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第5章 七夕
8.甘い闇路
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きっと長いあいだ、伊吹のなかには大きな穴があいていたのだ。
今はそこにひとつの言葉がはいりこんで、全身に広がっていく。
愛している、愛している、愛している。
たぶん夢をみていたのだろう。すぐそばにあたたかい生き物がいて、どこかで小鳥が鳴いていた。濃い蜜の香りがする。
ここにとどまりたい。
――ここ、とは?
伊吹は目をあけた。
どこにでもありそうなビジネスホテルの部屋だった。面積の半分以上はダブルベッドに占められている。窓にはベージュのカーテンがかかり、つくりつけのデスクと小さな液晶テレビがある。デスクの下には冷蔵庫。カーテンのあわせめからは日の光がこぼれていた。
伊吹はゆっくり上体をおこし、そっとシーツを持ち上げた。枕になかば顔をうずめている七星の巻き毛に手をのばそうとして、はっとしてひっこめる。
――どうしてこうなった?
記憶を呼び起こそうとしてもすぐに頭に浮かばない。伊吹にはめったにないことだ。しばらく考えてやっと、〈ユーヤ〉で武流に呼び出されたことを思い出した。
そうだ、武流と飲んでいる最中に電話がかかってきたのだ。武流は七星がトラブルに遭ったといい、それから――?
どうやってこの部屋に来たのか、いつ七星と合流したのかさっぱり思い出せない。はっきりしているのは今ここに七星がいる、という事実と、あの日のように伊吹は彼を抱いたということ。そしてあの日のような歯止めが今回はなかったということだ。
床には服が乱雑に脱ぎ捨てられている。待て。今は何時だ。
伊吹は首をまわし、ベッドサイドのアラームクロックが十七時をさしているのに仰天した。日付が変わっているどころではない。しかも十七時?
まさか。今日は花筐会の日だ。しかし、この時間ならもうとっくに終わっている。伊吹は宮久保家の行事をすっぽかしたのだ。しかも今日の会で、伊吹には当主じきじきに頼まれた役割があった。
そこまで考えたとき、武流の声が頭によみがえった。
(例の再開発がらみで招待された議員への説明、おまえに任されているだろう?)
(その説明、俺にも一口噛ませてもらえないか)
伊吹の脳裏でたちまちいくつかの要素がつながった。武流は志野との関係を当主に認めさせるつもりだった。俺は武流に今日の資料を渡した――つまり、俺の穴は武流が埋めたにちがいない。
武流は七月七日以前からユーヤに通っていた。スタッフも七星もいつのまにかあいつのことを知っていた。武流は七星とも話をしていた。俺と七星が距離をとろうとしているあいだも。
それに、あいつの友人だというベータの男。
まさか、俺と七星のあいだに何があったか、武流は知っていた?
「う……ん……」
七星が小さな声でうめき、伊吹は不意打ちを食らったようにびくりとした。そろそろと身をかがめ、七星のうなじに顔を近づける。噛んだ跡はわずかに盛り上がっている。指でなぞったとたん、ふわりと香りが立ち上り、あの瞬間の記憶がくっきりとよみがえる。
――俺のつがい。愛している、愛している、愛している。
「ああ……」
知らないうちに声をもらしていた。伊吹は両手に顔をうずめた。自分がなぜここいるのかはわからなくても、ここには嘘はない。ほんとうしかない。だが噛んでしまったとなると――
「――伊吹さん?」
かすれた声が響いた。伊吹はぱっと手を離す。シーツのあいだから七星の大きな眸がのぞいている。七星はきょとんとした目つきで伊吹をみた。
「僕――僕、伊吹さんと――え?」
ひゅっと息をのむ音が響き、凍りついたように表情が固まった。
「七星、落ちつくんだ」
「伊吹さん? 僕らどうして、どうしてこんな……僕はいつ――」
「大丈夫だから、落ちつきなさい」
伊吹はシーツの上にかがみこみ、両手で七星の頬を包んだ。
「昨日なにがあったか思い出せるか? 私と〈ユーヤ〉ですれちがっただろう、あのあとは?」
「あのあと? 安西さんと話して――食事をしに行って、そのあとどこかの店で飲んで……」
七星は顔をしかめた。
「僕、お酒は飲んでいないんですけど……たしかノンアルのカクテル……」
「気分が悪くなったりしなかったか?」
「……思い出せなくて」
