ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

文字の大きさ
79 / 218
第二章 剣士となりて

第三十二話 恋

しおりを挟む
Szene-01 カシカルド王国、カシカルド城内王室

 カシカルド王国の女王ローデリカは、王室内の壁沿いをゆっくりと歩いていた。
 時々壁や天井へ目をやりながら一周すると、綺麗に磨かれた机に戻る。
 脚を組むために机から幾分離された、無駄に豪華な椅子へと座った。

「はぁ」

 ため息をつきながら、よく鍛えられつつもスラリとした脚を組む。
 ローデリカは王室に一人きりでいると、気を抜く時間となる。
 王室は大して広くない。
 そもそも城と言っても拠点を改築したに過ぎず、大きくはないのだ。
 王室へ入る者は、ローデリカの他に秘書官か侍女。
 机の反対側にはベッドが置かれていることからも分かるように、ローデリカの自室が仕事場となっている。
 組んだ脚を解き、椅子を机に寄せて突っ伏した。

「私の方が早く出会えていたら……ふっ、こんなこと何度言ったかな。また思い出させて酷い人ね、アウフ」

 ローデリカは顔を上げ、先ほど見て回った壁や天井を再び見る。

「濃い赤色。南方であなたがお気に入りだと言った果実酒の色。あの時に話したこと、冗談だと思ってたでしょ? 冗談なんかにしてあげない。私は本気だったのだから」

 首に掛けている革製小袋を開けてブルー・サファイアを出す。
 レアルプドルフの剣聖が持つ証石だ。

「同じものが欲しいと無理を言ったのよね。困ったあなたの顔が忘れられないわ。今でもあの頃のように笑ってしまいそうよ」

 ローデリカは顔の向きを変えて再び突っ伏し、独り言を続ける。

「あなたと話していた将来のこと、実現したんだから。だけど叶えたのは王になることだけ。あなたと私の可愛い従者、ウルリカはいない……」

 王室の外では秘書官が扉の前に立っていた。
 そこへ侍女が歩み寄る。

「陛下はいらっしゃる? 謁見の者が見えたのだけど……」

 秘書官は侍女に向かい、立てた人差し指を唇に当てる。

「あら。早く例の方を招きたいところね」
「山脈の向こうだからね。急がせてはいるのだが、なかなか思うようにはいかないよ」

 秘書官は上級剣士、侍女は王の側近。
 日々ローデリカに付き従っている二人だ。
 自然と話し方が柔らかくなる。

「私が心の穴埋めをできたらいいのに」
「おやおや。僕の前で告白されても困るな」

 体格の良さとは裏腹な優しい声で答える秘書官。
 身のこなしもしなやかで、去る方向をさっと手で指し示す。
 侍女は従い、二人はその場を後にした。

Szene-02 ルイーサ家

 ティベルダがルイーサに威嚇をした翌日。
 エールタインとティベルダは、ルイーサの家に向かっていた。
 到着すると、玄関前でアムレットが仲間数匹と共に二人を出迎えた。

「アムレット!」
「あれ? アムレットが他にもいる」

 二人の声が聞こえたからか、玄関の扉が開いてヒルデガルドが顔を出した。

「いらっしゃいませ。あはは。アムレットはティベルダちゃんを待っていたみたいね」

 ティベルダは、小走りでアムレットに近づくとしゃがんで挨拶をした。

「おはよう、アムレット。この子たちはお友達なの?」

 アムレットは尻尾を振って答えると、仲間と共に茂みに走っていった。

「あ、行っちゃった」
「この茂みがアムレットのお部屋なの。仲間も呼んだみたいで賑やかにやっているようよ」

 木々を見上げて言うヒルデガルド。
 アムレットが駆け上がる姿を見届けるとエールタインたちに挨拶をする。

「挨拶が遅れてしまいましたね。おはようございます、エールタイン様、ティベルダちゃん」
「おはよう、ヒルデガルド。ルイーサはどう?」

 ヒルデガルドはクスッと笑ってから答えた。

「大丈夫ですよ。ご機嫌はとってもよろしいですから」

 そう言って二人を家の中へと案内した。
 二人が中に入ると、ルイーサが慌てて椅子に座る所だった。
 ルイーサは髪をかきあげて背筋を伸ばした。
 ヒルデガルドはクスッと笑いながら報告する。

