ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第四章 ボクたちの町

第十九話 暗転

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Szene-01 スクリアニア公国、西側国境

「この先はレアルプドルフです。夫人はこの森の中に潜んでいると思われますが、先行隊がどこまで追えているのか調べさせます」
「うむ。わざわざここまで来たのだ、部隊を配置して攻撃の準備をしておけ」
「かしこまりました」

 スクリアニア公は、ザラを取り押さえるために傭兵契約を締結させたばかりのヘルムート海賊を早速召喚し、レアルプドルフの東端――ブーズとスクリアニア公国との境界線上に到着した。
 部隊で国境を跨げば当然宣戦布告となる――それ以前に、国境まで部隊を進めている時点で攻める意思を見せていることとなり、レアルプドルフの対応次第で事が決まる。

「ザラが見つかるのが早いか、レアルプドルフの連中が動くのが早いか。ここからは楽しませてもらおう」

Szene-02 レアルプドルフ、ウンゲホイアー川東岸

 エールタインはザラとその二人の子供、そして二人の護衛と出会うことができた。

「では急かして申し訳ないのですが、ここから仲間のいる所まで移動しましょう――おいで、二人の靴を履かせてあげるよ」

 エールタインはザラの後ろに隠れているフォルターとケイテに微笑んでみせる。
 フォルターとケイテは顔を見合わすが、フォルターはすでに結論が出ているようで、ケイテに目で確認を取っただけのようだ。
 フォルターが小さくうなずいてエールタインへ近寄るのにケイテも付いてゆく。

「靴は濡れていないんだね」

 フォルターが黙って護衛を横目で見たことでエールタインは察した。

「お二人が子供たちを?」
「ええ。さすがに川の中を長い間歩いてもらうのは厳しいですから。それにこの冷たさですし」

 エールタインは手際よく子供二人に靴を履かせながら、子供たちに見せたように護衛にもにこりと笑みを見せる。

「それなら君たちはまだ元気だね。もう少しで安全な所になるから、そこまで頑張って」

 キョロキョロと辺りを見渡しているティベルダが、エールタインの背後から声を掛ける。

「エール様、大勢の足音が聞こえてきました。急いだほうが良さそうです」
「大勢? 剣士たちじゃないの?」
「いいえ、足音が全然違います。今は止まっていますけど、人の気配が気持ち悪いぐらい多くて」

 護衛が新たな声に反応してエールタインに尋ねる。

「その子は?」
「ああ、ボクに付いてくれている子です。レアルプドルフでは剣士に従者が付くのが習わしなので、こんなボクでも付いてもらっています」

 なんとか濡れた靴を履いたザラがエールタインに言う。

「上級剣士様なのですから、従者が複数いてもおかしくありません。お優しい剣士様なのですね」
「はい!」

 ザラの言葉にエールタインではなく、ティベルダが元気に答えた。

「え。なんでティベルダが答えるのさ」
「普段からエール様がお優しいことを感じているのは私だからです!」
「ああ、はい。まあ、そう言ってもらえると嬉しいけど」

 ザラがくすっと笑ってから言う。

「女性だからなのかしら、私の思っていた剣士様像とはかけ離れているかも」

 エールタインは苦笑いをして言う。

「ああ、デュオとしてのやりとりですよね、よく言われます。父の思いを形にしたいと思っているので、そのせいでしょうけど」
「お父様ですか?」
「はい。父は戦いで亡くなったので、ボクが代わりにしないと。だって、奴隷ではないじゃないですか。町を守るために剣士と一緒に戦うんですよ? 何よりも身近な存在としてずっと一緒に毎日を過ごしていく。そんな大事な相手を奴隷扱いだなんてとんでもない。だから家族として迎えてお互いが少しでも居心地良くいられるようにしたいんです」

 ザラはエールタインが話している間、体が硬直してしまったようにじっと聞き入っていた。

「そのようなお考えの剣士様がいらっしゃったのですね――思い切って戻って来たのは正解だったと思えます」
「さてと、そろそろ行けますか?」

 エールタインはザラが立ち上がるために手を差し出した。
 ザラを見つけたスクリアニア公国の追手は、ヴォルフの出現により全員が慌てふためいていた。

「早く仕留めろ」
「分かってる! 助けが来て安心したところ悪いですがねザラ夫人、そこで終わりです」

 弓を構えた兵士がエールタインから差し伸べられた手を握ろうとしたザラへ向けて矢を放った。
 ヴォルフに対する怯えを感じて震える体に鞭を打った兵士から放たれた矢は、真っ直ぐザラを目指していた。

 ――ガルルルッ。

 矢を射った直後の兵士にヴォルフが体当たりをした。その唸り声と矢の風切り音を感じたティベルダがエールタインに向けて叫んだ。

「エール様、避けて!」
「はっ!? 危ない!」

 エールタインは咄嗟にザラの背後へと回り込んで背中を抱え込む。
 ザラに向けて迷いなく突き進んだ矢は、ザラの背中からエールタインの背中へと変わった的へと素直に刺さった。

「ぐはっ」

 エールタインは脚力を生かすために防具を軽装にしているが、それが仇となって隙だらけの体に激痛が走り、のけ反った。
 エールタインに起こった一瞬の出来事を目撃したティベルダが叫ぶ。

「いやああああああ!」

 ティベルダの叫びは森の四方へと抜けてゆき、一部は川の源泉がある山脈にまで届いて反響した。
 エールタインの様子が詳しくわからない位置で待機していたルイーサとヒルデガルドは、突然聞こえてきたティベルダの叫びに体をびくつかせた。
 そして先にヒルデガルドが口を開いた。

「ティベルダ!?」
「エールタインが心配だわ。ヒルデ、行きましょ」
「はい」

 ルイーサとヒルデガルドはティベルダの元へと走りながら、一歩一歩近づくに連れてエールタインに起こっている事実が判明してゆく。
 二人とも足の力が抜けて走りが止まる頃、ティベルダの横にたどり着いた。

「うそ……でしょ」

 ルイーサは力なくザラの背中に体を預けているエールタインの姿を見て呟いた。
 ヒルデガルドはティベルダの袖を掴み、ルイーサと同じ思いを手に伝えて強く握り締める。
 水汲み場から川を渡って待機しているダンの班にも、その場にいるような錯覚を覚えるほどにティベルダの叫びは届いた。
 ヘルマは不安を隠せず、ダンの腕を掴んで言った。

「ティベルダの叫び――エール様は」
「ヘルマ、今の声であいつがどこにいるかは分かったな。行くぞ」

 ダンは腕を掴んでいるヘルマの手を外し、分厚い手でしっかり握るとヘルマを引っ張るようにしてその場から走り去った。
 ダンの班員は不安そうな面持ちで互いに目を合わせることしか出来ずにいた。
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