【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル

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エピローグ

サミュエルとミスターゲーブルの会話

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「それで、奥様とはきちんと話をされたのですか。」

「あぁ、話した。」

商会の執務室で秘書のミスターゲーブルがふとしたタイミングで話しかけた。

もっとも、ここ数日機嫌の悪かったサミュエルが上機嫌になっているのだから結果は悪いようにはならなかったのだろうと言う事は予想できた。

「奥様は何と?」

「まぁ、詳しく話すほどのことではないな。」

「それで、戻ってこられると?」

「王都の家には戻ってこない。シープシャーの屋敷に行くことになった。」

ミスターゲーブルは驚いた。
てっきり王都の家に戻ってくるのだと思っていた。

「それで旦那様はよろしいんで?」

「あぁ、俺も昔から子育てはシープシャーでと思っていたからな。」

サミュエルがそう言うとミスターゲーブルは思わず持っていた書類を落としそうになった。

「子育て!?」

声がうわずった。

「だ、誰の子供ですか?」

「俺以外に誰が居る?」

「でも・・・」

ミスターゲーブルは書類を持ち直すと思い切って声を出した。

「旦那様と奥様は白い結婚だと思ってました」

そんなミスターゲーブルを見てサミュエルはふっと笑った。

「俺もそう思っていた。」

「それじゃあ、やっぱり、誰の子なんです?」

「だから、俺だって」

「あの、旦那様はもしかして、子作りについてご存知ない・・・ですか?」

国でいちにを争う名門学園を優秀な成績で卒業しているはずだが、学園でそう言うことを教えるのだろうか?いや、教えなさそうだ。
貴族のように閨教育をしていないのだろうか?その行為が子作りだと思っていない可能性もあるな。
ミスターゲーブルはそう思った。

「俺を何歳だと思ってる?知ってるに決まってるだろ?」

それでもミスターゲーブルの顔色は変わらない。

「いや、旦那様。赤子はコウノトリが運んでくる訳じゃないんですよ。」

「だから、知ってるって!」

「それじゃあ、いつ?」

ミスターゲーブルは何とかそう言うのがいっぱいいっぱいだった。

「三月のボート部の集まりの後。」

それまで青くなっていたミスターゲーブルの顔色が今度は赤くなっていく。
そういえばあの日はやけに酔っていたなと思い出す。

「つまり、酔った勢いで手をつけたと?」

「そうだな。」

サミュエルは恥ずかしいのかぶっきらぼうに答える。

「覚えてなかったんですか?」

「今から思い返せば妙に生々しい夢だなとは思った。」

「・・・ゆめ・・・でも、その時はまだ奥様のことをお嫌いでいらっしゃいましたよね?」

「そこが複雑なんだけど、俺は初めて会った時から、スーザンに対して、そう言う欲望は持っていた。だから、なんというか」

そう言いながら背もたれに身を預けた。
ミスターゲーブルが言葉を引き継いだ。

「夢の中で奥様との逢瀬はよくあったと。」

「そう言うことだ。」

「はじめから奥様を好きだったんですか?」

「いや、嫌いだったさ。彼女の存在のせいで俺はいくつの諍いに巻き込まれたと思う?それに、ジェレミーを蔑ろにしていたのも許せなかった。ジェレミーは彼女に愛されるべきだった。」

そこまで言うとサミュエルはため息をついた。

「一番嫌いだったところは、そんな彼女に俺自身が惹かれてしまったところだ。」

今度はミスターゲーブルが大きなため息をついた。

「結婚された時に素直になればよろしかったのに。」

「俺はずっと理性に対して素直だった。」

「そうですか?ずっと奥様から逃げてらしたように思いますけど。」

「初めてスーザンに会った時、ジェレミーを哀れだと思った。ジェレミーはあんなにも彼女に惚れているのに、彼女からは何も返してもらってない。それでも彼女を一途に愛しているなんて滑稽じゃないか。俺はそうはなりたくなかった。」

「それであの態度だったのですか?それで、今までの態度を奥様は許してくれたと?」

ミスターゲーブルは少しあきれたような口調で話した。

「そうだな。彼女は俺が彼女のことを深層心理では嫌っていないってわかってたみたいだ」

本当に俺に絶望していたら、とっくに姉のように自害していた、とは言われた。

「それに、俺がずっと探していたサマンサは彼女だった。」

すると、ゲーブルは大きく天井を見上げて落胆した。

「まさか!」

「彼女はずっと俺のことが好きだったと。」

「それで許してくれたって事ですか?惚れた弱味・・・あんなに探したのに見つからないわけだ。」

「俺の家庭教師で、サマンサの兄だったサンダース・オースティンはスティーブン・セバスティアーノ=ストウの偽名だったらしい。侯爵家が醜聞を揉み消してたんだから見つからなくてもしょうがない。」

「でも、別れた時、彼女は12歳だったんですよね?面影なんかなかったんですか?」

「言われてみれば面影はあるかもしれない。目とか鼻の感じが。ただ、俺と別れた時彼女はまだ金髪で、そばかすもあったし、名前も年齢も変わってたからな。」

「年齢も?」

「お家騒動でいろいろとあったらしい。これは、セバスティアーノ=ストウ家の醜聞にも関わるから、絶対に他言無用なんだが、彼女は実の兄と姉の子供だ。姉の名がサマンサだそうだ。ちょうど社交シーズンで親は王都にいて姉の妊娠に家族は気付くのが遅れ、気づいた時には生まれてしまっていたそうだ。でも、未婚の娘が子を産んだなど世間に言えない。それで、彼女の祖母、前セバスティアーノ=ストウ夫人が彼女を妊娠して出産したことにしたらしい。ただ、社交界に参加していたから急に生まれたというには無理があった。それで、彼女は本当の生まれた日と世間でで認められている誕生日には8ヶ月ほど差がある。」

「それで生まれ年が違ったから気付かなかったと?」

「まぁ、それもある。それに再開する前から彼女のことを情報だけでは知っていたからな。情報だけで聞く彼女は全くサマンサとは繋がらなかった。」

情報が頭にない状態で再開していたらどうなっていたかはわからない。

「なんにせよ、優秀な奥様と離縁することにならなくて良かったです。」

ミスターゲーブルはそう切り上げると執務に戻った。
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