花さんと僕の日常

灰猫と雲

文字の大きさ
2 / 30
過去

秋の章 「中3のとある日」

しおりを挟む
「なんだよ3時に帰れるスパイって。ないよそんな仕事!」
「国家機密に携わるパートタイマーも実在するの!」
「やだよそんな国。時給は?」
「たしか3000円弱」
「高いのか安いのかわかんないや笑」
コーヒー牛乳をコップ一杯一気に飲み干し2杯目を注いで座布団に座った。
俺が風呂から上がって居間に戻ると花さんは突然俺が小学生の時に書いた作文を読み始め、今に至る。
「あ~、懐かしいなぁ~」
とテーブルの上の俺が小学生の時に書いた作文を何故か嬉しそうに眺めていた。
「次の年ってなんだっけ?」
ちょっと待って、と花さんは足元にある大きなせんべいの缶の中身を漁って黄色くなった原稿用紙を両手で持ち朗読し始めた。
「僕のお母さん。3年1組、七尾秋。僕のお母さんの仕事は武器商人です。去年スパイでしたがジョブチェンジしたと言っていました」
2人で大笑いした。
「そうそう武器商人!ジョブチェンしても物騒なのは変わんないのね笑」
「けどあんたのために最前線から後方支援に切り替えたんだよ?」
「この作文の時も確か拍手のしてもらったなぁ」
「秋の作文は父兄が期待してたからね。授業始まる前に、楽しみにしてますよって知らない人によく言われてたもん。だけど花さんが1番好きなのは…」
そう言って原稿用紙をめくり愛おしそうな目で俺の書いた作文を見つめる。
「花さんについて。4年1組、七尾 秋」
「読まなくていいって!」
思い出して慌てて原稿用紙を取り上げようとしたけど、花さんは「いいじゃない」と片手で俺を制しながら読み続ける。
「僕はマザコンなのかもしれません」
何度聞いてもありえない始まり方だった。


「あの後2人で先生に怒られたなぁ。二者面談のはずが俺まで居残りさせられて。あれは今考えても花さんが悪いよ」
「え~、そんなことないって。あれは不可抗力でしょ。あの先生もちょっと大目に見てくれてもいいのに」
顔はもう思い出せないけど確か斎藤先生といういつもジャージ姿の若い男の先生だった。
お前は文才があるからもっと本を読んで言葉の勉強をしろよと言われ、おかげで国語「だけは」誇れる成績になった。
「結局、母の日の授業参観はその年で終わっちゃったんだよね」
花さんはそのことを知るとひどく残念そうにしていた。
俺としてはもうあれ以上の作文は書けないのでいい潮時だったと思う。



「ところで今はなんの仕事だっけ?」
「いまはネゴシエーター。パートタイマーだけどね」
誇らしげにマジメな顔で言い切ってしまうこんな母親は他にいない。
俺は花さんが母親で良かったと思っている。
「ホントにそうなの?冗談とかじゃなくて?」
言われた花さんはとても意外そうな顔をした。
「私はあなたに嘘を言った事ないよ?今までも、これからも」
表情1つ変えない。真剣そのものだった。
「え?マジで?」
「冗談は言うけどウソはつかないよ、秋にだけは」
花さんはちょっと頭がおかしい。
そんな花さんを、俺はちょっと愛おしいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...