「私にわかるのは、その安西という男から連絡が来たところまでだ。私は武流と一緒にいた。安西が武流に電話をよこしたんだ。きみの具合が悪くなったといって」
「武流――春日さん、ですか?」
「つまり彼らか、別の誰かか。とにかく何者かが私たちをここへ連れこんだのだと――思う。きみが私の言葉を信じるなら、だが」
「信じる? それは――」
七星はごくりと唾を飲みこんだ。
「あなたと僕は……約束しましたよね。不用意に近づかないって」
「ああ」
「僕は伊吹さんが嘘をつくとは……思いません。だけど」
七星の手が首のうしろにまわり、うなじを押さえた。
「どうして? どうして僕らをこうやって――連れてきたりするんですか? なぜ?」
その通り。理由が問題だ。
そう考えたとたんある可能性に思い当たって、伊吹は上体を起こした。
「伊吹さん?」
「待って。静かに」
伊吹はベッドを下りると、床に散らばった服をひろった。七星のものにちがいないTシャツと下着をベッドに投げて、自分は裸のままユニットバスのドアをあける。
洗面台の横に探していたものがあった。伊吹のスマホと財布だ。
ここに伊吹と七星を置き去りにした者は泥棒ではないという確信があった。むしろ伊吹が自分の意思でここに泊ったとみせかけたいはずだ。スマホの液晶には着信を知らせるランプが点滅していた。メッセージも何通も届いている。
伊吹はそれらをすべて無視してロックを解除し、部屋に戻ると、とあるアプリを起動した。客室の入口から部屋の奥へ、壁と天井にスマホのカメラを向け、ゆっくり動かしていく。入口横のスロットにはカードキーが差し込んであった。伊吹は印刷されたホテルの名前を確認し、キーをもとに戻した。カメラをゆっくりかざしていると、ピコンとアラートが鳴った。
「あった」
「何?」
「監視カメラだ」
スパイカメラ検出アプリは宮久保家の警備担当の要請でインストールしていたものだ。配線カバーやコンセントカバーにみせかけたものが、ベッドの真上の天井にひとつ、側面の壁にひとつある。伊吹はもう一度ユニットバスに戻り、ここも調べた。それから七星を手まねきした。
七星はシーツの下でTシャツと下着を身につけると、こわばった表情でそろそろとやってきた。伊吹はシャワーカーテンを引き、湯の栓をひねった。
「身体を洗って。私は部屋の写真をとる」
下着とシャツを身につけると、伊吹はスマホをかざして部屋中の写真を撮った。心は奇妙なほど落ちついていた。映像はWi-Fiで飛ばしているにちがいないし、仕掛けた者は伊吹がカメラに気づくことも計算にいれているかもしれない。
すでに十中八九、武流の仕業だと思っていた。伊吹の「浮気現場」を手に入れるために七星を巻きこんだ――そう考える方が簡単だったし、筋も通るからだ。
ユニットバスからは水音が聞こえてくる。
宮久保家の当主が伊吹を蓮の夫に選んだのは、三城家への金銭援助をはじめとした「取引」の手前、絶対に妻を裏切ることがないからである。しかし志野と結婚して宮久保家の中で影響力をもちたい武流にとって、そんな伊吹は邪魔なのだ。おなじアルファとして、瀧がそれなりに伊吹を評価しているからなおのこと。
伊吹がベータだったなら、武流もここまでしようとは思わなかったかもしれない。しかし伊吹はオメガのために買われたアルファだ。
伊吹は唇を噛んだ。武流に邪魔だと思われているのはずっと前からわかっていたが、こんなやり方を使うとは思わなかった。これからどうすべきか。どこまで盗撮されたにせよ、宮久保家に映像が渡れば伊吹は終わったも同然だろう。
でも――重要なのは、そんなことではない。
七星がどれほどショックを受けたか。そっちのほうが問題だった。肝心なのは七星を守ることだ。
ここで起きたことのせいで、七星に何かあってはならない。
ユニットバスのドアをあけるともうもうと湯気が流れ出た。七星はバスタブの底に膝をかかえて座っている。伊吹にぼんやりした視線を投げた。
「伊吹さん……僕はあなたと一緒に……いてはいけないのに……どうしたら……」
伊吹は床に膝をついた。しぶきがシャツにかかって、点々としみをつくった。七星は伊吹から目をそらし、膝をみつめてぼそぼそつぶやいている。
「出会ってしまったのがまちがいだった。離れていようと思ったのに、それができなかったのも、ぜんぶまちがいだった。それなのに……」
「七星」
伊吹は手を伸ばし、七星の肩をつかんだ。ふと、左手に指輪がないのに気づいた。蓮と結婚してから一度も外したことがないのに、どこへ行ったのだろう?
