ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第三章 平和のための戦い

第四十七話 痛感とぬくもり

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Szene-01 スクリアニア公国、修練場

 スクリアニア公国のヴェルム城に程近い修練場では、スクリアニア公の命により兵の訓練が行われている。
 訓練の様子を見るため、スクリアニア公が足を運んでいた。

「閣下、お越しいただきありがとうございます。兵の士気がより高まります」

 修練を仕切る隊長が挨拶に出向くが、スクリアニア公は目を合わさず素通りした。
 高台から修練の様子を眺め、修練場の端から端まで見渡すスクリアニア公。ゆっくりと腕組みをしてつぶやいた。

「この場所を与えてこんな程度の動きしかできていないとはな。今まで何をしていた?」

 スクリアニア公の横に立っていた隊長が、思わず体をびくつかせた。

「戦いを知らない町村出身者の集まりですが、短期間でここまで動くことが出来れば悪くないと思われます」
「ほう、悪くないと。俺の思う良し悪しとお前のそれとは随分違うようだな。俺にはどうにも使えん連中にしか見えぬが」
「模擬戦を何度か行っておりますが、戦える程度にはなっております」

 スクリアニア公はゆっくりと首を回し、初めて隊長の目を見た。その目は炎が灯っているように見えるほどの殺気を放っている。

「戦える程度――お前はそれで勝利をつかむことができると考えているのか? 隊長の目指しているものが低いのならば、この程度なのは確かに納得できる。隊長よ、俺が間違えていたようだな」

 睨まれたままの隊長は目線を変えられず、ただ体を震わせるのが精いっぱいだ。

「も、もうしわけ――」
「ふむ、お前も申し訳ないことをしたというのか。この国には仕事を謝らずにこなす奴はいないのか」

 スクリアニア公は踵を返すと羽織を翻してその場を後にする。靴音が小さくなるにつれて、隊長の体は震えが収まってゆく。

「こ、この場で終わるのを覚悟したが助かった――いや、決して納得されたわけではないのだから何かしらの制裁が待っているのか!? くっ、何も知らない連中をここまで育てたのだぞ!」

 隊長は膝を下ろし、拳で地面を殴って怒りを殺していた。

Szene-02 カシカルド王国、カシカルド城王室

 ダン一行はカシカルド城でそれぞれの夜を過ごし、朝食の用意が済んだ王室に集まっていた、
 ローデリカを待つ間、眠そうに目を擦っているティベルダにヒルデガルドが声を掛ける。

「ティベルダは眠そうね。よく眠れなかったの?」

 ティベルダは数回首を振って否定した。

「ううん、とってもよく眠れたの。あのね、ヒールを使わないで寝てみたんだよ」
「いつもヒール使って寝ていたの?」
「うん、エール様の疲れを取らなきゃって。でもエール様がすっごく優しくしてくれたから、そのまま寝ちゃった」

 満面の笑みを見せるティベルダに釣られて、ヒルデガルドも笑みを浮かべた。

「ティベルダが安心出来るほどって、エールタイン様はどれだけ優しくできるのかしら」
「えへへ。それはねー、言えない!」
「ああ――うん、聞かないでおくね」
「んふ、ヒルデガルド好き」
「ありがと」

 少女従者の話がルイーサの背中越しで盛り上がる。
 ルイーサはヒルデガルドと話すために体を自分の背中へ向けているティベルダを確認し、これ幸いとエールタインに話しかける。

「エールタイン、ちょっといい?」
「うん、どうしたの?」
「夜にね、アムレットの仲間が来たの」
「え、ここまで来たの!?」

 ルイーサが人差し指を口に当てて声量を落とすように伝えると、エールタインは唾を飲み込むようにうなずいた。

「その子の情報がね、スクリアニアに捕まっているザラさんについてだったの。その方、知ってる?」
「ダンからよく話は聞いたよ。レアルプドルフの知っておかなければいけない出来事だからって」
「ザラさんは無事で、二人のお子さんがいるみたい。それを伝えるためにリスと話したようね。ヒルデがリスに調べるようお願いした甲斐があったわ」

 エールタインは両手を握り、声を出さないようにして感激している。

「そうなんだね! でもリスと話が出来る人なのかな」
「さあ、そこまではわからないわね。とりあえず、アムレットに手紙を書いたらどうかと提案してもらったから、すぐに書いて町長に渡してもらうようにしたわ。ザラさんが無事という報告だけでもしたいから」
「アムレットって提案までしてくれるの!?」

 ルイーサがクスッと笑う。

「それがね、ヒルデが案はないかと聞いたのよ。そしたらグルグル回り出しちゃって。ヒルデの首越しに見てたけど、それが面白くって」
「首越し?」
「ああ、それは気にしないで。ただね、ザラさんが伝えるように頼んだってことは何か含んでいる気がするの。胸騒ぎと言うか、気になってしまって。町長に伝われば何かあるかもしれない。私の想像だけどね」
「そういう胸騒ぎって大抵当たるものだよ。無事だとわかったなら、町も何かしら動く必要がありそう。戻ったら忙しいかもね」

 ルイーサはエールタインに片手を差し出し、手のひらを見せて言う。

「何があっても一緒に動きましょ。四人ならどうにかできるわ」

 エールタインはうなずきながらルイーサの手のひらに自身の手のひらを重ねる。

「うん、ルイーサが一緒にいてくれるのはとっても心強いんだ。よろしくね」

 エールタインと同時にルイーサは手を握り、キリッとさせていた表情を思わず崩した。

「エールタインの手は温かいのね――あの、えっと、ザラさんのことだけど、陛下がいらしたら話しましょう」

 頬を赤らめてしまったルイーサは誤魔化すように提案をした。

「もちろんその方がいいね」

 エールタインはルイーサの頬が赤く染まっていることに気付かないまま手を離した。
 ティベルダとヒルデガルドも話にキリが付いたようで、元の体勢に戻る。
 エールタインの手を握る相手は、ティベルダの手となった。
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