ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

文字の大きさ
165 / 218
第四章 ボクたちの町

第十一話 なりすましとお手紙

しおりを挟む
Szene-01 スクリアニア公国、ヴェルム城門前

「うわっ!」
「くっ、すまない。急いでいるので失礼する」

 スクリアニア公国の中枢である町エーレヘルにそびえ立つヴェルム城。城の前を走る街道で、一人の兵士と行商人が衝突した。

「すでにぶつかったことで失礼してるってのに、助けないという失礼を上乗せしていくのかよ」

 城から飛び出した兵士に体当たりされた行商人は、肩を摩りながらゆっくりと起き上がった。
 そして目の前で散乱している商品を眺めてがっくりと首をうなだれる。

「ひでえ……一番高価な品が壊れちまった。他の品も売り物にならねえ。これじゃあ商売は無理だし、何より職人に申し訳ねえなあ。今回は飾り職人にも手伝ってもらって上等品を作ってもらったってのに――この旅はここまでだな」

 事の成り行きを終始見ていたヴェルム城の門番の一人が口を開いた。

「旅人さんよ、あいつの代わりに謝るよ、申し訳ない。今閣下から急ぎの指示が出てしまってな、あいつは急がないと首を斬られてしまうんだ。許すには材料が足りないことは十分に承知しているが、勘弁してやってくれ」

 行商人は、ほとんが壊れてしまった細工品を拾いながら言う。

「勘弁はしかねるなあ。せめてあいつが斬られるほどの理由を教えてくれよ。それなりに納得いく話を聞かせてくれりゃあまだ職人に言い訳もできるからな」

 門番は腰に手をやり、眉を下げて困った表情をした。

「ふむ、商品をほとんど壊されたところを見ているからなあ。どれも細工が凝っているし、良い物なのは俺でもわかる。仕方がない、一つ教えてやるよ。当然ではあるが、ここだけの話だぞ」

 門番は行商人への謝罪のつもりで理由を教えることにした。
 行商人は一度横を向いて口に手をやってから、門番へと向き直る。

「この商品を作った職人には伝えるぜ、口止めはしておくから安心しな。俺はただ職人に怒られたくないだけだからな」
「職人に伝えるのはやむを得ん。そのために教えてやるのだ」

 門番が行商人に手招きをする。壊れて散らかった商品を拾っていた行商人は、集めるのをやめて門番の元へと近寄った。

「周りに聞こえては困るのでな。レアルプドルフはわかるか?」
「俺を誰だと思っているんだ? 行商人をやってんだからレアルプドルフを知らないわけがないだろう。この後寄るつもりの町な上に、この商品を作ったのはトゥサイの職人だ。俺はあそこで仕入れた物をスクリアニアへ売りに来ていたのさ」
「そうだったか。ではレアルプドルフの出身か?」

 行商人は大きく左右に首を振って見せる。

「いいや違う。トゥサイに知り合いの職人がいるからこの辺で商いをしている。俺はカシカルドにある町の生まれだ」
「カシカルドか、また遠くから来たんだな。いやな、レアルプドルフに攻め込むんだよ。だからあんたがあの町の出身だと言い難いと思ったんだ」
「攻め込むのか!?」
「しっ! 周りに聞こえる。気を付けてくれ」
「おっと。にしても極秘の話じゃないのか?」
「あんたが偶然拾った物とでも思えばいい。こっちもそのせいで大変でな、ただでさえ閣下の機嫌が不安定なところで夫人が行方不明になっちまって」
「なんてこった――」
「ああ、言い出したら止まらなくなってしまうな。これぐらいで勘弁してくれ」
「いやいや、そんな話じゃこっちが黙らなけりゃならないよ。なんだか悪いことをしちまった気分だ」

 門番は鞘に収まっている剣先を地面に刺すと、片手のひらを街道の先へ向けて広げて言う。

「では気を付けて旅を続けてくれ」
「ありがとう。俺はトゥサイが無事なことを祈るだけさ」

 行商人は残りの散乱した商品を急いで拾い、籠に入れて担いで言う。

「あんたらも無事に済むといいな」
「ぜひともそう願いたいものだ。この国に所属しているほとんど町は、戦う気など無いのだから」

 行商人が片手を頭上に挙げて国境門へと向かう。その後ろ姿を見ながら門番が呟いた。

「お互い巻き込まれているだけなんだよな。また元の平和が戻るといいんだが」

Szene-02 レアルプドルフ、町役場

「なんだか視線を感じる――あら、また来てくれたみたい。今すぐ行くからね」
「誰と話しているの?」
「あの子」

 受付係が、窓の隅から覗き込んでいるリスへ人差し指を向けながら同僚に答えた。
 レアルプドルフの町役場に入ると、正面には受付があって受付係が二人座っている。
 そのうちの一人は町長の補佐役も兼任しているために、役得でレアルプドルフで起きる出来事を早期に知ることができている。

「例の魔獣? 本当に大丈夫なのかしら。あなたが平気そうだから問題無いのでしょうけど」
「初めのうちは心配半分だったけど、今は随分平気になったかな。ヒルデガルドが絡んでいなければあり得ないでしょうね、ふふ」

 町長付き兼受付係は、同僚に笑みを送ってリスの元へと向かった。
 受付係が向かって来ることに気付いたリスは、手紙を器用に持ったまま壁を下りる。
 リスが着地したのと同時に受付係が到着し、しゃがんで挨拶をした。

「こんにちは――この前の子かな。今回もお手紙を持ってきてくれたの? ということはルイーサ様からよね。何か動きがあったのかしら。すぐに読むから待ってて」

 受付係はリスに抱えられた手紙をつまんでスルリと抜き取ると、抜き取られたリスはそのままの恰好で鼻だけひくひくと動かしていた。
 受付係が手紙を持って役場に入ると、町長が受付係の椅子に座って同僚と談笑していた。

「町長、いらしたんですか。またリスが手紙を持ってきました。たぶんルイーサ様からだと思われますが」
「ほうほう、それなら早く読まねば。こちらへ」

 町長は、受付係の席に座ったまま手紙を受け取るや否やすぐに開けて読み始めた。
 しばし静かになった受付周辺に、町長の声が響いた。

「なんと! 今すぐ上級剣士様たちを招集してください。装備を整えてから来るようにと」

 役場が騒然とする中、町長の補佐役である受付係は一人冷静に伝令を走らせるため、門番の控え部屋へと向かった。

Szene-03 レアルプドルフ、武具屋

 ――――コツコツ。

 レアルプドルフで唯一の武具屋では、客の相手を見習い剣士に任せた店主が作業場で依頼品の修理を進めていた。
 防具の金具を叩く音が定期的に聞こえる中で、裏口の扉を叩く音が混ざり込んだ。
 店主は修理の手を止めてちらりと振り返り、扉の外に向かって声を掛ける。

「入っていいぞ」
「失礼しやす。情報が入りやした」

 店主は首だけでなく、体も反転させて手下と向かい合った。

「ほう、行商人はどうだった?」
「一つも売っちゃあいないんで、良いも悪いも無いっす――いや、情報が入りやすいというのはいいっすね。ザラさん、城から出ました」
「そうか! なら剣士が動き出すじゃろうから、うちらも準備をしてくれ。整い次第ブーズへ」
「すでに指示は出してありやす。そろそろ集まる頃ですんで、向かいます」
「ん、頼んだ」

 店主が膝を叩いた音に合わせるように、手下の束ね役が裏口から出て行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

処理中です...