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16 旦那様との訣別
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スーザンが王都の屋敷を出てから一ヶ月が経った。
元々妊娠がわかってからいつかは家を出て行く予定だったのでそれが少し早くなるだけだ。出て行く先の家もあらかじめ見つけてあったため不便はない。
商会での仕事も順調に引き継ぎ、今は3日に一度顔を出すくらいで良くなった。
それももう暫くで終わる予定である。引き継ぎが終われば大きな方向性だけ見てあとは部下に任せるつもりだった。
執務室で計画書を見ているとノックもせずにサミュエルが入ってきた。
スーザンはサミュエルを一瞬見た後、また書類に目を戻した。サミュエルは何も話しかけて来ずに5分が過ぎた。
計画書の悪い部分に赤ペンを入れて行く。
そしてひと段落ついたときタイミングを見計ったかのようにサミュエルが話しかけて来た。
「サマンサを説得してほしい。」
そう言ったサミュエルからはいつもの快活さは感じられなかった。仕事時間に何をしているのかしら、と思う。
「わたくしが?どうして?」
「君がサマンサを追い出したんだろう?」
「サマンサがわたくしに追い出されたと言ったのですか?」
「いや、彼女は優しいからそのような事は言わないさ。」
「ではサマンサは何と?」
そう言うとサミュエルはバツが悪そうに口を閉じた。サマンサが真実を話していたとするなら、それは彼にとって信じたくない事なのだろう。怒っていない彼と話をするのはどれくらいぶりだろう。
「旦那様はわたくしが旦那様にとってどのような立場にあるかお分かりですか?」
「・・・妻だ」
「旦那様に嫌われ続けた妻ですわ。会うのは夫婦同伴が必要な夜会の時だけ、一緒に食事するはお呼ばれの晩餐会の時だけ、話しかけても無視される、旦那様が話しかけてくるのは私に文句がある時だけ、そして、屋敷を出て行けと言われた妻ですわ。この関係でどうしてわたくしが旦那様に協力すると思われたのか不思議ですわ。」
スーザンがそう言うとサミュエルはショックを受けた顔をして部屋を出て行った。
元々妊娠がわかってからいつかは家を出て行く予定だったのでそれが少し早くなるだけだ。出て行く先の家もあらかじめ見つけてあったため不便はない。
商会での仕事も順調に引き継ぎ、今は3日に一度顔を出すくらいで良くなった。
それももう暫くで終わる予定である。引き継ぎが終われば大きな方向性だけ見てあとは部下に任せるつもりだった。
執務室で計画書を見ているとノックもせずにサミュエルが入ってきた。
スーザンはサミュエルを一瞬見た後、また書類に目を戻した。サミュエルは何も話しかけて来ずに5分が過ぎた。
計画書の悪い部分に赤ペンを入れて行く。
そしてひと段落ついたときタイミングを見計ったかのようにサミュエルが話しかけて来た。
「サマンサを説得してほしい。」
そう言ったサミュエルからはいつもの快活さは感じられなかった。仕事時間に何をしているのかしら、と思う。
「わたくしが?どうして?」
「君がサマンサを追い出したんだろう?」
「サマンサがわたくしに追い出されたと言ったのですか?」
「いや、彼女は優しいからそのような事は言わないさ。」
「ではサマンサは何と?」
そう言うとサミュエルはバツが悪そうに口を閉じた。サマンサが真実を話していたとするなら、それは彼にとって信じたくない事なのだろう。怒っていない彼と話をするのはどれくらいぶりだろう。
「旦那様はわたくしが旦那様にとってどのような立場にあるかお分かりですか?」
「・・・妻だ」
「旦那様に嫌われ続けた妻ですわ。会うのは夫婦同伴が必要な夜会の時だけ、一緒に食事するはお呼ばれの晩餐会の時だけ、話しかけても無視される、旦那様が話しかけてくるのは私に文句がある時だけ、そして、屋敷を出て行けと言われた妻ですわ。この関係でどうしてわたくしが旦那様に協力すると思われたのか不思議ですわ。」
スーザンがそう言うとサミュエルはショックを受けた顔をして部屋を出て行った。
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