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国境付近の林道で一台の馬車が発見された。
血痕と粉塵にまみれたそれはぼろぼろに傷つき、元の華美に飾り付けられていたであろう装飾品類は持ち出されていた。目に付くのは切り付けられた座面と外れた車輪。
目の覚めるような情熱的な赤い色のよく手入れされた艶やかな髪と、不死鳥をかたどった家紋は赤黒い汚れがこびりつき、見るも無惨な姿であった。
――所変わって王宮
「わたしは宰相を辞めさせていただく!!!」
そう怒鳴りつけた男は、部屋に入室するなり目の前の机に辞表を叩きつけた。その向かいに座って彼を待っていた男は大慌てで彼を引き止めんとする。
「それだけは……!考え直してくれんか公爵……。それに宰相職を辞めたらお主のこの国での立場も……。」
「娘を殺したこの国に用などないわ!!この国での立場だと?王国での公爵位など取り上げられても結構だ!娘同様国外追放にでもすれば良い!!!あの子の居ないこの国にしてやれることなどひとつもない!」
「だが君には妻がいるだろう?彼女を路頭に迷わせる気か!?」
「彼女だってわたしと同じ意見だ。気に食わないなら彼女だって追放するがいい!貴方にはそれが出来るだけの力があるんだからな、貴方の息子とは違って!」
そう言って男が目を向けた部屋の隅には、座っている男――国王の息子であるエドワードが立っていた。彼がエドワードに向ける目は憎悪に満ち溢れていた。
「な、なんだその目は!?無礼だぞフェリクス公爵!!」
彼の目に耐えられなくなったエドワードが声を荒らげた。だがその言葉を向けられた公爵はより一層その目に込める憎悪を膨らませた。
「無礼?無礼だと?人殺しの分際でよくも宣ったな!!いい機会だからこの場で言ってやろう。我が公爵家は王国を離脱する!!領地も屋敷も欲しければ全部くれてやる!!公爵という身分も必要ないわ!こんな国に最早一日たりとも尽くしたくはない!!!」
そう言うと男は身につけていた勲章とマントを脱ぎ捨ててその場に叩きつけた。その場に残された二人はくるりと踵を返して荒々しく去っていった男の背中を呆然と見つめることしか出来なかった。
――男が叩きつけたマントには、不死鳥をかたどった刺繍が縫い付けられていた。
国境付近の林道で一台の馬車が発見された。
血痕と粉塵にまみれたそれはぼろぼろに傷つき、元の華美に飾り付けられていたであろう装飾品類は持ち出されていた。目に付くのは切り付けられた座面と外れた車輪。
目の覚めるような情熱的な赤い色のよく手入れされた艶やかな髪と、不死鳥をかたどった家紋は赤黒い汚れがこびりつき、見るも無惨な姿であった。
――所変わって王宮
「わたしは宰相を辞めさせていただく!!!」
そう怒鳴りつけた男は、部屋に入室するなり目の前の机に辞表を叩きつけた。その向かいに座って彼を待っていた男は大慌てで彼を引き止めんとする。
「それだけは……!考え直してくれんか公爵……。それに宰相職を辞めたらお主のこの国での立場も……。」
「娘を殺したこの国に用などないわ!!この国での立場だと?王国での公爵位など取り上げられても結構だ!娘同様国外追放にでもすれば良い!!!あの子の居ないこの国にしてやれることなどひとつもない!」
「だが君には妻がいるだろう?彼女を路頭に迷わせる気か!?」
「彼女だってわたしと同じ意見だ。気に食わないなら彼女だって追放するがいい!貴方にはそれが出来るだけの力があるんだからな、貴方の息子とは違って!」
そう言って男が目を向けた部屋の隅には、座っている男――国王の息子であるエドワードが立っていた。彼がエドワードに向ける目は憎悪に満ち溢れていた。
「な、なんだその目は!?無礼だぞフェリクス公爵!!」
彼の目に耐えられなくなったエドワードが声を荒らげた。だがその言葉を向けられた公爵はより一層その目に込める憎悪を膨らませた。
「無礼?無礼だと?人殺しの分際でよくも宣ったな!!いい機会だからこの場で言ってやろう。我が公爵家は王国を離脱する!!領地も屋敷も欲しければ全部くれてやる!!公爵という身分も必要ないわ!こんな国に最早一日たりとも尽くしたくはない!!!」
そう言うと男は身につけていた勲章とマントを脱ぎ捨ててその場に叩きつけた。その場に残された二人はくるりと踵を返して荒々しく去っていった男の背中を呆然と見つめることしか出来なかった。
――男が叩きつけたマントには、不死鳥をかたどった刺繍が縫い付けられていた。
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