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第二章 剣士となりて
第六話 念願に向けて
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Szene-01 五番地区、エールタイン新居
レアルプドルフ五番地区の東側町壁。
地区内壁のほぼ中央であり、壁にもほど近い場所。
そこにエールタインとティベルダの新居がある。
師匠であるダンの知り合い上級剣士の元住居。
ヨハナも引っ越し作業に加わって移住が完了したところだ。
「掃除も軽く済んだし備品は足さなくても全て揃っている。さすが上級剣士様ね」
「いやあ本当に助かったね。ダンってすごい人なんだなって思った」
ヨハナはクスっと笑いながら言う。
「今更ですか? 師匠に怒られますよ」
「毎日の修練とかさ、剣士としてはもちろん尊敬しているよ」
エールタインはずっと自分にくっついて作業しているティベルダの頭を撫でながら続ける。
「でも毎日一緒に暮らしているとさ、師匠っていうより父親だとかそういうのも超えたなんでも話せる人だから」
撫でられながら真剣な面持ちで片づけをしているティベルダをチラ見するエールタイン。
笑みを浮かべつつ言う。
「それにドジなところもあるから楽しいんだよね。だから凄いっていうよりは家族の一人……うん、そういう感じだからさ」
拭き掃除の仕上げで食卓を拭き上げたヨハナ。
軽く笑いながら話を聞いていたが、とうとう声に出して笑いだしていた。
「あははは。あ、ごめんなさい」
「なんで笑うのさ。何か変だったかな」
「いえいえ。エールタイン様のおっしゃる通りだと思ってしまって。ダン様は剣聖であることを忘れさせるのがお上手だなと」
ティベルダがエールタインの袖を引っ張った。
ヨハナと話しているうちに主人の撫でる手が離れていたらしい。
上目遣いで要求している。
「ああ、はいはい」
エールタインはティベルダの要求がわかったようで、頭撫でを再開した。
するとティベルダはまた真剣な表情で片づけを始める。
「引っ越しは終わりましたね。あとは……これからの防寒対策ですね」
「そうだね。魔獣が大人しくなるのは助かるけど、外を移動するのが大変だからなあ」
レアルプドルフの気温は通年涼しくて一時期だけ厳しい寒さが訪れる。
その間は行商人の動きも鈍くなるため町も普段よりは静かになる。
期間は短いため、ほとんどの町民は自宅に籠って過ごす。
剣士も急な仕事が舞い込まない限り、道具の手入れなどに没頭する。
「それでダンにも話したことなんだけど、ティベルダの実家に行ってみようと思っているんだ」
「ブーズに、ですか?」
「うん。ティベルダのご家族にどうしても挨拶したいのと、ブーズについてももっと知りたくてね」
ティベルダの動きがピタリと止まった。
そして主人の顔を見上げて問う。
「え、私の家にですか!?」
「そうだよ。ティベルダに相談してからと思っているから安心して」
ティベルダは立ち上がって答える。
「私の家族は剣士様を尊敬していますから大丈夫ですけど……寧ろ剣士様がブーズに行くなんて大丈夫なんですか?」
エールタインはティベルダに向けて力強く指をさした。
「それだよ! ブーズもレアルプドルフなんだ。町の東側にあるってだけじゃないか」
ティベルダは突然主人が大きな声で話し始めた上に、指をさされたままだからかじっと立っているしかなくなったようだ。
「寧ろと言うなら剣士こそブーズに顔を出すべきだよ。だって鍛えた我が子を剣士に仕えさせているんだ。命を張らせに行かせるなんてとんでもないことなんだから」
エールタインの思いが溢れ出してしまったのか、話の勢いが止まらない。
「これからは奴隷を助手という考えに戻していく。そのためにボクはブーズに行くよ。ずっと思っていたことが剣士になれてできるようになったのだから」
固まっていたティベルダの目がオレンジ色に変わる。
受け止めてくれると信じていなければできないような勢いで主人に抱き着いた。