「ちがう。まちがいじゃない」
七星は抗議するように目をみひらいて伊吹をみつめた。
「だけど蓮さんは? あなたのつがいはあの人だ。あなたが僕を噛んでも、それはただ……ただ、匂いとか、ああいう……もののせいで……」
「きみは何にも代えられない人だ。それが何のせいだとしても、もう関係ない」
七星の喉がごくりと動いた。
「だけど!」
伊吹は七星の肩をつかんだままゆっくり顔を近づけていった。七星は唇をひきむすんでいた。伊吹はかまわず、頬に触れそうなほど唇を寄せていく。水音がどれだけ響いても、七星がけっして聞き逃さないように。
「それでいいと……いってくれ。きみは私のつがいだと……頼む」
七星の目がさらに大きくみひらかれた。透明な涙がみるみるうちにたまり、頬へこぼれおちていく。伊吹は唇でしずくに触れた。
「愛している。だからきみを噛んだ」
今はそこにひとつの言葉がはいりこんで、全身に広がっていく。
愛している、愛している、愛している。
たぶん夢をみていたのだろう。すぐそばにあたたかい生き物がいて、どこかで小鳥が鳴いていた。濃い蜜の香りがする。
ここにとどまりたい。
――ここ、とは?
伊吹は目をあけた。
どこにでもありそうなビジネスホテルの部屋だった。面積の半分以上はダブルベッドに占められている。窓にはベージュのカーテンがかかり、つくりつけのデスクと小さな液晶テレビがある。デスクの下には冷蔵庫。カーテンのあわせめからは日の光がこぼれていた。
伊吹はゆっくり上体をおこし、そっとシーツを持ち上げた。枕になかば顔をうずめている七星の巻き毛に手をのばそうとして、はっとしてひっこめる。
――どうしてこうなった?
記憶を呼び起こそうとしてもすぐに頭に浮かばない。伊吹にはめったにないことだ。しばらく考えてやっと、〈ユーヤ〉で武流に呼び出されたことを思い出した。
そうだ、武流と飲んでいる最中に電話がかかってきたのだ。武流は七星がトラブルに遭ったといい、それから――?
どうやってこの部屋に来たのか、いつ七星と合流したのかさっぱり思い出せない。はっきりしているのは今ここに七星がいる、という事実と、あの日のように伊吹は彼を抱いたということ。そしてあの日のような歯止めが今回はなかったということだ。
床には服が乱雑に脱ぎ捨てられている。待て。今は何時だ。
伊吹は首をまわし、ベッドサイドのアラームクロックが十七時をさしているのに仰天した。日付が変わっているどころではない。しかも十七時?
まさか。今日は花筐会の日だ。しかし、この時間ならもうとっくに終わっている。伊吹は宮久保家の行事をすっぽかしたのだ。しかも今日の会で、伊吹には当主じきじきに頼まれた役割があった。
そこまで考えたとき、武流の声が頭によみがえった。
(例の再開発がらみで招待された議員への説明、おまえに任されているだろう?)
