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「――聞いてないです」
「……レオンハルト! お前が自分で「任せておけ」と言ったのだぞ! 一度ならず二度までも騙され、真に受けた私も馬鹿だったが……」
「騙してなどいないよ。いずれ時を見て伝えようと」
「こちらの苦労も知らず……貴様っ」
主に殴りかからんばかりのノクスを前にしても、レオンハルトはのほほんと構えている。
その時、メイドの誰かが呼んだらしく、トアが駆け込んできてノクスの背に縋り付く。
「落ちついてくださいノクス様」
「トア、離してくれ。今日という今日はこいつを殴る」
「閣下も意地悪をしていた訳ではないのでしょう? カナデ様を気遣うが故に、お話しする時期を決めかねていたのです」
そうですよね、とトアに話を向けられ、レオンハルトが頷く。
トアがノクスを宥め胃薬を差し出すのを眺めていたカナデは、レオンハルトにこそりと囁く。
「俺の事は大丈夫だから、仕事に行きなよ」
「カナデ……」
またあの不安そうな眼差しを向けられ、胸の奥がぎゅっと痛む。けれどこれ以上レオンハルトが自分に構いきりでは、彼の立場が悪くなる。
おそらくノクスもそれを心配して、苦言を呈しに来たのだろう。
「トアも居てくれるし、心配ないよ」
「君がそこまで言うのなら、仕方ないね」
はあ、と盛大なため息を吐くレオンハルトの頬に、カナデは無意識に触れた。
「俺は逃げたりしないから。明日は城に行けよ」
「ああ」
手を取られ、指先に口づけが落ちる。また項が甘く疼いたけれど、それは一瞬で消える。
そんな二人のやり取りをノクスとトアが優しい眼差しで見守っていた。
***
(俺はレオンハルトが好きだ……そりゃ少しは打算もある。けど……好き、なのは本当)
その夜、カナデは寝室で一人考えていた。
まさか「オメガからの許可が必要」だなんて思ってもいなかったので、ノクスからの言葉には驚いてしまった。
正直なところ、自分から告白するのは恥ずかしい。
学園でもオメガは告白を受ける側で、番になってからならまだしも、自ら関係を求めるなど習っていない。
(けど、俺が言わなきゃどうしようもないなら……言わないといけないんだし)
数百年の間、番を探し続けていたレオンハルトが、やっと見つけた相手が自分だ。
(前世だと「運命の番」なんて言ってたっけな)
不可能と同義の言葉として「運命の番」は辞書に載っていた。それ程までに探し当てることが困難だと言われるそれは、おとぎ話で語られる程度のものだ。
どうやらこの世界には「運命の番」という言葉はないらしく、これまでカナデは見聞きしたことがなかった。
けれどレオンハルトはおとぎ話のごとく、自分を大切にしてくれている。
(項を噛まれると体が熱くなって勝手にヒート状態になるって習ったけど、そんなこともない。きっと俺は本当に出来損ないなんだろうな。でも……レオンハルトは自分を大切にしてくれる)
彼の気持ちに応えたい。
本来のカナデは、前向きな性格だ。時折脳裏を掠める前世の記憶が無ければ、こんなにも不安になっていない。
断片的な記憶の中で見るアルファ達は、身勝手で横暴だ。レオンハルトが彼らのように非道な者に変貌するとは思えない。
「今の俺は俺なんだから、もう嫌な前世は忘れよう」
殺されてしまった前世の事など忘れるべきだ。生まれ変わったのならそれはそれで受け止めるべきではないだろうか。
よし、と気合いを入れてカナデはベッドに潜り込む。
(明日、レオンハルトが戻ってきたら……素直に気持ちを伝えよう)
「……レオンハルト! お前が自分で「任せておけ」と言ったのだぞ! 一度ならず二度までも騙され、真に受けた私も馬鹿だったが……」
「騙してなどいないよ。いずれ時を見て伝えようと」
「こちらの苦労も知らず……貴様っ」
主に殴りかからんばかりのノクスを前にしても、レオンハルトはのほほんと構えている。
その時、メイドの誰かが呼んだらしく、トアが駆け込んできてノクスの背に縋り付く。
「落ちついてくださいノクス様」
「トア、離してくれ。今日という今日はこいつを殴る」
「閣下も意地悪をしていた訳ではないのでしょう? カナデ様を気遣うが故に、お話しする時期を決めかねていたのです」
そうですよね、とトアに話を向けられ、レオンハルトが頷く。
トアがノクスを宥め胃薬を差し出すのを眺めていたカナデは、レオンハルトにこそりと囁く。
「俺の事は大丈夫だから、仕事に行きなよ」
「カナデ……」
またあの不安そうな眼差しを向けられ、胸の奥がぎゅっと痛む。けれどこれ以上レオンハルトが自分に構いきりでは、彼の立場が悪くなる。
おそらくノクスもそれを心配して、苦言を呈しに来たのだろう。
「トアも居てくれるし、心配ないよ」
「君がそこまで言うのなら、仕方ないね」
はあ、と盛大なため息を吐くレオンハルトの頬に、カナデは無意識に触れた。
「俺は逃げたりしないから。明日は城に行けよ」
「ああ」
手を取られ、指先に口づけが落ちる。また項が甘く疼いたけれど、それは一瞬で消える。
そんな二人のやり取りをノクスとトアが優しい眼差しで見守っていた。
***
(俺はレオンハルトが好きだ……そりゃ少しは打算もある。けど……好き、なのは本当)
その夜、カナデは寝室で一人考えていた。
まさか「オメガからの許可が必要」だなんて思ってもいなかったので、ノクスからの言葉には驚いてしまった。
正直なところ、自分から告白するのは恥ずかしい。
学園でもオメガは告白を受ける側で、番になってからならまだしも、自ら関係を求めるなど習っていない。
(けど、俺が言わなきゃどうしようもないなら……言わないといけないんだし)
数百年の間、番を探し続けていたレオンハルトが、やっと見つけた相手が自分だ。
(前世だと「運命の番」なんて言ってたっけな)
不可能と同義の言葉として「運命の番」は辞書に載っていた。それ程までに探し当てることが困難だと言われるそれは、おとぎ話で語られる程度のものだ。
どうやらこの世界には「運命の番」という言葉はないらしく、これまでカナデは見聞きしたことがなかった。
けれどレオンハルトはおとぎ話のごとく、自分を大切にしてくれている。
(項を噛まれると体が熱くなって勝手にヒート状態になるって習ったけど、そんなこともない。きっと俺は本当に出来損ないなんだろうな。でも……レオンハルトは自分を大切にしてくれる)
彼の気持ちに応えたい。
本来のカナデは、前向きな性格だ。時折脳裏を掠める前世の記憶が無ければ、こんなにも不安になっていない。
断片的な記憶の中で見るアルファ達は、身勝手で横暴だ。レオンハルトが彼らのように非道な者に変貌するとは思えない。
「今の俺は俺なんだから、もう嫌な前世は忘れよう」
殺されてしまった前世の事など忘れるべきだ。生まれ変わったのならそれはそれで受け止めるべきではないだろうか。
よし、と気合いを入れてカナデはベッドに潜り込む。
(明日、レオンハルトが戻ってきたら……素直に気持ちを伝えよう)
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