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17 あゆみより
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そろそろお腹が目立ちはじめた夏の初め。
その日は少し涼しく、窓から入ってくる風が心地よかった。
住んでいるのは王都郊外の庭付きの小さな一軒家で、庭でマーサが花壇に水遣りをしている。
ここに連れてきた使用人は少ないので侍女のマーサも細々とした仕事をこなさなくてはならなかったが、マーサは何も文句を言わなかった。
もちろん、スーザンも身の回りのことは少しずつ自分でするようにしていた。窓際に立ち紅茶が入ったとマーサに声を掛ける。
妊娠中のスーザンはたっぷり牛乳のはいった紅茶をいただく。マーサと紅茶休憩をしていると呼び鈴を鳴らす音がした。
マーサが玄関のドアを開けに行くとドタドタと音がして部屋の扉が開いた。そこに立っていたのはサミュエルだった。
サミュエルはスーザンの姿を見て
「スーザン、君は」
と呟いた。
スーザンは初めてサミュエルに名前を呼ばれたな、と思いながらサミュエルをじっと見つめた。
「俺を裏切っていたのか!?」
サミュエルはそう言うと拳を強く握った。握った拳がプルプルと震えていた。
紅茶のカップを右手にソーサーを左手に持ったスーザンがぽかんとサミュエルを見つめているとサミュエルはさらに1人で話を進めた。
「いや、裏切らせたのは俺だ。俺のせいだ。これまでずっと君を蔑ろにしてきた。もし、君が許してくれるなら、屋敷に戻ってきてくれないか?」
大好きだったサミュエルにそう言われたが不思議なほどスーザンの心は穏やかだった。突然のサミュエルの発言はどう言う風の吹き回しだろうかと思った。
スーザンはたしかに過去、サミュエルの事を愛していた。結婚してからもしばらくは自分がかつて「サマンサ」と呼ばれていた少女だったと気付いてくれるのではないかと期待していた。
名前と年齢は変わってしまったし少し見た目も変わってしまったけれど、それでも中身は全然変わっていないと思っていたし、共に過ごす時間の中で気付く時も来るのではないかと思ったからだ。
しかし、サミュエルは全く気付かなかった。気付かない程度にしか2人は関わってこなかった。
直接会えない時にもスーザンは少しばかりアピールをしていたつもりだった。例えば雨の日にはフリッターが食べたくると言っていた事を思い出し、料理人に用意させるようにしたり、大好きなタフィーを執務室に用意させるようにした。暑がりな彼に合わせてベッドの掛け布団を入れ替えるタイミングを変更したのだってスーザンだし、屋敷にかざる絵をシープシャーの湖畔の風景画、特に彼の好きな夕陽が湖に沈む風景画に変えさせたりもした。
しかし、サミュエルは全く気付かないどころか、レディサマンサをサマンサだと思い囲いだした。
レディサマンサが自分の保身のために多少の嘘をついていようと、共に育ったサマンサの事を愛しているなら違いに気付いたはずである。
つまり、サミュエルにとってサマンサはその程度の存在だったのだ。
そう思うと心がむしられそうだった。何日も何週間も彼のことを思って辛い日々を送った。
ある時、彼がスーザンをサマンサだと思っていないように、スーザンも再開してからのサミュエルを別の人間だと思う事にした。
すると、不思議なことに辛かった心は急に辛さが和らいだ。
別人だと思うと彼が何を行動しようと傷つく事はなかった。サミュエルは別にスーザンを害そうとしているわけではない。
スーザンがサミュエルを愛していたから、共に食事をできないことや、話しかけて無視されること、愛人を囲う事に傷ついたのだ。
再開してからのサミュエルはかつてのように微笑んでくれることも、見つめ合うことも、共にニュースの話題を語らうこともない。
よく考えると彼のどこに好きになる要素があるのだろうか。
かつてスーザンがサミュエルを好ましいと思っていた彼の良い部分を再開してからのサミュエルが見せてくれる事はなかった。