「ルイーサ様、エールタイン様とティベルダちゃんがいらっしゃいましたよ」
「あらそう。こんなに早くから何かしら」

 二人は、ヒルデガルドに用意された椅子へと座った。
 ルイーサはエールタインたちとは目線を合わせない。

「おはようルイーサ。裏に茂みがあってとても素敵な家だね」
「お、おはよう。茂みがいい感じでしょ? アムレットもいるし、ここしかないと思って!」

 ルイーサはハッとして言葉を止めた。
 エールタインは首を傾げて尋ねる。

「どうしたの?」
「な、何もないわ……褒めてくれて、ありがと」

 ルイーサが肩をすくめて頬をうっすらと赤く染める。
 エールタインはそれに触れず、ティベルダの事について話し始めた。

「昨日はごめん。ティベルダにはよく言っておいたから、許してくれないかな」

 エールタインに促され、ティベルダが謝罪する。

「ルイーサ様、申し訳ありませんでした。私、ご主人様の事になると気持ちが止められなくて。能力の扱いもまだ練習中なので、その……」

 言い淀んでいるティベルダに代わり、エールタインが続ける。

「そうなんだ。この子の能力は扱いが難しくて。ティベルダも頑張っているけど、また同じような事もあると思う」

 ルイーサは改めて背筋を伸ばすとエールタインへ体を向けた。

「仕方がないわね。エールタインが私を守ってくれるのなら受け入れるわ」

 ティベルダの瞼が半分閉じてルイーサを睨んだ。
 エールタインはすかさずティベルダの手を握る。

「こうして止めることしかできないけれど、駄目かな」

 エールタイン達とルイーサの様子を見ていたヒルデガルドが話に加わった。

「ルイーサ様、その辺でやめませんか? ティベルダちゃんを弄るとエールタイン様に嫌われますよ」

 ルイーサは勢いよくヒルデガルドに振り向いた。

「べ、別に弄ってなんかいないわ。ただ私はエールタインと仲良くしたいだけなのだから」
「ボク、仲良くしているつもりなんだけど、何か違うのかな」

 ヒルデガルドがちらりとルイーサを見る。
 ルイーサは両手を握って答えた。

「仲良よくしているけれど、仲良くしていないのよ。ああもう! どうしたらいいの!?」

 ティベルダは主人に手を握られているが、ルイーサへの睨みは続けている。
 ヒルデガルドはルイーサの助っ人に回った。

「エールタイン様。ルイーサ様はもう少しお気持ちを踏み込ませたいのです」
「ち、ちょっとヒルデ?」
「でも、言わないと伝わらないですよ?」
「……もう」

 ルイーサは再び肩をすくめて頬を赤くした。

「踏み込む? んー、この前も言っていたけど、ルイーサとボクがもっと仲良くするって……わかんないな」

 ティベルダの睨みが少し弱くなり、主人の手を両手で握った。
 ヒルデガルドが主人の代わりを続ける。

「お気持ちを今以上に近づけたい、ということです」
「気持ちを近づける……今以上にってことは、家族のような感じかな。ルイーサもダンの弟子になってうちに来るとか」
「惜しい!」

 ヒルデガルドは拳で膝を叩いた。

「え、惜しい?」
「すみません、思わず手が……。エールタイン様、男性に興味は?」

 エールタインは首を傾げる。

「男性かあ。力が強いから剣士としては羨ましいと思う」

 ヒルデガルドはがっくりと肩を落とした。

「エールタイン様のことが分かった気がします。ならば逆に好機ですね」
「ヒルデガルド、今日はなんだか勢いがあるんだけど、どうしたの?」
「その勢いで言わせていただきます。ルイーサ様とお付き合いをしていただけませんか?」

 ティベルダは握っていた主人の手を引っ張り抱き着いた。
 ルイーサは目を見開いてヒルデガルドを見る。

「あ、あ、ヒルデ、なんてことを!」
「ルイーサ様が言いたいことをお伝えしたまでです。それ以上も以下もありません」

 エールタインはティベルダに抱えられながらルイーサに問う。

「ボク、女だけど。付き合うの?」

 ティベルダはエールタインの首に強く抱き着いている。
 目の色が変わらないように、主人の髪の毛に顔をうずめていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

処理中です...