(その説明、俺にも一口噛ませてもらえないか)
伊吹の脳裏でたちまちいくつかの要素がつながった。武流は志野との関係を当主に認めさせるつもりだった。俺は武流に今日の資料を渡した――つまり、俺の穴は武流が埋めたにちがいない。
武流は七月七日以前からユーヤに通っていた。スタッフも七星もいつのまにかあいつのことを知っていた。武流は七星とも話をしていた。俺と七星が距離をとろうとしているあいだも。
それに、あいつの友人だというベータの男。
まさか、俺と七星のあいだに何があったか、武流は知っていた?
「う……ん……」
七星が小さな声でうめき、伊吹は不意打ちを食らったようにびくりとした。そろそろと身をかがめ、七星のうなじに顔を近づける。噛んだ跡はわずかに盛り上がっている。指でなぞったとたん、ふわりと香りが立ち上り、あの瞬間の記憶がくっきりとよみがえる。
――俺のつがい。愛している、愛している、愛している。
「ああ……」
知らないうちに声をもらしていた。伊吹は両手に顔をうずめた。自分がなぜここいるのかはわからなくても、ここには嘘はない。ほんとうしかない。だが噛んでしまったとなると――
「――伊吹さん?」
かすれた声が響いた。伊吹はぱっと手を離す。シーツのあいだから七星の大きな眸がのぞいている。七星はきょとんとした目つきで伊吹をみた。
「僕――僕、伊吹さんと――え?」
ひゅっと息をのむ音が響き、凍りついたように表情が固まった。
「七星、落ちつくんだ」
「伊吹さん? 僕らどうして、どうしてこんな……僕はいつ――」
「大丈夫だから、落ちつきなさい」
伊吹はシーツの上にかがみこみ、両手で七星の頬を包んだ。
「昨日なにがあったか思い出せるか? 私と〈ユーヤ〉ですれちがっただろう、あのあとは?」
「あのあと? 安西さんと話して――食事をしに行って、そのあとどこかの店で飲んで……」
七星は顔をしかめた。
「僕、お酒は飲んでいないんですけど……たしかノンアルのカクテル……」
「気分が悪くなったりしなかったか?」
「……思い出せなくて」
「私にわかるのは、その安西という男から連絡が来たところまでだ。私は武流と一緒にいた。安西が武流に電話をよこしたんだ。きみの具合が悪くなったといって」
「武流――春日さん、ですか?」
「つまり彼らか、別の誰かか。とにかく何者かが私たちをここへ連れこんだのだと――思う。きみが私の言葉を信じるなら、だが」
「信じる? それは――」
七星はごくりと唾を飲みこんだ。
「あなたと僕は……約束しましたよね。不用意に近づかないって」
「ああ」
「僕は伊吹さんが嘘をつくとは……思いません。だけど」
七星の手が首のうしろにまわり、うなじを押さえた。
「どうして? どうして僕らをこうやって――連れてきたりするんですか? なぜ?」
その通り。理由が問題だ。
そう考えたとたんある可能性に思い当たって、伊吹は上体を起こした。
「伊吹さん?」
「待って。静かに」
伊吹はベッドを下りると、床に散らばった服をひろった。七星のものにちがいないTシャツと下着をベッドに投げて、自分は裸のままユニットバスのドアをあける。
洗面台の横に探していたものがあった。伊吹のスマホと財布だ。
ここに伊吹と七星を置き去りにした者は泥棒ではないという確信があった。むしろ伊吹が自分の意思でここに泊ったとみせかけたいはずだ。スマホの液晶には着信を知らせるランプが点滅していた。メッセージも何通も届いている。
伊吹はそれらをすべて無視してロックを解除し、部屋に戻ると、とあるアプリを起動した。客室の入口から部屋の奥へ、壁と天井にスマホのカメラを向け、ゆっくり動かしていく。入口横のスロットにはカードキーが差し込んであった。伊吹は印刷されたホテルの名前を確認し、キーをもとに戻した。カメラをゆっくりかざしていると、ピコンとアラートが鳴った。