「やっぱりエール様は素敵です! 聞いていた剣士様とは全然違う。私、幸せです!」
ヨハナも二人の元へ近寄り、両腕でどちらも抱きかかえた。
「本当にエール様は立派になられました。これからが本番なので、この先も微力な私ですけど存分に使ってくださいまし」
エールタインはヨハナの背中をポンポンと優しく叩く。
「ヨハナには嫌でも付き合ってもらうから。ボクがヨハナ抜きで生きられるわけないでしょ」
ティベルダもエールタインの真似をしてヨハナの背中をポンポンとした。
「そうですよ! エール様が素敵なのはヨハナさんあってのこと。私もいっぱい教えていただくことがありますし」
「あらあら。私はまだお仕事ありそうで良かったです。私も幸せになれました」
エールタインが不思議な顔になり、ティベルダに問う。
「そういえばさ、ティベルダってヨハナやヘルマには嫉妬しないね。それにダンは男だけど大丈夫そう」
ティベルダはエールタインに近寄る女性への敵意は激しく持つ。
そして重度の男性恐怖症だ。
エールタインが不思議に思うのは当然であろう。
「ヨハナさんとヘルマさんは私の先輩でダン様は師匠です。私を迎え入れてくださった大切な方々なので大好きですもの。エール様にとっても欠かせない方々ですから」
ヨハナがティベルダにポンポンと背中にお返しをする。
「あなたの先輩で良かったわ。もし牙を向けられたら一溜りも無いですからね」
エールタインが思わず声を出して笑ってしまう。
「ヨハナ、もしかして心配していたの? ティベルダは賢い子だから心配なんてないよ……いや、ボクは心配かも」
「なんでですか!?」
ティベルダが即反応する。
「ボクのこと好き過ぎだもん。そこが可愛いからボクも大好きなんだけどさ」
「エールさまあ」
目の色をオレンジと紫の二色交互に光らせ始める。
「ヨハナさんはとても優しくて大好きです。エール様がヨハナさんを好きなのは仕方のないことですよ」
「私褒められ過ぎていないかしら。ヘルマが聞いたら拗ねそうね」
三人ともがお互いを抱えたまま笑い合う。
剣士になったエールタインが念願に向けて動き出す準備が整った。
レアルプドルフ五番地区の東側町壁。
地区内壁のほぼ中央であり、壁にもほど近い場所。
そこにエールタインとティベルダの新居がある。
師匠であるダンの知り合い上級剣士の元住居。
ヨハナも引っ越し作業に加わって移住が完了したところだ。
「掃除も軽く済んだし備品は足さなくても全て揃っている。さすが上級剣士様ね」
「いやあ本当に助かったね。ダンってすごい人なんだなって思った」
ヨハナはクスっと笑いながら言う。
「今更ですか? 師匠に怒られますよ」
「毎日の修練とかさ、剣士としてはもちろん尊敬しているよ」
エールタインはずっと自分にくっついて作業しているティベルダの頭を撫でながら続ける。
「でも毎日一緒に暮らしているとさ、師匠っていうより父親だとかそういうのも超えたなんでも話せる人だから」
撫でられながら真剣な面持ちで片づけをしているティベルダをチラ見するエールタイン。
笑みを浮かべつつ言う。
「それにドジなところもあるから楽しいんだよね。だから凄いっていうよりは家族の一人……うん、そういう感じだからさ」
拭き掃除の仕上げで食卓を拭き上げたヨハナ。
軽く笑いながら話を聞いていたが、とうとう声に出して笑いだしていた。
「あははは。あ、ごめんなさい」
「なんで笑うのさ。何か変だったかな」
「いえいえ。エールタイン様のおっしゃる通りだと思ってしまって。ダン様は剣聖であることを忘れさせるのがお上手だなと」
ティベルダがエールタインの袖を引っ張った。
ヨハナと話しているうちに主人の撫でる手が離れていたらしい。
上目遣いで要求している。
「ああ、はいはい」
エールタインはティベルダの要求がわかったようで、頭撫でを再開した。
するとティベルダはまた真剣な表情で片づけを始める。
「引っ越しは終わりましたね。あとは……これからの防寒対策ですね」
「そうだね。魔獣が大人しくなるのは助かるけど、外を移動するのが大変だからなあ」
