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第二章 剣士となりて
第三十話 深愛と黙秘
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Szene-01 ルイーサ家
ルイーサはエールタインが通るのをひたすら待っている。
主人と共にいるヒルデガルドの元へ、アムレットが帰って来た。
「おいで」
アムレットはヒルデガルドの肩まで一気に駆け上がる。
しばし間が空いてからヒルデガルドが主人に伝えた。
「ルイーサ様。エールタイン様はダン剣聖宅へ向かわれているそうです」
「あん、それではいくら待っても来るわけがないじゃない……向かいましょう」
「はい」
ヒルデガルドがアムレットに木の実を渡し、小声で尋ねた。
「もしかして、ワザと報告しなかったの? ずっと傍に居なかったから心配していたのよ」
アムレットは木の実を前足でくるりと一回転させてから一齧りした。
「もう。私とルイーサ様の時間を作るためだったのね。おかしいと思ったわ……でも、ありがと」
アムレットは大きな尻尾を二回大きく振って見せた。
「何をしているの? 置いていくわよ」
「はい、ただいま」
ヒルデガルドはアムレットを肩に乗せたまま主人を追った。
Szene-02 ダン家
ダンとエールタイン、そしてティベルダの三人はダン家に到着する所だ。
三人の後ろから聞き覚えのある声が届く。
「エールタイン! 待って」
エールタインの目に、ルイーサとヒルデガルドの小走りする姿が映る。
「ルイーサ! どうしたの?」
キョトンとしたエールタインにルイーサ達が追いついた。
「どうしたの? じゃないわよ! なぜ私に話をしてくれないの?」
「あ、ああ……ごめん」
「まったく。私の事をもう少し考えて欲しいのだけど」
エールタインと手を繋いでいたティベルダは、手の握りから腕の抱えに変えた。
「怒らないでよ。ボクも分からないことだらけでさ、気づいたら町長との話まで済んでしまって」
「町長と? 噂でしか聞いていないのだけど、ブーズで壁を作る事を提案したとか」
エールタインとルイーサが話し込みそうになったため、ダンが話に割って入った。
「まあまあ、ここでする話ではないだろう。うちでゆっくりしていきなさい」
ハッとしてダンへ振り返るルイーサ。
「失礼しました。でも、お邪魔するのは……」
「エールが君に話したいことがあるはずだから、聞いてやってくれ」
「そ、そういうことでしたら」
ダンから促されたルイーサ達が家へと入る。
ティベルダはエールタインの腕を軽く引いた。
「私、エール様と離れません」
「いつもそうしてるじゃないか」
「今からはもっとです」
「寂しがり屋だなあ。家だから構わないけどさ」
ティベルダはルイーサの後ろ姿を睨みつけている。
その目線にヒルデガルドが入り込んだ。
「ティベルダちゃん。アムレットと遊びませんか?」
アムレットは主人の肩から器用に下りて、ティベルダの肩に乗った。
「あは、アムレット!」
大きな尻尾で頬をくすぐられて顔を綻ばせるティベルダ。
ヒルデガルドはエールタインに言う。
「ご主人様とのお話、ごゆっくりどうぞ」
「……ありがと」
ダンは目を丸くしてエールタインに言う。
「あの子は獣を手懐けるだけあって、上手いな」
「ダンってば。でも言われてみればそうかも」
「ははは。さあ、俺たちも入るぞ」
エールタインは、家に入る前からアムレットと遊び出したティベルダの背中を押す。
その光景が緊張を解したのか、エールタインの表情は硬さを消していた。
Szene-03 鐘楼の地下
西門で捕まった男は鐘楼の地下にある牢屋に入れられていた。
国を名乗っていた頃とは様相を変えているが、元は城の一部である鐘楼。
役場が傍にあるのも城の敷地内であるからだ。
小国であったため、城と言っても名ばかりのものだった。
それ故、普通の町らしく作り変える事も容易かった。
しかし鐘楼は城の一部であるため、見えない所に城の機能を残してある。
