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第三章 平和のための戦い
第二十九話 英雄たちの思い出に会う旅
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Szene-01 レアルプドルフ、エールタイン家
家の玄関扉前でティベルダがお辞儀をしている。
「行ってきます」
「それだけていねいにしてもらえたら、家はきっと喜んでいるよ」
ティベルダが踵を返し、エールタインの手に触れる。エールタインはそれに答えてしっかりと手をつないだ。
「エール様は私のご主人様! 私はエール様のもの!」
「それを外で言わないの。勘違いする人が出てくるでしょ?」
「奴隷……ですか? ひどいことをされない奴隷になら、私はなりたいです。ただしエール様がご主人さまじゃないとイヤですけど」
つないだ手を振りながらティベルダは言う。
「結局皆さんは独占したいのではないでしょうか。だから奴隷って言ってしまうんだと思います」
「独占かあ。従者というのも主人が独占しているって言えてしまうね。奴隷を従者へ言い換えるように勧めてきたけど、同じなのかなあ」
エールタインは眉間にしわを寄せて考え込んでしまう。ティベルダは主人の変化を感じると、握った手を引っ張って主人を振り向かせた。
「ん? なになに」
ティベルダは自分の頬に片手を付けて、小さく手招きをする。エールタインは何の疑いもなく呼んでいる手に顔を近づけた。
ティベルダは、手招きしている手を主人の頭の後ろへと回り込ませる。射程に入れると唇を重ねた。
「わあ、びっくり」
「エール様のご機嫌が良くないと、私は暴れますよ!」
ティベルダが確保していた主人の頭を解放する。体勢を元に戻すとエールタインは言った。
「これってティベルダなりの対策? 嬉しいけど別のやり方を考えよう」
「えー、これなら私はすぐ落ち着くのに。いいと思ったんだけどなー」
「家ならいいけど、外ではやめておこうよ。さっきと同じ理由さ」
「むう――私、外が嫌いになりそうです」
「あはは、そんなこと言わないでよー。ボクと外を歩くのは嫌いなの?」
「好きです!」
エールタインは、質問に即答するティベルダの頭を撫でる。
「頭を撫でてばかりになっちゃうなあ。ティベルダの髪の毛が無くなりそう」
「すぐに生えますから、いっぱい撫でてください!」
「ティベルダは頭を撫でられるのが大好きだもんね。だから撫でるクセがついちゃった――まあ、ボクが撫でたいからってのもある」
ティベルダが目を閉じるほどの笑顔になった時、ルイーサ家の前に到着していた。
「あら、エールタインじゃない」
「ルイーサだ。息がぴったりだね」
「またそんなことを言って――うれしくなってしまうでしょ」
「ふふふ」
ヒルデガルドは玄関扉を閉めながら、照れるルイーサを見て笑った。
「ボクもうれしいよ。この先ルイーサと一緒に仕事をしていくだろうからさ、息がぴったりなのは大切だよ」
「はあ――ヒルデガルド、この子を好きになったのは間違いかしら」
「いいえ、これ以上無いほどの正解だと思いますよ」
「あなたが言うのなら、これで良かったのね」
ヒルデガルドは斜め下を向いて、独り言を言う。
「ご自身は飛び上がるほど喜んでいらっしゃるのに」
「ヒルデ、何か言った?」
「いえいえ、ご主人様が素敵な出会いをされて良かったと喜んでいたのです」
「そう、ならいいけど」
間がもたなくなったティベルダは、エールタインに抱き着いたり腕を振ったりまとわりついて時間をつぶしていたが、最後に股の間から顔を出して口を開いた。
「あのお、そろそろ行きませんか」
「ティベルダあ、これ恥ずかしいよ」
「えー、楽しいですよお」
ティベルダは股を潜り切ってエールタインの前で立ち上がった。
クスクスと笑うヒルデガルドを視界に入れながら、エールタインはティベルダの両肩に手を置いて、ルイーサたちに話しかける。
「それでは、行きますか。ダンたちと合流しないといけないし」
「ええ、いつでも行けるわ。少し緊張しているのが気になるぐらいかしら」
「緊張は向こうに着いてからでいいんじゃない? それまでは旅を楽しもうよ」
「あなたのその前向きなところが好き。緊張が解けていくわ」
ようやく四人が歩き出し、引率するダンの元へと向かった。
Szene-02 レアルプドルフ、町役場
「短い期間でも町からみなさんの姿が無くなるというと、妙に心配になってしまいますね。しかしヒルデガルドのおかげで強い味方もいる。そしてまず何も起こらないであろう時期を選んだので、お帰りになるまで静かに、そして迎え撃つ準備をしておきますよ」
出発前の挨拶で立ち寄ったダンとエールタイン、そしてルイーサが主人である三組のデュオとヨハナは、町長から見送りの言葉をもらっていた。
「滅多にあることではないことなのでね、わがままなローデリカの顔を見に行ってきますよ」
「はっはっは、そういうことにしておきます。しかし、楽しみではありますな。できれば私も出向きたいぐらいですからね」
「町長も積もる話があるでしょうな。今となっては会うことも叶うかもしれない――おっと、あまり話していると遅くなるな。では留守を頼みます」
「はいはい。くれぐれもお気をつけて」
ダンが西門の衛兵に手を挙げて出発の合図をすると、衛兵は姿勢を正してダンを見送る。
後に続くエールタインたちは、それぞれ町長にお辞儀をしてから出発した。
