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#.4信じろ!

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#.4 信じろ!


『南朋、それじゃ、私たちカラオケ行って来るねー。手料理楽しみにしてるから』
『おう、楽しんで来いよ!あ、望結、ちょっといいか!』
美香に悟られないように、望結にオッサンとのメールのやり取りを話した。
『分かった。南朋、気を付けてね』望結も、どうなるか気がかりで仕方ないのだろうな。
『美香、気をつけてなーー!おもいっきり、発散してこいよ!』
『最低限、食べれる晩御飯に期待してるからねーー』ちっ、いちいち一言多いんだよ。
まぁ、いつもの美香にもどりつつあるって事だけどな。

さぁ、俺も出かける準備すっか。美香の事件がきっかけではあるが、個人的に楽しみでは
あるのが本音でもる。オッサンのメール内容からすると、何らかの事は必ずあるとは思うし。
でも、どうやって証明すんだろ?2分だけ時間を操れるって事も気になるしな。
昨日オッサンと会った時、オッサンの顔が痩せこけていたのも、能力と関係あるかもな。
まぁ、不規則な生活してんだろーしな。俺も、人の事は言えねーけど。

“南朋君、おはよう。昨日はよく眠れたかな?待ち合わせ時間までは1時間以上早いけど
僕は、もう近くにいるから。ゲームセンターに着いたらメールして”
スマホに、オッサンからのメールが入ってあった。え、もう来てんの!どんなけ早いんだ!
まさか、あの格ゲーやってんじゃ、、、な、わけねーか。まぁ、喫茶店にでもいるんだろー。
少し、はえーが俺も早めに行くか。

ゲーセンに時間より10分程早めに着いた。いつも時間に遅刻する俺には珍しいことだ。
自分を褒めたい。って、お、オッサン、格ゲーやりまくってんじゃねーか。
しかも、どんなけ台に小銭乗せてんだ!よっぽど、やりこんでんじゃ、、、
オッサンに気付かれないように、対戦を申し込む。
時間を操ってない状態のオッサンの腕前は、やはり素人だ。秒殺で俺の圧勝!
『南朋君、卑怯だよ!僕が勝てる訳がないって』
『いや、昨日よりは腕上げてんるんじゃねーかな』
『そうか、そう言ってくれると3千円程、つぎ込んだのも報われるな』え、そんなにもか!
羨まし過ぎる!3千円もあれば、俺なら、1日中ゲーセンに入れる!

『じゃ、そろそろ、昨日メールで話した事を証明していこうか。場所かえようか』
いよいよ、オッサンが持っている能力を間地かで見れるのか!興奮と緊張が入り混じる。
『大丈夫、南朋君。ちょっと緊張してない、まぁ、無理もないよね』
バレてる。そりゃ、そーだろ…、緊張しねー奴いねーよ
俺は、オッサンのお後に付いていく。ゲーセンから少し離れた場所に公園がある。
小さい頃、沙紀によく連れられて遊んでいた場所だ。今は当時と随分と景色も変わっている
平日の昼間もあってか、人気もなく、オッサンの能力を証明するにはもってこいだ。
公園の真ん中に、ちょっとした噴水がる。そこで、オッサンが立ち止まる。
そして、スマホを取り出し、こう説明する。
『今から、ある動画を見てもらうから。これは、この場所の2分先の映像なんだ』
『スマホに映る時刻と、公園の時刻をよく比較して見て欲しいんだ』
俺は、公園にある時計を見ると、2時30分ジャストだ。そして、オッサンのスマホの動画
の時刻は2時32分だった。約1分程の動画だったが、噴水の前を一人の女性が歩く姿が。
その女性は実際に公園にはない状態だ。そして、公園の時計の時刻は2時31分だった。
『南朋君、女性の特徴をよく確認しといてね。あと1分だから』
公園の時計が32分に差し掛かろうとした時だった、オッサンのスマホに映っていた女性が
公園の入口から、噴水に向かって歩いて来ているのが見えた。
え、マジかよ!時計が2時32分になり、さっきオッサンに見せてもらった動画の光景が
現実として、俺の目の前にあった。正直、頭が真っ白になったが、信じざる得なかった。