いつでも町から国に変えられるようにと、民の意志が込められている。
「トゥサイ、と言えば済むんだ。なあ、どこから来たのか言えよ」
「旅人にこんな事をするような町に何を言えと? ひでぇ町だ」
「この町の隣にはトゥサイ村ぐらいしかない。でなければスクリニア領の町になる。あっちはそう簡単に町へ入る事を許可しない。旅人ならばそんなこと重々知っているはずだよなあ?」
尋問役の剣士の肩を上級剣士が掴んだ。
「これ以上聞く必要は無い。村長に任せてあっちとの話の材料にするか、魔獣の餌か……。こいつの末路に用意されているのはそんなものだ。指示が来るまで牢に放置でいいぞ」
「そうですね。わかりました」
牢屋番以外の剣士は去ってゆく。
残された男は舌打ちをしたものの表情は硬く、怯えているようだ。
Szene-04 ダン家
エールタインはルイーサへ伝えていなかったこれまでの経緯を話していた。
ルイーサはエールタインから話をされていることで、喜びを隠せないでいる。
「それでさ、ルイーサにも手伝ってもらいたいんだ」
「うん、そう、そうなのね……え!?」
「もう、聞いてなかったの? 手伝って欲しいんだよ」
喜びのあまり、半分呆けてしまっていたルイーサ。
エールタインの言葉を上の空で聞いていた。
「私に言っているのかしら?」
「他に誰もいないじゃないか。ボクはルイーサだからお願いしている。頼れる剣士はルイーサしかいないから」
ルイーサは思わず両手を握り、目を潤ませた。
しかしすぐ、我に返る。
「そ、そこまで言うのなら引き受けてあげる。とは言っても、私は具体的に何をすれば……」
「ボクと同じことをしてくれればいい。ルイーサも名高いドミニク様の娘。ボク一人が言うよりも説得力が大きく増すはずでしょ?」
父であるドミニクの影響力を出されたルイーサは、改めて背筋を伸ばす。
「私もね、ヒルデに何かをしてあげたかったの。その何かで悩んでいたからエールタインと共にブーズを盛り上げていくことにするわ」
その言葉が聞こえたヒルデガルドは主人に振り向く。
「ルイーサ様……」
「私からあなたにしてあげることが見つかって良かったわ。エールタインのおかげよ」
ヒルデガルドの喜ぶ姿とエールタインをたたえるルイーサを見てティベルダが言う。
「はあ、仕方ないですね。エール様とお話をすることまでは我慢します」
「何よそれ! あなたね、私を何だと思っているのよ」
「エール様に近づく魔獣だと思っています」
「ふぁ!?」
ハーブティーを口に含んでいたダンがティーを噴出す。
ルイーサは、らしくない声が出てしまった。
「こらティベルダ! なんてこと言うの。失礼だよ! ティベルダが失礼な事をすると、ボクが失礼な事をしたことになる。教えたよね?」
「あわわ……すみません、すみません。申し訳ありません!」
ティベルダは慌ててエールタインに謝る。
続けて床に跪き、ルイーサに謝罪をする。
「ご無礼をお許しください……」
「何よ、その間は。全然納得していないじゃない。エールタインの従者でなければ……」
ルイーサはその先を言おうとして止めた。
ティベルダからの鋭い目線を感じたからのようだ。
ゆっくりと目線を合わせると、その目は紫色に変わっていた。
「……それって、私に敵意があるってことよね?」
「ティベルダ!」
エールタインはティベルダを真正面から抱きしめた。
「ほら、ボクだ。見えているのはボクだよ! ティベルダ、分かる?」
その場に緊張が走った。
ティベルダの能力を分かっている者が一人もいない。
しかしエールタインは、これまでの経験から対処法は分かっている。
ティベルダがエールタインの存在を感じれば良いと。
「エール……様?」
「そうだよ。ほら、ボクは至って普通だ。ティベルダも落ち着いて」
きつく抱きしめ頭を撫でるエールタイン。
ティベルダの目色が徐々に青色へと戻ってゆく。
「ごめん、このまま部屋へ行くね。続きの話は近いうちにそちらで」
エールタインはルイーサにそう言うと、ティベルダを抱えたまま元自室へと連れて行った。
口周りを拭き終わったダンは、ヘルマに小声で言う。