レアルプドルフの気温は通年涼しくて一時期だけ厳しい寒さが訪れる。
その間は行商人の動きも鈍くなるため町も普段よりは静かになる。
期間は短いため、ほとんどの町民は自宅に籠って過ごす。
剣士も急な仕事が舞い込まない限り、道具の手入れなどに没頭する。
「それでダンにも話したことなんだけど、ティベルダの実家に行ってみようと思っているんだ」
「ブーズに、ですか?」
「うん。ティベルダのご家族にどうしても挨拶したいのと、ブーズについてももっと知りたくてね」
ティベルダの動きがピタリと止まった。
そして主人の顔を見上げて問う。
「え、私の家にですか!?」
「そうだよ。ティベルダに相談してからと思っているから安心して」
ティベルダは立ち上がって答える。
「私の家族は剣士様を尊敬していますから大丈夫ですけど……寧ろ剣士様がブーズに行くなんて大丈夫なんですか?」
エールタインはティベルダに向けて力強く指をさした。
「それだよ! ブーズもレアルプドルフなんだ。町の東側にあるってだけじゃないか」
ティベルダは突然主人が大きな声で話し始めた上に、指をさされたままだからかじっと立っているしかなくなったようだ。
「寧ろと言うなら剣士こそブーズに顔を出すべきだよ。だって鍛えた我が子を剣士に仕えさせているんだ。命を張らせに行かせるなんてとんでもないことなんだから」
エールタインの思いが溢れ出してしまったのか、話の勢いが止まらない。
「これからは奴隷を助手という考えに戻していく。そのためにボクはブーズに行くよ。ずっと思っていたことが剣士になれてできるようになったのだから」
固まっていたティベルダの目がオレンジ色に変わる。
受け止めてくれると信じていなければできないような勢いで主人に抱き着いた。
「やっぱりエール様は素敵です! 聞いていた剣士様とは全然違う。私、幸せです!」
ヨハナも二人の元へ近寄り、両腕でどちらも抱きかかえた。
「本当にエール様は立派になられました。これからが本番なので、この先も微力な私ですけど存分に使ってくださいまし」
エールタインはヨハナの背中をポンポンと優しく叩く。
「ヨハナには嫌でも付き合ってもらうから。ボクがヨハナ抜きで生きられるわけないでしょ」
ティベルダもエールタインの真似をしてヨハナの背中をポンポンとした。
「そうですよ! エール様が素敵なのはヨハナさんあってのこと。私もいっぱい教えていただくことがありますし」
「あらあら。私はまだお仕事ありそうで良かったです。私も幸せになれました」
エールタインが不思議な顔になり、ティベルダに問う。
「そういえばさ、ティベルダってヨハナやヘルマには嫉妬しないね。それにダンは男だけど大丈夫そう」
ティベルダはエールタインに近寄る女性への敵意は激しく持つ。
そして重度の男性恐怖症だ。
エールタインが不思議に思うのは当然であろう。
「ヨハナさんとヘルマさんは私の先輩でダン様は師匠です。私を迎え入れてくださった大切な方々なので大好きですもの。エール様にとっても欠かせない方々ですから」
ヨハナがティベルダにポンポンと背中にお返しをする。
「あなたの先輩で良かったわ。もし牙を向けられたら一溜りも無いですからね」
エールタインが思わず声を出して笑ってしまう。
「ヨハナ、もしかして心配していたの? ティベルダは賢い子だから心配なんてないよ……いや、ボクは心配かも」
「なんでですか!?」
ティベルダが即反応する。
「ボクのこと好き過ぎだもん。そこが可愛いからボクも大好きなんだけどさ」
「エールさまあ」
目の色をオレンジと紫の二色交互に光らせ始める。
「ヨハナさんはとても優しくて大好きです。エール様がヨハナさんを好きなのは仕方のないことですよ」
「私褒められ過ぎていないかしら。ヘルマが聞いたら拗ねそうね」
三人ともがお互いを抱えたまま笑い合う。
剣士になったエールタインが念願に向けて動き出す準備が整った。
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