「あった」
「何?」
「監視カメラだ」
スパイカメラ検出アプリは宮久保家の警備担当の要請でインストールしていたものだ。配線カバーやコンセントカバーにみせかけたものが、ベッドの真上の天井にひとつ、側面の壁にひとつある。伊吹はもう一度ユニットバスに戻り、ここも調べた。それから七星を手まねきした。
七星はシーツの下でTシャツと下着を身につけると、こわばった表情でそろそろとやってきた。伊吹はシャワーカーテンを引き、湯の栓をひねった。
「身体を洗って。私は部屋の写真をとる」
下着とシャツを身につけると、伊吹はスマホをかざして部屋中の写真を撮った。心は奇妙なほど落ちついていた。映像はWi-Fiで飛ばしているにちがいないし、仕掛けた者は伊吹がカメラに気づくことも計算にいれているかもしれない。
すでに十中八九、武流の仕業だと思っていた。伊吹の「浮気現場」を手に入れるために七星を巻きこんだ――そう考える方が簡単だったし、筋も通るからだ。
ユニットバスからは水音が聞こえてくる。
宮久保家の当主が伊吹を蓮の夫に選んだのは、三城家への金銭援助をはじめとした「取引」の手前、絶対に妻を裏切ることがないからである。しかし志野と結婚して宮久保家の中で影響力をもちたい武流にとって、そんな伊吹は邪魔なのだ。おなじアルファとして、瀧がそれなりに伊吹を評価しているからなおのこと。
伊吹がベータだったなら、武流もここまでしようとは思わなかったかもしれない。しかし伊吹はオメガのために買われたアルファだ。
伊吹は唇を噛んだ。武流に邪魔だと思われているのはずっと前からわかっていたが、こんなやり方を使うとは思わなかった。これからどうすべきか。どこまで盗撮されたにせよ、宮久保家に映像が渡れば伊吹は終わったも同然だろう。
でも――重要なのは、そんなことではない。
七星がどれほどショックを受けたか。そっちのほうが問題だった。肝心なのは七星を守ることだ。
ここで起きたことのせいで、七星に何かあってはならない。
ユニットバスのドアをあけるともうもうと湯気が流れ出た。七星はバスタブの底に膝をかかえて座っている。伊吹にぼんやりした視線を投げた。
「伊吹さん……僕はあなたと一緒に……いてはいけないのに……どうしたら……」
伊吹は床に膝をついた。しぶきがシャツにかかって、点々としみをつくった。七星は伊吹から目をそらし、膝をみつめてぼそぼそつぶやいている。
「出会ってしまったのがまちがいだった。離れていようと思ったのに、それができなかったのも、ぜんぶまちがいだった。それなのに……」
「七星」
伊吹は手を伸ばし、七星の肩をつかんだ。ふと、左手に指輪がないのに気づいた。蓮と結婚してから一度も外したことがないのに、どこへ行ったのだろう?
「ちがう。まちがいじゃない」
七星は抗議するように目をみひらいて伊吹をみつめた。
「だけど蓮さんは? あなたのつがいはあの人だ。あなたが僕を噛んでも、それはただ……ただ、匂いとか、ああいう……もののせいで……」
「きみは何にも代えられない人だ。それが何のせいだとしても、もう関係ない」
七星の喉がごくりと動いた。
「だけど!」
伊吹は七星の肩をつかんだままゆっくり顔を近づけていった。七星は唇をひきむすんでいた。伊吹はかまわず、頬に触れそうなほど唇を寄せていく。水音がどれだけ響いても、七星がけっして聞き逃さないように。
「それでいいと……いってくれ。きみは私のつがいだと……頼む」
七星の目がさらに大きくみひらかれた。透明な涙がみるみるうちにたまり、頬へこぼれおちていく。伊吹は唇でしずくに触れた。
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