強いて言えば、見た目はカッコいいし背が高く、舞踏会で踊る時の強いホールドなどにかつての彼を思い出すが、そのくらいである。それはきっと見た目がかつての彼に似ているから心が揺れるのだ。
彼はスーザンにとって見た目のよく似た他人なのだ。
スーザンはそうやって思い込むことで自分を守ってきた。
「何を許せと?」
スーザンはサミュエルに聞いた。
「君をずっと蔑ろにしてきたことだ。君はずっと俺に尽くしてくれていたのに」
何を言っているか理解できなかった。
しばらく黙っているとサミュエルが続けた。
「気付いたのは食事からだった。これまでは、なんだか食べたいと思った時に食べたいものが出ていた。俺はてっきり食事係が俺の好みを把握してきたんだと思った。でも君が家を出てからは食べたい時に食べたいものが出てこない。聞くと今までは君が事細かに指示していたと言うじゃないか。」
「それは・・・」
尽くしていたと言うよりスーザンがサマンサだと気づいて欲しかったからだ。
「それに、俺は俺が君を必要な時以外、社交界にずっと一人で行かせていただろう?それでも俺に悪評が出ないよう、君が裏で俺を庇ってくれていたと聞いた。」
確かに、そんなこともあったかもしれない。
でもそれは半分以上は服飾部門の売り上げのためだ。
スーザンが幸せだから皆スーザンに憧れてスーザンのドレスを買ってくれるのだ。好んで不幸な女の真似をしたい人は居ない。スーザンは幸せな女を演じる必要があったのだ。
「それに、君のおかげで服飾部門の売り上げは大きく伸びた。俺は君の提案はどうせ、ただの思いつきで大したことないと思っていた。商会に通っているのもみんなの邪魔になっているに違いないと。でも、ルパートにそうではないと聞いた。君こそが服飾部門の要だと皆声を揃えて言った。それに、君はいつの間にか服飾部門以外の者からも慕われていたみたいだ。」
そこまで言うとサミュエルはスーザンの隣に来て跪いた。
「俺の目はずっと曇っていたみたいだ。一方的な思い込みで君を嫌ってきた。お願いだ。もう一度やり直したい。」
そう言うサミュエルの瞳には今までのような侮蔑の色は浮かんでいなかった。しかし、かつてのような恋焦がれる色も浮かんでいなかった。
スーザンはそっと首をふった。
スーザンはまだ自分の中にサミュエルがスーザンをサマンサだと気付いてくれるのではないかと言う希望が燻っていることに気付いてしまった。
そして、もしかすると今それを言ってくれるのではないかと期待していたのだと。
スーザンは落胆し、落胆していることに驚いた。もうこれ以上、心を動かされたくなかった。スーザンがもうすこしきっぱりとサミュエルに期待しなくなるまでは共に住むなど考えられない。
「どうして・・・?」
首をふったスーザンに対し疑問を口にするサミュエル。
スーザンはしばらく考えた後、おもむろに話し始めた。
「私のデビュタントでジェレミーにあなたを紹介された時に私はあなたに伝えたいことがありました。でも、周りに人が居て出来る話題ではなく話せませんでした。婚約してからも結婚してからもサミュエル様はずっと素っ気なくて、私が話しかけてもすぐに会話は切られますし、サミュエル様から話しかけてくださる時はいつも怒ってらっしゃる時で、とても私から別のことを言い出す雰囲気ではなく・・・
えぇ、これは今まで話ができなかった事への言い訳です。
・・・ジェレミーに紹介される前から私はサミュエル様のことを知っていました。」
そこまで言うとスーザンは深呼吸した。
そして意を決して話した。
「かつて、サマンサ・オースティンと呼ばれ、シープシャーの屋敷でサミュエル様と育ったのは私です。」
サミュエルは驚き口を開けている。
「言う機会がなかったのはその通りですが、言わなくてもいつかあなたがそのことに気づいてくれるのではないかと、ずっと期待していました。だって、私はジェレミーに紹介される前からあなただってわかってましたもの。でもあなたはいつまで経っても気付かない。食事だって屋敷の調度だって全てはあなたに気付いてもらうために頑張っていたの。でももう、疲れてしまったのです。」
「そんな・・・」
サミュエルはスーザンをじっと見つめた。
「俺はずっとサマンサを探していたんだ。」
