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エピローグ
スーザンとマーサの会話
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翌日、朝食の席でスーザンはサミュエルとのことをマーサに報告した。
サミュエルは片付ける仕事があると朝早くに屋敷に戻って行った。
「スーザン様は何故、旦那様をお許しになるのです?」
マーサは信じられないと言った顔でスーザンを見た。
「許すも何も・・・」
「スーザン様が旦那様のことを愛していらっしゃったのは存じております。やっと、あの不甲斐ない旦那様に見切りをつけられたかと思っておりましたのに」
そう言ってエプロンで目元を拭った。
「でも、もうサムが私のことを蔑ろにする事はないと思うわ」
「サム?いつからスーザン様は旦那様のことをサムと呼ばれるようになったのです?一晩で何が変わったというのです?」
「もつれていた糸が解けたのよ。ただそれだけ。」
「それでも、これまでの仕打ちが無くなって消えるわけではないと思いますけれど!」
「そんなに怒らないでよ。ほら、紅茶美味しいわよ。」
そう言ってマーサに紅茶を促すようにスーザンは自分でも紅茶を飲んだ。マーサも釣られて紅茶を飲む。
マーサが少し落ち着いたのを見てスーザンは言った。
「私ね、サムが初恋なのよ。ずっとずっと好きだった。昔、兄様が言ったわ。きっと私はサム以外を好きになれないだろうって。セバスティアーノ=ストウ家の血ね。」
マーサもセバスティアーノ=ストウ家が恋に狂う家だと言う噂は聞いたことがある。
過去にはそのために爵位を捨てる大恋愛をした者がいたり、半ば教会を騙す形で再婚の許可を貰ったりと伝説級の噂がたくさんある。
セバスティアーノ=ストウ家が恋に狂う家だというのは始祖である「ユーリアムとセイラ」の呪いだと言う人もいる。
スーザンの姉はそのために自殺し、兄は出奔した。スーザンがジェレミーと結婚する気になったのはサミュエルがスーザンのことを嫌っているそぶりを見せていた上に、ジェレミーがスーザンの片思いを認めてくれたからだ。
そうでなければ、スーザンはサミュエルのことを諦められなかったし、ジェレミーと結婚せずに、姉と同じ道を辿っていただろう。
「私自身も頭ではわかっていたのよ。何度も何度も思ったわ。どうしてサムを嫌いになれないのかしら、彼を嫌いになれたら楽なのに、と。」
そう言ってもう一度紅茶を口に含んだ。
「でも、無理なのよ。いつまでたっても、二人で参加する舞踏会で彼の差し出した手の上に自分の手を乗せる時にはドキドキするし、商会では彼の様子を気付いたら目で追ってしまっていたわ。私が何かをする時の全てのモチベーションは、彼から生まれるのよ。」
マーサは再び信じられない物を見る目でスーザンを見ている。
「また、蔑ろにされたらどうするんです?」
「わからないわ。だって、これまでも本当の意味で蔑ろにされた事はなかったわ。」
「何をおっしゃってるんですか?」
愛情の反対は無関心だと言う。
だとしたら、彼から向けられる憎悪はサミュエルが何かのきっかけでスーザンに向ける感情が愛情に変わる可能性があったということだ。
もし、サミュエルがスーザンに無関心で無害であったなら、逆にその方がスーザンは耐えられなかっただろう。
では、もしサミュエルがスーザンへの興味を失ったらどうするだろうか。一人で消えることが可能なら姉のように自害の道を選ぶかもしれない。もしお腹の子を守る必要がある時は兄のように子連れでどこか知らない土地に逃げ込むかもしれない。
そんなことを考えてスーザンは首を振った。
「先のことを考えても意味がないわ。私に出来るのは旦那様を信じることだけなんですもの。」
そう言ってスーザンは微笑んだ。
サミュエルは片付ける仕事があると朝早くに屋敷に戻って行った。
「スーザン様は何故、旦那様をお許しになるのです?」
マーサは信じられないと言った顔でスーザンを見た。
「許すも何も・・・」
「スーザン様が旦那様のことを愛していらっしゃったのは存じております。やっと、あの不甲斐ない旦那様に見切りをつけられたかと思っておりましたのに」
そう言ってエプロンで目元を拭った。
「でも、もうサムが私のことを蔑ろにする事はないと思うわ」
「サム?いつからスーザン様は旦那様のことをサムと呼ばれるようになったのです?一晩で何が変わったというのです?」
「もつれていた糸が解けたのよ。ただそれだけ。」
「それでも、これまでの仕打ちが無くなって消えるわけではないと思いますけれど!」
「そんなに怒らないでよ。ほら、紅茶美味しいわよ。」
そう言ってマーサに紅茶を促すようにスーザンは自分でも紅茶を飲んだ。マーサも釣られて紅茶を飲む。
マーサが少し落ち着いたのを見てスーザンは言った。
「私ね、サムが初恋なのよ。ずっとずっと好きだった。昔、兄様が言ったわ。きっと私はサム以外を好きになれないだろうって。セバスティアーノ=ストウ家の血ね。」
マーサもセバスティアーノ=ストウ家が恋に狂う家だと言う噂は聞いたことがある。
過去にはそのために爵位を捨てる大恋愛をした者がいたり、半ば教会を騙す形で再婚の許可を貰ったりと伝説級の噂がたくさんある。
セバスティアーノ=ストウ家が恋に狂う家だというのは始祖である「ユーリアムとセイラ」の呪いだと言う人もいる。
スーザンの姉はそのために自殺し、兄は出奔した。スーザンがジェレミーと結婚する気になったのはサミュエルがスーザンのことを嫌っているそぶりを見せていた上に、ジェレミーがスーザンの片思いを認めてくれたからだ。
そうでなければ、スーザンはサミュエルのことを諦められなかったし、ジェレミーと結婚せずに、姉と同じ道を辿っていただろう。
「私自身も頭ではわかっていたのよ。何度も何度も思ったわ。どうしてサムを嫌いになれないのかしら、彼を嫌いになれたら楽なのに、と。」
そう言ってもう一度紅茶を口に含んだ。
「でも、無理なのよ。いつまでたっても、二人で参加する舞踏会で彼の差し出した手の上に自分の手を乗せる時にはドキドキするし、商会では彼の様子を気付いたら目で追ってしまっていたわ。私が何かをする時の全てのモチベーションは、彼から生まれるのよ。」
マーサは再び信じられない物を見る目でスーザンを見ている。
「また、蔑ろにされたらどうするんです?」
「わからないわ。だって、これまでも本当の意味で蔑ろにされた事はなかったわ。」
「何をおっしゃってるんですか?」
愛情の反対は無関心だと言う。
だとしたら、彼から向けられる憎悪はサミュエルが何かのきっかけでスーザンに向ける感情が愛情に変わる可能性があったということだ。
もし、サミュエルがスーザンに無関心で無害であったなら、逆にその方がスーザンは耐えられなかっただろう。
では、もしサミュエルがスーザンへの興味を失ったらどうするだろうか。一人で消えることが可能なら姉のように自害の道を選ぶかもしれない。もしお腹の子を守る必要がある時は兄のように子連れでどこか知らない土地に逃げ込むかもしれない。
そんなことを考えてスーザンは首を振った。
「先のことを考えても意味がないわ。私に出来るのは旦那様を信じることだけなんですもの。」
そう言ってスーザンは微笑んだ。
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