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第二章 剣士となりて
第二十一話 新たな試みへ
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Szene-01 東西街道沿い森中、ヴォルフ捕獲作戦場
ヴォルフはアムレット達の走り回る様が気に入らないようだ。
マズルを蛇腹のように皺を寄せて牙も出し、怒りを露わにしている。
「アムレット、動きを緩めて!」
エールタインがヒルデガルドと目を合わせて指示を出す。
ヒルデガルドは言われた通りの指示をリスたちに伝えた。
複数聞こえていた足音がピタリと消え、それぞれのリスが身を隠す。
獣道を挟むように待ち構えている少女剣士。
その二人に挟まれる位置までヴォルフは誘き出された。
警戒心の強いヴォルフだからこその見張りだったはず。
それが巣から完全に離れてしまっている。
アムレット達の嫌がらせは人には分からぬ非常に不快なものだったのだろう。
役目を終えたアムレットは、ヒルデガルドの元へ帰ってきた。
ヒルデガルドが片手を出すと、腕を駆け上って肩まで上がる。
セミショートの赤色猫っ毛を纏って身を隠した。
「んふふ、隠れちゃった。アムレット、ご苦労様」
エールタインとルイーサが合図を出し合う。
いよいよ捕獲の時を迎えたようだ。
「ティベルダが戻ってこないな。何かに手こずっていなければいいけど」
いつも傍にいるはずのティベルダがいない。
不安が表情に出てしまっているのをルイーサが気づいたようだ。
手振りで作戦を始められるか問う。
「いけない、今は集中しないと。ごめん、やろうか」
始める合図を返すエールタイン。
ルイーサは了解の合図を送り返してから、ヒルデガルドにエールタインの様子を伝える。
「ティベルダがいないわね」
「……そうですね。作戦で別の場所にいるとか」
「エールタインの表情が曇っているの。作戦ではないと思うわ」
ルイーサはヒルデガルドの顔をチラリと見て、すぐにヴォルフへと目線を戻した。
「あなたは私の目の届く所にいてね」
「もちろんです」
「さて、やるわよ」
Szene-02 トゥサイ村、村長宅
「遅い、何をやっている!」
トゥサイ村の村長は、エールタインたちの様子を見に行くよう指示をした男が信用できず、もう一人の男に見張りを頼んだ。
しかし、二人とも一向に帰ってくる気配がない。
村長は苛立ちが募り、家の中を歩き回っていた。
「ただ様子を見に行くことすらできないのか!」
堪り兼ねて外へ飛び出す村長。
しかし、何をしたらいいのか思いつかないようだ。
「人を増やすか……いや待て。それでは見ていますと教えるようなものだ」
村長は街道沿いにある自宅前で一人、行ったり来たりを繰り返していた。
Szene-03 東西街道沿い森中、ヴォルフ捕獲作戦場
エールタイン達の誘いに乗ってしまった一頭のヴォルフ。
左右から少女剣士が現れ、捕獲されつつあった。
「エール様! ごめんなさい、遅れました」
「ティベルダ!」
主人の出番寸前でティベルダが戻ってきた。
しかし、血まみれの従者を見て主人は目を見開いて驚いた。
「ど、どうした!」
「予想より一匹多かったので、その分遅れてしまいました」
「一匹?」
ティベルダは、肌に貼りつくタイツや袖を引っ張りながら答えた。
「ええ。作戦の邪魔になりそうな魔獣が……お話は後にしましょう」
ルイーサが急かす仕草をしている。
ティベルダはそれに気づいたようだ。
「そうだね。じゃあ後で」
エールタインが頷くと二人は同時にヴォルフへ向けて降り立った。
「頭は私が抑えるわ。エールタインは脚を!」
「脚、了解!」
ルイーサが小石を親指で弾き、ヴォルフの片目に当てる。
目を閉じた隙を突き、大剣の腹を空中から脳天へと振り下ろした。
エールタインはそれに合わせてヴォルフの後ろ脚へと短剣を突き刺す。
「ぐお――」
ルイーサは、ヴォルフが喚く間を与えないように大剣を地面から顎へと振り上げた。
エールタインは脚の付け根に刺さった短剣をそのまま奥へ押し込んで片脚を封じる。
するとヴォルフは地面にドサリと音を立てて横倒しになった。
エールタインがティベルダに尋ねる。
「巣穴の様子はどう?」
獣道沿いにある小さな土手上から巣を見ていたティベルダが答える。
「見張りがいないことに気づきそうかも」
「ここはヒルデガルドに任せて巣の警戒へ移ろう」
エールタインが短剣を抜く。
ルイーサも大剣を持ち直してエールタインに並んだ。
「ヒルデ。危なくなったらすぐに言うこと。上手くいくといいわね」
「やってみます!」
ヒルデガルドは、ヴォルフが意識のあるうちにテイムを試みる準備を始めた。
弱っているとはいえ、天敵である中型魔獣に主人が近づいたため、アムレットは肩から腰鞄へと下りた。
「怖いのね。はい、どうぞ」
ヒルデガルドが鞄を開けてあげると、アムレットはそそくさと入り込んだ。
「さてと。お話してくれるかな」
