【完結】転生王子は、今日も婚約者が愛しい

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声をかけられた彼女はびくっと体を震わせた。
叱られた子供のような雰囲気を醸し出している。
恐る恐る振り返った顔は血の気が引いていて、何か見られたくないものを見られてしまったようだ。


「ステファン様……。」
「それは？」

彼女が後ろ手に何かを隠したのを見逃しはしなかった。
彼女に、努めて優しく声をかけてみると、戸惑いながらも隠したものをそっと差し出してきた。
綺麗にラッピングされたそれは、彼女が一生懸命作ってくれたものだろう。
彼女の反応から、手の中のそれは、間違いなく自分のために焼いてくれたものだとわかる。
くるりと裏返すと、自分の名前が書かれたカードが添えられていた。
少なくない時間と手間をかけて作られたであろうそれを、どうして捨てようとしていたのだろうか。やっぱり――


「……わたしが、男爵令嬢と昼食を取ると思ったのか……？それで……。」
「ちっ……違います！……あ、いや……その…………。違わなくはないのですが、そうじゃなくて……。…………手作りは…………良くなかったと思って…………。」


俯き気味にそういう彼女の声はどんどん小さくなっていく。
ちらりとこちらをみて反応を伺うそれは、完全に叱られるのを待つ子供のそれだ。


「……いま、食べても？」
「！！？も、もちろんです！あ、いえ、でも他人の手作りは……。」
「君はわたしの婚約者だ、他人じゃない。……そうだろう？…………うん、美味しい。ありがとう。」
「……！……良かったです……。」

心底安心したような様子の彼女に、さらなる欲が首をもたげる。
彼女の心はまだ自分に向いているはずだ、と、そんな原作ありきの確信でほぼリスクの無い賭けに出てみることにした。


「もし良かったら今日の放課後、一緒に食事でも行かないか？クッキーのお礼も兼ねて。」

その言葉に、オリヴィアはぱっと顔を上げた。
心なしかその瞳が輝いているようにさえ見えた。