『南朋君、正直びっくりしただろうけど、これで僕が言ってる事が信用できたかな』
正直、混乱し色々と考えられる事があった。オッサンとその女性がグルな可能性もあるが
仮に、そうだとしてもオッサンにメリットがあるのか?昨夜のメールの内容と、そこまで
する必要性があるのかなど…
『南朋君、正直に言ってくれていいよ。僕も、最初は信用などできなかったからね』
『僕も、最初は南朋君と同じような事を考えていたんだ。これが事実なんだ』
そういうと、オッサンは再び、スマホで違う動画を見せてくる。
その動画は、紛れもなく信用に値する動画であり、俺はオッサンの能力について確実に
信用する動画となった。
その動画には、待ち合わせ場所のゲーセン前の映像が映し出せれていた。時間は1時48分
そう、俺はゲーセンに待ち合わせ時刻の10分前にゲーセンに到着している。
約1分半の動画には、俺がゲーセンに向かって歩いてくる映像がバッチリ映っていた。
俺は、特に10分前に到着する予定もなく、たまたま10分前に着いただけ…
オッサンも、俺が10分前に来ることなど知らないはず…
『どうだい、南朋君。僕は2分だけを過去に戻して撮影したんだ』
『まさか、南朋君が予定時刻前に来ることなんて、知る由もないよね』
確かに、オッサンの言う通りだ。公園の件は裏で打ち合わせ出来るが、俺が早く来るなんて
俺だって、ゲーセンに着いてから気づいたんだから!
それを、オッサンは偶然!いや、必然に俺が早く来る事を知っていたのか!
『マジなのか!し、信じるしかなーな!』何故か、悔しさがあった…
一つ気になるのは、オッサンは過去も、未来も2分だけ操れるって言ってたけど
その2分を連続して使いこなせるって事なのか…、でないと、俺が待ち合わせ時間より
早く来る事が分かんねーしな。最初に言ってた、事件当日まで時間を戻したって事も辻褄
が合うことになるな。
『一つだけ、俺に嘘を言ってるだろ!』
『南朋君、流石だね!そこに気付くなんて、基本的には2分だけ。でも応用が出来るんだよ』
『でも、誰でも使い使いこなせない!限られた人物のみ。生まれ持ったセンスかな』
『南朋君、君はそのセンスを持っているんだ!自覚はないだろーがね』
『お、俺が!まだ、その能力さえ手にしてないのに…』
『だよな、自分では気付く訳がないよな。僕もそうだったから、分かるよ』
『それに、能力は信用したが、それを手に入れる方法は!全く、分かんねーけど!』

オッサン少し沈黙してから、そっと口を開く。
『僕が、この能力を手に入れたのは…』と事細かく説明し始める。

3年程前に、オッサンは趣味である登山に行ったらしい。年に数回趣味である登山に
出かけるらしい。その日は、あいにくの天気。オッサンは中止するを迷ったらしい。
しかし、以前から計画しており、長年の経験と勘を信じて、決行すると決めたらしい。
到着すると、予想していたように、小雨が降りだしていたらしい。想定内だったので
特に気にはしておらず、いつも通り準備をし、登り始めたとの事だった。
途中までは、順調に周りの景色など楽しみながら、仕事でのストレス発散をしながらも
楽しんで、やっぱ決行して正解だったと思ったらしい。

予定より、少し早く目的地まで到達したので、昼飯を食うことになったらしい。
自分で作った、おにぎりを食べている最中に、太陽の光も見えたので、少し心配だった
気持ちも無くなったらしい。昼飯も終え、天候も回したせいか、オッサンの足取りも軽やか
になり、さっきまでのペースより早くなり、頂上まで着いたんが目的時間よりも大幅に
早かったらしい。そこで、オッサンは余った時間を有効活用しようと、周りの散策をする事
にして、登山ルートには指定されていない場所に向かう事にしたらしい。

立て看板があり【ここからは、立ち入り禁止】との表示があったものの、天候も良く
経験豊富なオッサンは、お構いなしに突き進んだらしい。
そこは、まるでジャングルのように、どの方向を進んでいるかさえ分からない場所だったと
オッサンは言う。が、今ままで見た事ないような、植物や景色、何より手つかずの自然を
感じられることに、今までにない体験を期待し、どんどん前に突き進んだらしい。
目の前にある、広大な自然に目を奪われるのに夢中で、天候の変化にも気づいておらず
突然の大雨に、オッサンはふと我に返ったのだった。まぁ、登山で天候が移り変わりする
事は、日常茶飯事なので、そこまでの危機感は、その時点ではなかったらしい。
多少の不安はあったものの、探求心が勝り、奥地まで足を進める事にする。
まぁ、俺は登山なんてこれまで一度も経験がなので、分からねーが、同じ状況に遭遇したら
俺も、オッサンと同様に突き進むだろーな。オッサンの言う探求心は理解が出来る。
でも、肝心の登山には全く興味はねーが…

