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第二章 剣士となりて
第五話 受け継がれる想い
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Szene-01 ドミニク家、食卓
エールタインと同じく剣士へと昇格したルイーサ。
父であるドミニクと新たな生活について話をしていた。
師匠から弟子へ剣士としてやるべきことを一通り教え終わり、新居についてドミニクがルイーサの考えを聞いているところである。
「うっすらとは考えていたけれど、いざ決めるとなると悩ましいわね」
片肘を手で支えて頬杖をつくルイーサ。
真剣に悩んでいるようだ。
その横でヒルデガルドは何かを言いたげな表情で師匠と主人を交互に見ている。
「どうしたヒルデガルド。お前も付いていくのだから気にせず意見を言っていいのだぞ」
師匠に察してもらったヒルデガルドはきっかけをもらえたと感じたのか、明るい表情になる。
ルイーサは頬杖のまま従者へと目線を移した。
「あなた、何かいい案でもあるの?」
「……」
「何よ、いつもあなたの意見は聞いているでしょ。言ってみなさい」
師匠と主人から注目されてしまったヒルデガルド。
今度は緊張した面持ちになるが、口を開いた。
「エールタイン様のご近所ではどうでしょうか」
その言葉を聞いたドミニクはピクリともしなかったが、ルイーサは頬杖をゆっくりと外した。
「近所って……あの子は見習いなのでは?」
ヒルデガルドはいつものように小鞄に手を当ててみせる。
「アムレットから教えてもらっていたの!? そういうことはすぐに教えなさいよ!」
「すみません。ルイーサ様がお手隙の時にお伝えしようと思ったのですが」
「寝るときに言えばいいでしょ」
「そうなのですが、その……嬉しくて忘れてしまうので」
二人のやりとりを見ているドミニクはあきれ顔になっていた。
ルイーサはため息をつく。
「はあ、まったくあなたって子は。きちんと教えた事にしといてあげる」
「ありがとうございます」
ヒルデガルドは座ったまま軽く会釈をした。
ドミニクが話に区切りの付いた二人に尋ねる。
「そのエールタインという者は誰だ?」
ルイーサへ向いていたヒルデガルドが向き直り説明しようとする。
しかしそれよりも早くルイーサが動いた。
「私と同じ見習い剣士だった子です。一緒に魔獣討伐をした時の――」
ドミニクが膝を叩いて目を見開いた。
「おお! エールタイン。確かあのアウフリーゲンの子だとか……」
珍しく明るい感情を表に出したドミニクにルイーサたちは驚いた。
ドミニクは続ける。
「直接話したことは無かったが、彼の事は常に気にしていた。子供をどうするのか気にはしたが、俺がしゃしゃり出るものではないのでな」
「ご存じでしたか」
ルイーサが驚きつつも父の話を聞けることが嬉しいようで、話しの続きを聞こうとする。
「あの人を知らぬ者はいない。だからこそ俺は彼を超えたくて関わりを持たなかった」
「そうでしたか。今彼女はダン剣聖の元にいます」
「彼女!? 子は娘だったのか!」
再度驚くルイーサ。
ヒルデガルドは様子を伺う事しかできないようだ。
「知らなかったのですか?」
「言っただろう、関わりを持たなかったと。それに耳に入ってくることなど大したものではない。子の性別まで知らん」
口下手なドミニクだが、いつになくよく話している。
「引き取ったのはダン剣聖か。そうか彼の元に……そして今では俺の娘と繋がっていると」
「もっと親しくなりたいと思っています。ようやくゆっくりと話ができるように――」
「エールタインの力になってやれ。俺の代わりに」
ルイーサの言葉を遮りドミニクは娘に己の望みを託した。
「は、はい……」
ドミニクは娘の返事を耳に入れたかどうか判断がつかない勢いで話を切り替えた。
「ところでそのアムレットとはなんだ」
