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第二章 剣士となりて
第三話 新居訪問
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Szene-01 レアルプドルフ五番地区、空き家
いよいよ見習い剣士から剣士へと昇格したエールタイン。
それに伴い従者ティベルダも剣士級の奴隷に格上げとなった。
レアルプドルフにおける奴隷制度とは――――。
剣士の数を補うために貧困な町民たちが駆り出された形の事をいう。
いわゆる徴兵である。
駆り出された者たちが貧困者であったということで、いつしか奴隷という言葉が使われるようになってしまった。
そして世代が受け継がれていく中で奴隷という言葉が徴兵よりも先行してしまい、徴兵が奴隷制度と勘違いされる形で今に至る。
エールタインが奴隷という言いまわしに日頃から疑問を感じていたのはこの点であった。
しかしレアルプドルフは剣士の町。
剣士たちは従者を招き入れることで生活が成り立っているのも事実である。
もどかしく悩ましい町の問題となりつつあった。
「今までと同じような景色だね。いい所なのになんで空き家なの?」
ダン家に住む五人でエールタインとティベルダの新居に訪れていた。
新居といっても新しく家を建てるのは容易なことではない。
しかし剣士に昇格すると自身の居を構えるというのが町の習わしだ。
「俺の知り合いが引っ越す時にエールの新居にどうかという話をくれたんだ。迷わずその場で決めちまった」
空き家の状態を見ながらダンは話を続ける。
「そいつは上級剣士なんだが、少し前に弟子が剣士に昇格してな。ここを出ていくのに合わせて自分も気分一新するために新たな環境へ移ると言っていた」
「なんだか剣士に必要なものが全部揃っているなあと一目で思ったけど、上級剣士様の家だったのなら納得したよ」
ティベルダが家の前に広がる草原を走っては止まり、立ち尽くしたかと思えばまた走り回ったりしていた。
それをヨハナとヘルマが時々声を掛けながら眺めている。
そんな光景を背にダンとエールタインは新居の様子を細かく確かめていた。
「こんなに良い家をいただくなんて、申し訳ないなあ」
「そんなことはない。新たな剣士が育つってことは町にとって一番重要なことだ。それにこうして受け継がれていくものなんだよ」
エールタインは空き家をすっかり気に入ったようだ。
それもそうであろう。
上級剣士が長年使っていた家だ。
経験の浅い剣士にしてみれば文句の付け所が無いはず。
「この家を使いこなす頃には上級剣士になっているだろう」
いつの間にかヨハナが家の状況を確認しにあちこち見回っていた。
それを見つけたエールタインが声を掛ける。
「ヨハナ、ちょっと大変になるけどこれからもよろしくね」
「むしろこちらがよろしくお願いしますと言うところですよ」
ヨハナは申し訳なさそうにするエールタインに向けて笑顔を見せる。
「どちらかに泊まりながらこなすことも出来ますし。しっかりお手伝いするためにも無理はしません」
ダンもヨハナの言葉にうなずく。
「泊まりながらってのはいい考えだな。それなら俺の心配も軽くなる」
ダンの後に続いてヘルマが言う。
「ダン様は私がいますから大丈夫ですよ。そのためのデュオですから」
「そうね。私がお邪魔になってしまうものね」
ヘルマが慌てて反論する。
「ち、ちがう! そういう意味ではなくてね、ダン様に付いているのは私だからという……」
「はいはい、分かっているわよ。何を慌てているの? 変なヘルマ」
「別に変じゃないから」
いつの間にかエールタインの横にティベルダが来ていた。
「私を抜きにしてお話しないでください。エール様も私とのおうちなのですから一緒に見ましょうよ」
「ああごめんよ。とても素敵な家だからつい、ね」
エールタインはティベルダの頭を撫でてあげる。
むくれ顔になっていたティベルダは微笑みそうになるのを抑えながらむくれ顔を通した。
「ティベルダだって草原で遊んでいたでしょ。楽しかった?」
「はい! ダン様の家と景色が似ているので安心しました」
「だよね。ボクも同じだよ。おかげで暮らしやすそうだ」
それぞれ話に花が咲いてしまって止まりそうにない。
そこへダンが割って入った。
「さて。気に入ってくれたようだからアウフの所へ行こうか」
エールタインに従者が付いた事、剣士昇格に新居への引っ越し報告。