更に、奥地に進むと、今までジャングルみたいな道の前に湖らしき物が見えたらしい。
オッサンのテンションは更に上がる一方で、足取りも早くなったらしい。
茂みを掻き分け、その湖らしき場所まで到着する。
そこで、オッサンは鳥肌が立ち、感動したらしい。その光景を撮った写真を見せて貰った。
確かに、俺が今まで見たどんな光景より、格段に違う!オッサンが感動するのも無理はない。

しばらく、その湖を見ながら立ちすくんでいたらしい。こんな絶景があるなんてと!
もしかすると、この絶景を知られたくない地元の人間が、立ち入り禁止の立て看板を設置
したんじゃ!とも思ったらしい。
まぁ、そら分からねーでもない、その写真がSNSにでも広まって拡散するようになれば
たちまち、観光スポットになりかねねーもんな。
『因みに、その写真はSNSに投稿したの?』
『南朋君、するわけないだろ!したかったけど、実際はそれどころじゃなかったかな…』
『な、なるほど、まだ先があるって事なんだな』
『そうそう、ここまでは良かったんだが、これからがちょっと厄介なんだよな』
『今までの話しでも、かなり刺激的でおもしれーのに、まだあるのかよ!』
『まぁ、こっからが本番ってところかな。今考えると、ちょっと無謀だけどな』
『ななり、無謀だけどな!でも、その気持ちは同じ男としてはよーく分かるな!』
『だろ、良かったよ。きっと南朋君なら分かってくれると信じてしたからね』
『だから、南朋君を選んだんだ!その気持ちや、情熱が、この能力を操れる秘訣だからね』
『誰にでも、手には入るけど、活かすことが出来るのは、ごく一部の人間って事なんだ』

ここまでの、オッサンの話しを聞くうちに、なんだか俺って特別なんかなって思うように
なってきた。それ以上に、早く能力を手に入れたいと思う気持ちが先走るようになる。
正直、オッサンの話しはおもしれーが、長い、、、しかも、公園の真ん中で立ち話しって!
かれこれ、1時間以上は話し込んでる。オッサンは気分よく話しているが、流石に、疲れる
でも、マシンガンのような喋りと、興味をそそられる話に、いつ割り込んでいいか…
突っ込み所を見失っていたのが、わからねーでいた…
『南朋君、疲れてないかな?お腹は?』お、やっと気づいてくれたかーー!
『そ、そうだな、腹へったな。正直いつ、突っ込もうか迷っていたんだ…』
『そ、そうなの!早く、言ってくれれば良かったのに。気が付かなかったな』
ま、マジか!そら、そうだろな!あんだけの熱量で話していたら、きずかねーって!
それに、例え途中で突っ込んでも、恐らく無視されていただろーしな!
まぁ、興味ある話しだしいいけどな。オッサンも話し疲れたんだろう。口がパサパサ。

ということで、公園から離れ、近くのファミレスに行くことになった。
恐らく、朝も食ってねーと思われる程に、ガッツリと食うオッサンは、まるで少年のよう。
『ところで、垣内さんだっけ、これから何て呼べばいいんかな?』
『何でもいいけどな。因みに学生の頃は、“ウッチー”ってあだ名だったけどね』
え、“ウッチー”、てっきり“カッキー”かと思いきや、変化球が飛んできたぞ。
『じゃ、これからウッチーって呼ぶわ。結婚とか、子供はいんのウッチー?』
『僕は35歳だけど、結婚はしてない。こんな職業だとなかなかね…』
『なんか、余計な事聞いてしまったみたいで、ゴメン』
『いいんだ、気にしなくて』
まぁ、職業柄もあるとは思うけど、正直、見た目もな…、オシャレというには程遠いし…
『あ、そうそう、一つ聞いていい?』
『どうしたの、南朋君、何でも聞いてよ』
『ウッチーは、カレーの作り方知ってるんかなって思って』
『え、南朋君!カレーの作り方も知らないの!こう見えて、僕は自炊が得意なんだ』
『カレーといえば、自炊に関して基本中の基本!カレーくらい作られないとモテないぞ!』
と、いうウッチーはモテてんのかよって…、まぁ、それは置いといて。助かった!
『でも、何でそんなことを聞くんだ?』
『じ、実は、俺が話しの流れで手料理するって言ってしまったから、どうしようと…』
『手料理なんて、した事ないし、思いつくのはカレーしかないかったから』
『あ、それで僕にカレーの作り方を聞いたんだ。なるほどね』
『ここで、ちょっと休憩した、僕の家で続きを話ししようか。そこでカレーも一緒に作ろう』
ふぅ~、何とか助かった!ウッチーの家も気になるしな。

