ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第三章 平和のための戦い

第五十四話 傭兵召喚と健気な大仕事

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Szene-01 スクリアニア公国、港町プリアポレウス

 海賊に傭兵依頼をしようと自ら出向いたスクリアニア公は、海賊の長からアジトへ招かれた。
 のっけから金を絡ませた話を振られた海賊の長は、満面の笑みを浮かべながら大剣を担いで歩く。
 馬から下りたスクリアニア公と護衛は、長の後に続いていた。

「閣下さんよ、この国の兵力は俺らに頼るほど足りねえのか?」

 海賊の長は一味が整えた自身の椅子に座りながら話し始めた。
 スクリアニア公も目に入る粗末な物とは違い、客人用と思われる椅子に座る。

「人数ではなく、兵力が足りないことに気づくとは。話が早くて良いな」
「はっはっは、舐めてんじゃねえよ。この国を動かしているのは俺らだ。あんたより国の事情は隅々まで把握している。俺らにしてみりゃあんたはこの国のとしか思っちゃいねえ」

 一味の一人が長に樽をそっと渡した。通常使われている樽よりも一回り大きな樽型のカップは、長が持つと通常の物と錯覚する。
 スクリアニア公にも樽が渡されるが通常の物だ。長に渡す時とは違い、雑に突き出されたため飲み物が零れて膝上を汚した。

「ふっ、ここではどうあってもお前が頭のようだな。俺にこのような扱いをするヤツはいなかった」
「だからよお、この国の長は俺なんだよ。その俺がアジトに入れてやったんだ、特別扱いしてやってるってことを分かれよ」
「所詮は賊。国の頭を気取るのには無理があるぞ。実際、領土を広げたのはこの俺だ。国を治めているのはこの俺であるということをお前こそ肝に銘じておけ」

 海賊の長はぐいっと樽を傾け、一飲みしてから言った。

「かぁ! あんたはほんとにおもしれえやつだな、気に入った。俺の名はヘルムート。まあ名乗る必要もないだろうが、使者ではなく自身の足で来たことへのもてなしだ。ありがたく受け取れ」

 スクリアニア公は、再び樽を傾けるヘルムートから視線を外さない。ヘルムートはその視線に気づき、樽から口を離した。

「お前も飲め。南で仕入れた果実酒だ、美味いぞ。この国じゃ簡単には有り付けねえよ」
「酒か――久しく飲んでいなかったな」

 ヘルムートは片手で膝を叩いて笑う。一味もヘルムートの機嫌を良くするように、大笑いをして場を盛り上げた。

「閣下さんが酒も飲めていなかったとはお笑いだ。スクリアニアは俺が思っている以上に腐っているのかも知れんな。田舎で平和に過ごしている連中を、いきなり戦いに引きずり込んだところで兵力になんかならねえ。んなことはお前さんも分かっているんだろ? それを目の当たりにして夢では無いと知ったから慌ててここに来た、そんなところか――で、一度きりか当分雇うのか、どっちだ?」

 完全に話の主導権を握られているスクリアニア公は、何も言えないまま言いたことが伝わってしまい、困惑を隠しきれないでいる。

「――事情をわかっているのなら話が早い。出向いている以上、恥は承知の上だ。差し当たり一度だけ頼む。レアルプドルフを落としたいのだ」
「あそこかよ! あんたが落とせなかったところじゃねえか。おまけに魔獣も付いてきやがる。うちの連中の多くは魔獣の餌食になっていてな、あまりいい話じゃねえな」

 ヘルムートは苦虫をかんだような表情になり、酒を飲み干して一味に二杯目を要求した。

Szene-02 レアルプドルフ、謁見部屋

 勢いよく出て行ったアムレットが気掛かりなヒルデガルドに、ルイーサが声を掛ける。

「あんなに慌てるアムレットは珍しかったわね。でも、可愛かった」
「ふふふ。ルイーサ様はあの子のことがすっかりお気に入りになりましたね」
「何よ、私はヒルデと同じあの子の主人でしょ? 可愛がるのは当然じゃない」

 ルイーサがヒルデガルドに反論をしていると、外からアムレットの鳴き声が聞こえた。

「キキキキッ!」
「え!?」

 驚いて思わずビクッと体を跳ねさせたヒルデガルドの背中に、ルイーサが手を当てて言った。

「あの子、怒ってない?」
「はい、随分と。行ってみます」
「私も行くわ」

 ルイーサとヒルデガルドは言うなり席を立って、アムレットの声がする方へ向かった。
 寝ていたヘルマも起きて、部屋に残っている全員が二人の背中を見送った。
 エールタインは背もたれに背中を預けて、頭を後ろへ傾けた格好で言う。

「アムレットが怒るなんてなんだろうね――ゴホッゴホッ、ああ、この格好で話したら声が出ないや」
「エール様、もう少し頑張ってください」
「なんで?」
「首がきれいなので、眺めていたいから」

 エールタインはティベルダの要求を飲まずに姿勢を戻して言った。

「苦しいからやめる。首ぐらいずっと見ているでしょ」
「いつでも見ていたいんです――知っているくせに」

 エールタインはティベルダの脳天に軽く拳を当てて言う。

「調子に乗らないの」

 ヨハナとヘルマがニヤニヤとした表情でエールタインたちを見ていると、ルイーサとヒルデガルドが部屋に戻って来た。
 エールタインは普通に振り返ってルイーサに聞く。

「どうだった?」

 手紙を持ったルイーサに続いて、アムレットを手のひらに乗せたヒルデガルドが椅子に戻った。
 ヒルデガルドは手のひらを顔の高さまで持ち上げて、アムレットを見ながらエールタインに答える。

「この子、お友達に注意をしていたんです。お友達は、町長からのお手紙をルイーサ様に届けられなくて戻って来たみたいで。アムレットったら遅れたことを怒ってしまったんです」

 アムレットはヒルデガルドに体を横からじっと見られているが、ずっと目を合わせないようにしている。
 ヒルデガルドはその姿が面白くなって、笑みを浮かべている。

「私がお友達に悪くないよって言ったら、自分が悪いことをしたと思ったらしくて。それから目を合わせてくれないんです」

 エールタインとティベルダも、アムレットをじっと見に近づいた。

「アムレットは可愛いね。ヒルデガルドにいいとこ見せようと思ったら、逆に失敗しちゃったと思ったんだね。ヒルデガルドはアムレットに怒っていないから安心しなよ」

 エールタインがアムレットの背中を撫でてあげると、鼻の動きをいつも通り元気よく動かした。
 黙って様子を見ていた町長が口を開いた。

「人と同じ様にやりとりできるんですねえ。いやあ、とても愉快なものを見せてもらえましたなあ」
「ちゃんと届きましたって内容だから、大丈夫よアムレット。ありがとね」

 受付係もアムレットに声を掛けると、ようやくヒルデガルドの手のひらから腕を渡って肩へと乗った。

「リスは山越えが出来ないから回り込んでいるのよね。それでも私たちに情報を教えてくれた上に町長に手紙も渡してくれた。驚くばかりだわ」

 ルイーサは頭を軽く撫でてアムレットの目を覗き込んでいる。
 主人に尽くそうと必死なリスの気持ちが、謁見部屋を温かく包み込んでいた。
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