魔獣討伐やティベルダの能力のことなど、アウフリーゲンに伝えることは山ほどある。
ダン家の五人はそのまま墓参りに向かった。
いよいよ見習い剣士から剣士へと昇格したエールタイン。
それに伴い従者ティベルダも剣士級の奴隷に格上げとなった。
レアルプドルフにおける奴隷制度とは――――。
剣士の数を補うために貧困な町民たちが駆り出された形の事をいう。
いわゆる徴兵である。
駆り出された者たちが貧困者であったということで、いつしか奴隷という言葉が使われるようになってしまった。
そして世代が受け継がれていく中で奴隷という言葉が徴兵よりも先行してしまい、徴兵が奴隷制度と勘違いされる形で今に至る。
エールタインが奴隷という言いまわしに日頃から疑問を感じていたのはこの点であった。
しかしレアルプドルフは剣士の町。
剣士たちは従者を招き入れることで生活が成り立っているのも事実である。
もどかしく悩ましい町の問題となりつつあった。
「今までと同じような景色だね。いい所なのになんで空き家なの?」
ダン家に住む五人でエールタインとティベルダの新居に訪れていた。
新居といっても新しく家を建てるのは容易なことではない。
しかし剣士に昇格すると自身の居を構えるというのが町の習わしだ。
「俺の知り合いが引っ越す時にエールの新居にどうかという話をくれたんだ。迷わずその場で決めちまった」
空き家の状態を見ながらダンは話を続ける。
「そいつは上級剣士なんだが、少し前に弟子が剣士に昇格してな。ここを出ていくのに合わせて自分も気分一新するために新たな環境へ移ると言っていた」
「なんだか剣士に必要なものが全部揃っているなあと一目で思ったけど、上級剣士様の家だったのなら納得したよ」
ティベルダが家の前に広がる草原を走っては止まり、立ち尽くしたかと思えばまた走り回ったりしていた。
それをヨハナとヘルマが時々声を掛けながら眺めている。
そんな光景を背にダンとエールタインは新居の様子を細かく確かめていた。
「こんなに良い家をいただくなんて、申し訳ないなあ」
「そんなことはない。新たな剣士が育つってことは町にとって一番重要なことだ。それにこうして受け継がれていくものなんだよ」
エールタインは空き家をすっかり気に入ったようだ。
それもそうであろう。
上級剣士が長年使っていた家だ。
経験の浅い剣士にしてみれば文句の付け所が無いはず。
「この家を使いこなす頃には上級剣士になっているだろう」
いつの間にかヨハナが家の状況を確認しにあちこち見回っていた。
それを見つけたエールタインが声を掛ける。
「ヨハナ、ちょっと大変になるけどこれからもよろしくね」
「むしろこちらがよろしくお願いしますと言うところですよ」
ヨハナは申し訳なさそうにするエールタインに向けて笑顔を見せる。
「どちらかに泊まりながらこなすことも出来ますし。しっかりお手伝いするためにも無理はしません」
ダンもヨハナの言葉にうなずく。
「泊まりながらってのはいい考えだな。それなら俺の心配も軽くなる」
ダンの後に続いてヘルマが言う。
「ダン様は私がいますから大丈夫ですよ。そのためのデュオですから」
「そうね。私がお邪魔になってしまうものね」
ヘルマが慌てて反論する。
「ち、ちがう! そういう意味ではなくてね、ダン様に付いているのは私だからという……」
「はいはい、分かっているわよ。何を慌てているの? 変なヘルマ」
「別に変じゃないから」
いつの間にかエールタインの横にティベルダが来ていた。
「私を抜きにしてお話しないでください。エール様も私とのおうちなのですから一緒に見ましょうよ」
「ああごめんよ。とても素敵な家だからつい、ね」
エールタインはティベルダの頭を撫でてあげる。
むくれ顔になっていたティベルダは微笑みそうになるのを抑えながらむくれ顔を通した。
「ティベルダだって草原で遊んでいたでしょ。楽しかった?」
「はい! ダン様の家と景色が似ているので安心しました」
「だよね。ボクも同じだよ。おかげで暮らしやすそうだ」
それぞれ話に花が咲いてしまって止まりそうにない。
そこへダンが割って入った。
「さて。気に入ってくれたようだからアウフの所へ行こうか」
エールタインに従者が付いた事、剣士昇格に新居への引っ越し報告。
魔獣討伐やティベルダの能力のことなど、アウフリーゲンに伝えることは山ほどある。
ダン家の五人はそのまま墓参りに向かった。
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