ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第二章 剣士となりて

第二十二話 初の依頼で初の試み

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Szene-01 トゥサイ村、村長宅前

 寒期後のため街道上は人通りが少ない。
 その少ない人の一人、旅人が道の東方から歩いてくる。
 まだ肌には厳しい冷気が漂うが、のんびりとした雰囲気に包まれている街道。
 そんな中、トゥサイ村の村長が力強い声で旅人に尋ねた。

「あんた、ちょっと聞きたいんだが!」

 下を向いてトボトボと歩いていた旅人がビクリとして足を止める。
 そんな様子を気にもせず、村長は近寄って質問を続ける。

「途中でひょろっとした男を見なかったか?」
「私は旅をしていまして……」
「それは見ればわかる! 質問に答えてくれ。誰かに会っていないのか?」

 焦りのためか、村長は旅人の両肩を鷲掴みした。

「いえ、誰にも会っていません。ただ……」
「ただ、なんだ?」

 村長の勢いが強く、旅人は一歩足を下げた。
 半ば恐怖を感じているようで、顔も背け気味だ。

「レアルプドルフを抜けてしばらく歩いた辺りでしたか、森の中から物音は聞こえていました」
「物音?」
「はい。魔獣ではないかと少々怯えてしまいました。人通りが無いですし」

 村長はその場から見えもしない森の方向を眺めながら呟いた。

「情報は本当だったか。あいつら、見つかったのかもしれねえな。くそっ!」

 肩を掴む手に力を込める村長。
 旅人が恐る恐る質問をした。

「私、何かやらかしましたか?」

 その言葉が耳に入ると、村長は旅人から手を離した。

「いえいえ、何もしていませんよ。少し厄介な事が起きていたもので強く当たってしまいました。申し訳ないことをしてしまいましたね、旅人さん。できれば今の話は忘れてもらえませんか?」

 村長は急に旅人への態度を改め、仕事用の対応になった。

「そこに温かいものを食べさせてくれる店がありますよ。支払いは無くて大丈夫。ぜひ寄ってください。さあさあ、こちらへ」

 強引に旅人の背中を押して店へと連れていく村長。
 店の扉を開けると店内に声を掛けた。

「旅人に温かいものを! あと、何か食べ物を持たせてあげてくださいね」
「いえいえ、そこまでされては……」
「驚かせてしまったお詫びですよ。話の件は忘れるように頼みますね。ではごゆっくり」

 村長は奥から出てきた店員に任せて店を出た。
 再び街道から森の方を向いて一言呟く。

「こりゃあ、やられちまったな。また面倒な事になりそうだ。どうしたものか」

Szene-02 東西街道沿い森中、ヴォルフ捕獲作戦場

 ヴォルフ、いや中型魔獣のテイムに初めて挑んだヒルデガルド。
 アムレットなどの小型魔獣と同じように試みていた。

「うん、ごめんね。私たちもこんなことをせずにお話ができればいいのだけど、そうはさせてくれないでしょ? 怪我はお友達が治してくれるから安心して」

 ヒルデガルドがヴォルフに話し始めたのをきっかけに、ティベルダもヴォルフの元へ来ていた。

「ティベルダちゃん、少しずつお願い。お話がうまくいかなかったらその時は、ね」
「わかった、ゆっくりね。私も練習中だから上手出来るか分からないけどやってみる」
「そうよね。お互い頑張りましょう。それにしても……大丈夫?」

 血まみれのティベルダを見てヒルデガルドが問う。

「大丈夫だよ、怪我はしていないから。ただ……くっついて気持ち悪いの」

 ティベルダは、タイツや袖を引っ張ってヒルデガルドに訴えた。
 ヒルデガルドは苦笑いを見せて、理解したことを伝える。
 ティベルダは、エールタインが刺したヴォルフの傷口に手をかざした。
 だが、ヒールを始める格好のままティベルダは首を傾げてしまう。
 不満な事があるのか、眉間に皺を寄せて主人へと振り返った。

