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しおりを挟む【今、大ちゃんは幸せですか?
十年後って事は、もう二十三歳だね。
きっと凄くカッコ良くなってるんだろうなぁ】
涙に濡れる瞼をそっと開くと、俺は誰もいなくなった空間を見つめた。まるで先程まで見ていた光景が全て夢だったかのように、ひっそりと静まり返った教室。
そんな中、何かがヒラリと舞って床へと落ちてゆくのを目にした俺は、それを追うようにして身を屈めると、足元に落ちたそれをそっと拾い上げてみた。
するとそれは、キャンディータフトの押し花が収まった、少し歪な形をした栞だった。
【私は今、十二歳です。
中学生になったんだよ。
でもね、具合が悪くて学校に行けてないの。
毎日寂しいです。
私も早く大ちゃんと一緒に学校に行きたいな】
栞をギュッと握りしめた俺は、フラリと歩き出すと机に置かれたままだった封筒を手に取った。ゆっくりと椅子に腰を掛け、涙を拭ってその手紙を読み始める。
【まだ一度も着てないセーラー服、早く大ちゃんに見せたいな。
それを着て一緒に学校に行くのが、今の私の目標なの。
軋む廊下、私も早く歩いてみたいな。
来年の春には、一緒に桜が見れたらいいね】
手紙を持つ手は小刻みに震え出し、俺は涙を拭いながらも咽び泣いた。
【頑張って元気になったらね、大ちゃんと思い出いっぱい作るの。
一緒に中学校を卒業して、高校も……一緒だと嬉しいな。
十年後の私達は何をしてるのかな?
今でも一緒にいますか?
一緒にいれたら嬉しいな】
栞を握りしめた手にグッと力を込めると、悲痛に顔を歪ませた俺は誰もいない教室で一人泣き叫んだ。
【大ちゃん、私ね。
ずっとずっと……大ちゃんの事が好きでした。
大ちゃんに出会えて、私は本当に幸せです】
静まり返った校舎には悲痛な泣き声だけが虚しく響き渡り、まるでそれを慰めるかのようにして、桜の花びらを乗せた風が優しく吹いてその声をさらっていった。
─完─
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