サミュエルは立ち上がると部屋をくるくると回りながら何か考えていた。
「くそっ。」
そういうとサミュエルは語り出した。
その日は少し涼しく、窓から入ってくる風が心地よかった。
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ここに連れてきた使用人は少ないので侍女のマーサも細々とした仕事をこなさなくてはならなかったが、マーサは何も文句を言わなかった。
もちろん、スーザンも身の回りのことは少しずつ自分でするようにしていた。窓際に立ち紅茶が入ったとマーサに声を掛ける。
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マーサが玄関のドアを開けに行くとドタドタと音がして部屋の扉が開いた。そこに立っていたのはサミュエルだった。
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「スーザン、君は」
と呟いた。
スーザンは初めてサミュエルに名前を呼ばれたな、と思いながらサミュエルをじっと見つめた。
「俺を裏切っていたのか!?」
サミュエルはそう言うと拳を強く握った。握った拳がプルプルと震えていた。
紅茶のカップを右手にソーサーを左手に持ったスーザンがぽかんとサミュエルを見つめているとサミュエルはさらに1人で話を進めた。
「いや、裏切らせたのは俺だ。俺のせいだ。これまでずっと君を蔑ろにしてきた。もし、君が許してくれるなら、屋敷に戻ってきてくれないか?」
大好きだったサミュエルにそう言われたが不思議なほどスーザンの心は穏やかだった。突然のサミュエルの発言はどう言う風の吹き回しだろうかと思った。
スーザンはたしかに過去、サミュエルの事を愛していた。結婚してからもしばらくは自分がかつて「サマンサ」と呼ばれていた少女だったと気付いてくれるのではないかと期待していた。
名前と年齢は変わってしまったし少し見た目も変わってしまったけれど、それでも中身は全然変わっていないと思っていたし、共に過ごす時間の中で気付く時も来るのではないかと思ったからだ。
しかし、サミュエルは全く気付かなかった。気付かない程度にしか2人は関わってこなかった。
直接会えない時にもスーザンは少しばかりアピールをしていたつもりだった。例えば雨の日にはフリッターが食べたくると言っていた事を思い出し、料理人に用意させるようにしたり、大好きなタフィーを執務室に用意させるようにした。暑がりな彼に合わせてベッドの掛け布団を入れ替えるタイミングを変更したのだってスーザンだし、屋敷にかざる絵をシープシャーの湖畔の風景画、特に彼の好きな夕陽が湖に沈む風景画に変えさせたりもした。
しかし、サミュエルは全く気付かないどころか、レディサマンサをサマンサだと思い囲いだした。
レディサマンサが自分の保身のために多少の嘘をついていようと、共に育ったサマンサの事を愛しているなら違いに気付いたはずである。
つまり、サミュエルにとってサマンサはその程度の存在だったのだ。
そう思うと心がむしられそうだった。何日も何週間も彼のことを思って辛い日々を送った。
ある時、彼がスーザンをサマンサだと思っていないように、スーザンも再開してからのサミュエルを別の人間だと思う事にした。
すると、不思議なことに辛かった心は急に辛さが和らいだ。
別人だと思うと彼が何を行動しようと傷つく事はなかった。サミュエルは別にスーザンを害そうとしているわけではない。
スーザンがサミュエルを愛していたから、共に食事をできないことや、話しかけて無視されること、愛人を囲う事に傷ついたのだ。
再開してからのサミュエルはかつてのように微笑んでくれることも、見つめ合うことも、共にニュースの話題を語らうこともない。
よく考えると彼のどこに好きになる要素があるのだろうか。
かつてスーザンがサミュエルを好ましいと思っていた彼の良い部分を再開してからのサミュエルが見せてくれる事はなかった。
強いて言えば、見た目はカッコいいし背が高く、舞踏会で踊る時の強いホールドなどにかつての彼を思い出すが、そのくらいである。それはきっと見た目がかつての彼に似ているから心が揺れるのだ。