「トゥサイの連中が相手の時は、こんなものでは無かったのだろうな」
ヘルマは無言で頷くだけであった。
ルイーサはエールタインが通るのをひたすら待っている。
主人と共にいるヒルデガルドの元へ、アムレットが帰って来た。
「おいで」
アムレットはヒルデガルドの肩まで一気に駆け上がる。
しばし間が空いてからヒルデガルドが主人に伝えた。
「ルイーサ様。エールタイン様はダン剣聖宅へ向かわれているそうです」
「あん、それではいくら待っても来るわけがないじゃない……向かいましょう」
「はい」
ヒルデガルドがアムレットに木の実を渡し、小声で尋ねた。
「もしかして、ワザと報告しなかったの? ずっと傍に居なかったから心配していたのよ」
アムレットは木の実を前足でくるりと一回転させてから一齧りした。
「もう。私とルイーサ様の時間を作るためだったのね。おかしいと思ったわ……でも、ありがと」
アムレットは大きな尻尾を二回大きく振って見せた。
「何をしているの? 置いていくわよ」
「はい、ただいま」
ヒルデガルドはアムレットを肩に乗せたまま主人を追った。
Szene-02 ダン家
ダンとエールタイン、そしてティベルダの三人はダン家に到着する所だ。
三人の後ろから聞き覚えのある声が届く。
「エールタイン! 待って」
エールタインの目に、ルイーサとヒルデガルドの小走りする姿が映る。
「ルイーサ! どうしたの?」
キョトンとしたエールタインにルイーサ達が追いついた。
「どうしたの? じゃないわよ! なぜ私に話をしてくれないの?」
「あ、ああ……ごめん」
「まったく。私の事をもう少し考えて欲しいのだけど」
エールタインと手を繋いでいたティベルダは、手の握りから腕の抱えに変えた。
「怒らないでよ。ボクも分からないことだらけでさ、気づいたら町長との話まで済んでしまって」
「町長と? 噂でしか聞いていないのだけど、ブーズで壁を作る事を提案したとか」
エールタインとルイーサが話し込みそうになったため、ダンが話に割って入った。
「まあまあ、ここでする話ではないだろう。うちでゆっくりしていきなさい」
ハッとしてダンへ振り返るルイーサ。
「失礼しました。でも、お邪魔するのは……」
「エールが君に話したいことがあるはずだから、聞いてやってくれ」
「そ、そういうことでしたら」
ダンから促されたルイーサ達が家へと入る。
ティベルダはエールタインの腕を軽く引いた。
「私、エール様と離れません」
「いつもそうしてるじゃないか」
「今からはもっとです」
「寂しがり屋だなあ。家だから構わないけどさ」
ティベルダはルイーサの後ろ姿を睨みつけている。
その目線にヒルデガルドが入り込んだ。
「ティベルダちゃん。アムレットと遊びませんか?」
アムレットは主人の肩から器用に下りて、ティベルダの肩に乗った。
「あは、アムレット!」
大きな尻尾で頬をくすぐられて顔を綻ばせるティベルダ。
ヒルデガルドはエールタインに言う。
「ご主人様とのお話、ごゆっくりどうぞ」
「……ありがと」
ダンは目を丸くしてエールタインに言う。
「あの子は獣を手懐けるだけあって、上手いな」
「ダンってば。でも言われてみればそうかも」
「ははは。さあ、俺たちも入るぞ」
エールタインは、家に入る前からアムレットと遊び出したティベルダの背中を押す。
その光景が緊張を解したのか、エールタインの表情は硬さを消していた。
Szene-03 鐘楼の地下
西門で捕まった男は鐘楼の地下にある牢屋に入れられていた。
国を名乗っていた頃とは様相を変えているが、元は城の一部である鐘楼。
役場が傍にあるのも城の敷地内であるからだ。
小国であったため、城と言っても名ばかりのものだった。
それ故、普通の町らしく作り変える事も容易かった。
しかし鐘楼は城の一部であるため、見えない所に城の機能を残してある。
いつでも町から国に変えられるようにと、民の意志が込められている。
「トゥサイ、と言えば済むんだ。なあ、どこから来たのか言えよ」
「旅人にこんな事をするような町に何を言えと? ひでぇ町だ」
