ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第三章 平和のための戦い

第五十三話 疲労困憊

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Szene-01 レアルプドルフ、謁見部屋

 カシカルド王国から戻って早々、町長からの話を聞くことになったダン一行。謁見部屋でそれぞれが椅子に腰かけて大きく息を吐き、旅による疲労が部屋を覆う。
 言葉が無くても町長と受付係には山越えの厳しさがひしひしと伝わった。
 町長は一行の息が整うまで黙って待つことにし、受付係もティーをそっと渡して回った。
 町に残っていた二人とダン一行は、ザラの手紙について互いに知っている。
 アムレットとその仲間の働きによって知ることが出来た情報だ。そのアムレットが潜り込んでいるヒルデガルドの腰鞄からはゴソゴソと音がしていた。

「ん? どうしたの、アムレット」

 ヒルデガルドが鞄を開けると、二足立ちしたアムレットがつぶらな瞳で主人を見つめている。
 その目線を感じたのか、ルイーサがヒルデガルドの膝に軽く手を突いて鞄を覗き込んだ。

「あらー、そんなに目をキラキラさせてどうしたの?」
「ふああ、ル、ルイーサ様の髪がキラキラしてる」

 アムレットは鞄から出る許可を待っているようだが、主人はルイーサの髪に見とれて気づかない。

「ちょっとヒルデ、アムレットが何か訴えているんじゃないの? 早く聞いてあげて」
「――あ、はい」

 ルイーサが振り返って下からヒルデガルドの顔を見上げている。ヒルデガルドはほのかに頬を赤らめつつ、アムレットへと目線を変えた。

「何かあるの?」
「キッ」
「急いでいるのね、いいよ行ってきても」

 主人から許しを得たアムレットが鞄から飛び降りて、謁見部屋の扉まで駆けてゆく。
 受付係が開けてあげると、後ろ足の蹴りを強くして勢いよく出て行った。

「なんなの?」
「お友達が来ているようで、その何かを聞きに行ったみたいです」
「そう。珍しく鳴き声を出したから、相当慌てていたのね」
「悪い情報でなければいいのですが――」

 ルイーサとヒルデガルドのやり取りを、防具の一部を外しながら聞いていたダンが口を開いた。

「アムレットが動くってことは情報が入るってことだからなあ。武具屋の連中と同じかそれ以上の気になる存在になったな」
「ダン様にそう言っていただけるなんて――お役に立てて光栄です」
「役に立っているどころじゃあないぞ。これから町長と話すことは、アムレットたちが動いてくれたからだろ。でなければ話をするのはずっと後になる、いや、ザラについて分からず終いだったかも知れないんだ」

 ダンの横ではヘルマがヨハナに体を預けて半ば眠りかけている。ヨハナにとってはよくあることなので、姿勢を崩すこともなく静かにティーを飲む。
 ダンの右側にはエールタインとティベルダだ。ティベルダはできるだけ主人と接触していようと相変わらずエールタインの腕を抱いている。
 目をオレンジ色に変えてヒールを発動しているようだが、いつもと違う様子のティベルダにエールタインが問う。

「大丈夫? 全員に使うのは大変でしょ」

 ティベルダは、謁見部屋に入るなり気を抜いて大きく息を吐いた一行の様子を見て、全員にヒールを送っていた。

「無理なことはしないので安心してください。あは! そっか、無理をすればエール様に心配してもらえるのですね。もっと頑張ります!」
「ちょっと、それは違うでしょ。またそんなこと言ってボクを困らせる。みんなの疲れを癒そうとしているティベルダは可愛くて仕方ないよ。でもそれでティベルダが疲れたら台無しだからさあ」
「あのお、私は自分で回復出来ますしい、エール様がそばにいてくだされば疲れは気にしなくていいじゃないですかあ」

 タレ目を限界まで緩ませ、上目遣いでエールタインを見るティベルダ。仕方なさそうにエールタインが言う。

「はあ――あれはさあ、最後の手段だったはずなんだけどなあ」
「んふふふ、そうでも無いですよ最近は」

 オレンジ色をそのままに、いたずらっぽい目つきに変えて主人を見つめるティベルダ。
 エールタインはティベルダの鼻をつまんで顔を近づけた。

「このままでもみんなにヒールを送っているの?」
「はい」
「ヒールは上手に使えるようになったのか。それじゃあ――ん?」

 エールタインは後ろからストールの裾を引っ張られ、ティベルダから目線を外して振り返った。

「エール様、そこまでですよ」
「ヘルマ、起きてたの?」
「私はいつでも起きますよ。今はエール様がここでしてはいけないことをしようとしたので。お気を付けくださいね、ふわあ」

 あくびをしながらエールタインの動きを止めたヘルマは、再びヨハナに体を預けた。

「ほらエール様、止められるほどしてるんですよ」
「えー、そんな気は無かったんだけど――そうなのかあ」

 ヒールを送りながらクスクスと笑うティベルダを見て、町長がつぶやいた。

「ほう――ダン一家についてもっとよく知りたくなってきましたな」
「もしかしたら町長より私の方がよく知っているのかもしれませんね、ふふ」
「なんと、そうなのですか?」
「さあ、どうでしょうね」

 受付係はにやりと笑みを浮かべて、飲み干されたティーカップを集めに動いた。
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