傍観していたヒルデガルドは虚をつかれた。
少し慌てながら返事をする。
「リス……でございます」
「小型の魔獣ではないか。教えてもらっていたということは、お前は話ができるのか?」
「黙っていて申し訳ございません。この能力では家を追い出されてしまうのではと心配でしたので」
ドミニクは再び膝を叩いた。
「何を言っている! 素晴らしい能力だ。そういうことは早く伝えろ」
「も、申し訳ございません」
笑顔を見せながらドミニクは言う。
「ルイーサ。お前、いい奴隷を持ったな。エールタインの件、頼むぞ」
「あ、は、はい……」
父の笑顔と止まらない話に驚きを隠せないルイーサたち。
この光景をじっと黙って見ていたドミニクの妻、リジーがおもむろに口を開いた。
「家族が元気にお話をしている姿、素敵ね」
か細く虚弱なリジーは他人からすると全くと言っていい程に存在していないように見えるだろう。
それほど物静かな母からの言葉がルイーサに向け発せられる。
「ルイーサ、剣士なんてやめてもらいたいのだけど、あなたは父に似て頑固だから止めはしません」
「お母さま……」
ルイーサはふいに表情をやわらげて言う。
温厚な母からはいつも優しくされている。
「エールタインさんと協力し合えるのなら無事でいられそうですね。ただ、時々顔は見せてちょうだい。ヒルデガルドもね」
「はい!」
ルイーサとヒルデガルドは共にはっきりと答えた。
リジーは思わず笑ってしまい咳き込んでしまう。
ドミニクが背中に手を当てルイーサがリジーのひざ元へ近寄る。
「大丈夫。久しぶりに笑ったから咽てしまったわ。もっと笑わないといけないようね」
それを聞いたヒルデガルドが鞄のフタを開けてアムレットを外へ出した。
「あら、その子がアムレット?」
「そうです。皆さんのことはしっかりと教えてありますので危険な事はありません」
リジーの広げた手のひらにアムレットを乗せるヒルデガルド。
それをきっかけに新たな話に花が咲く。
そんなやりとりをドミニクの後ろで静かに佇んでいたメリアが一人黙って微笑んでいた。
エールタインと同じく剣士へと昇格したルイーサ。
父であるドミニクと新たな生活について話をしていた。
師匠から弟子へ剣士としてやるべきことを一通り教え終わり、新居についてドミニクがルイーサの考えを聞いているところである。
「うっすらとは考えていたけれど、いざ決めるとなると悩ましいわね」
片肘を手で支えて頬杖をつくルイーサ。
真剣に悩んでいるようだ。
その横でヒルデガルドは何かを言いたげな表情で師匠と主人を交互に見ている。
「どうしたヒルデガルド。お前も付いていくのだから気にせず意見を言っていいのだぞ」
師匠に察してもらったヒルデガルドはきっかけをもらえたと感じたのか、明るい表情になる。
ルイーサは頬杖のまま従者へと目線を移した。
「あなた、何かいい案でもあるの?」
「……」
「何よ、いつもあなたの意見は聞いているでしょ。言ってみなさい」
師匠と主人から注目されてしまったヒルデガルド。
今度は緊張した面持ちになるが、口を開いた。
「エールタイン様のご近所ではどうでしょうか」
その言葉を聞いたドミニクはピクリともしなかったが、ルイーサは頬杖をゆっくりと外した。
「近所って……あの子は見習いなのでは?」
ヒルデガルドはいつものように小鞄に手を当ててみせる。
「アムレットから教えてもらっていたの!? そういうことはすぐに教えなさいよ!」
「すみません。ルイーサ様がお手隙の時にお伝えしようと思ったのですが」
「寝るときに言えばいいでしょ」
「そうなのですが、その……嬉しくて忘れてしまうので」
二人のやりとりを見ているドミニクはあきれ顔になっていた。
ルイーサはため息をつく。
「はあ、まったくあなたって子は。きちんと教えた事にしといてあげる」
「ありがとうございます」
ヒルデガルドは座ったまま軽く会釈をした。
ドミニクが話に区切りの付いた二人に尋ねる。