ファミレスで、年齢差があるものの、こんなに話しをしたのは久々だったので、新鮮さと
俺は、親父の記憶があまりない。物心ついてからは、沙紀が両親みたいな感じだった…
こんな、気さくな親父がいてくれたらな…、とウッチーを見ながら、少し思う。
年の差はあるものの、あまり感じさせない親近感に、友達みたいな感覚さえ覚える。
改めて、親父の存在が大きな物であるかを、痛感されられ、それを失った美香を想うと
何とも、切ない感情になった…
俺も、腹いっぱいになり、ウトウトとしてきた。
『南朋君、もうお腹いっぱいになったか?』
『おう、腹いっぱいになり過ぎて、眠たくなってきてる』
『そっか、それじゃ、そろそろ僕の家に行こうか。その前のスーパーに寄るけどね』
『おう、よろしっくっす!ウッチー先生!カレーの伝授をお願いしまーす』

ファミレスを後にし、駅に向かう。どうやら、ウッチーの家は俺らの地域ではなさそうだ
俺が、いつも使っている駅から5駅離れた場所に到着する。
俺は、もともと方向音痴なうえに、名前くれーは知っている駅だが、何処なのか分からない。
駅を降り、3分程の場所にスーパーがあり、そこに立ち寄る。
『南朋君、カレーに入れる具材くらいは分かるよな?』
『ウッチー、いくら何でもバカにしすぎじゃね!そのくれーはわかるってーの』
『まず、肉、それから、肉、後は…、えーと、そうだ、人参!そうだ、正解だろ!』
『まぁ、それでもいいかな…、でも、何で肉が2回も出てきたんだ』
『それは、家のカレーは牛肉と鶏肉が入ってるからかな…』
『なるほど、まぁ、カレーはその家によって味付けがあるしな。じゃ、肉は2種類買おう』
『後の具材は、僕がいつも使っている具材でいいかな?カレー粉も含めて』
『おう、それでオッケー!ウッチーに任せまーす!』
ウッチーは、慣れた手つきで次々に、食材をカゴに入れていく。その中にはキノコ、イカ類
などのシーフド系の物もあった。なかなか本格的なカレーに仕上がりそうな予感がした。

カレーの具材の他に、ウッチーが普段買っている物も購入し、スムーズに買い物は終了する
スーパーを後にし、徒歩で5分した辺りで、ウッチーが立ち止まった。
目の前には、2階建ての一軒家があった。
『南朋君、ここが僕の家だよ』ま、マジで!新築じゃねーか!てっきり、マンションかと…
『ビックリしただろ。マンション住まいと思っていたんじゃないんかな?』
あ、俺の考えている事を読まれている…、普通、男の一人暮らしって、マンションだろ!
『正直、ビックリだって!出版社ってかなり稼げるんじゃねー』
『そうでもないな、ここは新築ではないし、一軒家といっても賃貸だからね』
とはいえ、家賃も半端ねーんじゃ…、駅からもちけーし、近くにコンビニ、スーパもあるし。
『ここは、駅も近いし、何かと利便性もいいからな。それでいて家賃も7万だしね』
『えー、ウッチーいい生活してんじゃん。俺も出版社に就職しょうかな。勉強できねーけど』
『南朋君、大丈夫だよ!僕は高卒だし、勉強はクラスでも下の方だったんだから』
『記事を書くのに必要なのは、熱意と何よりも探求心が必要だと僕は思うから』
確かに、説得力がある。さっきまでの話しで十分過ぎるくらいに伝わってきた。
ウッチーの身体の周りに、見えない炎すら感じる位だったからな。
家の中に入ると、余計に驚いた!生活感が全く感じられない。むしろ、住んでんの…
必要最小限の家電、部屋数の割に使用している部屋は、せいぜい2部屋くらいだろう。
まぁ、取材などで忙しいから、分からなくもねーが、これに7万とはちょっと勿体ない…
俺は、リビングに案内せれ、ソファーに座る。部屋着に着替えたウッチーが俺の前に座る。
『それじゃ、さっきの続きをはなそうか。それから、カレー作りってのはどうかな』
『わかった。早く続きが聞きてーから。それと、カレーもだけど』
そう答えると、ウッチーは頷くだけで、さっきの続きを話し始める…