彼はスーザンにとって見た目のよく似た他人なのだ。
スーザンはそうやって思い込むことで自分を守ってきた。
「何を許せと?」
スーザンはサミュエルに聞いた。
「君をずっと蔑ろにしてきたことだ。君はずっと俺に尽くしてくれていたのに」
何を言っているか理解できなかった。
しばらく黙っているとサミュエルが続けた。
「気付いたのは食事からだった。これまでは、なんだか食べたいと思った時に食べたいものが出ていた。俺はてっきり食事係が俺の好みを把握してきたんだと思った。でも君が家を出てからは食べたい時に食べたいものが出てこない。聞くと今までは君が事細かに指示していたと言うじゃないか。」
「それは・・・」
尽くしていたと言うよりスーザンがサマンサだと気づいて欲しかったからだ。
「それに、俺は俺が君を必要な時以外、社交界にずっと一人で行かせていただろう?それでも俺に悪評が出ないよう、君が裏で俺を庇ってくれていたと聞いた。」
確かに、そんなこともあったかもしれない。
でもそれは半分以上は服飾部門の売り上げのためだ。
スーザンが幸せだから皆スーザンに憧れてスーザンのドレスを買ってくれるのだ。好んで不幸な女の真似をしたい人は居ない。スーザンは幸せな女を演じる必要があったのだ。
「それに、君のおかげで服飾部門の売り上げは大きく伸びた。俺は君の提案はどうせ、ただの思いつきで大したことないと思っていた。商会に通っているのもみんなの邪魔になっているに違いないと。でも、ルパートにそうではないと聞いた。君こそが服飾部門の要だと皆声を揃えて言った。それに、君はいつの間にか服飾部門以外の者からも慕われていたみたいだ。」
そこまで言うとサミュエルはスーザンの隣に来て跪いた。
「俺の目はずっと曇っていたみたいだ。一方的な思い込みで君を嫌ってきた。お願いだ。もう一度やり直したい。」
そう言うサミュエルの瞳には今までのような侮蔑の色は浮かんでいなかった。しかし、かつてのような恋焦がれる色も浮かんでいなかった。
スーザンはそっと首をふった。
スーザンはまだ自分の中にサミュエルがスーザンをサマンサだと気付いてくれるのではないかと言う希望が燻っていることに気付いてしまった。
そして、もしかすると今それを言ってくれるのではないかと期待していたのだと。
スーザンは落胆し、落胆していることに驚いた。もうこれ以上、心を動かされたくなかった。スーザンがもうすこしきっぱりとサミュエルに期待しなくなるまでは共に住むなど考えられない。
「どうして・・・?」
首をふったスーザンに対し疑問を口にするサミュエル。
スーザンはしばらく考えた後、おもむろに話し始めた。
「私のデビュタントでジェレミーにあなたを紹介された時に私はあなたに伝えたいことがありました。でも、周りに人が居て出来る話題ではなく話せませんでした。婚約してからも結婚してからもサミュエル様はずっと素っ気なくて、私が話しかけてもすぐに会話は切られますし、サミュエル様から話しかけてくださる時はいつも怒ってらっしゃる時で、とても私から別のことを言い出す雰囲気ではなく・・・
えぇ、これは今まで話ができなかった事への言い訳です。
・・・ジェレミーに紹介される前から私はサミュエル様のことを知っていました。」
そこまで言うとスーザンは深呼吸した。
そして意を決して話した。
「かつて、サマンサ・オースティンと呼ばれ、シープシャーの屋敷でサミュエル様と育ったのは私です。」
サミュエルは驚き口を開けている。
「言う機会がなかったのはその通りですが、言わなくてもいつかあなたがそのことに気づいてくれるのではないかと、ずっと期待していました。だって、私はジェレミーに紹介される前からあなただってわかってましたもの。でもあなたはいつまで経っても気付かない。食事だって屋敷の調度だって全てはあなたに気付いてもらうために頑張っていたの。でももう、疲れてしまったのです。」
「そんな・・・」
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