「エールさまあ。この子を助けて欲しいですかあ?」

 巣穴には聞こえないように声量を抑え、甘えた言い回しで主人に尋ねるティベルダ。
 その声が届いたエールタインは、ルイーサに振り返ることを目で伝えた。
 ルイーサは目線を巣穴から動かすことなく黙って頷く。
 仲間に了承してもらったエールタインは、従者に目線を変えると目が紫色であるのを認識した。

「そういうことね」

 普段の状態ではないことが容易に理解できる状況だった。
 エールタインはティベルダの思いに合わせて言う。

「もちろんだよ。そのためにヒールを頼んでいるんだから」
「私のことは好きですかあ?」
「そっか。ボクへの気持ちが無いと使えないんだね。ティベルダ、いつでも大好きだよ」

 エールタインはウインクもおまけしてティベルダを納得させる。
 主人からの気持ちを受け取ったティベルダの目はオレンジ色へと変化した。

「あは。エール様大好き!」

 ティベルダの手のひらから淡い青色の光が発せられる。

「ヒールをする時は光るのね」

 ヒルデガルドはヴォルフの頭を撫でていた。
 小さく唸っていたヴォルフの表情は、徐々に緩んでゆく。
 ティベルダはヒールの光を見ながら言う。

「これ、私も初めて見た。手を離して使うと光るのかあ」
「今回はティベルダちゃんも色々試す時なのね。一緒に試していくのは嬉しいな」
「うん、嬉しい。あ、ヒールが強過ぎちゃう。止めるね」

 能力の制御ができないティベルダは、かざしている手を傷から離した。

「すごい、刺し傷がほとんど治っている。あっという間なのね」
「まだ全然使いこなせないの。最近やっと使いたい時に出来るようになったんだあ」
「さっきの話を聞いていると、エールタイン様とのやり取りが必要みたいね」

 刺し傷が治癒されたからか、ヴォルフはすっかり落ち着いていた。
 ヒルデガルドも撫で続けて、敵意の無いことを示している。
 ルイーサは巣穴を監視したままの姿勢でヒルデガルドに問う。

「ヒルデ、どうなの?」
「なんとか成功しそうですよ。そちらが動き出す前にはなんとかしないといけませんね」
「頼むわ。一頭や二頭なら時間稼ぎぐらいは出来ると思うけれど、たいてい十頭程いるはずだから」

 ヴォルフは家族で群れを形成している。
 ルイーサの言う通り、巣には十頭前後がいるはずだ。

「もし全て出てきたら抑えられない。まあそれを承知で依頼を無視しているのだけど」

 ルイーサは、剣先を地面に刺していた大剣を持ち上げて、剣の腹で自身の顔を映す。
 しばし眺めてから再びゆっくりと剣先を地面に下ろした。

「エールタイン、大丈夫?」

 ルイーサからの振りに返すエールタイン。

「う、うん。大丈夫だよ」
「もう。あなたもあの子たちのように練習が必要なのかもね」
「ボクが?」
「そうよ。常に冷静な人だと思っていたけれど、従者の挙動が気になってブレ過ぎ。私のお気に入りなのだから、しっかりしてよね」

 ルイーサはエールタインへ振り向きウインクをした。
 エールタインは反応に困ってしまう。

「そう、かな。確かにティベルダのことは気になってしょうがない。言われてみれば主人のボクがそんなことでは駄目だよね。気を付けるよ。そんなボクをその……お気に入りなの?」
「改めて聞かないでよ。そ、そうです! ティベルダに聞かれないように気を付けて。私があなたのことを好きってこと、相当気に入らない様だから」

 ルイーサがエールタインへの好意をはっきりと語った。
 エールタインはこめかみを指で擦りながら答える。

「ルイーサ、ボクのことそんなに好きなの? ありがと……ああ、何これ。照れる」

 その言葉を聞いたルイーサは笑顔を作り、エールタインは頬をほんのり赤くする。
 緊迫した状況のはずだが、緊張感の無い空気を作り出す四人である。
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