ウッチーは、あまりに雄大な湖に心奪われ、写真を撮ったりしていおり、時間すらも忘れる
程だったそうだ。その間にも、どんどん天候が悪化してきて、雨に加え、風も強くなって
くるのを感じたそうだ。ウッチーも、頭の片隅にはその事は気にしていたらしく、時計に
目をやり、あと数分したら引き返そうと思っていたそうだ。
ところが、雨、風の強さが急激に、強さが増してきたそうだ。そこで、流石にウッチーも
ヤバイと感じたらしく。退散する決意をするらしい。
まぁ、実際体験してねーけど、ウッチーの判断を疑うが…、それも記者魂なのか…
それから、帰る準備をした時に、周りを見渡し唖然としたらしい。
振り返ると、ウッチーが来た道がまるで無くて、何本かの木々は倒れている状態であって
更に、ウッチーの目の前には一本の大木があったらしい。後ろを見ると湖、前は大木。
その間は、約50cm程だったそうだ。その時、初めて状況が掴めたらしい。
いわば、逃げ場がない状態なうえ、どんどん悪化していく天候。経験豊富なウッチーも
焦ったらしい。このままでは、命の危機さえあると。絶体絶命な状況だったらしい。
とにかく、準備していたバックから、雨具と簡易用のテントを出し、天候が落ち着くのを
待つことにしたそうだ。強風な上に大雨の状況で、なかなかうまい具合にテントが張れず
苦戦したそうだが、何とか少しでも、雨風を遮る事に成功したそうだ。
季節は、ちょうど冬から、春にかけての時期だった上に悪天候もあり、かなり気温も下がり
軽装な服装だったウッチーには、寒さが一番厳しかったらしい。
そんな中で、非常食を食べながらも、いつ天候が良くなるのか、ひたすら耐えるしかなく
強風のせいか、簡易式のテントは何度も飛ばされそうになる始末。
一本の太い枝に掴まっていないと、吹き飛ばされそうなくらいに、恐怖を感じだそうだ。
後から判明するが、その時点での風速は最大で35mだったそう…
大型台風並みじゃねーか!どんなけ、サバイバーなんだ!顔に似合わず、命知らずだな!
そこから、生還したのもすげーし!聞けば聞くほど、目の前にいるウッチーとのギャップ
に驚くばかりであった。さっき、記者になりてーと言った発言を撤回したい…
きっと、これ以上にサバイバーな体験をしてるに違いねーと思う!そんな経験を経ても
一軒家を買うんではなく、賃貸ってのが、ウッチーも言っていたように、記者ってのは
そんなに、稼げる仕事ではなさそうだな。何より、命を懸けるってのは…
それから、2時間くらい経ったらしい。ってのも、その状況で少し眠ったらしい。
え、マジか!死ぬかもしれねー時に、ね、眠る!どんなけ根所すわってんだよ!
よく、飛ばされねーで済んだのが奇跡じゃね!話しとしては、かなり面白い部類なんだが
最悪、命失っていたら、笑えねーぞ!!
そして、目が覚めるとスッカリ天候が回復していたそうだ。ウッチーは、山の天候はいつ
急変してもおかしくないので、慌ててテントを解体し、戻る準備をしたそうだ。
そして、来た道を引き返そうと…
しかし、前には大木がある。高さ3m程ある大木をよじ登る体力は残っていなかったらしく
半ば、諦めかけていたそうだ。
とはいえ、反対側には湖!戻るには、この2つのルートしか存在しないのも事実。
自力では不可能だと考え、助けを呼ぼうとし、辺りを見回すが、誰もいるはずもなく…
自身の体力、気力を考え、しばらく待機することを決断したそうだ。
尚且つ、スマホの電波は途絶えており、この登山計画を誰にも言ってないことが、大きな
致命傷だと、振り返っていた。