「そのエールタインという者は誰だ?」
ルイーサへ向いていたヒルデガルドが向き直り説明しようとする。
しかしそれよりも早くルイーサが動いた。
「私と同じ見習い剣士だった子です。一緒に魔獣討伐をした時の――」
ドミニクが膝を叩いて目を見開いた。
「おお! エールタイン。確かあのアウフリーゲンの子だとか……」
珍しく明るい感情を表に出したドミニクにルイーサたちは驚いた。
ドミニクは続ける。
「直接話したことは無かったが、彼の事は常に気にしていた。子供をどうするのか気にはしたが、俺がしゃしゃり出るものではないのでな」
「ご存じでしたか」
ルイーサが驚きつつも父の話を聞けることが嬉しいようで、話しの続きを聞こうとする。
「あの人を知らぬ者はいない。だからこそ俺は彼を超えたくて関わりを持たなかった」
「そうでしたか。今彼女はダン剣聖の元にいます」
「彼女!? 子は娘だったのか!」
再度驚くルイーサ。
ヒルデガルドは様子を伺う事しかできないようだ。
「知らなかったのですか?」
「言っただろう、関わりを持たなかったと。それに耳に入ってくることなど大したものではない。子の性別まで知らん」
口下手なドミニクだが、いつになくよく話している。
「引き取ったのはダン剣聖か。そうか彼の元に……そして今では俺の娘と繋がっていると」
「もっと親しくなりたいと思っています。ようやくゆっくりと話ができるように――」
「エールタインの力になってやれ。俺の代わりに」
ルイーサの言葉を遮りドミニクは娘に己の望みを託した。
「は、はい……」
ドミニクは娘の返事を耳に入れたかどうか判断がつかない勢いで話を切り替えた。
「ところでそのアムレットとはなんだ」
傍観していたヒルデガルドは虚をつかれた。
少し慌てながら返事をする。
「リス……でございます」
「小型の魔獣ではないか。教えてもらっていたということは、お前は話ができるのか?」
「黙っていて申し訳ございません。この能力では家を追い出されてしまうのではと心配でしたので」
ドミニクは再び膝を叩いた。
「何を言っている! 素晴らしい能力だ。そういうことは早く伝えろ」
「も、申し訳ございません」
笑顔を見せながらドミニクは言う。
「ルイーサ。お前、いい奴隷を持ったな。エールタインの件、頼むぞ」
「あ、は、はい……」
父の笑顔と止まらない話に驚きを隠せないルイーサたち。
この光景をじっと黙って見ていたドミニクの妻、リジーがおもむろに口を開いた。
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か細く虚弱なリジーは他人からすると全くと言っていい程に存在していないように見えるだろう。
それほど物静かな母からの言葉がルイーサに向け発せられる。
「ルイーサ、剣士なんてやめてもらいたいのだけど、あなたは父に似て頑固だから止めはしません」
「お母さま……」
ルイーサはふいに表情をやわらげて言う。
温厚な母からはいつも優しくされている。
「エールタインさんと協力し合えるのなら無事でいられそうですね。ただ、時々顔は見せてちょうだい。ヒルデガルドもね」
「はい!」
ルイーサとヒルデガルドは共にはっきりと答えた。
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ドミニクが背中に手を当てルイーサがリジーのひざ元へ近寄る。
「大丈夫。久しぶりに笑ったから咽てしまったわ。もっと笑わないといけないようね」
それを聞いたヒルデガルドが鞄のフタを開けてアムレットを外へ出した。
「あら、その子がアムレット?」
「そうです。皆さんのことはしっかりと教えてありますので危険な事はありません」
リジーの広げた手のひらにアムレットを乗せるヒルデガルド。
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