「さて、いよいよ向かいましたよ。首がどこまで伸びているでしょうね、はっはっは」
町長は後ろ手を組んで、ダン一行の背中を見送った。
家の玄関扉前でティベルダがお辞儀をしている。
「行ってきます」
「それだけていねいにしてもらえたら、家はきっと喜んでいるよ」
ティベルダが踵を返し、エールタインの手に触れる。エールタインはそれに答えてしっかりと手をつないだ。
「エール様は私のご主人様! 私はエール様のもの!」
「それを外で言わないの。勘違いする人が出てくるでしょ?」
「奴隷……ですか? ひどいことをされない奴隷になら、私はなりたいです。ただしエール様がご主人さまじゃないとイヤですけど」
つないだ手を振りながらティベルダは言う。
「結局皆さんは独占したいのではないでしょうか。だから奴隷って言ってしまうんだと思います」
「独占かあ。従者というのも主人が独占しているって言えてしまうね。奴隷を従者へ言い換えるように勧めてきたけど、同じなのかなあ」
エールタインは眉間にしわを寄せて考え込んでしまう。ティベルダは主人の変化を感じると、握った手を引っ張って主人を振り向かせた。
「ん? なになに」
ティベルダは自分の頬に片手を付けて、小さく手招きをする。エールタインは何の疑いもなく呼んでいる手に顔を近づけた。
ティベルダは、手招きしている手を主人の頭の後ろへと回り込ませる。射程に入れると唇を重ねた。
「わあ、びっくり」
「エール様のご機嫌が良くないと、私は暴れますよ!」
ティベルダが確保していた主人の頭を解放する。体勢を元に戻すとエールタインは言った。
「これってティベルダなりの対策? 嬉しいけど別のやり方を考えよう」
「えー、これなら私はすぐ落ち着くのに。いいと思ったんだけどなー」
「家ならいいけど、外ではやめておこうよ。さっきと同じ理由さ」
「むう――私、外が嫌いになりそうです」
「あはは、そんなこと言わないでよー。ボクと外を歩くのは嫌いなの?」
「好きです!」
エールタインは、質問に即答するティベルダの頭を撫でる。
「頭を撫でてばかりになっちゃうなあ。ティベルダの髪の毛が無くなりそう」
「すぐに生えますから、いっぱい撫でてください!」
「ティベルダは頭を撫でられるのが大好きだもんね。だから撫でるクセがついちゃった――まあ、ボクが撫でたいからってのもある」
ティベルダが目を閉じるほどの笑顔になった時、ルイーサ家の前に到着していた。
「あら、エールタインじゃない」
「ルイーサだ。息がぴったりだね」
「またそんなことを言って――うれしくなってしまうでしょ」
「ふふふ」
ヒルデガルドは玄関扉を閉めながら、照れるルイーサを見て笑った。
「ボクもうれしいよ。この先ルイーサと一緒に仕事をしていくだろうからさ、息がぴったりなのは大切だよ」
「はあ――ヒルデガルド、この子を好きになったのは間違いかしら」
「いいえ、これ以上無いほどの正解だと思いますよ」
「あなたが言うのなら、これで良かったのね」
ヒルデガルドは斜め下を向いて、独り言を言う。
「ご自身は飛び上がるほど喜んでいらっしゃるのに」
「ヒルデ、何か言った?」
「いえいえ、ご主人様が素敵な出会いをされて良かったと喜んでいたのです」
「そう、ならいいけど」
間がもたなくなったティベルダは、エールタインに抱き着いたり腕を振ったりまとわりついて時間をつぶしていたが、最後に股の間から顔を出して口を開いた。
「あのお、そろそろ行きませんか」
「ティベルダあ、これ恥ずかしいよ」
「えー、楽しいですよお」
ティベルダは股を潜り切ってエールタインの前で立ち上がった。
クスクスと笑うヒルデガルドを視界に入れながら、エールタインはティベルダの両肩に手を置いて、ルイーサたちに話しかける。
「それでは、行きますか。ダンたちと合流しないといけないし」
「ええ、いつでも行けるわ。少し緊張しているのが気になるぐらいかしら」
「緊張は向こうに着いてからでいいんじゃない? それまでは旅を楽しもうよ」
「あなたのその前向きなところが好き。緊張が解けていくわ」
ようやく四人が歩き出し、引率するダンの元へと向かった。
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「短い期間でも町からみなさんの姿が無くなるというと、妙に心配になってしまいますね。しかしヒルデガルドのおかげで強い味方もいる。そしてまず何も起こらないであろう時期を選んだので、お帰りになるまで静かに、そして迎え撃つ準備をしておきますよ」
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「滅多にあることではないことなのでね、わがままなローデリカの顔を見に行ってきますよ」
「はっはっは、そういうことにしておきます。しかし、楽しみではありますな。できれば私も出向きたいぐらいですからね」
「町長も積もる話があるでしょうな。今となっては会うことも叶うかもしれない――おっと、あまり話していると遅くなるな。では留守を頼みます」
「はいはい。くれぐれもお気をつけて」
ダンが西門の衛兵に手を挙げて出発の合図をすると、衛兵は姿勢を正してダンを見送る。
後に続くエールタインたちは、それぞれ町長にお辞儀をしてから出発した。
「さて、いよいよ向かいましたよ。首がどこまで伸びているでしょうね、はっはっは」
町長は後ろ手を組んで、ダン一行の背中を見送った。
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