラキラとした王子様タイプなのに対し、コリンは美しい騎士といった印象である。
それは、アーロンに比べ鋭い雰囲気を身に纏っているからかもしれない。
バネッサから真実を告げられて一週間が経った。それ以来、2人は毎日一緒に寝ている。
ジェニファーが「女子会だね」と言うとバネッサは「お友達とお泊まり会とか憧れてたんだ」と言って毎日、お互いにいろんなことを話した。
話していて気付いたがバネッサは18にしては少し幼いところがある。
12歳から男として過ごすため人と出来るだけ距離を置くようにしていたからだろう。
彼女はジェニファーより2歳年上のはずだが、あまり世間のことを知らないので妹のようだと思うことも多い。
そんな彼女を世の中から守っていたのがきっとコリンなのだ。
コリンはジェニファーがバネッサに近付くのをあまり快く思っていないらしい。
「取り入るって。夫婦として仲良くしているだけですわ。」
ジェニファーはニコッと笑ってコリンを見つめる。
コリンはチッと舌打ちをしてジェニファーを睨んだ。
「女2人で夫婦ごっこして楽しいか?」
「えぇ。思いのほか。」
「虚しくないか?」
「充実していますわ。」
コリンの眉間の皺が更に険しくなった。
「自分の子供を産みたいとは思わないのか?」
そう聞かれてジェニファーは少し考えた。
コリンの話がとんだ気がする。いや、きっと彼の中では繋がっているのだ。
「それはつまり、離縁して出ていけと?」
ジェニファーとしては今はまだその時ではないと思っている。どうせ出ていかないなら、いい関係を築いたほうがいいだろう。
「女が好きなのか?」
「好きだった方がたまたま女性だっただけですわ。」
これは真実だ。ジェニファーの初恋はアーロンだ。アーロンはバネッサでたまたま女性だった。一緒に過ごすようになって女性として可愛いところを知ったため、今も恋愛対象かと言われるとどうかわからないけれど、彼女のことが大好きだ。
「そうか。」
そう言うとコリンは力なくジェニファーの元から去った。
コリンはとてもわかりやすい。
彼は男にしては少し可愛い小物を愛用しているのだが、それは女だとバレないように可愛いものを手に取らないようにしているバネッサのためだろう。
しかし、近くに本当の女性であるジェニファーが来たのだ。
男性のための少し可愛い小物など目ではない。
バネッサはジェニファーの持ち物をひとつひとつ褒めては目をキラキラさせて可愛い、美しいと褒めてくれる。
ジェニファーに言わせればそんなことを言うバネッサの方が可愛い。
コリンはこの家では次期当主として扱われていてバネッサより多くの仕事を割り当てられているらしいが、バネッサを守るためバネッサが寝室に行くまでは絶対に自分の仕事には手をつけないらしい。
この屋敷は中庭を囲むように建っていて、アーロンとジェニファーの主寝室から中庭を挟んで反対側にコリンの部屋がある。
深夜遅くまで彼の部屋に灯りがついているので、屋敷に来た当初はどうしてだろうと思ったが、仕事を夜にこなしているからだとカレンが教えてくれた。
もっとも、鈍感なバネッサは全くそのことには気付いていないようだ。
バネッサがジェニファーに真実を打ち明けた次の日に2人はジェニファーに真実がバレたことを当主であるミッドラッツェル伯爵、つまりバネッサの父に報告をした。
伯爵はジェニファーに頭を下げると、バネッサに爵位を継がせる予定はないと宣言した。
元々バネッサに跡を継がせる予定はなかった。本物のアーロンが亡くなると、伯爵はコリンに次期当主の教育をしてきた。今更バネッサに後継教育をするつもりはない。
「我が家は君を次期当主夫人として迎えたと認識している。君さえ良ければコリンの夫人になってほしい。そうすれば君にも瑕疵が付かないし、丸くおさまる。」
伯爵はそんなことを言っていた。ジェニファーは貴族に生まれた者としてそれを望まれるなら別に否はない。
しかし、コリンの態度を見ていると彼はジェニファーとの結婚など望んでいなさそうだ。
彼がバネッサを好きなのはわかる。しかし、女性であるジェニファーをなぜ目の敵にするのかわからない。
ジェニファーにバネッサを取られると思っているのだろうか。確かにジェニファーはバネッサのことが好きだし初恋ではあったが彼女が女性だと判ってからも恋愛感情を抱いているわけではない。それは言わば友愛と言われるたぐいのものだ。バネッサがジェニファーに抱く感情も同様のはずだ。
もし、ジェニファーがコリンだったならジェニファーを懐柔しつつバネッサと良い関係に持っていけるようにするだろう。
コリンは次期当主になるのだからどうしても結婚しなければならない。
アーロンとして社交界に出てしまっているバネッサを今更女性として社交界デビューさせるわけにはいかないし、バネッサ・ミッドラッツェルは亡くなっているのでどういう体で彼女と結婚するのか疑問が残る。
だとすると、彼女を囲うためには協力的な妻が必要になる。当主の妻となるその女性はミッドラッツェル家に相応しい家柄のお嬢さんでなければならない。
その女性にどこまで真実を話すかは不明だが、この歪な状況を受け入れられる女性はそれほど多くないだろう。
自分で言うのもなんだが、この状況を騒ぎもせずに面白がって受け入れられる貴族令嬢など自分くらいのものだ。
王女暗殺事件で亡くなったのが本当はアーロンだったとバレて外に漏らされたらどうするつもりなのだろう。
そういう事を考えれば、コリンはその顔の良さを活かしてジェニファーに擦り寄り懐柔し、上手く利用するべきだ。
バネッサの興味をジェニファーに奪われたからと言ってジェニファーにあたるのはやめて欲しいし得策ではない。
コリンに当て擦りを言われてもジェニファーは特に気にしていなかった。
バネッサのために近視眼的になっているコリンが、大型犬に吠える小型犬のようにキャンキャンと吠えているだけにしか思えないからだ。ジェニファーはコリンの行動を小型犬の飼い主のように温かく見守るのだった。
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