ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第四章 ボクたちの町

第五十二話 因縁の対面

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Szene-01 レアルプドルフ、ウンゲホイアー川橋上

 レアルプドルフの東部にあるウンゲホイアー川を渡る東西街道の橋の上では、エールタインたちが通過した後の対応に終わりが見えてきた。
 事後処理の役目を終えた剣士が集まり、上級剣士が次の指示を出す。

「手の空いたものは国境まで移動し、ダン様たちの帰路を安全なものにするぞ」

 集まった剣士一同はそれぞれ頷いて、剣や防具を改めて確かめた。

Szene-02 スクリアニア公国、ヴェルム城謁見部屋

 剣を構える兵士に守られた公爵と丸腰のダン一行が向き合い、面会の場が現実のものとなった。
 訪問を迎える形となったスクリアニア公、レアルプドルフの剣聖ダン、そしてこの場を作るきっかけとなったエールタイン。
 三人の間で誰が話の口火を切るか伺う時間が流れるが、間が空けば空くほど始めるきっかけを失うと感じたエールタインが意を決して口を開いた。

「私はレアルプドルフの剣士、エールタインと申します。この度の戦いでこれ以上無益な血を流さずに済むよう、直接閣下と話をするために参りました」

 スクリアニア公は話を切り出したのが少女であることににやりと笑い、肩肘を机に付いて身を乗り出した。エールタインが口を開くまでダンとエールタインを交互に見ていたスクリアニア公は端から話を切り出す気は無く、二人の、特にエールタインの動向に注目していた。

「お前がエールタイン、名前は耳にしていた。俺の耳に届くほどなのだから相当な活躍をしているのだろうな。随分と若い剣士だが、兵士の集団を物ともせずここまで来たのだ。他の剣士には無いものがあるとわかる」

 エールタインの声を聞いたスクリアニア公は、それ以来じっとエールタインのことを凝視している。

「なんか……嫌です」

 ティベルダがぼそりと呟いた。エールタインはティベルダの膝に乗っている手の甲にそっと手のひらを当て、気持ちを汲み取ったことを伝える。
 主人と心を通わすことが出来たティベルダは、握りかけた拳の力を抜くことで喜びを表した。
 エールタインが軽く頷くと、ティベルダは目を紫色に光らせ改めて拳を握った。

「そいつがお前の奴隷か……主人から手厚く扱われているのだな。そっちの剣士も奴隷に対して手厚いところを見ると、最近のレアルプドルフは以前と比べて様子が変わったとみえる。今さら奴隷扱いしていたことを払拭しようとする町と、そんな安い改革を喜ぶ奴隷どもが共存している。やはりレアルプドルフは面白い」

 スクリアニア公はにやけた表情を作ったまま、くっくっくとわざとらしく笑い声を出す。
 弟子のために黙っていたエールタインの師匠ダンは、口を閉じていることに限界が来たようで公爵を見る目を鋭くして言った。

「何を思おうが個人の勝手だが、それを口に出して良いものかどうかぐらいは考えた方がいい。皆があんたと同じ思いではないことの方が多いのだからな。曲がり形にも国を背負って立つ身なのだろう? 民を思う君主であると信じたい」

 スクリアニア公は、にやりとした口角を不愉快さが滲み出るものへと変えて言う。

「断りもなく人の寝床に押しかけてきた連中を、咎めもせず話を聞いてやっているというのに――そんな連中から俺の統治について語られると虫唾が走る。ここまで図々しいお前に従うレアルプドルフの民は、変わり者しかいないことがよくわかった。国に所属していない理由はその辺にあるのではないのか? 今となっては攻め入ろうとしたことが馬鹿馬鹿しく思えてくる。」

 話をダンが引き継いだため黙って聞いていたエールタインは、椅子を勢いよく下げて立ち上がった。
 ダンとスクリアニア公の声のみが行き交っていた謁見部屋に突如として物音が響き渡った。
 部屋にいる全員が一斉に物音のした方を見たが、エールタインの姿が無い。
 各人が探す事へ意識を持っていく前にエールタインの声が発せられた。

「馬鹿馬鹿しいことをしているのはそっちだ! ザラさんを連れ去っておいてよくそんなことが言えるね。それだけじゃない、お子さんを連れて逃げ出すほど耐えられないような生活をさせたあげく、命まで奪おうとした。でも残念だったね、ザラさんは無事だよ。変わり者の民の一人であるボクが助けたのさ。そしてザラさんが耐え続けた痛みをボクは身をもって知り、ザラさんの全てを奪おうとしたあなたを消し去りに来た。初めてだよ、人を殺めようだなんて思ったのは」

 エールタインはスクリアニア公の背後から片腕で両腕ごと抱えて動きを奪い、もう片方の手にはティベルダから受け取った氷の小片を持って公爵の首に突き付けていた。

「ねえ、こんな小娘に消されるだなんて悔しい? 少しでも悔しがってくれたら父さんに伝えるのが楽しみになるんだけどなあ」

 これまで自身が危険にさらされることがないように立ち回っていたスクリアニア公は、突然訪れた身の危険にただ怯えて震えるしか出来ないでいる。

「ち、父親が何だというのだ」

 スクリアニア公は震えつつも少女を相手に負けたくはないようで、何とか言葉を絞り出す。
 エールタインはスクリアニア公の口から吐かれた言葉に噛みついた。

「ボクの父さんはね、アウフリーゲンという名だよ。聞いたことないかなあ、ボクが小さかった時に攻め込んだスクリアニア公国を退かせた剣聖なんだけど」
「ふっ、魔獣と同じ様に邪魔だった剣士はお前の父親か。本人ではなく娘が来たということは深手を負ったようだな。代わりに子供を送り込んだのならば、お前は俺を非難出来る立場ではない。所詮は同じ穴の狢ということ」
「父さんはもういないよ――あんたに殺されたんだ! だからって殺めていいわけじゃないのは分かってる。でも、父さんが全てを背負ったことで解決できていたらこんなこと思いはしなかった。なのにまた同じことが起きた。そんなの父さんは納得できない――いや、ボクが納得できないんだ! だから……もう……元を断つことしか思いつかなくてここまで来た。これで終わりにしてよ……これでも剣士だからさ、手を汚すぐらいは出来るようになったんだ」

 氷の欠片がスクリアニア公の首へと触れ、冷たさか恐怖からなのか公爵の体を震えさせた。
 エールタインの腕に力が込められるのを察したダンは、背後へ椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、エールタインに叫んだ。

「エール! 待て――」

 謁見部屋にいる全員がどうしたらよいかわからぬままただ見ているしか出来ずにいた。
 その中であえて見届けていたダンは、エールタインが想定していたものとは違う選択をしたことに驚き、慌てて止めに入った。
 しかしエールタインの手は止まらず、氷の欠片はスクリアニア公の首へと差し込まれていった。
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