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第二章 剣士となりて
第三十一話 誘導
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Szene-01 ダン家、エールタインの部屋
エールタインとティベルダは、ベッドに横たわっていた。
目を紫色にしてルイーサを威嚇したティベルダ。
ルイーサは対抗する気があったようだが、ティベルダが能力を使えばどうなるのかは言うまでも無い事。
エールタインはティベルダに敵意を抱かせる状況から解放させるため、二人だけの時間を作った。
「ティベルダ、ボクは君が大好きだよ。ティベルダのことばかり気にしているけど、不安?」
エールタインはゆっくりとティベルダの頭を撫でている。
時々長い藍色の髪に手櫛を入れながら。
愛する主人の優しさに包まれ、ティベルダは両手を枕にして頬を乗せている。
ルイーサに見せた形相からは打って変わり、安堵の笑みを浮かべていた。
「不安になったらさ、ボクの所においで。主人の指示無しに手を出すのは禁止。ヘルマを思い出してみて。常に冷静でしょ? ヘルマになれとは言わない。でも、お手本にはして欲しいかな」
改めて主人と従者の関係について説くエールタイン。
そこへヨハナが扉越しに声を掛けた。
「エール様?」
「うん、もう大丈夫。まだ能力を使いこなせなくて、感情が優先されるみたいだね」
「今は落ち着いているのですね。良かった」
「入って来てよ。ヨハナなら大丈夫だから」
エールタインに誘われたヨハナが部屋に入る。
ベッドに横たわる二人を見ながら椅子に座った。
「エール様に触れてさえいれば、こんなに安らいだ顔になるのに」
「この子と過ごしていて、なんとなく思うことがあるんだ」
エールタインは日頃思っていることを話す。
「能力持ちは光石に触れた水を飲んでいる。となれば、多少は獣寄りな特徴が出てしまうのかなと思うんだ」
「……言われてみれば。その事、ダン様には?」
「言っていないよ。漠然と思っていたことだし」
ティベルダは閉じていた目を開けた。
ヨハナと目が合う。
「いい顔していたわよ、ティベルダ」
「私、獣なんですか?」
エールタインがティベルダの頬を人差し指で軽く押して言う。
「獣がこんなに可愛いなら、町の人は怖がらないよ」
頬を押されたままでティベルダは二人に問う。
「こんな私でも、好きですか?」
エールタインとヨハナは口を揃えて答えた。
「だーい好き!」
目を瞑りながら微笑むティベルダ。
ヨハナは椅子から離れてティベルダの目の前でしゃがんだ。
「エール様はあなたの主人。そしてこんなにお優しいの。エール様が危害を加えられているのなら迷わず動きなさい。それ以外はエール様の言う通りにするの。それが私たちの役目よ」
ティベルダは目を開け、ヨハナに向けて頷いた。
Szene-02 レアルプドルフ、鐘楼前
町長は上級剣士や衛兵からの連絡を受け、投獄されているトゥサイ村の男に会いに来た。
上級剣士が言う。
「調べは軽い段階で止めています。今のところ口を割っていません」
「ははは。すでに白状していたら驚いてしまいますよ。どれどれ、久しぶりに牢を見ますね」
上級剣士と話しながら鐘楼の地下へと下りてゆく町長。
後ろには二人の剣士も付いている。
「おお。こちらの手入れもしっかりやってくれているようですね」
「以前と変わらないでしょう。役場所属の者がしっかり管理しています」
町長は大きく頷いてから牢への入り口を潜る。
牢のならぶ通路を歩きながら上級剣士が言う。
「まさか手入れの状況を確認しに来られたわけではないでしょうな?」
「はっはっは。そうかも知れませんよ? 抜き打ち、というやつかも」
「相変わらず冗談がお好きですな。皆、信頼されていることを実感しております」
「私なんぞ、剣士様の代わりに町の業務をしているだけ。今は何の価値もありませんよ」
片手を振って見せる町長。
上級剣士が町長の言葉に返す。
「今は……です。いや、価値が無いなんてことはありませんがね」
通路に足音が響き渡る。
町長たちは、捕らえられている男の前に到着した。
「あなたですか」
町長が男に声を掛けるが、男は目を合わせようとしない。
「今この町で牢に入っているのはあなただけですから、聞くまでもないですね」
男に反応は無い。
町長は構わず続けた。
「ところで……最近、役場の机が傷みがちでして。また油を塗ってもらわないといけないと思っているんですよ」
牢の中で男は態勢を変え、床に後ろ手をついた。
「また全てをお願いしたいんですがねえ」
「……そいつは家具の職人に頼めよ。俺は生地屋に用があって来た――」
町長は中腰を戻し、上級剣士に目で合図をする。
上級剣士はそれを受けて男に伝えた。
