ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第四章 ボクたちの町

第五十一話 丸腰で挑む交渉

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Szene-01 レアルプドルフ、ブーズ東西街道橋上東側

 レアルプドルフで唯一の武具屋の主人を頭とする裏仕事人の束ね役は、エールタインたちが暴れてから久しく感じるほど戦いの雰囲気が消えた東西街道の橋のたもとに立っていた。

「エールタイン様はあれだけの兵士を相手にさっさと抜けてしまいやしたね。体の動きは元に戻っていたようで安心しやした。ティベルダも能力を上手く扱えるようになっていやすし、デュオらしさが増しやしたね。いよいよこの戦いを終わらせる話までこぎつけて、これからが戦いの本番と言えやす。戦いが終わるか続くかは、話の結末次第。ダン様が付いているんで上手くいくたあ思いやすが」

 ふと佇んだまま呟いている自分に気付いた束ね役は、鼻で笑ってから言う。

「俺なんぞが何を言っているんすかね。さて、いざという時の退路を調べておきやしょうか」

 束ね役は足音を川の流れる音で消し、エールタインたちが使った岩を蹴って川を渡った。

Szene-02 スクリアニア公国、ヴェルム城居館内廊下

 執事の先導でエールタイン一行は初めて踏み入れたヴェルム城の居館内を進む。
 壁に点々と掛けらた絵画や部屋の扉周りに施された装飾を見る度に感嘆の声を漏らし、エールタインとティベルダは口をあんぐりと開けている。

「ちょっとエールタイン、お口がだらしないわよ」
「わあ……ああ、ごめん。よくわからないけど、これってたぶん全部凄い物なんだよね。カシカルド城には無かったからびっくりしちゃって」
「あなたの凄いがどのくらいかわからないけれど、町長やダン様が見ても驚くものでしょうね。私が目にした物と比べても同等かそれ以上の品があるわ」
「ルイーサは芸術品に詳しいの?」
「お父さまが傭兵の案件をこなしていた頃に、報酬としてもらった戦利品を見せてくれたの。持ち帰ることが出来ないような物でもお話で教えてくれたわ。でもお父さまは戦利品を飾るのは好まないから家には無いの」
「そういえばダンから戦利品とか見せてもらったことない」

 不意をつかれて一瞬だけ目を見開いたダンは、ヘルマとの打ち合わせを止めて答えた。

「戦利品か……ローデリカに取り上げられた。王になった時のためにとか言って、占領した町にあいつが返しちまった」

 エールタインとルイーサは互いに顔を見合わせると、ローデリカの顔を思い浮かべてから同時に呟いた。

「ああ、なるほど」
「その後で本当に国王になっちまうわけだが、あいつの思惑通り戦利品を返した町から慕われているんだから文句が言えねえ」

 首を振って呆れるダンを笑顔で見る少女剣士二人は、執事の声を聞いて真顔に戻った。

「こちらの部屋でございます」

Szene-03 スクリアニア公国、ヴェルム城謁見部屋

 扉を開けて部屋の中へと入る執事の後に一行は続く。入ると一般の部屋とは違って広間と言った方がしっくりくる空間が広がっていた。
 部屋の中ほどに大ぶりな机が一つと人数分の椅子が用意されているが、狭いと感じさせることはない程だ。
 向かいにはスクリアニア公が使うであろう机が壁の前に置かれており、一行の机との間は離れている。
 離れた机が作り出す空間の両脇には兵士が三人、各机の両脇にも二人の兵士が剣に手を掛けて立っている。
 椅子の後ろには二人の女中が一行に礼をして迎えていた。

「かなり気合いの入った出迎えだな」
「敵と直接会うのですから、警戒するのは当然かと。逆の立場ならこれでもかと準備しますよ」
「ふむ、確かに。それにしても丸腰ってのは不安しかないな」
「今さら何をおっしゃるのですか。私はこれまで同じような状況に何度も付き添いましたので、今回の面会ぐらいでは胸騒ぎすら起きません。こんなにたくましくしていただき感謝しています」
「ヘルマ……お前には随分と助けてもらって――」
「ダン様、座らないとご迷惑になりますから」
「あ、ああ、すまん」

 ヘルマは皮肉に対して謝ろうとする主人の話を、椅子を引いてダンが座るのを待つ女中を利用して遮った。
 ダンが座るとその従者であるヘルマ、続いてエールタインへと順番に座ってゆく。
 ティベルダは立ったままでいるべきかしばし悩んだようだが、ダンに続いてヘルマが座ったのを見ると悩みは払拭されてエールタインの横に座ることを喜んだ。

「エール様と一緒に座るの、久しぶりだから嬉しいです」
「あは、それぐらいで喜んでくれるなら主人としては助かるよ。橋へ向かってからは休み無しだったもんね。ティベルダは能力も使ったけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。大丈夫じゃなかったらすぐにお伝えしますから。我慢できなければ……ふふふ」

 ティベルダは両足をぶらぶらとさせて喜びを表すが、エールタインの手が太ももに乗せられたことで足は動きを止めた。

「今はボクが誇らしく思う従者として振る舞ってくれないと困るよ――と言いたいとこだけど、ティベルダが喜ぶとボクも嬉しいんだよね。でも、もう少し我慢してくれるともっと嬉しいな」

 エールタインがティベルダの太ももに乗せた手を頬へと移して軽く指の背で撫でると、ティベルダは背筋を伸ばして良い子を装ってみせた。
 ルイーサたちも座り、残るはダンの応援に駆け付けた三人の剣士であるが、ダン、エールタイン、ルイーサの背後に一人ずつ付いた。
 女中は椅子を引いたまま困り顔になり、座るように促す。

「こちらへお掛けください」
「いえ、私たちはこのままで」

 黙って立ち続けるスクリアニア兵は、目だけを三人の剣士へ向けて様子を伺う。
 静かな雰囲気の中で否定的な言葉が発せられると、一瞬で空気の色が変わる。
 経験の浅い少女剣士が微妙な雰囲気への対応に困っているのを感じたダンは、応援の剣士に代わって言う。

「いつでも剣を使える連中を前に、丸腰の俺たちがただ黙っているわけがないだろう。それより気になるのは、スクリアニア公がいないことだ。待っていると聞いてここまで来たのだが、肝心の公爵がいないとはどういうことだ? 無礼だからとこちらから動いても構わんが」

 ダンが口角を上げてにやりとすると、スクリアニア兵は何もなかったように目線を元に戻した。
 多くの戦場を経験している剣聖が放つ余裕の笑みは、城内警備しか知らない兵士にとって脅威でしかなかった。

「久しぶりに拝見出来てとても気分の良い日になりました。たまにはこういう場に来るのも悪くないですね」
「ヘルマ、まだ夜ではないぞ」
「振り返った時に良い事を思い出せるので、良い日ですよ」

 真横でヘルマの言葉を聞いていたエールタインが、ヘルマの腕に頭を付けて言う。

「ヘルマのそういうところ、好き」
「ありがとうございます、エール様」

 余裕を見せる剣聖デュオにより少女剣士の緊張が解れかけた時、スクリアニア公が姿を現した。

「遅れてすまん。何せ急に城内へ入られたのでな、これでも急いだ方なのだ」

 スクリアニア兵がダン一行へと一斉に振り向き、剣を構える。
 防具の軋む音が響く中、スクリアニア公は自身の椅子にゆっくりと腰かけた。
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