そう言うと、ヒルデガルドはヴォルフの頭へと手をやる。
ゆっくりと撫でながらヴォルフの顔を覗き込んでいた。
ヴォルフはアムレット達の走り回る様が気に入らないようだ。
マズルを蛇腹のように皺を寄せて牙も出し、怒りを露わにしている。
「アムレット、動きを緩めて!」
エールタインがヒルデガルドと目を合わせて指示を出す。
ヒルデガルドは言われた通りの指示をリスたちに伝えた。
複数聞こえていた足音がピタリと消え、それぞれのリスが身を隠す。
獣道を挟むように待ち構えている少女剣士。
その二人に挟まれる位置までヴォルフは誘き出された。
警戒心の強いヴォルフだからこその見張りだったはず。
それが巣から完全に離れてしまっている。
アムレット達の嫌がらせは人には分からぬ非常に不快なものだったのだろう。
役目を終えたアムレットは、ヒルデガルドの元へ帰ってきた。
ヒルデガルドが片手を出すと、腕を駆け上って肩まで上がる。
セミショートの赤色猫っ毛を纏って身を隠した。
「んふふ、隠れちゃった。アムレット、ご苦労様」
エールタインとルイーサが合図を出し合う。
いよいよ捕獲の時を迎えたようだ。
「ティベルダが戻ってこないな。何かに手こずっていなければいいけど」
いつも傍にいるはずのティベルダがいない。
不安が表情に出てしまっているのをルイーサが気づいたようだ。
手振りで作戦を始められるか問う。
「いけない、今は集中しないと。ごめん、やろうか」
始める合図を返すエールタイン。
ルイーサは了解の合図を送り返してから、ヒルデガルドにエールタインの様子を伝える。
「ティベルダがいないわね」
「……そうですね。作戦で別の場所にいるとか」
「エールタインの表情が曇っているの。作戦ではないと思うわ」
ルイーサはヒルデガルドの顔をチラリと見て、すぐにヴォルフへと目線を戻した。
「あなたは私の目の届く所にいてね」
「もちろんです」
「さて、やるわよ」
Szene-02 トゥサイ村、村長宅
「遅い、何をやっている!」
トゥサイ村の村長は、エールタインたちの様子を見に行くよう指示をした男が信用できず、もう一人の男に見張りを頼んだ。
しかし、二人とも一向に帰ってくる気配がない。
村長は苛立ちが募り、家の中を歩き回っていた。
「ただ様子を見に行くことすらできないのか!」
堪り兼ねて外へ飛び出す村長。
しかし、何をしたらいいのか思いつかないようだ。
「人を増やすか……いや待て。それでは見ていますと教えるようなものだ」
村長は街道沿いにある自宅前で一人、行ったり来たりを繰り返していた。
Szene-03 東西街道沿い森中、ヴォルフ捕獲作戦場
エールタイン達の誘いに乗ってしまった一頭のヴォルフ。
左右から少女剣士が現れ、捕獲されつつあった。
「エール様! ごめんなさい、遅れました」
「ティベルダ!」
主人の出番寸前でティベルダが戻ってきた。
しかし、血まみれの従者を見て主人は目を見開いて驚いた。
「ど、どうした!」
「予想より一匹多かったので、その分遅れてしまいました」
「一匹?」
ティベルダは、肌に貼りつくタイツや袖を引っ張りながら答えた。
「ええ。作戦の邪魔になりそうな魔獣が……お話は後にしましょう」
ルイーサが急かす仕草をしている。
ティベルダはそれに気づいたようだ。
「そうだね。じゃあ後で」
エールタインが頷くと二人は同時にヴォルフへ向けて降り立った。
「頭は私が抑えるわ。エールタインは脚を!」
「脚、了解!」
ルイーサが小石を親指で弾き、ヴォルフの片目に当てる。
目を閉じた隙を突き、大剣の腹を空中から脳天へと振り下ろした。
エールタインはそれに合わせてヴォルフの後ろ脚へと短剣を突き刺す。
「ぐお――」
ルイーサは、ヴォルフが喚く間を与えないように大剣を地面から顎へと振り上げた。
エールタインは脚の付け根に刺さった短剣をそのまま奥へ押し込んで片脚を封じる。
するとヴォルフは地面にドサリと音を立てて横倒しになった。
エールタインがティベルダに尋ねる。
「巣穴の様子はどう?」
獣道沿いにある小さな土手上から巣を見ていたティベルダが答える。
「見張りがいないことに気づきそうかも」
「ここはヒルデガルドに任せて巣の警戒へ移ろう」
エールタインが短剣を抜く。
ルイーサも大剣を持ち直してエールタインに並んだ。
「ヒルデ。危なくなったらすぐに言うこと。上手くいくといいわね」
「やってみます!」
ヒルデガルドは、ヴォルフが意識のあるうちにテイムを試みる準備を始めた。
弱っているとはいえ、天敵である中型魔獣に主人が近づいたため、アムレットは肩から腰鞄へと下りた。
「怖いのね。はい、どうぞ」
ヒルデガルドが鞄を開けてあげると、アムレットはそそくさと入り込んだ。
「さてと。お話してくれるかな」
そう言うと、ヒルデガルドはヴォルフの頭へと手をやる。
ゆっくりと撫でながらヴォルフの顔を覗き込んでいた。
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