ここまでの話しを聞くと、どこで時間を操る能力を手にしたのか、全く見えてこない…
それどころか、“絶体絶命からの生還術”というタイトルで、本を書いた方がよいのでは…
売れるのかは別として、少なくとも俺は買うな!
俺は、ドラマや映画はそんなに観る方ではないが、特殊能力を手にするのは、大抵は雷に
打たれたり、特殊なクモに刺されたり、訳の分からねー石ころに触れるなどが連想される
しかし、ここまでウッチーの話しを聞き、俺の中でも色々と考えるが、全く想像できねー!
この後に、何か出てくるのは間違えねーが、それが何かすらも…
それと、凄い興味はあるが、話がとんでもなく、なげーーーーー!!
学校の全校集会だと、ぶっ倒れるぞ!まぁ、それ以前に、俺は全校集会に行ったことねーが。
あと、い、いつになれば、カレーを作り始めるの…、といった不安もある…

そんな、俺の気持ちなど一切お構いなく、ウッチーはその後も熱く語り続ける…

いくら時間が経とうとも、人影は一切見えない状況が続いたらしい。時間を確認すると
午後の5時を回って、辺りも徐々に薄暗くなり始めていたらしい。このままだと夜になる
それだけは避けたいと考えていたそうだ。そして、ウッチーは行動に出る事を決断した。
リュックから、サバイバルナイフを取り出し、目の前にある大木を切ろうと考えたのだ。
実際に、そのナイフを見せて貰ったが、よくある果物ナイフくらいの大きさだった。
一度も、使ったことのない俺でも分かる!これじゃー、どんなけ時間かかるんだ…
想像もつかねー、よくこの手のナイフで沙紀が果物の皮を剥いているのは、見た事あるが…
果物じゃねーし、もっと他に手があったんじゃねーかなって…
大木を必死に切りはじめ、30分程たっても、わずかな傷しか入ってない。
しかも、かなりの体力を消耗するらしく、連続でするには30分が限界だと感じたらしい。
そら、そーだろ!誰が聞いても思うが…、しかたねーのかな!
ウッチーの話しに、突っ込みどころは満載なんだが…、話しが余計に長くなるからな…

それと同時に、時間も容赦なく経っていく…
辺りは、暗くなる一方。体力の消耗に加え気力さえ奪われる。このままではと…
ウッチーは、感情を爆発させ、大声で『誰がーーーーーーーーー!!!』
何度も、何度も叫んだらしい。しかし、反応があるわけでもない。
それでも、諦めず、叫び続けたらしい。声か枯れる程に…
結果は分かっていても、決して諦めず!誰かに、必ず届くことを信じて。何度も、何度も。
それでも、現実は何一つ変わらず、誰も応答するはずがない…
流石に、これまで保っていた、気力も尽きかけてきたらしく、途方にくれたらしい。
頭の中で、今までの人生で出会った人、良き想いで、苦い想いで、何より家族の事…
それらが、頭を駆け巡り、“死”という事も意識したそうだ。
何より、この登山に出掛ける前に戻りたいと、そして、自分の勘や経験を頼りにし
悪天候にも関わらず、登山を決行した自分が間違っていた事に。
時間を、戻せるなら戻したいと…、そして、その時の自分に言ってやりたいと!
『お前!分かってるのかー!頼むから、今日は止めてくれ!』心から、そう思ったらしい。

俺なら、とっくに諦めてる…、その状況が、どんだけ過酷か、ウッチーの話しを聞くと
手に取るように分かる。そして、それでも諦めないウッチーが、カッコよくもあった。
こうして、今生きていて、目の前で俺に話ししている姿は、本物のヒーローのように。
例え、時間を操る能力がなくても。人間の生きるといった生命力の強さ、執念を感じた。

その後、ウッチーは当時の心境を思い出したのか、少し沈黙の時間があった。
無理もないだろう。そんな壮絶な体験をし、その瞬間の感情で、俺に詳細に話しをする。
俺なら、話せないし、思い出したくもねー、、、でも、ウッチーは俺に必死に話しをする。
そこには、この能力を信じる、信じない以前に、ウッチーの人間性、そして何よりも
そんな特別な能力を手にし、自身の欲に使う事も出来るのに、人の為に使用としている事。
まだ、核心にたどり着いてないが、俺は、ウッチーを人として尊敬できる!
例え、この能力がなくても!そして、こんな大人になりたいと思った!マジでね!

すると、ウッチーが再び口を開いた。その表情は、今までとは一変していた。
俺は、その表情から、明らかに核心に迫る話し、そして、時間を操る能力の全貌が
明らかになると…
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