「お前は時期が来るまでここで待機だ。村長の命令だと思って守れよ」
「くそっ!」
町長に続いて上級剣士と二人の剣士が男の元を去る。
通路には足音と四人の話し声が響いていた。
エールタインとティベルダは、ベッドに横たわっていた。
目を紫色にしてルイーサを威嚇したティベルダ。
ルイーサは対抗する気があったようだが、ティベルダが能力を使えばどうなるのかは言うまでも無い事。
エールタインはティベルダに敵意を抱かせる状況から解放させるため、二人だけの時間を作った。
「ティベルダ、ボクは君が大好きだよ。ティベルダのことばかり気にしているけど、不安?」
エールタインはゆっくりとティベルダの頭を撫でている。
時々長い藍色の髪に手櫛を入れながら。
愛する主人の優しさに包まれ、ティベルダは両手を枕にして頬を乗せている。
ルイーサに見せた形相からは打って変わり、安堵の笑みを浮かべていた。
「不安になったらさ、ボクの所においで。主人の指示無しに手を出すのは禁止。ヘルマを思い出してみて。常に冷静でしょ? ヘルマになれとは言わない。でも、お手本にはして欲しいかな」
改めて主人と従者の関係について説くエールタイン。
そこへヨハナが扉越しに声を掛けた。
「エール様?」
「うん、もう大丈夫。まだ能力を使いこなせなくて、感情が優先されるみたいだね」
「今は落ち着いているのですね。良かった」
「入って来てよ。ヨハナなら大丈夫だから」
エールタインに誘われたヨハナが部屋に入る。
ベッドに横たわる二人を見ながら椅子に座った。
「エール様に触れてさえいれば、こんなに安らいだ顔になるのに」
「この子と過ごしていて、なんとなく思うことがあるんだ」
エールタインは日頃思っていることを話す。
「能力持ちは光石に触れた水を飲んでいる。となれば、多少は獣寄りな特徴が出てしまうのかなと思うんだ」
「……言われてみれば。その事、ダン様には?」
「言っていないよ。漠然と思っていたことだし」
ティベルダは閉じていた目を開けた。
ヨハナと目が合う。
「いい顔していたわよ、ティベルダ」
「私、獣なんですか?」
エールタインがティベルダの頬を人差し指で軽く押して言う。
「獣がこんなに可愛いなら、町の人は怖がらないよ」
頬を押されたままでティベルダは二人に問う。
「こんな私でも、好きですか?」
エールタインとヨハナは口を揃えて答えた。
「だーい好き!」
目を瞑りながら微笑むティベルダ。
ヨハナは椅子から離れてティベルダの目の前でしゃがんだ。
「エール様はあなたの主人。そしてこんなにお優しいの。エール様が危害を加えられているのなら迷わず動きなさい。それ以外はエール様の言う通りにするの。それが私たちの役目よ」
ティベルダは目を開け、ヨハナに向けて頷いた。
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上級剣士が言う。
「調べは軽い段階で止めています。今のところ口を割っていません」
「ははは。すでに白状していたら驚いてしまいますよ。どれどれ、久しぶりに牢を見ますね」
上級剣士と話しながら鐘楼の地下へと下りてゆく町長。
後ろには二人の剣士も付いている。
「おお。こちらの手入れもしっかりやってくれているようですね」
「以前と変わらないでしょう。役場所属の者がしっかり管理しています」
町長は大きく頷いてから牢への入り口を潜る。
牢のならぶ通路を歩きながら上級剣士が言う。
「まさか手入れの状況を確認しに来られたわけではないでしょうな?」
「はっはっは。そうかも知れませんよ? 抜き打ち、というやつかも」
「相変わらず冗談がお好きですな。皆、信頼されていることを実感しております」
「私なんぞ、剣士様の代わりに町の業務をしているだけ。今は何の価値もありませんよ」
片手を振って見せる町長。
上級剣士が町長の言葉に返す。
「今は……です。いや、価値が無いなんてことはありませんがね」
通路に足音が響き渡る。
町長たちは、捕らえられている男の前に到着した。
「あなたですか」
町長が男に声を掛けるが、男は目を合わせようとしない。
「今この町で牢に入っているのはあなただけですから、聞くまでもないですね」
男に反応は無い。
町長は構わず続けた。
「ところで……最近、役場の机が傷みがちでして。また油を塗ってもらわないといけないと思っているんですよ」
牢の中で男は態勢を変え、床に後ろ手をついた。
「また全てをお願いしたいんですがねえ」
「……そいつは家具の職人に頼めよ。俺は生地屋に用があって来た――」
町長は中腰を戻し、上級剣士に目で合図をする。
上級剣士はそれを受けて男に伝えた。
「お前は時期が来るまでここで待機だ。村長の命令だと思って守れよ」
「くそっ!」
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