「この町の隣にはトゥサイ村ぐらいしかない。でなければスクリニア領の町になる。あっちはそう簡単に町へ入る事を許可しない。旅人ならばそんなこと重々知っているはずだよなあ?」
尋問役の剣士の肩を上級剣士が掴んだ。
「これ以上聞く必要は無い。村長に任せてあっちとの話の材料にするか、魔獣の餌か……。こいつの末路に用意されているのはそんなものだ。指示が来るまで牢に放置でいいぞ」
「そうですね。わかりました」
牢屋番以外の剣士は去ってゆく。
残された男は舌打ちをしたものの表情は硬く、怯えているようだ。
Szene-04 ダン家
エールタインはルイーサへ伝えていなかったこれまでの経緯を話していた。
ルイーサはエールタインから話をされていることで、喜びを隠せないでいる。
「それでさ、ルイーサにも手伝ってもらいたいんだ」
「うん、そう、そうなのね……え!?」
「もう、聞いてなかったの? 手伝って欲しいんだよ」
喜びのあまり、半分呆けてしまっていたルイーサ。
エールタインの言葉を上の空で聞いていた。
「私に言っているのかしら?」
「他に誰もいないじゃないか。ボクはルイーサだからお願いしている。頼れる剣士はルイーサしかいないから」
ルイーサは思わず両手を握り、目を潤ませた。
しかしすぐ、我に返る。
「そ、そこまで言うのなら引き受けてあげる。とは言っても、私は具体的に何をすれば……」
「ボクと同じことをしてくれればいい。ルイーサも名高いドミニク様の娘。ボク一人が言うよりも説得力が大きく増すはずでしょ?」
父であるドミニクの影響力を出されたルイーサは、改めて背筋を伸ばす。
「私もね、ヒルデに何かをしてあげたかったの。その何かで悩んでいたからエールタインと共にブーズを盛り上げていくことにするわ」
その言葉が聞こえたヒルデガルドは主人に振り向く。
「ルイーサ様……」
「私からあなたにしてあげることが見つかって良かったわ。エールタインのおかげよ」
ヒルデガルドの喜ぶ姿とエールタインをたたえるルイーサを見てティベルダが言う。
「はあ、仕方ないですね。エール様とお話をすることまでは我慢します」
「何よそれ! あなたね、私を何だと思っているのよ」
「エール様に近づく魔獣だと思っています」
「ふぁ!?」
ハーブティーを口に含んでいたダンがティーを噴出す。
ルイーサは、らしくない声が出てしまった。
「こらティベルダ! なんてこと言うの。失礼だよ! ティベルダが失礼な事をすると、ボクが失礼な事をしたことになる。教えたよね?」
「あわわ……すみません、すみません。申し訳ありません!」
ティベルダは慌ててエールタインに謝る。
続けて床に跪き、ルイーサに謝罪をする。
「ご無礼をお許しください……」
「何よ、その間は。全然納得していないじゃない。エールタインの従者でなければ……」
ルイーサはその先を言おうとして止めた。
ティベルダからの鋭い目線を感じたからのようだ。
ゆっくりと目線を合わせると、その目は紫色に変わっていた。
「……それって、私に敵意があるってことよね?」
「ティベルダ!」
エールタインはティベルダを真正面から抱きしめた。
「ほら、ボクだ。見えているのはボクだよ! ティベルダ、分かる?」
その場に緊張が走った。
ティベルダの能力を分かっている者が一人もいない。
しかしエールタインは、これまでの経験から対処法は分かっている。
ティベルダがエールタインの存在を感じれば良いと。
「エール……様?」
「そうだよ。ほら、ボクは至って普通だ。ティベルダも落ち着いて」
きつく抱きしめ頭を撫でるエールタイン。
ティベルダの目色が徐々に青色へと戻ってゆく。
「ごめん、このまま部屋へ行くね。続きの話は近いうちにそちらで」
エールタインはルイーサにそう言うと、ティベルダを抱えたまま元自室へと連れて行った。
口周りを拭き終わったダンは、ヘルマに小声で言う。
「トゥサイの連中が相手の時は、こんなものでは無かったのだろうな」
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