ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

文字の大きさ
125 / 218
第三章 平和のための戦い

第二十八話 鈍い剣聖の止まらぬやらかし

しおりを挟む
Szene-01 レアルプドルフ、ダン家

 町長から、内政については全て引き受けると言われたダンは、カシカルドの女王ローデリカに謁見するための準備をしていた。

「ダン様、体を洗っておきたいのですがよろしいですか?」

 ダンに同行するヘルマも準備を進めているが、女性らしく身綺麗にすることは欠かさない。

「そうだな、向こうに着くまでは洗えないだろうから美人を磨いておいで」

 水場へ向かおうとしたヘルマが立ち止まり、少し驚いた表情でダンを見た。

「ダン……様?」
「ん? どうした」
「今、なんと?」
「――何か変なことを言ったか?」

 ヘルマは振り返ってダンに聞き直した。

「いえ、もう一度聞きたくて」
「もう一度? 体を洗っておいでと」
「向こうに着くまでは洗えないだろうから――の次におっしゃったことです」
「――ふむ、美人を磨いておいでと言った。まずかったか?」
「ありがとうございます。それではしっかり磨いてきますね!」

 ヘルマは、主人の口から聞きたい言葉を引き出せた嬉しさを隠さず、満面の笑みを見せてからダンの部屋を出た。

「なんだよ、落ち込んだりご機嫌だったり、忙しいやつだな」

 ダンは肩をすくめて首を振った。
 部屋の外では、足取りの軽いヘルマとすれ違ったヨハナが声を掛けた。

「どうしたの? ご機嫌じゃないの」
「うん! ダン様に美人を磨いておいでって言われたの」
「あらあら」

 ヨハナは、心の弾みが一目でわかるヘルマの背中を見送りながらつぶやく。

「たぶん、ダン様はわかって言っていないのでしょうね。おまけに嘘はつかない方だから、悩ましいわ」

 つぶやくヨハナの後ろで、ダンが部屋の扉を開けて顔を出した。

「おお、ちょうどよかった。ヨハナ、今話せるか?」
「ダン様。私にご用ですか?」
「なんだよ、お前は機嫌が悪いのか?」

 ヨハナは片手を振って否定する。

「いえいえ、私でいいのかなと思ったので」
「ん? ヨハナに頼みたいことだから、他の人じゃあ困るが」
「頼み……ですか。なんでしょう」
「いやな、カシカルドへはお前にも付いてきてもらいたいんだ」

 人差し指を自分の顔に向けてヨハナは言う。

「私も行くのですか!? でも、家の留守番は……」
「それは武具屋か町長が見回りを出してくれるから安心しな。お前なら付いてきて欲しい理由はわかるだろ?」

 ヨハナは両手を下ろして前で組み、少しうつむいてから改めてダンを見て言った。

「黙っていたのに……やはり行くのですか?」
「そりゃあ、まあ、相手がローデリカだからなあ。エールタインのお供って気でどうだ?」
「――エール様の。ああ、それなら気持ちの居所があってなんとかなりそうですけど、あの方に会えばその気持ちは崩されてしまいますね」
「会ってみないとなんとも。俺だって会うのをためらう面があるっちゃああるんだからよ」

 ヨハナはクスッと笑ってから言う。

「そうですね。ダン様も複雑でしょうね――わかりました。ダン様が苦い思いをするのならお供します」
「おいおい。全然嬉しくないことを言うじゃねえか。エールタインたちとの旅を楽しむと思おうや」

 ダンとヨハナは互いに同じ苦みを感じて、声を出して笑い合った。

Szene-02 レアルプドルフ、エールタイン家

「んー、ん、ん?」
「起きた?」

 半分寝かけのエールタインは、ずっとティベルダを撫でている。
 スヤスヤと眠るティベルダに癒されて、エールタインは眠気に負けそうになっていた。

「エール様、大丈夫ですか?」
「それはこっちが聞くことだよ。頭を支えるために大変だったんだから」
「ご、ごめんなさい! 私、エール様に迷惑をかけてばっかり」

 エールタインは、ティベルダが起きないように頭撫でを続けながら言う。

「迷惑なら怒っているし、とっくに契約解除だよ。主人がこうして撫でているのはどうしてかな?」
「――エールさま、大好き。大好きなんです」
「それはさ、痛いほど伝わっているから。どうも安心はできないみたいだけど、ボクはティベルダだからそばにいてもらってるんだ。今回のことだってとっても嬉しかったよ。ただ、相手がダンってところで焦ったけどね」

 エールタインは笑いながら驚いていた仕草をして見せる。
「まだ能力をうまく使えなくてごめんなさい。ダン様は大好きなのに、とんでもないことをするところでした」
「アムレットに助けてもらっちゃったね。あんな可愛い受け身は初めてだったけど」

 エールタインはクスクスと笑うが、ティベルダはキョトンとしている。

「アムレットが止めたのですか?」
「そっか、覚えていないんだね。アムレットがさ、ボクの手を両手で受け止めたんだよ。力を抜くのが大変だった」
「エール様が普段の様子に変わったのを見て安心したところまでしか覚えていないんです。アムレットが止めてくれたんだ――えー、それってすごく可愛くないですか? 見たかったな」
「アムレットが止めるほどのことをしたのは、主人として失格だからね。ボクは反省しているんだ」

 ティベルダが起き上がろうとしたため、エールタインは撫でを止めて半身を起こさせてあげた。エールタインは続けて言う。

「ティベルダ、能力のことはあんまり気にしなくていいよ。もう町の人にも知れ渡っているし、能力者として堂々としてな。何せボクの従者だ。ボクがティベルダの主人ってことが誇らしいんだから、気にしないように」

 ティベルダはまだ拭いきれないものがありそうだが、主人からの言葉に救われているようで、一度だけコクリとうなずいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...